63話 ゴリ押し
システムメッセージに同盟設立が表示され、直後チームチャットには【同盟タブ】が増えており、ここのチャット欄には凄まじい勢いで書き込みが増えていく。皆新しい機能を試したいようだ。
「さて、俺は帰るとするか……」
今受け取った魔法素材で【転移扉】をさらに量産出来る。テラには頑張ってもらおう。
そう思い扉に手をかけた瞬間、後ろから声が聞こえてくる。
『待ってなのです。そこの冒険者、待ってなのです』
1人のプレイヤーが両手で包み込むように何かを持って走って近付いてくる。
「うん?俺か?」
『そうなのです……アナタ、ご苦労様なのです』
そう言って近寄ってきたプレイヤーの手から顔を出したのは手乗りサイズの小さなウサギだ。このウサギが俺に声をかけたようだ。
しかしこのウサギ、体の中心から見事に色が別れており、右半分は白色、左半分は黒色、目も右が薄い青で左が薄い黄色のオッドアイと、なんとも不思議なウサギだ。
そのウサギは運んでくれたプレイヤーを労うと、俺に飛びついてくる。
慌てて両手を差し出し着地させた。
『良く受け止めてくれたなのです。褒めてやるなのです』
「取って付けたような語尾だな……お前がツクヨミか?」
『そうなのです。アナタがあのキツネを鎮めた異界の冒険者なのです?』
「まぁそうなるな……で、何の用だ?」
『この扉、私も使えるようにして欲しいなのです』
「んー……うん、分かった。元々ミナトに頼んでたけど、こうやって会えたんだし俺がやっとくよ」
『ありがとうなのです』
「使えるようにはするけど、この扉使って変なことはするなよ?」
『聖獣に対してなんたる物言いなのです?私はこの地を護る存在なのです。そんな事するはずないなのです』
「わかったわかった。俺が悪かったよ」
『分かれば良いなのです……じゃあ早速行くとするなのです』
「はぁ!?どこに?」
『アナタが行くところなのです』
「…………」
俺が黙って考えている間、ツクヨミはクリクリな瞳でじっと俺を見つめてくる。
こう言ってはツクヨミに悪いが、コイツと話していると語尾のせいで物凄く疲れるため、何も言わず連れて行くことにした。
近くにいたプレイヤーに一言伝え、アマテラスの聖域にツクヨミを連れて戻る。
「ただいまー!」
『なっ、なな、何故じゃゼルよ!何故そんな小汚い真ん中分けを連れてきたのじゃ!』
『ふん、相変わらず殺風景で品のない場所なのです。まぁこの場所の主が年増のケダモノなら当然と言えば当然なのです』
『貴様のようなチンチクリンには妾の魅力など分からんじゃろうなぁ。見た目も残念、頭も残念とは存在そのものが残念よのぅ』
『____』『____』
聖獣達は顔を合わすなり俺達そっちのけで罵り合いを始め、収まる様子がない。
堪らずクッコロが近寄ってきて話しかけてくる。
「ゼル、あれは?」
「マジックラフトの聖獣ツクヨミだ。ついてきたいって言ってたから連れてきたけど……」
ネヴィラ、ミナトも集まり、4人で静かに聖獣の様子を見ていたのだが、ヒートアップしたツクヨミの雰囲気がガラリと変わる。
『うるせぇんだよババァ!!その無駄に多い尻尾引きちぎってやろうか?あぁん』
『本性を見せおったな化けウサギ。貴様のせいでこの世界に住む双子達は忌み嫌われておるのじゃぞ?恥を知れ!』
『勝手に騒いでるだけだろうが!!アタイは何も知らねぇよ!いい加減な事言ってると息の根止めんぞ年増ぁ』
ここまで二面性を見せられると、アマテラスの言うように双子達に"裏表がある"と懸念される原因は、間違いなくツクヨミが関係してるだろう。
だが聖獣同士の関係性など今はどうでもいい。何より隣で怒声が聞こえてくるのは気分が悪い。
「お前らいい加減にしろ……」
聖獣に近付き、静かに言い放つ。
『あぁん?テメー、聖獣様に向かって偉そうに__』
「護るべき世界を戦争にまで発展させたヤツが何偉そうにしてんだよ?あぁ?」
