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64話 オーガストのプレイヤー

いつも誤字脱字が多くてすみません。わざわざ報告してくれる方、本当にありがとうございます。

 クッコロと別れ、俺はネヴィラ、ミナトと共に【転移扉】を潜り、何度目かの【マジックラフト】へやってきた。



 街を見て回りたい気持ちもあったが、余計なことはせず我慢する事にして【オーガスト】からやってくるプレイヤーを待っていると、昼前頃に数人のプレイヤーに囲まれ【隻狼(せきろう)】というプレイヤーが現れた。



「オッスオッス、自己紹介は……良いか!それよりさっきちょっとだけ話聞いたんだけど、俺と一緒にオーガストに行きたいんだって?」


「そうです。休憩がてら少しお話ししましょう」



 隻狼は狼系の男性獣人で、左の狼耳が半分欠けているのが特徴的だ。これはキャラクリでイジったらしい。軽装備を纏い、単独で国と国とを行き来出来る実力者だ。



 ▽▽▽



「マジっ!?そんな面白そうなことになってんの?……うわぁ俺もオーガスト以外が良かったなぁ」



 今回オーガストに行く理由、マルチエンディング、同盟の事などをネヴィラが隻狼に説明し、隻狼もかなり乗り気なようだ。



「大体の話は分かった!それで、俺と一緒に誰が行くの?」


「俺だ。足は引っ張らないと思うけど、道中よろしく頼む」


「ゼルさんLv32……か。ちなみにジョブは?武器は初期のガンズブレイドみたいだけど」


「召喚士だ。武器はイベント中に壊れたんだ」


「ふーん、召喚者は一緒に行かねぇの?」


「召喚者には街でアイテムを作ってもらってるからな。それに大勢連れて行っても見張りのNPCに見つかるだろ。代わりに聖獣のアマテラスとツクヨミが一緒に行ってくれる」


『うむ、任せるがよい』


『よろしくなのです』


「うわっ、マジで両方可愛いじゃん……まぁゼルさんが問題ないなら俺も大丈夫!」


「ありがとう。あとは……何か伝えとく事ってあるか?」


「んー、まぁオーガストに向かいながら聞こっかな。休憩なしで行っても夕方は過ぎるくらいにはなりそうだし……結構急ぎなんだろ?」


「そうだな……じゃあ早速行くか」


「ちゃんとついて来てくれよ?」


「あぁ、道案内は頼むよ!」



 こうして俺は聖獣達を胸元に隠しながら、隻狼と2人で街を出る。



「あの沼地を抜けて、湿地、平原、山を超えると砦があって、その先の岩場を抜けると大体オーガストだ。ついてこれそう?」


「そう心配すんなよ。これでも一応前衛だ」


「分かった!んじゃあ、ちょっとスピード上げるわ」



【マジックラフト】と【オーガスト】を隔つ砦のNPCを避けるにはどうしても悪路になってしまうらしく、ライドは使えないそうだ。

 ひたすら走り続けるしかないが、隻狼が色々会話を振ってくれるため暇はしない。



「ゼルさんがガンブレ2の人なのか!ってことは武器とジョブPvPの優勝者じゃん!やるぅ〜!!」


「あれは運が良かっただけだ。謙遜とかじゃなくな」


「ふーん、やっぱガンブレ2は使ってる人いないから、色々話聞けてラッキーだわ」


「そりゃ何よりだ……」



 その後もこんな感じで会話をしつつ、ひたすら走る。そして山に差し掛かり、崖を登ることになった。



「へぇ、2段ジャンプのエクストラスキルか!便利で良いね」


「まぁな!あんまり掲示板とかで評価は良くないらしいけど」


「要は使いようだろ!おっ?丁度広い場所あるし、一旦休憩する?」


「いや、俺は大丈夫__」


『ゼルよ、少しよいか?』



 今まで黙っていたアマテラスが急に会話に割り込んでくる。



『見たところ道中はお主達だけで問題なさそうじゃ。妾は真ん中分けウサギを連れて、先にスサノオのもとに向かおうと思うのじゃが、よいか?』


「んー、うん。分かった!そっちは頼むよ」


『うむ。ではウサギよ、参るぞ』


『指図するななのです』


「はぁ……ここまできて喧嘩するなよ。気を付けて行けよ」



 胸元から飛び出した聖獣達を隻狼と見送る。



「はぁ……もうちょっと一緒に行きたかったけどなぁ」


「はは、もしかして隻狼はモフモフ好きか?またすぐ会えるだろ」


「それもそうだな……どうせだし、ちょっと休憩にしようぜ!あ、俺は周囲見てくるから先に休んでて良いよ」


「助かる。ありがとう」



 隻狼の提案を受け入れ、見回りに出ていった隻狼を見送ったあと地面に座り込む。



 その瞬間、俺の首筋にとてつもない衝撃が襲ってくる。



「あはははは、最っっ高!!!漫画みたいに倒れてやんの。ついに俺もPKしちゃったぜ……さすがにレベル30台ならバクスタでほぼワンパンだわ!ひひ、後はスタンの間にトドメさせば……くはっ、楽勝楽勝」


