61話 移動手段 2
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弟トールは自宅に残り、兄ダッツに連れられ街を出る。辿り着いたのは森の手前にある育成林だ。
「ここは……」
『この育成林は転移陣を隠すため、私が魔法肥料を使い育てました。表向きは先代魔法使いポロフ様のお力によるものとされています』
「なるほど!」
育成林の中にある木をダッツが無作為に触っていく。すると足元に魔法陣が浮かび上がってきた。
「それ触る木は順番とかあるのか?」
『はい、後でお教えします』
育成林の木その物が魔法陣を出現させるスイッチとなっていたようだ。そのスイッチを決められた順番に触ると魔法陣が出現する仕組みのようだ。
『それとコレを……』
手渡されたのは弟トールが落とし、俺が拾って届けたバッジだ。
『この転移陣を利用するには鍵が必要となります。その鍵となる物が、アナタが拾ってくれたこのバッジなのです』
「バッジって何個もある?」
『いえ、これただ1つだけです』
うぐぅ……意外な落とし穴だ。つまり転移陣を使えるのはバッジを持っている1人だけ。はてさて、どうしたものか……
転移陣を前に考え込んでいると、テラがズボンを引っ張り、視線を向けると身振り手振りで何かを伝えてくる。
「うん?…………おぉ!その手があった!凄いぞテラ!」
『テンキュー!!』
『えっと……』
「ダッツ、転移陣使わせてもらうぞ?」
『はい、転移先は昔私達が住んでいた家の跡地に繋がっています。その後は私の友人【ユージン】を訪ねてください。1番最初に目にする家に住んでいますので』
「分かった!ありがとう」
テラを【同化】させ、チームチャットに「マジックラフトに行ってくる」とだけ書き込み、転移陣を起動させる。
ヒュンっという音と共に体が浮遊し、気がつけば屋内に立っていた。どうやら簡素な小屋になっているようだ。
「責任重大、慎重にいかないとな……」
小屋を出る前に周囲を見渡してみたが、人がいる様子はない。マップ上でも俺は他のプレイヤー同様に青丸表示だ。赤色の敵表示では無いため、すぐバレることは無いはず。
慎重に小屋から出ると、すぐに1軒の家を見つける。あれがダッツの友人、ユージンの家だろう。
(この国はなんというか、神秘的な雰囲気があるな。花天月地のホームに雰囲気が似てる)
ダッツ兄弟と話し込んでいたため、すでに時刻は夜。綺麗な月明かりが所々差し込み、ユージンの家を発見出来たが、周囲が把握出来るほどの明るさでは無い。
早速ユージンの家の扉をノックする。
『待ってたよ異界の冒険者さ……だ、誰だアンタ!!』
「待て待て、ダッツって人から聞いたんだ。バッジもちゃんと持ってるぞ?」
『た、確かに……とりあえず中に』
そう言って先に俺を家の中に入れたユージンは、周囲の様子を確認したあと扉を閉める。
その後、ダッツとの事などを説明しユージンからも一応の信用を得て、これからの話をしようとした時だった。
再びユージンの家の扉がノックされる。
『アナタはとりあえず隠れてください』
コク!
(やべー、そういえばさっき誰かを待ってそうな雰囲気だったもんな。ど、どうしよう……)
急いでクローゼットに隠れ、少しだけ空いた隙間から覗いていると、1人のプレイヤーが中に入ってきた。
(マップは見るなよぉ、頼むぞぉ)
今マップを見られたら俺が居ることが確実にバレてしまう。見つかると色々苦しい。
(あれ?あのプレイヤーって……)
家の中に入り、今ユージンと話しているプレイヤーには見覚えがあった。
暫く目を凝らして見ていると、偶然プレイヤーと目があってしまう。
「誰だ!」
そう言ったプレイヤーはすぐにマップを確認して、プレイヤーが家の中に居ることを把握する。それを見ていた俺は観念し、クローゼットから出た。
「こ、こんばんは」
「お前……いや、君はゼル君?」
「やっぱり!アンタ、ジョブ別PvPの決勝で戦った【ミナト】だろ!」
偶然出会ったこのプレイヤーはジョブ別PvPの決勝で戦ったトリケラトプス使いの【ミナト】だ。
「な、なんで君がここに?いや、それよりもどうやって……」
「まず、敵対する気はない!それは分かってくれ」
「話を……聞かせてくれ」
ユージンの家だが、本人そっちのけでミナトに俺達【ハーヴェスト】にいるプレイヤーがやろうとしている事を説明する。
「うん、話はわかった。なるほど、だから単独でも戦力が確保出来る召喚士の君が来たわけだね?」
「あ、いや、それは偶然なんだけど……」
「実は僕達の国の中でも、一部のプレイヤーがゼル君達と近い考えを持っていてね。僕もその1人なんだ」
「最初に出会ったのがアンタで良かった……本当に寿命縮むかと思ったよ」
「はは、しかしこの後どうする?さすがに君を皆と引き合せるのは難しいと思うんだけど……」
「それなんだけど、頼みがある」
俺の考えと共に聖獣の事を話し、アマテラスから借りている八咫鏡をミナトに渡す。
「それを持ってると聖獣と対等に戦えるらしい。あとプレイヤーは死んだら多分復活しないまま退場になる可能性があるから注意な!」
「分かった。こっちはなんとかしてみる」
「頼んだ!上手くいったら信用してくれよ?じゃまた後で。ユージン、アンタの家なのに勝手して悪いな。だけど戦争は絶対止めるから!」
『とんでもない、お気になさらず』
俺はそのまま転移陣がある小屋に戻り起動、【ハーヴェスト】の街に戻る。
「よし、とりあえずの作戦は大成功だ。後はテラ、頼むぞ!」
コクコク!!
運良く顔見知りのミナトに出会い、戦争を阻止しようとしている俺達の考えは共有出来た。
だが問題はやはり移動と連絡手段だ。転移陣は1人しか使えず、ミナトとは試しにフレンドコードの交換を試みたが失敗。他国にいるプレイヤーとはフレンド機能を使って連絡を取り合うのは無理だと分かった。
そこでテラに言われ思いついたのが、新たな転移方法の製作だ。先程ミナトには俺達の信用を得るための材料として八咫鏡を渡し、代わりに【マジックラフト】独自の魔法素材を分けてもらった。本当はこっそり採取する予定だったが、その手間も省けて大助かりだ。
材料さえ揃えば、後はテラが【転移扉】を作ってくれる。【転移扉】なら利用者の制限をかけれるし、逆に全員で利用も出来る。これで【ハーヴェスト】、【マジックラフト】間の移動手段が確保出来た。
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