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影の御子  作者: 山口遊子
第3章 皇帝

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第39話 ローゼット家5


 ローゼット家には月に一度、地方から荷馬車に乗せられ荷が届く。

 荷にはそれぞれ名前がついていて、今月の荷馬車に積まれた荷にはAJ(エージェー)からJJ(ジェージェー)までの名前が付けられている。


 この日も日が沈み、灰含みの霧雨の中をカンテラを灯した荷馬車が、屋敷の裏門に到着した。

 門から敷地に入った荷馬車は本館の専用口前に止まった。

 その荷馬車の後ろの幕が開かれ、中から荷が順番に降りてきた。


 ローゼット家の私兵が荷に向かって大声で怒鳴りつける。

CJ(シージェー)ぐずぐずするな!」


 ロープで腰を繋がれて、薄汚れた貫頭衣を着た痩せすぎの子どもたちが、灰を含んだ霧雨の中、石畳の上を声も立てず裸足で歩いていき、兵士たちの怒鳴り声(しじ)に従って、専用口から館の中に入っていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 影の御子の装束をまとったケルビンとビージーは、塀の忍び返し(スパイク)を掴んでそこから頭を半分塀の上に出し、ローゼット家の敷地の中の様子を探っていた。


『あっ! あれ、わたしもあの馬車に乗ってたの。

 馬車の後ろの車輪が外れて、何人か逃げ出した時、わたしも逃げたんだ。

 わたしは逃げ出してすぐに物陰に隠れたんだけど、わたしの他に逃げ出したのはすぐに捕まったみたい。

 わたしの時には腰ひもなんかついていなかったけど、今は逃げ出さないようにああやって結ばれているんだ』


 貫頭衣にそんなに種類があるわけではないだろうが、塀の上から見えるロープで繋がれた子どもたちの着ている貫頭衣は、ビージーの着ていた貫頭衣といえばその通りだ。


 ケルビンはビージーの名前に最初から違和感があったが、ローゼット家の奴隷にもつに付けられた名前だったとは想像すらできなかった。


――あの連中は奴隷として買われてきたんだろう。予想通りビージーは奴隷だったようだ。よりによって公家であるローゼット家の奴隷だったとはな。


『右手の建物が新しくて大きい。そこが緑キノコの栽培場に違いない。

 ビージー、あそこに二人組の兵隊が立っているのが見えるだろ?』

『うん』

『あの二人が立っている建物がおそらくベルダの製造所だ。他の作業所にも明かりが点いているところを見ると、どこもまだ作業しているようだ。ご苦労なことだ。

 ビージー、兵士たちが見えなくなったら塀を乗り越えるぞ』

『うん』


 それから五分ほどしたところで、兵士の姿がケルビンたちからは見えなくなった。


『いくぞ』


 ケルビンが忍び返しを乗り越え、ローゼット家の敷地の中に飛び降り、身を低くして栽培場らしき建物に向かって駆けだした。

 ビージーもすぐに塀の上から跳び下りてケルビンの後を追った。



 最初に目当ての建物の裏手に回ったケルビンは、出入り口を探したがどこにもなかった。


『通気窓をこじ開けるしかなさそうだ。

 ビージーはここで待っていろ』

『うん』


 ケルビンはするすると壁をよじ登って通気窓に取り付き、マントの中からスタブナイフを取り出して通気窓の窓枠に沿ってそれを動かしていった。何回かそれを繰り返して、最後にかなりの力を込めて捻ったところ、通気窓が窓枠から外れた。


 外した通気窓を、ベルトの物入れから取り出した鈎付きの紐で建物の内側に向けて吊り下げたケルビンは、窓枠を抜けてそのまま建物の中に消えていった。


 ビージーも壁をよじ登り、窓枠を抜けて建物の中に侵入した。


 建物の中はケルビンの予想通り緑キノコが無数に着いた榾木(ほだぎ)が整然と並べられていた。


『緑キノコを取ってくるから、ビージーはそこで待ってろ』

『うん』


 ケルビンがいつものようにマントの中から布製の小袋を取り出し、ダガーナイフで小さめのキノコを一本の榾木ほだぎから二、三個切り取って袋の中に入れていく。


 七、八本の榾木ほだぎからキノコを切り取って小袋はいっぱいになった。


『ビージー、先に出ていろ』

『うん』


 ビージーが壁を登って通気窓を通り抜けて表の地面に飛び降り、そこでじっとしていた。


 ケルビンもすぐにビージーの後を追って壁をよじ登り、吊り下げていた通気窓を引き上げて窓枠にはめ、鈎付きの紐を丸めてベルトの物入れにしまい、ビージーの隣りに飛び下りた。


『どの作業所も明かりが点いて中で作業をしているようだから中を確かめるのは諦めて、さっき見た子どもたちが入っていった扉を調べてみるか。入れるようなら、その先を調べてみよう』

『うん』


 二人は腰をかがめてなるべく暗がりに身を置くようにして道を横切り、運ばれてきた子どもたちが入っていった扉の前でいったん止まった。

 ケルビンが取っ手に手をかけて扉を動かそうとしたが、動かなかった。


『カギがかかっているの?』

『ああ。この型のカギなら何とかできる』


 ケルビンはベルトの物入れから小瓶を二つ取り出した。瓶の蓋を開け、片側の瓶からスタブナイフの先で銀色の粘土のようなものと、もう一つの瓶から白い粘土のようなものを小指の先ほどずつ掬って、それを合わせて何度も手で捏ね合わせ銀色の粘土の塊を作った。

 そのあとベルトから細い鉄の棒を取り出して、その棒を使って捏ね合わせた銀色の粘土を鍵穴に少しずつ丁寧に押し込んでいった。

 ケルビンは残った粘土を平たくして一カ所だけ針金で孔を空け、最後にその平たくした粘土を鍵穴に押し込んだ粘土にくっ付けた。


『これで良し。これから百ゆっくり数えたら、粘土が固まってカギになる』

『へー、そうやって鍵を作ってたんだ』

『そういうことだ』


 ケルビンが百数える間、二人組の兵隊が一度近くを通ったが、ケルビンたちに気づくことも、扉のカギが差し込まれていることにも気づかず通り過ぎていった。


 百数え終わったところでケルビンがカギを回すと、カチャリと音がして扉は解錠された。

 鍵穴からカギを引き抜いたケルビンはそのカギをベルトの小物入れの一つから取り出した鍵束の針金に通してまた小物入れにしまった。


『中に入るぞ』

『うん』


 ケルビンが扉をわずかに開けて滑り込むように建物の中に入っていき、ビージーも同じように建物の中に忍び込んで、音を立てないよう慎重に扉を閉めた。




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