「…………やっぱ、そうきたか」



下手な演技で倒れてみたが、興奮している隻狼は騙せたようだ。ゆっくり起き上がり隻狼と対峙する。



「はっ!?な、なんで……完璧にバクスタ入ったのに……しかもノーダメ?スタンは!?」



 隻狼のいうバクスタとは【バックスタブ】という、背後から不意をつき攻撃することで大ダメージを与え、人体なら首や心臓などの急所に当たればスタンの状態異常を付与する事が出来るテクニックの1つだ。

 完全に気配などを消さないと成功が難しい為、暗殺を得意とするジョブ以外は上手く使いこなせないテクニックだが、決まればデタラメに強い。



「お前はあからさま過ぎるんだよ。やけに同行者である俺の事を聞いてきただろ……そうなったら俺だって警戒ぐらいはするよ」


「そんな、でも…………いや、それはもういいか。なら正面から殺るだけだ。俺はLv43。さすがに負けねぇよ」


「……最初から俺らと手を組む気はなかったってことか」


「へへ、いや、最初話を聞いた時はそれも有りだなって思ったけどさ、このイベント中ならPKがやりたい放題なんだぜ?ペナルティもないんだぞ。そりゃやるだろ!!」


「まぁそれも楽しみ方の1つだろうな。で?俺がお前に勝ったら俺達に協力するか?」


「はっ、勝てるつもりかよ!さすがPvP優勝者様は余裕だな!!それに良いのか?俺を殺ったらオーガストまでの道のり分かんねぇだろ?」



 短剣を両手に構え、自信ありげに隻狼がそう言うが、そこに俺と隻狼以外の声が響く。



『ハッハー、ゼルの言う通りになってるじゃねぇか!それにお前!アタイはこの地を守護する聖獣だぞ?ここはまだアタイの庭だ。アタイよりこの地に詳しいやつはいねぇよ!』


『やれやれじゃ、ゼルに刃を向けるというのなら妾も加勢せん理由はないな』



 元の大きさである乗用車程の大きさになったアマテラスとツクヨミが戻ってきた。ツクヨミは口調も荒くなりイケイケの雰囲気で隻狼と対峙している。



 俺としても隻狼を完全に疑っていたわけではないが、隻狼が襲ってくる可能性もあるとアマテラスとツクヨミには予め伝えておいた。

 アマテラスとツクヨミが離脱したように見せたのも、隻狼が行動を移しやすくする為に、何か理由をつけて離脱するように聖獣達に言っておいたのだ。



 オマケにアマテラスからは初撃を完全に無効化するバフ、ツクヨミからは状態異常を1回無効化するバフをかけてもらっており、隻狼のバックスタブはスタンも無効、ノーダメだ。



