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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#07_僕らの洋上生活

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03ロスタイム

 ベイカー侯爵から、タキシン王国王子派の高官である「マドセン男爵の救助」という依頼受け、アスカ隊ことシュテルネンハオフェンは宿場町マルモアに急行した。

「宿場町というから、もっと旅人で溢れているかと思ったがそうでもないんだな」

 依頼を受けた翌日の夜、到着早々に鈍色の戦乙女然としたアスカが呟く。

 彼女が言う通り、町の目抜き通りに旅人風体はあまり見当たらず、代わりに商人や丁稚の姿が目に付いた。

「ま、旅人もどうせここまで来たら、ボーウェンまで行ってしまうんじゃないかしら」

 応えて言うのは金髪の魔法少女マリオンだ。

 宿場町マルモアは、アルト隊やアスカ隊が拠点としている港街ボーウェンから東へ伸びる街道沿いにある。

 マリオンの言う通り、西方の一大都市であるボーウェンとは目と鼻の先なので、旅人の多くは少し無理をして足を伸ばし、ボーウェンまで行ってしまうのだ。

 それでも大都市に近いということで、最近は衛星市として発展している。

 つまり、港街ボーウェンに居を構えられない中堅以下の商人が取引拠点を開いたり、近隣の農村から来る物資の集約地となったり、という訳だ。

 なので町の雰囲気は、宿場町というよりは港街ボーウェンの『商業地区』に近いものがあった。

「なるほど。では、ひとまず宿を決めてから方針を話し合うか」

「さんせー」

 旅人云々の件はただの感想だったので軽く頷き、アスカは続いて宿を求めて通りを見回す。共に歩くマリオン、そして美しい銀髪の無表情少女ナトリは頷いて後に付いた。

 元々は宿場町だけあり、求めるレベルの宿はすぐに見つかった。もちろん、高いレベルと言う意味ではない。冒険者という名の「ならず者」も引き受けてくれる、サービスが開かれた宿の事だ。

 平たく言えば安宿である。

 とにかく、宿で部屋を取り、食事をしながら方針について話し合う。

 やるべきことは『マドセン男爵の救助』だが、まず彼の居所を探さねばならない。

 だがしかし、リーダーのアスカは『警護官(ガード)』一辺倒だし、マリオンはお嬢様育ちだ。ナトリは基本的に誰かに指示されなければ自らは動かない。

 つまりは情報収集にはいまいち向かない連中なのである。

 そうなると頼りになるのは、彼女らを『姉ちゃま』と呼ぶクーヘンだけだ。

 世界に7体だけの人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレム、『人形姉妹(ドールシスターズ)』が6女、『探索の目(オキュラス)』の二つ名を持つ人形サイズの少女だ。

「世界の謎からペット探しまで、探索の事ならこのクーヘンに任せるデース」

 そう胸を張って飛び出した鹿追帽の少女は、果たして数日後にマドセン男爵の居場所を突き止めてきた。

 まぁ、その「数日」という時間が、彼女の能力の高低どちらを示しているのかは、待ち呆け3人衆の知るところではなかった。

「でかした。で、男爵殿はどこに潜伏しているんだ?」

「地下酒場『フェガト』にいたデスよ。『フェガト』はエルフの国(タキシン王国)の諜報員がやっている店なのデス」

「地下酒場って、なにか妖しい響きよね」

 マリオンが興味深げに言う。

 確かに「地下酒場」などと言うと何か違法性の高い秘密酒場の様だが、聞けばただ単に店の場所がとあるビルの地下にある、というだけであった。

 つまり、ひっそりとした場所にある、隠れ家的なバー、と言ったところか。日本ならタウンガイドなんかで偶に紹介されそうな感じだ。

 まぁ、実際にタキシン王国要人の隠れ家だった訳だが。

 そういった経緯を持ち、アスカ隊は取り急ぎ地下酒場『フェガト』へ向かった。

 向かい、店の戸を開いた所で彼女達は修羅場に遭遇した。

 狭い店だ。

 カウンターが客席とバーテンダーを隔てた、5席ばかりの薄暗い店。

 そのカウンター席にたった一人座った中年の男が、胸に突き立てられた『短槍(ショートスピア)』を驚愕の目で凝視している。

 『短槍(ショートスピア)』の持ち主はカウンターを挟んだところで笑みを浮かべる初老のバーテンダーだ。槍の石突に当たる端を持ち、尚も傷口を広げる様にグリグリとねじっていた。