『えっ!?あ、いや、えっと、それは……べ、別にアタイのせいじゃ……』
「関係ないって言うんなら今すぐこの場から消えろ。俺らは世界を救うために話をしてるんだ。邪魔をするな」
『んふふふ、さすがはゼル。妾が見込んだだけはあるのぅ』
「アマテラス、お前もだ。黙ってツクヨミを連れてきたのは悪かったが、いちいち付き合うな。今は戦争一歩手前なんだぞ?時間を無駄にするな」
『う、うむ、すまぬ……』
「ほらツクヨミ、さっさと帰れ」
『えっと、あの…………ごめんなさいなのです』
「お前らなぁ、仲良くしろとは言わないけど、お互いの邪魔はするな。目障りだ、それと暫く黙ってろ」
『すまぬのじゃ』『ごめんなさいなのです』
「はぁ……それでクッコロ、どんな話になってるんだ?」
「あ、うん……えぇっと__」
【ハーヴェスト】、【マジックラフト】にいるプレイヤー間では協力関係になったが、国同士は未だ状況は変わっていない。さらに黒幕が各国にいた場合、派手にプレイヤー達が交流していると姿を見せない可能性もある為、当分は物資と情報のやり取りのみの協力になったそうだ。
「マジックラフトからは魔法素材、我々ハーヴェストからは食料やその他の素材を共有収納箱にて提供する予定だ」
「なるほど……たしかに黒幕の正体もそろそろ掴みたいな。その為には、さっさとオーガストとの関係を進展させないとダメな訳か」
「この後、私達はオーガストのプレイヤーの1人と接触する予定です。その時なにかきっかけを掴めれば良いんですけど……」
今日でイベントは3日目だ。あまり時間に余裕があるとは思えない。ここで1つ提案してみる。
「なぁ、オーガストのプレイヤーには悪いけど、今回はゴリ押しでいかないか?」
「「「ゴリ押し?」」」
「オーガストからくるプレイヤーはNPCの監視を掻い潜りやって来るんだろ?そのプレイヤーと一緒にオーガストへ行って転移扉を設置、扉の利用者を俺達だけにすれば一方的にオーガストへ行き来出来る。その状況を作り出せば少なくとも話は聞くだろうし、それでもプレイヤー同士ドンパチやりたい奴は好きにさせればいい。もしそうなっても転移扉があれば逃げる事も出来るし、一方的に叩く事も出来る」
「さ、さすがにそれは卑怯ではないか?」
「そうか?見方を変えれば、縁を元に敵国に侵入して経路を開いただけだ。それは卑怯なのか?」
「むぅ、確かにそう言われれば……」
「それにオーガストのプレイヤーが全員死んだとしても国が滅びる事にはならないだろ」
「……それもそうですね。僕達が半数ずつに別れてオーガスト国の力になってあげれば良いですもんね」
「……分かった。その作戦でいこう。人選はどうする?」
「言い出したのは俺だ。俺が行ってくるよ」
「了解した。では転移扉を設置後は交渉のため私も向かおう」
「あ、では私も後で行きます。というか全員で出ていって、こんな事出来るんだよって見せた方が効果的じゃないですか?」
「はは、完全に脅しだな……でも、それも仕方ない。協力的な事を祈ろう」
話が纏まり全員で立ち上がった瞬間、今だ!とばかりに小さな聖獣達が足元でアピールしてくる。
「なんだ?」
『喋ってよいか?妾はゼルと共に行くぞ!』
『わ、私も出来れば連れて行って欲しいなのです』
「喧嘩は?」
『しない』『なのです』
「分かった。一緒に行こう!聖獣がお供だと俺も心強いよ」
『うむ、お主は妾が護ってみせよう』
『私だって頑張るなのです』
『妾が!』
『私が!』
「おい!……やっぱり置いていこうか?」
『『…………』』
黙って首を横に振る聖獣達に手を差し出すと大人しく乗ってくれた。そのまま肩へ移動させる。
聖獣達がお供になってくれるのだ。【オーガスト】への道中に少々の不安はあるが、万が一はないだろう
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