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54話 人助け

長くなったので分割。本日2話投稿。1話目

 会議室での話し合いが終わり、【ハーヴェスト】の街に出る。



 会議室では色々と俺の考えを述べたが、全く見当違いの可能性もある。

 俺も最初は王の言葉に対し、他の国を倒せばクエストクリアになるのか?という疑問だけだったが、現在では別エンディングの可能性に確信めいたものがある。



 それは隊長NPCが言っていた【昔のような穏やかな日々】、さらに【聖獣のご加護】という言葉だ。



「聖獣っていう存在がいて、昔は穏やかだった……それが戦争にまで発展した理由があるはずなんだよなぁ……」



 そんな事を呟き、大通りから外れた街を歩いていると、道端で座り込み、傍に生えている木の影で足をさすっている中年の男性NPCがいた。近くには荷車とその積荷が散らばっている。



「おーい、大丈夫か?」


『これは異界の冒険者さん。すみません、荷車の車輪が壊れてしまったようで……』


「分かった、ちょっとじっとしてろ……ミラはこの人の回復してやって。テラは荷車直せそうか?」



 ミラのヒールを受け、NPCはすぐに立ち上がり元気になったが、荷車をしゃがんで見ていたテラは首を横に振っている。


『こ、これは……ありがとうございます!』


「うん、元気になったな。テラの方は……やっぱ素材がいるか。あんた、なにか車輪の素材になりそうな物持ってるか?」


『いえ、すみません。何も……』



 他のプレイヤー達は周囲の探索や、素材採取に出ているようで、採取班が帰ってくれば素材は分けてもらえると思うが、帰ってくるまでは時間がかかる。



「うーん、木製の車輪だし、木だけパッと行って採取してくるか……」


『それなら街の北側に小規模ながら育成林があります。そこの木をお使いください』


「分かった!すぐに戻ってくるからここで待っててくれ。あと積荷の方は自分でよろしくな」


『分かりました。ありがとうございます』



 NPCの言葉通り、北側には山と森があり、森の入口付近には柵が取り付けられ、手入れがされた林があった。

 ハーヴェストは資材が豊富な国というだけあって、山では洞窟内で鉱石が採取出来たり、森では豊富な木材が採れるようだ。



「こんなにも自然が豊かなのに木を育ててるんだなぁ……」



 豊富な資源があるにも関わらず、育成林が存在するのには少し違和感があるが……後で皆と考えるとしよう。



 この育成林でも採取ポイントが存在し、もしかすると通常とは仕様が違い、採取すると木が消滅するのか?とも思ったがそんな事はなく、いつも通り採取が出来た。



「育成してるだけあって【上質な木材】が街のこんな近くで、しかも大量に手に入るのは有難いな。採取班も動いてる事だし、俺達はこのまま街に帰ろうか」



 レラの【超幸運】のお陰だが、数箇所の採取ポイントからかなりの【上質な木材】が確保出来た。荷車の修理だけとは言わず荷車その物が作れそうな量だ。



 先程のNPCのもとに戻り、【携帯クラフター作業台】をその場に設置し、テラには荷車の修理に取り掛かってもらう。



『さすがは異界の冒険者さん。このような作業台まで持ち運べるとは……』


「はは、まぁな……荷車を直す間、ちょっと話を聞かせてもらえないか?」


『えぇ私で良ければ、なんなりと』



 俺が聞きたかったのはこの国の歴史だ。隊長NPCとそう歳が変わらないこのNPCなら、穏やかな時代の話を知ってるだろうと思ったのだ。



『えぇ、そうですね……昔は他の国が(いが)み合うことも無く、それはもう穏やかな日々でした』


「それがなんで戦争なんかに発展したんだ?」


『それは……私にも分かりません。あれよあれよという間に気付けば私達は争っていたのです……』


「うーん、まぁ街に住む人達からすれば、そんなもんだよな……分かった、ありがとう」



 ちょうどテラも荷車の修理を終えたようで、両手を広げ俺に飛びつき抱き着いてきた。



「よしよし、お疲れ様。頑張ったな!」


『テンキュー!!』



 その後荷車を引き、去っていくNPCに手を振り別れる。

 直後、採取班の代表をしているクマ系の女性獣人プレイヤーの【チャウチャウ】からチーム通信が届いた。



「森の入口付近に、柵で囲まれた林があるんだけど、何か知ってる人いますか?」



 多分……というか確実に俺がさっきまで行っていた育成林のことだろうが、チャウチャウは今気付いたのだろうか?