「何をしている!」

 まさかの光景、いや想定しておいてしかるべき光景だったが、アスカはこんな展開を考えてもいなかった。そのため、思わず感情が先走るかの様に声を上げた。

「あ…」

 助けが来た事に気付いたか、胸を刺された中年紳士は表情を一瞬だけ緩め、次の瞬間に席から崩れ落ちた。床に血が広がる。

「アスカ、あれってマドセン男爵なんじゃないの?」

 先頭のアスカに視線を遮られつつも、何とか店内の様子を把握したマリオンが眉をしかめる。

「おやめずらしい、美しいお客様が3人も。すぐに席を用意しますので少々お待ちを」

 アスカが応える代わりにそう口を挟んだのは、『短槍(ショートスピア)』の穂先を布巾で拭う、バーテンダーの男だった。

 見た目が初老の割りに声がやけに若々しい。

 目の前で胸を刺され倒れる中年紳士という非日常的光景と、裏腹に『日常通り』と言った態度のバーテンダーに、アスカの視界はクラクラした。

 彼女も冒険者として、これまでに幾つかの死に直面して来たが、その中でも人の死に臨してこの様子は異常に思えた。

 バーテンダーに全く悪意を感じないのだ。

 迷い込んだ害虫を駆除しただけとでも言いたげな雰囲気だった。

「お客様? どうかなさいましたか?」

 なおも平然と、当のバーテンダーはお構い無しに首をかしげてから、アスカたちの為にカウンターにコースターなどを並べ始める。

「おまえいったい」

「まってアスカ。あの人を助けるのが先よ」

 ちぐはぐな惨状に混乱気味のアスカが詰問しようとする所を、急ぎマリオンが止め、彼女はようやくそこで当初の目的を思い出した。

 そう、マドセン男爵の救出だ。これはもう、すでに任務失敗が決定しかけている。

 アスカは逸る頭をどうにか落ち着かせながら思考をめぐらせた。

「くそ、どうして、どうしてこうなった」

 誰に対してなのか悪態を吐きつつ『両刃の長剣(ロングソード)』を抜き放つ。放ち、続けて自らの背中に向けて声を上げた。

 背中にはアンダーウエアについたフードが垂れ下がっており、そこは()()()のいつもの場所であった。

「エクレア、『ヒーリングシャワー』だ。あの人も効果範囲に入るか?」

「いけます。ですがお姉ちゃん…」

 呼びかけに応じてアスカのフードから顔を出したのは、クーヘンの姉に当たるもう一体の人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレムだ。

 『人形姉妹(ドールシスターズ)』が三女、『癒しの手(クラーティオ)』の二つ名を持つエクレアである。

「話は後だ。とにかく頼む」

 エクレアの言葉を遮り、アスカは『凧型の盾(カイトシールド)』を構えて狭い店内を駆け出した。

 店へ降りる通路が狭いため、ほぼ一列に並んでいたので、アスカが飛び出したことによりマリオンの視界が開けた。

 だが喜んでいる場合ではなく、それはアスカが戦端を開きに行ったと言う事に他ならない。

「もう! ナトリ、援護準備よ」

 取り急ぎ、愛用の『短杖(ワンド)』を取り出して膝を落とし構える。彼女のさらに後衛に位置取る、銀髪の『精霊使い(シャーマン)』へ視界を譲る為だ。

「了解」

 ナトリもその辺りは理解しており、すぐさま自分の手番に向けて思考をめぐらせる。

 とは言え、彼女らの(パーティ)中で最も敏捷値が高いのはアスカだ。まだ考える時間は僅かだがあった。

 そのアスカが初老のバーテンダーに迫る。カウンター越しではあるが、充分に『両刃の長剣(ロングソード)』の射程内だ。

 一閃。

 目にも留まらぬ剣速をもって『両刃の長剣(ロングソード)』が、初老バーテンダーの首元を襲う。

 普段のアスカであれば、隊の壁役(タンク)を全うする為に、ここで『ワーニングロア』や『イージスシステム』等の防御スキルを展開するところだ。

 しかし今日は違う。

 (パーティ)メンバーのほぼ全員が一列であり、戦場もまた狭い為、敵が後衛を狙って迂回するような余地が無い。

 ならば最も安全な策は、一刻も早く敵を無力化にするに尽きる。という判断からの行動であった。

 しかしてその判断は正しかったのか。

 次の瞬間、アスカの『両刃の長剣(ロングソード)』は空を切った。

「なっ」

 横薙ぎに首を刎ねる絶好のタイミングだと自負していた。

 一撃で屠る事はないにせよ、まさか狙いを外すとは思いもよらなかった。なのでつい、アスカは驚愕の声を上げた。

 咄嗟に、見開いた目で獲物を確認する。

 するとどうだ、手ごたえが無かった筈なのに、狙ったバーテンダーの頭は、その胴から分断されて天上付近まで刎ね上がっていた。

 傍から見れば、その光景は正しく「首を刎ねた」状態に映っただろう。

 アスカもその様を目にして、やはり一撃でしとめたのだ、思い直しかけた。『両刃の長剣(ロングソード)』に手ごたえが無かったのは、余りに鋭い一撃の為、抵抗も無く切り裂いたからではないか、と都合の良い解釈をしかけた。

