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返礼の宴(2)

ザック:【天使と書いてベルたんと読むの会】会員諸君!今日は29日!筋肉の日!「お助けキャラも楽じゃない1」の発売日だ!今日の善き日を迎えられたのも、ひとえに会員諸君のお陰であります!

本日午後八の刻より天使の渚亭にて書籍化感謝祭を行う!夜勤以外の会員は奮って参加されたし!

以上!

 

 いきなり現れたスオウの存在に、驚いてポーチを取り落としたアナベルは声を上げる間もなく、口を手で塞がれて、こめかみに短銃を突きつけられた。

 ポーチの中身が床に散らばる音が響き、じんわりと金属の冷たさがこめかみから伝わってきて、頭が真っ白になった。


「動かないでくださいね? 貴女にはこのまま人質になっていただきます」


 下手に刺激しない方が良いと考え、鏡越しにスオウを睨みながらゆっくりと頷いた。


『スオウ! 何をしているの!?』


 スズが個室から出てきて、こちらを見るなり悲鳴をあげた。

 キャロルも慌てて個室から出て、状況を把握するなり叫んだ。


『スオウ! ベルを放しなさいよ!』

『お二人ともそこから動かないでくださいね。動いたら撃ちます』


 アナベルを羽交い締めにしたままスオウは化粧室を出た。

 外ではアレックス達も状況に気づき、抜剣してスオウと対峙したが、アナベルに銃が突きつけられている為、そのまま動けずにいる。


(誰か……! 助けて……!)


 恐怖で足がすくみ、今にも取り乱して悲鳴を上げそうになった。

 ふと涙で滲む視界の端、護衛達の後ろにランスロットの姿が見えた。


(そうよ、ランス様がいる……。落ち着いて……)


 ――「大丈夫。何があっても俺がベルを護るから」


 その言葉を思い出して、アナベルは必死に冷静さをかき集めた。


「この先に爆弾を隠した場所があるんです。本当は会場で爆発させたかったのですが、仕方ない。それを爆発させたら逃げるので、そこまでお付き合いしていただきますね」


 スオウは小声でそう言うと、アレックス達と一定の距離を保ちながら、アナベルを引きずるように暗い廊下をジリジリと進む。


(落ち着いて……。きっと助かる方法があるはず……)


 涙を必死に堪えてランスロットを見つめると、ランスロットはアナベルを安心させるようにしっかり頷き、会場の方へ走って行った。


 スオウに拘束されたまま階段を登り、会場の真上に位置する広いバルコニーに辿り着いた。

 近くの植え込みに隠してあった爆弾を取り出したスオウは、アナベルを拘束したままバルコニーの柵を背に立ち、追いかけてきた騎士達を見渡した。


「そこで止まってください。動けば撃ちます」


 その距離約十メートル。足止めされた騎士達に焦りの色が見える。

 一方、柵の下からは雅やかな音楽が聞こえ、ここでの騒ぎは知られずに、パーティーが順調に進んでいる事が分かる。


「ここで爆発させれば天井が崩れて、きっと会場は一気に阿鼻叫喚の地獄になりますね……」


 スオウの愉しそうな呟きに、アナベルは強い怒りを覚えた。


(そんな事、絶対させない……!)


 ルイスを中心に一丸となって、心を尽くして歓待に努めてきたアナベル達。そして鎖国派の妨害にも負けず、両国の友好のために精一杯活動してきたナギ達。両者の想いが実を結び、こうして無事に終わりを迎えようとしているのに、最後の最後で滅茶苦茶にされるなんて絶対に許せなかった。


(どうにかして銃から気を逸らせることが出来れば、その瞬間がチャンス……)


