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〇〇〇の神の申す事には  作者: 日曜定休のsai山
【第2幕】日曜日
99/122

第12.1話 日曜日の夕方。???。【天気】霧

 雨上がりの夕方。

 ふと気付けば辺りは(きり)に包まれていた。


 そんな中、海斗(かいと)の視線の向こうにあったのは、川薙熊野神社かわなぎくまのじんじゃと――そしてそこから出立(しゅったつ)したとある一団だった。




「嫁……入り?」


 (りく)は呆けたように(つぶや)いた。

 海斗の視線の先にあったものとは嫁入りの一団。嫁入り行列だったのだ。


 その行列の先頭を行くのは、黒紋付(くろもんつき)提灯(ちょうちん)を下げた男。

 彼は、サッ、サッ――と、一歩一歩を確かめるように鳥居をくぐると、右を見、左を見、そしてすっと(きびす)を返し、花嫁を(いざない)った。


 すると、花嫁が現れた。

 白無垢(しろむく)姿の彼女。その顔こそ(うつむ)いていてよく見えなかったけれど、母親と(おぼ)しき黒留袖(くろとめそで)の女性に付き()われ、一歩、また一歩と、確かめるように歩みを進めている。


 その後ろには、やはり同じ形で歩みを進める和服姿の(ともがら)が数十人が続いていた。

 どこからか聞こえてくる篠笛(しのぶえ)の音色が実に(おごそ)かだ。




「これ、嫁入り……だよね?」


 その光景に息を呑んだ陸は、海斗に問うた。


「うん。でも頭に、『キツネの』が付くけど……」


 と、血の気が引いたような海斗。


 ▽ ▽ ▽


 狐の嫁入り。


 それは、人に化けたキツネたちが、嫁入りのため行列を成して進む、日本の怪異(かいい)の一種だ。


 この行列、見ると災いが訪れると言われたり、あるいは見ると幸運が舞い込むと言われたりで、その吉凶(きっきょう)綯交(ないま)ぜな()り方はまさしくキツネ。


 空は晴れているのに雨が降っている。――そんな天気をそう呼ぶこともあるけれど、残念ながら本物に遭遇(そうぐう)してしまった陸たち。

 彼らが出会ってしまったのは、果たして吉兆(きっちょう)の一団なのか、それとも……


 △ △ △


 この行列に参加する彼らの(ことごと)くが白狐(びゃっこ)だった。

 人の形に白狐の顔。そんな彼らは、陸たちなんて見えないかのように、厳かに歩みを進めている。


「陸君、どうする?」


「どうって……そだ! クシナダさ――」


 奇稲田(くしなだ)ことしいなに意見を求めようとした陸は、ピタリと動きを止めた。

 しいながいないのだ。どこにも。

 今さっきまでそこにいたはずなのに、まるで煙のように消えてしまっている。


「クシナ――じゃなくて……し、しいなは!?」


「え?」


 海斗も一緒になって辺りを探す。


 するとその時、行列に駕籠(かご)が現れた。

 きっと老人か、さもなきゃ貴人でも乗っているのだろう。

 いや。こんなおかしな状況だ。もしかしたら、いなくなったしいなが乗っている可能性もワンチャンあるかも知れず。

 しかし――


「ぅぁ……」


 それを見てしまった陸は後悔した。

 駕籠の障子窓(しょうじまど)に映された乗客の影。それが完全にキツネなのだ。


 いつの間にか霧はますます深くなり、さらに天気雨まで降っていた。

 厳かだったはずの篠笛(しのぶえ)の音も、荒々しく怪しげなものに変わっている。


 すると――


 ぴゅひぃ~い~――ひゅいっ!


 トン! と、小気味よく(つづみ)の音が鳴ると、行列の全員が一斉にこちらを向いた。


「目! 伏せて!」


 と、ハッとした陸。

 もうどうしていいのか分からず、その場に固まってぎゅっと目を閉じる。


 もし狐の嫁入りに遭遇したら、決して彼らと目を合わせてはいけない。そんな話をどこかで聞いたことがある。

 そして、もし目が合ってしまったら、その時は……えと、どうなるんだっけ?




 キツネたちはこちらを向いたままだった。

 彼らがこちらに何か仕掛けてくるような気配はない。しかし、行ってくれる様子もない。


 早く行って! お願いだから行って! 早く行って! お願いだから行って! ――一心不乱に念じ続ける陸。


 しかし――


「おヤ。コれは珍しい。人間のお客さんとハ」


 おもむろに列を外れ、こちらにやって来る一匹の雄狐(おぎづね)

 陸は絶望した。


(りく)    ……主人公君。高1。へたれ。

咲久(さく)   ……川薙(かわなぎ)氷室(ひむろ)神社(じんじゃ)宮司家(ぐうじけ)の娘。ヒロインさん。高1。割といいかげん。

海斗(かいと)   ……陸の友人。高1。さわやかメガネ。

雨綺(うき)   ……咲久の弟。小6。ハスキー犬系男子。

朱音(あかね)   ……元迷惑系動画制作者。高1。根はいい子。

(さき)先生  ……朱音の担任。家庭科教諭。うっかりメガネ。


木花知流姫(このはなちるひめ)……桜の神様。ギャルっぽい。

奇稲田姫(くしなだひめ) ……川薙氷室神社かわなぎひむろじんじゃ御祭神(ごさいじん)。訳あって縮んだ。

しいな  ……小さくなってしまった奇稲田姫の仮の名。


川薙(かわなぎ)   ……S県南中部にある古都。

茅山(かやま)   ……川薙の南にある工業都市。


【更新履歴】

2025.6.18 微修正。


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