 そう考えている間、他のプレイヤー達からの返答はなく、俺が応える事にした。



「さっきクエストの途中でNPCから教えてもらった育成林だと思う。使って良いって言ってたぞ」


「マジですか!ありがとうございます」



 すると別のプレイヤーからも通信が入る。



「そのNPCの名前って分かります?」


「ごめん、聞くの忘れてた……見た目は覚えてるけど」


「りょーかいです!一応聞いただけですから」



 そう言って通信は終わったが、このゲーム当初からの仕様で、NPCのほとんどは固有名ではなく、特徴がネームプレートに表示されている。

 例えば、さっき別れたばかりのNPCだと【街の住人】と表示され、現実世界同様に相手から名乗ってもらうか、こちらから聞き出さないと固有名で表示されないのだ。

 勿論、例外もあって最初から固有名で表示されているNPCもいる。



「はぁ……今まで気にしてこなかったけど、NPCの固有名が表示されない仕様は辛いな。皆と情報共有する時に凄く不便だ」



 今まではNPCネームの仕様に関して、プレイヤー達と話す機会がなかった為、全然気にしてこなかったが、今回のイベントはNPC達あってのイベントだ。

 今度からしっかり名前を聞くようにしよう。



 するとまた、チャウチャウからチーム通信が届く。



「あのー、採取ポイント枯れてる所があるんですけど、ホントに育成林から採取しても大丈夫なんですか?」



 採取ポイントはそれぞれのプレイヤー別で判定があるはずだが……チームを組んでいる今は共有なのだろうか……



「ポイントが枯れてる所は俺が採取した所だと思う。もしかすると、その育成林は採取ポイントの判定が共有されてるのかもしれない」


「うーん、私では判断出来ないんで、一箇所だけ採取して帰りますね」



 俺は何も考えず必要な分だけ採取して、採取ポイントを残してきたが、一度使用すると枯れたままになる可能性もある。

 そもそも、俺が助けたNPCのクエストがキーとなって育成林が出現した場合、クエストを発生させた俺以外に採取出来るかどうかの疑問も残るため、チャウチャウの提案は検証も兼ねているのだろう。



 頭を悩ませていると、今度はクッコロから通信が届いた。



「また色々と話し合いたいことが出来た。時間のある者は会議室に集まってくれ」



 チャウチャウ達採取班と同様に、探索班も帰路についているようで、俺も会議室に向かう。



 俺の他にも街を探索していたプレイヤーは居たようで、先に会議室で待機し他のプレイヤーを待った。その間、召喚者達と戯れていると、クッコロはじめ、プレイヤー達が俺の召喚者達に興味を持ったようで、近くに集まってきた。



「君の召喚者はみんな可愛いな……」


「ふふん、だろ?全員自慢の奴らだからな!」



 他のプレイヤー達も召喚者達と戯れ出し、クッコロに至ってはドラにキョトンとした表情で見つめられ、体がプルプルと小刻みに震えている。



 そしてドラがクッコロを見ながらコテって首を傾げる仕草をすると___



「ぁはん……もう無理!!かわいぃいいいい。お姉ちゃんとギューってしよ?嫌?……お願い!!!」


「はは、まぁ気持ちは分かるけど……」



 クッコロは膝をついてドラに抱きつき、頬擦りまでしていたが、ドラも嫌がる素振りは見せないようなので、そっとしておくことにした。

読んで頂きありがとうございます。

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