 アレックスを始め、駆けつけた騎士達が今も絶えず隙を窺っている。一瞬の隙さえ作るが事が出来れば何とかなるはずだと、アナベルは視線を忙しなく動かした。


『スオウ! 馬鹿な真似はやめるんだ! このお役目が無事に終われば、元のような暮らしが出来るようになる!』


 いつの間にか駆けつけたナギがスオウに呼びかけた。

 その懸命な呼びかけをスオウは鼻で嗤った。


『元のような暮らしをするのはナギ様とスズ様だけでしょう? ……狡いですよね、ナギ様は。鎖国派がダメなら開国派に自分だけ鞍替えしちゃうんですから』

『おいスオウ! それは違うぞ! ナギ様はな……!』


 激高して飛び出しそうになるハヤテをナギは諌めた。


『落ち着けハヤテ! 良いんだ、そう思われても仕方ない。……ミリオン伯爵と繋がっていたのは……そして伯爵邸を焼いたのもお前か?』


 ナギの質問に、スオウは得意気に笑って頷いた。


『そうです。あの時はまだ私との繋がりを知られては困る状況だったので、証拠隠滅させて頂きました。ハヤテに罪を被せようとしたのですが、上手くいかずに残念です』


 ますます殺気立つハヤテを手で制するナギ。


『……スオウ、か弱い女性をそのように苦しめるのは可哀想だ。私が代わるから、紫の君は離してやってくれ』


 ナギの申し出もスオウは一顧だにしない。


『その手には乗りません。彼女のせいでイヨがしくじりましたし、これぐらいの仕返しはさせてもらいますよ』


 撃鉄を上げた銃でこめかみをさらに圧迫され、アナベルは今度こそ恐怖で涙が零れそうになった。

 そんな膠着状態の中、キャロルが声を上げた。


『さっきから疑問だったんだけど、スオウは昨日の夜からずっと女子トイレに隠れてたの?』

『……そうですが何か。警備が厳しくて、あそこしか隠れる場所がなかったので……』


 口元をヒクつかせて答えるスオウを、キャロルは途端にゴミを見るような目つきで睨んだ。


『え……変態! 最低! キモッ!!』

『いくら何でも女子トイレに隠れるとか、有り得なくないですか? 痴漢! トイレ臭そう! キモッ!!』


 スズも死んだ魚のような眼でスオウに言い放つ。

 自分でも気にしていたのか、女子二人の口撃に、スオウは激高した。


『煩い! 女が口を出すな!!』


 そう叫びながら、思わずスズとキャロルに向かって銃口を向けた瞬間、アレックスはキャロル達を庇うように前に立ち、アナベルはスオウの腕に思いっきり噛みついて、力が弛んだ隙にその場に蹲った。

 スオウが痛みに驚いたはずみでキャロル達に向けて発砲したが、アレックスが抜き放ったサーベルで銃弾を弾き落とした。


 スオウはアナベルに再び手を伸ばした所で後ろから激しい衝撃を受け、バルコニーの中央に吹き飛ぶようにして倒れ込んだ。その様子を見た騎士たちが怒声を上げて一斉に走り出し、蹲ったスオウに群がった。


「ベル! 怪我はないか!?」


 頭を抱えてうずくまっていたアナベルは、その声に反応して顔をあげた。


「……!! ランス様……!!」


 今一番会いたかった人が、目の前で新緑の瞳を心配そうに歪めていた。

 思わず抱きつくと、力強く抱きしめ返してくれるランスロットの腕の中で、アナベルは安堵の溜め息を吐いた。


「爆弾!! 火がついてるっ!!」


 慌てたようなキャロルの叫び声に、バルコニーの中央を見ると、騎士達に引き起こされたスオウがニヤリと笑い、その足元には導火線に火のついた爆弾が落ちていた。


「逃げろ!!」


 騎士達が慌ててその場から退避する中、ランスロットとアレックスが爆弾に向かって走った。


 先に辿り着いたアレックスは爆弾をむんずと掴むと、バルコニーから庭の上空に向かって投擲した。

 ランスロットはそれを見て、すぐ側に落ちていたスオウの短銃を拾い、柵から身を乗り出すようにして、爆弾めがけて銃弾を発射した。


 ドォンという大きな音がして、爆弾は見事上空で爆発した。


 大きな音に驚いた招待客達が下のテラスで騒ぐ声が聞こえる。すると、直ぐにまたドォンドォンと大きな音がして、今度は空に大きな花が咲いた。


「花火だ!!」

「えっ! 花火!?」


 バルコニーの面々は呆然とその花火を見つめた。


「え……なんで急に花火が……」

「念の為に用意していたんだ……」


 キャロルの呟きに、息を切らせてバルコニーに現れたルイスはそう答えると、額に浮かぶ汗もそのままにキャロルをしっかりと抱きしめた。


「化粧室から戻らないって聞いてすごく心配した。無事で良かった……」

「ルイス様ぁぁ! 怖かったよぉぉ!」


 我に返って泣きじゃくるキャロルの声を聞きながら、アナベルはぼんやりと花火を見上げた。

 あまりに沢山の事が一度に起きて、何が何やら分からず思考停止に陥っていた。


「ベル! 怪我はないか?」


 アナベルに駆け寄って、乱れた髪を労わるように優しく撫でつけるランスロットを見上げて、アナベルはうわ言のように聞いた。


「ランス様は何処から……?」

「一階のテラスから登って、バルコニーの柱の陰で奇襲の機会を窺っていた。直ぐに助けられなくてすまない」


 どうやらスオウがいきなり倒れ込んだのは、ランスロットが後ろから攻撃を仕掛けたからのようだ。

 次々に上がる花火に、下の階からは平和な歓声が上がっている。


「どこかで爆発が起きた時に備えて、ルイス殿下が音を誤魔化す為の花火を用意していたみたいだな」


 ランスロットの言葉に、アナベルはゆっくり視線を動かして、抱きしめ合うキャロルとルイスを見た。そして、その近くでアレックスにお礼を言っている笑顔のナギとスズを見た。


