48話 マジックショップ開店
早速買った土地で建築をしていくのだが、買った土地内に限り、ホームと同様に作業台や設計台などを設置して使用出来るようだ。
まずはテラの【携帯クラフター作業台】で【設計台】を作ってもらう。
「パズ、建物は何か希望はあるか?特定の素材で作って欲しいとか」
『……お店としての機能も一緒に、出来れば欲しいかな』
「うーむ、そりゃ当然だよな!分かった」
パズ達の目的は魔道具を作ることだけじゃない。それを売って自立した生活を送ることだ。作った魔道具を売る店としての機能は必要だろう。
店のスペース、自身たちの生活スペース、作業スペース、素材や在庫の保管スペースなども必要だ。
「そう考えると、この土地は結構ギリギリだな……」
全てを地上に構えるとなると確実に土地が足りないが、俺が拠点を建てた時のように、ここでも地下は活用出来る。
そして設計図作りも手慣れたもので、サクサクと作りおおよその形を組み上げる。
そこからパズ達の意見を聞き修正を加え、店となる建物のデザインなどを決めていく。今回はあまり凝った造りにはせず、最終的にかなり簡素な造りとなったが、生活が始められれば後から改築も出来る。今はこれで我慢してもらおう。
「とりあえず設計図はこれで良いとして、本格的に建築を始める前にパズ達の居住空間をなんとかしないとな……」
『冒険者さん、それなら心配いらないよ!前の街でも、今と似た状況で生活してたからね。足を伸ばして寝れるだけ今の方がマシなくらいさ』
「…………尚更ダメだ!……テラ、【簡易テント】いっぱい作れるか?」
コクコク!
【簡易テント】はその名の通り簡易なテントだ。セーフティエリアで使える使い捨てのアイテムで、中には寝袋がセットになっている。寝袋に入って待機するとHP、MP、デバフなんかも回復出来るアイテムで、勿論実際に寝ることも出来る。
これまでは日帰りで冒険が出来る場所しか行かなかったため使い道が無かったアイテムだが、意外なところで使い道が出来た。
『だ、ダメだよ!これ以上は……』
「俺がやりたいだけだ。好きにやらせてくれ」
街の中は暑くもなく寒いわけでもないが、子供達を野ざらしで雑魚寝させるのはしのびない。完全に俺の自己満足だ。
「メシはどうしようか……」
『それはっ!!それは本当に大丈夫!!簡単な物は自分達で作れるし材料もあるから!』
「そ、そうか……一応【万能調理台】用意しようか?」
『それは……あると嬉しいけど……良いのかい?』
「任せろ!」
調理自体は自分達で出来るようで、俺は【万能調理台】をテラに作ってもらい、パズ達に渡す。
「とりあえず今日のうちに仮拠点を作って、明日から本格的にやるぞ?お前達にも手伝ってもらうからな!」
『任せといて!!なんでも言っておくれよ』
時刻はすでに夕方。今日は簡易テントと獣人達が持っていた食料でなんとかなりそうだが、簡易テントも在庫を抱えれるほどは作れない。
俺は再び【設計台】で簡単な家を作る。家とは呼べない小屋そのものだが、無いよりはマシだろう。
この日はここでパズ達とは別れ、小屋を建てるのに必要な素材を残った時間でかき集め、ホームに戻り食事を済ませてログアウトとなった。
再びログインし、朝になるまで素材を集めパズ達のもとへ向かう。
「おはよう」
『おはよう!冒険者さん。昨日は色々とありがとう』
「うん。今日から忙しくなるぞ!皆、頑張ってくれよ!!」
『『『おぉーー!!!』』』
獣人達も気合いは十分なようだ。
早速建築をはじめ、俺が小屋を建てる間にテラには獣人達が使う【ベッド】と【石のシャベル】を量産してもらった。これで獣人達は小屋で寝泊まりでき、穴を掘る作業を手伝ってもらうことが出来る。
その後、設計図を見せながら穴を掘る範囲を説明し、獣人達に掘ってもらっている間に俺達は必要な素材を集めに向かう。
仮の生活空間は確保出来たため、まずは地下の作業場から作ることを相談して決め、まずはそこで使う【モルタル】の素材を重点的に集める。
【モルタル】は【土】の上から塗り、時間が経つことで【モルタルの壁】などに変わる一風変わった建材で、【木の壁】などのように設置しては使えないが、今回のように地下施設を造る際にはうってつけの建材だ。
【モルタル】にはセメント、砂、水が必要なのだが、今回はそこに【妖精の粉】という【冒険の森】にモンスターとして出てくる妖精の素材を混ぜ、【魔法のモルタル】にアップグレードして使用する。
こうすることで作業場自体の品質が上がり、製作物の品質が僅かだが上昇する効果が付与される。
