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想い出  作者: 彼岸  章華


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準備にて

 世間の方々は忙しい。

 忙しいから、忙しいという事実を忘れてしまっているのである。




 それにしても、恐らく今日の店内が豪勢なのは、恐らく、()()が近いからだろう。


 そう思って、私は

「そうだね。復活祭(クリスマス)が、もうすぐ始まるからかもしれないね」

 と言ったのである。


「ああ。もう、そんな時期ですか」


 すると、雄一郎さんが驚いたように、こう告げたのである。


 どうやら、雄一郎さんは、本気で忘れていたようだ。


 確かに季節の出来事(イベント)などは、忘れやすいだろう。

 祝う事がなければ、すぐに忘れてしまう誕生日などと同じ扱いである。


 ちなみに私は、各季節ごとに遊戯(ゲーム)で様々な催しが開催されるため、それで覚えているのだ。


 それがなければ、一切覚えていないだろう。

 確信して言える。


「そうだよ。そんな時期だ。ほら、季節物の広告とかで良く流れてくるでしょう?」


「ああ。そういえば」


 私は広告などは一切見ないが、母が見ていたので、そこら辺の情報は解るのである。


 感謝する。

 ありがとう。母よ。


 今度、何か美味しいものを御馳走しよう。


 そして、私はそんな事を考えながら、

「だろう?でも、復活祭は未だ遠いのに、準備が終わっているのは、凄いね」

 と、雄一郎さんに告げるのだ。


「そうですね。復活祭はいつでしたっけ?」


 復活祭の日にち、か。

 それは、少し記憶が曖昧だが、恐らく。


「確か、二週間後だよ。まあでも、準備をするのなら、丁度良いのかもしれないな」


 私は、世間の忙しさを思い出しながら言った。


 そう。

 この時期、つまり私のような恋人のいない独り身には、ただ騒がしさだけの煩わしい期間であるこの期間は、人によって大きく意味が異なるのである。


 例えば、それは同じ大学に通う恋人のいる学生や社会人、世帯を持つ世間の方々である。


 なにせ彼ら、彼女らは、この季節になると毎年のように宴会(パーティー)仮装(コスプレ)やらの準備で騒がしくなるからである。


 そう。

 人によっては、昼夜関係なく騒ぐ輩がいるのだ。


 そして大概そのような人達は、色々な祝い事の準備に追われているのである。


 例えば、復活祭を恋人と過ごす人は、西洋菓子(ケーキ)を食べるための貯金や予定調整に追われる。


 そして当日は、今までの忙しさに別れを告げ、甘い日々を過ごすのだろう。


 例えば、年末を家で家族と共に過ごす人は、深夜まで年末の祭りや全国放送(テレビ)を見るための仕事調整に追われる。


 そして当日は、番組の途中で睡魔に惨敗し、健康的な睡眠で隈が消えるのだろう。


 例えば、家族と協力しておせち料理の準備や味見をする人は、家族の味覚に合うような味付けの調査、実証に追われる。


 そして当日は、家族と共に料理を食し、初詣に出かけて、おみくじの結果に一喜一憂するのだろう。


 そう。

 この期間、世間のお方々は息つく暇もなく、準備や季節の出来事に追われているのである。


 その忙しさは、青く儚い夏祭りの日々よりも、苦節に満ちているのである。


 ちなみに私は、恋人がいないだけなので、毎年変わらず年末は家族と過ごす事になるのだ。

 最高である。

 だって、気心が知れている。


 さて。

 話を戻して、復活祭の準備について、である。


 この時、私は特に取り繕う事もなく、

「いやでも、流石に早すぎないかな?二週間前だよ?」

 と、無遠慮な事を言ってしまったのである。


 すると、私の言葉を聞いた雄一郎さんは

「いいえ。丁度良い時期だと思いますよ。準備は可能な限り、早めの行動を心がけるのが、社会の基本ですから」

 と言ったのだ。


 ああ。

 嫌な言葉だ。


 特に、社会人という言葉が、嫌だ。

 一生、学生が良い。