 視界がみるみる潤んで滲んでいく。


「っ……みんな、無事で良かった……」


 きつく抱きしめてくれるランスロットの腕の中で、アナベルはただひたすらに涙を流した。


「パニックにならずによく耐えたな。怖かっただろうに……ベル、よく頑張ったな……」


 ランスロットが背中をぽんぽんと優しく叩いてあやしてくれるお陰で、アナベルは少しずつ落ち着いてきた。ランスロットが傍にいてくれるなら、もう大丈夫だと心から安心できた。


「ランス様……助けてくれてありがとうございました……」


 涙を拭いてアナベルが顔を上げたその時、誰かが呻く声が聞こえた。

 周囲を見渡すと、騎士に拘束されていたはずのスオウが頬を手で押さえて倒れ込んでいて、その目の前にハヤテが拳を握りしめて険しい顔で立っていた。どうやら、ハヤテがスオウを殴り倒したらしい。


『スオウ、お前は五年もナギ様と一緒にいたのに、一体何を見てたんだよ……!?』


 さらに殴りかかろうとするハヤテをナギと騎士が止めに入る。

 ハヤテは怒りに瞳を燃えたぎらせてスオウを睨みつけた。


『ナギ様はな! このお役目を成功させる事を条件に、俺とお前、その他ナギ様に仕えていた鎖国派の者達の家門の復権を帝に約束させていたんだ!!』

『……何だって?』


 スオウは殴られた体勢のまま、ポカンとした顔でハヤテを見上げていた。


『鎖国派の妨害があるだろうと分かっていて! しかも一ヶ月もかかる長い道のり! 親善大使なんて聞こえは良いが、そんな危険で面倒な役目、あの日和見貴族共がやりたがる訳ないだろ!?』


 ハヤテは自分を拘束しようとする騎士を振り切って、スオウの胸ぐらを掴んだ。


『ナギ様は俺達の為に、帝に交渉して下さったんだ!! 親善大使を引き受ける代わりに願いを聞いてくれとな!!』


 スオウは驚いた顔で、ハヤテの後ろに立つナギを見た。


『黙っていてすまない……。ぬか喜びになると申し訳ないから、スオウ達には、ちゃんと復権できる事が決まったら伝えようと思っていたんだ』


 気まずそうに言うナギの言葉を聞いて、スオウは今にも泣きそうな顔をして淋しげに笑った。


『ナギ様はいつもそうだ……。心の内をハヤテには話しても、私には話してくれない。私は、ナギ様が親善大使になると知った時、裏切られたと思ったんですよ……! スズ様の為に、私達を捨てて開国派に寝返るんだと思ったんですっ! 許せなかった……! だから……!』


 スオウの目からポタポタと垂れる涙を見て、ハヤテは胸ぐらを掴んでいた手を放した。


『……スオウ、すまなかった。お前にも、他の皆にもちゃんと伝えるべきだった……』


 ナギは肩を落としてスオウに謝った。


『ナギ様が謝る必要なんてない! 理由はどうあれ、こんな事までしでかしたコイツが悪い!』


 ハヤテは立ち上がって、険しい顔のままスオウを一瞥し、ナギに視線を向けた。


『……でも、ナギ様は昔からひとりで何でも抱えすぎなんですよ。反省して、これからは思った事を周りの人間にどんどん言ってください』


 ハヤテのぶっきらぼうな言葉に、ナギは苦笑した。


『そうだな……。思いは言葉にしないと伝わらないな……』


 花火の音に紛れて、スオウの嗚咽が響いた。


『……お取り込み中の所申し訳ないが、皇子と皇女が長時間不在だとパーティーに影響が出ます。今、王太子あにうえが必死で場を繋いでいますので、急ぎ下の会場にお戻り願いたい』


 話の切れ目を狙って掛けられたルイスの言葉に、周囲は慌ただしく動き始める。

 スオウは一旦拘束し、パーティー後に処遇を決める事になった。

 ナギとスズはルイスやキャロルと共に慌ただしくパーティー会場に戻っていく。


 アナベルは念の為、医師の診察を受けるようルイスから指示があり、ランスロットが付き添う事になった。

 立ち上がろうにも足が震えて立てないアナベルを、ランスロットはキャロルが羨むお姫様抱っこで優しく抱き上げた。


 前回抱き上げられた時は、脱水症状で意識が朦朧としていてあまり覚えていなかったから、ランスロットの逞しい腕と、いつもより近い顔の位置にアナベルはひどくドキドキした。


「ランス様、そういえば陛下の護衛は……?」


 また自分のせいで任務を放棄させてしまったのではないかと不安になった。

 するとランスロットは顔を近付けて得意気に笑った。


「大丈夫、休みを貰っていたんだ。今日の俺は、ベルだけの騎士ナイトだ」

「ランス様……」


 甘く囁くランスロットの声と、自分が映り込む程近くにあるその愛おしい瞳に吸い寄せられるように、アナベルは顔を近づけた。

 女性からこんな事をして、はしたないと言われるかもしれないけれど、今、どうしてもランスロットに触れたいと思った。



 誰も居なくなったバルコニーで、打ち上がる花火を背に、二人はお互いの唇を重ね合わせた──。


死屍累々(筋肉)

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