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想い出  作者: 彼岸  章華


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白銀にて



三章



 言葉の正当性は、時代によって、相手によって。

 その都度、変化していくものである。




 これは、北の雄大な大地が清く麗しい、その顔に、白銀の仮面を被った頃の事。


 「寒いね」


 白い雪に包まれて色を失った、外の植物達の姿を横目に、私は言った。


「おや。そうですか?温かいと思いますが」


 だが、その時だった。

 私の言葉に、異を唱える人が現れたのである。


 誰であろう。

 決まっている。

 

 私の目の前の席に座っている、雄一郎さん、その人である。


 ああ。

 確かに、私の言葉には誤りがあっただろう。


 ああ。

 確かに、雄一郎さんの言葉は正しいだろう。


 なぜなら、現在の室温は二十度前後であると、雄一郎さんの所持品である温度計が示しているからだ。


 ちなみに、この店内の温かさは、店主のご厚意による物だ。


 そう。


 この喫茶店では、店主の

「素適な空間を、心から楽しんでもらいたい」

 という思いから、常に喫茶店の室温は、最適な温度に調整されているのである。


 まあ。

 光熱費などの事は考えたくないが、客人である私達からすると、とても有難い事なのだ。


 つまり、何が言いたいのか。


 普通であれば、この喫茶店にいて

「寒い」

 と感じる事は、あり得ないという事だ。


 だが、そんな事は承知の上で、私はもう一度、雄一郎さんに訴えるように

「寒いよ」

 と言ったのである。


 ああ。

 誤解しないでほしい。


 これは私の感覚神経が狂れたとか、そのような理由では、決してない。


 実際、店内の温度は温かいと感じているし、私の席は常に快適な温度に包まれている。


 だから、雄一郎さん

「遂に、ですか。成長しましたね」

 などという不穏な言葉を、私に告げないでくれ。


 一体、何を納得したというのだ。


 まず、

「遂に」

 とは、一体何だ?


 まるで、私がこのような事を言うのだと、あらかじめ予見していたようではないか。


 心外である。


 思わず、顔が歪んだ程には、心外である。

 

 その時だった。


 私の不機嫌そうな表情を見て、雄一郎さんが

「どうして、そのような不満げな顔をしているのです?」

 と、こう言ってきたのである。


 ああ。

 どうやら雄一郎さんは、自身の失言に、まったく気付いていないらしい。


 その事実が、さらに私を苛立たせた。


 だから、私はさらに機嫌が悪そうな態度で

「だって貴方、さっき変な事を言っただろう?」

 と、告げたのである。


 だが、これは、正当な抗議だろう。


 ああ。

 恐らく、八つ当たりではないだろう。


 なにせ、八つ当たりは癇癪であり、理不尽に周囲の人を捲き込むものを示す時に使われる言葉だからだ。


 だから、これは八つ当たりではないのである。


 そう、思いたい。


 しかし、もし私の行動を雄一郎さんが八つ当たりだと感じた場合は、私は謝らなければならないだろう。


 なにせ、人間関係において最も大事な事は、私という個人の意見ではなく、雄一郎さんという相手の意見が重要視されるからである。


 そう。

 相手がどのように感じたのか、それで人間関係の善悪が判断されるのだ。


 私は、それを忘れていけないのである。

お読みくださり、ありがとうございます


それでは、次回作にご期待ください

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