作業場にもランクの様な概念があることを知ることが出来た。今度俺の拠点も改良しよう。
昼過ぎに戻り、獣人達が行っていた作業の進捗をみてみるが、ステータスが低いためかそこまでは進んでいない。俺や召喚者も加わり、一気に穴を掘り作業を終わらせた。
その後は皆で壁や天井、床に【魔法のモルタル】を塗っていき、作業スペースは完成となった。
「やっぱりモルタル使ったのは正解だったな!かなり作業が早い。乾いて完成するのは2日後かな……」
乾くまで待つ必要はあるが、素材もすぐに集まり乾く間に他の作業が出来る。モルタルはかなり便利な建築だ。
その後、モルタルが乾く間に小屋を解体し地上部分も設計図通り作り上げ、とりあえず獣人達が生活出来るようになった。
「よしっ!なんとか完成だな!」
『ありがとう冒険者さん!!本当に感謝してもしきれないよ……』
「どういたしまして……さて、地下も乾いてるだろうから早速設備を配置していかないとな」
地下には作業場とは別に、制御室となる場所と収納が出来る場所を用意してある。早速制御室に【古の制御装置】を設置して、獣人達の意見を聞きながら作業場に設備を全て並べていく。
これで獣人達の生活拠点となる、お店兼作業場が完成となった。
「完成だな!!」
『ありがとう冒険者さん。いえゼルさん!!是非、このお店の名前をつけておくれよ!』
店の名前を付けないといけないのか……普通に考えれば当たり前の話だが、さてどうしたものか……
「じゃあ…………プロキオンってどうだ?」
『おぉ!!【マジックショップ・プロキオン】かいっ!?凄く良いよ!皆、頑張ってお店を盛り上げて行くぞーー!!』
『『『おぉーー!!!』』』
「はは、頑張れよ!!」
獣人達が気合い十分なことは分かったが、肝心の商品となる魔道具はどんな物が作れるのだろう……さすがに需要が無いものを作っても売れなければ生活が成り立たない。
翌日、早速作業を始めた獣人達だが、パズにどんな物を作るのか聞いてみる。
すると意外にも【天空の街】などで買えるような商品を作ることが出来るようで、材料なども"なぜか"揃っているようだ。
本来は【天空の街】まで行かないと買えないようなアイテムを、ここで買うことが出来るのは他のプレイヤーにとっても有難い事だとは思うが、目玉となる商品が欲しいところだ。
「なぁパズ、コレって作れるか?」
そう言ってパズに見せたのは【簡易転移石】だ。このアイテムは今のところ売っているのは見た事がないし、需要が尽きることもない。パズ達の店で買うことが出来るなら俺としても大助かりだ。
『うーーん…………うんっ!作れると思う。これを商品にするのかい?』
「出来るなら有難いな……」
『分かった!試しに作ってみるよ』
そう言うとパズは他の獣人に指示を出す。少しするとパズが【簡易転移石】を持って俺のもとに来た。
『ゼルさん、出来たよ!!!』
「おぉ!!これは間違いなく売れるだろ!!……でも、素材とかどうしてるんだ?」
『……おいら達に協力してくれたのはゼルさんだけじゃないんだ!ある人達が定期的に来て、余った素材を分けてくれたから、その中から使って作ったよ』
「そうなのか……うん、分かった!」
まぁそういう設定なのだろう……大丈夫だと言われれば納得するしかない。
ともあれこれでパズ達のお店、マジックショップ・プロキオンの目玉商品の完成だ。
「じゃ俺は行くよ……たまには顔出すから元気に暮らせよ!」
『えっ!?…………売上を渡す時は、来た時に纏めて渡せば良いのかい?』
「売上?渡す?……なんで?」
『だって、このお店のご主人はゼルさんだよ?違うの?』
キョトンとした顔でパズが尋ねてくるが……なるほど。これがこのイベントの報酬なのだろう。
つまりこのイベントをクリアしたことで、お店のオーナーになることができ、売上を何割かを貰うことが出来るようだ。
店が繁盛すれば、俺は何もせずとも金が入ってくるようになる。
「うーん、今はいらない!皆に余裕出来たら受け取ることにしようかな」
『…………分かったよ。少しでもゼルさんに恩返し出来るように頑張るからね!』
「楽しみにしとくよ!」
これはもしかすると、かなり豪華な報酬を手に入れたのでは無いだろうか……簡単に言えばNPCが経営するお店のオーナーになれたのだ。素材なども謎の協力者が手配してくれるようで、俺にこれ以上の出費はないし、俺が新しいレシピなどを手に入れ、パズ達が作ることが可能なら商品も増やせていける。
貧乏な今の俺にはとても有難い報酬だ。商品もどうやったら増やせるか色々と試していこう。
読んで頂きありがとうございます。