 隻狼と正面から殺り合うとなると、確かにレベルは負けているが、聖獣2体に加え、俺にはドラ、ミラ、セラがいる。名前を呼びそれぞれの【同化】を解除した。



「これで6対1だ」


「はっ!?な、なんで……なんで召喚士がテイマーみたいなこと……」


「こういう召喚士もいるんだよ!」



 俺と召喚者達も武器を構え、完全に隻狼を包囲する。



『焦れってぇ!!アタイがやってやんよ!!』



 ツクヨミはそう言うと瞬時に体を丸め、隻狼目掛けて高速で襲いかかる。



「くっそがぁ!!!………うぐぅ」



 ツクヨミの体当たりを腹に食らった隻狼は体が軽く浮き、そのまま仰向けに倒れ込む。



『トドメだ!!』


「ツクヨミ待ってくれ!!」



 いつもはふざけた語尾のツクヨミだが、さすがは聖獣。一撃で隻狼のHPが1になっている。



「隻狼、今からでも俺らと協力する気はないか?」


「随分余裕だなぁ……途中でまた狙うかもしんねぇぞ?」


『アタイ達がさせると思うか?お前はアタイがきっちり見張っといてやるよ』


「だ、そうだ。ちなみにだけど、同盟組んだ後のPKは多分ペナルティの対象になる。あくまで予想だけどな。だからもう1回PK狙うなら同盟組む前の方が良いと思うぞ」



 同盟を組めば【フレンドリーファイア】が無効になることが既に判明している。このイベントでフレンドリーファイア無効の恩恵の大きさを考えると、同盟の条件は厳しいものであると予想でき、クッコロとネヴィラ曰く、恐らく代表達の話し合いだけでは同盟は成立せず、同盟を組む国にいるプレイヤー全員の意思が統一されていないとシステム的に同盟を組むことは出来ないと思われる。とのことだ。



「それと今までの会話はチーム通信で同盟組んでるプレイヤー全員に筒抜けだからな」


「はは、最初から俺は詰んでたのか……参ったな」


「詰んではないだろ。選択肢は絞らせてもらったけどな」


「……わぁったよ、良いぜ!俺は元々楽しめたらそれで良かったからな。仲直りの握手といこうぜ!」


「いい性格してるなぁ、お前……」



 武器を仕舞い手を差し出す隻狼に近付き、手を握ろうとした瞬間、隻狼が鋭い動きで再び短剣を握る。



「…………参った!!本当にもうやめるって」



 隻狼はツクヨミに後ろ手に組み敷かれ、アマテラスから9本の鋭い尾先を、召喚者達にはそれぞれ武器を向けられていた。



「まぁそうくるよな。ツクヨミ、とりあえず隻狼のことは任せて良いか?」


『おぅよ!なんならアタイの力で暫く動けなくしとくか?』


「いや、マジで!本当にもうやんねぇから!」



 隻狼も観念したようで、再び【オーガスト】に向かう道中で色々教えてくれた。



 どうやら【オーガスト】にいるプレイヤーは俺達のように精力的に行動はしてないらしい。

 というのも、【オーガスト】は強力な兵力を持つ国であり、食料や資源、魔法技術なども多少だが揃っているらしいのだ。

 その為、致命的に足りない物がなく、街で起こるイベントはほぼお使いクエストのようなものばかりで、プレイヤーが協力しないと達成出来ないものが今のところ無いらしい。たしかにそうなるとプレイヤーが団結するのは難しいかもしれない。



 この世界目線で観ると【オーガスト】はとても恵まれた国だが、それがプレイヤー目線になると、とても退屈な国なんだそうだ。



「昨日は数時間ログインして、すぐにログアウトするプレイヤーもいたくらいだからな。今は全員居るみたいだけど……とにかく俺らはイベントに飢えてんだよ」


「なるほどな……ということは、ゴリ押ししなくても結構簡単に話が纏まりそうだな」



 その後、砦まで辿り着きアマテラスが幻術のような力を使って砦は素通り出来た。さらに聖獣達は【オーガスト】への最短ルートも知っていたようで夕方には街に到着。隻狼の紹介で纏め役になれそうなプレイヤーの【のり助】を紹介してもらった。



 どうやらイベントに飢えているというのは本当のようで、俺という他国のプレイヤーが来たと分かると全員が興味津々でソワソワしていた。

 騒ぎを大きくしないように頼み、俺は当初の目的だった【転移扉】を設置し、その後はクッコロ達と交代する。



 その後、アマテラスから八咫鏡、ツクヨミから八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を受け取った【オーガスト】のプレイヤー達は12人で聖域に踏み込み、スサノオを撃破した。



 そして__



【ハーヴェスト、マジックラフト、オーガスト間の同盟設立が確認されました。チーム機能に同盟国が追加されます】


【実績:世界を救う者達(イベント限定)を達成しました。】

 獲得・イベント貢献ポイント+10000



 実績はどうやらプレイヤー全員が達成しているようだ。

 そして遂に3国で同盟が設立し、ここからはいよいよ黒幕探しに本腰を入れることになる。

 イベントに飢えていた【オーガスト】のプレイヤー達が勢い余って暴走しないようにクッコロが【オーガスト】に残り、纏め役を補佐するようだ。



 さらに幸運なことに俺達のサーバーでは、未だプレイヤーが誰も死んでいない。

 俺達【ハーヴェスト】は慎重に動いていた為、【マジックラフト】はそこまで脅威がなかった為、【オーガスト】はサボっていた為、150人全員が仲間になり、スサノオも新たに協力してくれる。



 もう何が来ても負ける気がしない!!

読んで頂きありがとうございます。

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