 だが、そんな愚痴を雄一郎さんに聞かせてはならないだろう。


 だから、私は心の内を秘める様に

「それは、嫌な基本だね」

 と、少し本音を漏らしながら、言葉を紡いだのである。


 だって、仕方がないじゃないか。

 私は、社会人になりたくないのである。


 しかし、それは問屋が卸さないと言わんばかりに、

「社会人になった暁には、貴方(きみ)もそうしなければならないのですよ?大丈夫ですか?」

 と、雄一郎さんが現実を突きつけてきたのだ。


「大丈夫じゃないね。一生、社会人になりたくないよ」


 ああ。

 もう、こうなったら、雄一郎さんに本音をぶちまけよう。だって、これしかないだろう。

 なにせ、言い訳や、本音を隠すのは、疲れるのだ。


 すると、意外な事に

「そうですか。奇遇ですね。僕も、同じような事を考えていた時期がありましたよ」

 と、雄一郎さんが同調してきてくれたのである。


 これには、驚いた。


「貴方が?」

 と、思わず聞き返してしまうくらいには、驚いた。


「ええ。僕が、です。意外ですか?」


「意外だね。貴方の事だから、仕事をして社会の役に立つ事が生きがいみたいな感じで、色々な仕事をしてると思っていたから」


 なにせ、雄一郎さんには

「仕事一筋で生きてきました」

 という言葉が、一等似合うのだ。


 確かに、これは勝手な想像だ。

 だが、それでも想像してしまったからには、勝手に話が進んでいくのである。


 この考え方は、例えは悪いが芸能人の揉め事(スキャンダル)に食いつく、記者の方々と同じなのだろう。


 だが私の考えは、一瞬で破壊された。


 なぜか?


 雄一郎さんが

「ありえませんね。僕は仕事を生きがいにするような、仕事第一主義者(ワーカーホリック)ではありませんから」

 と言ったからである。


「本当に?貴方が?」


 まあ。

 その言葉を信じられずに、このような言葉を繰り返したのだが、それは仕方がないだろう。


 勝手に出来た偶像を消すには、想像以上に努力しなければいけないのである。


「そっか。勝手に想像を押し付けて、ごめんなさい」


「良いですよ。それとも、想像と違って、失望しましたか?」


 失望?

 今、雄一郎さんは失望したかと言ったのか?


「それは、ありえないよ。だって、仕事を人生の重きに置いている人って、面倒臭いだろう?」


 これは心からの、私の嘘偽りない本心であった。


「おやおや」


「そうは、思わないのかい?私は、貴方が人間関係とかをお金で考える人じゃなくて、今、安心したけどね」


 そう。

 人間関係を損得勘定で動く人間は、安心出来るが、信頼出来ないのである。


 なぜなら、自分に不利益が流れ込んでくると解った瞬間に、逃げるからだ。


「おや。大人的な考えですね」


 そう、雄一郎さんが言った。


「そう?だって、私は家庭よりも仕事をとって失望されるよりは、仕事よりも家族との良好な関係をとる方が重要だと思ったから」


 ちなみに、これは私の両親の受け売りである。

 そして、私もこの考えは良いと思っているので、雄一郎さんに伝えたのだ。


 すると、雄一郎さんは

「それは、人によって違うでしょうね。なにせ、仕事という枠組みと家族という枠組みを良好でなくても良いと考える人もいるのですから」

 と言ったのである。


 だが、これ以上この話を掘り下げていくと、またどこかで脱線を生むだろう。


 だから私は、

「そっか。そういう考えも、ありかもね。それで、世間の流れとか、社会の流れに思いを寄せるのは、もう十分だろう?」

 と言ったのだ。


「そうですね。十二分に世間や社会の風を浴びる事が出来ましたからね」


 幸運だったのは、雄一郎さんも私の意見に同意を示してくれた事だろう。


 ああ。

 これでようやく、私は雄一郎さんの思い出話を聞く事が出来る。


 そう思いながら、私は、この寒さの中を懸命に生き抜く、雪の下に埋もれた草に目をやったのである。

お読みくださり、ありがとうございます。


それでは、次回作にご期待ください

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