 確かにクリティカルヒットを放った時は、そう言う事もある。だが今回ばかりはそうではない。

 アスカにも、すぐにそれがわかった。

 刎ね跳んだ頭に置いて行かれた身体は、その場で血も流さず、どうと崩れ落ちる様に倒れる。

 そしてその頭は、と言えば、天井に吸い付くかの様に、ピタリと逆さになってぶら下がった。

 そう、ぶら下がったのだ。

 どうやってか。それは首の辺りから生えた、蔦の様な数本の触手によってであった。

「キモっ」

 アスカとマリオンは、思わず声を揃えて叫んだ。

 確かにキモイ。リアルに生首が触手をウネウネと生やして天井でニヤリと笑うのだ。ホラーである。

 だがそんなことを言って怯んでいる場合ではなかった。

 どうやら生首男の敏捷値はアスカに次ぐものだったらしく、彼は器用に触手を使って天井を這い始める。

 まるでゴキブリを思い出させる俊敏さだ。

 天井の生首男はたちまちアスカの頭上を越えて、ポトリと落ちた。落ちた先に立っていたのはナトリだ。

「!」

 ナトリが声にならない叫びを上げる。生首男は触手を使って彼女の顔面に巻きついたので、声にならないのは彼女が無口だからか、はたまた口をふさがれたせいなのかはわからない。

 フェイスハガー状態と言えば、状況を解って頂けるだろうか。ただ、フェイスハガーと違うのは、触手の元が生首と言う所である。

「かっかっか、これで攻撃できまい」

 勝ち誇って初老男の生首が高笑いを上げる。確かにこの状態でこの生首を叩けば、ナトリの頭を巻き込みかねない。

「しまった」

 その様子にアスカが慌てて振り向きつつ悪態をつく。敵が人間だと侮っていた故の惨事である。いわば彼女の過失だ。

 また、次の手番を待ち『スリングショット』を構えていたクーヘンも、さすがにショットを打ち出せずにその手を止めた。

「ナトリ姉ちゃまを放すデス」

 手は止めつつ、狙いだけはそのままにクーヘンが言うが、生首男はどこ吹く風で鼻を鳴らした。

「ふん、要求するなら対価を用意するんだな」

「あんたバカァ?」

 だが、そんな憎らしい生首男の言を、さらに鼻で笑う様な声が被せた。続けて、声の主がずいと立ち上がる。

 ナトリに視界を譲る為に膝を床についていた事で生首男の難を逃れた、金髪の魔法少女だ。

 ちなみに立ち上がっても、ナトリの視界を遮らない程度の身長である。

「シーリングチョッパー如きが生意気言うんじゃないわよ。私を誰だと思ってるの? ボーウェンの天才魔法少女、マリオン・マーカス様よ?」

 続けて、マリオンが矢の様に言葉を放ちつつ振り返る。振り返りつつ、流れるような所作で『短杖(ワンド)』を振るった。

 もちろん、直接攻撃の為ではない。彼女の職域である『緒元魔法』だ。

「『フィズフォージ』ストレングス」

 その言葉が空気に溶けると、継いでナトリの全身が一瞬だけ緑に光る。

「ナトリ、やっちゃいなさい」

 そして生首男が声を上げるよりも早く、次の瞬間にマリオンと同じ敏捷度を持つナトリの両手が動いた。

 両目を塞がれていながらも、自分の顔に寄生する生首男の位置を見失うわけも無く、ナトリの両手は正確にその初老の顔面を掴む。

 掴み、両手の全ての指でギリギリと締め上げた。つまり、両手を使った脳天締め(アイアンクロー)だ。

「ぎゃあぁぁぁ」

 悲鳴と共にナトリに巻きついた触手が緩み、その隙を逃さずにナトリは自らの顔面からその奇妙な生き物を引っぺがす。

 そして、おおきく振りかぶって狭い店の壁に叩き付けた。

 生首男はトマトの様に赤い飛沫を上げてはじけ、さすがに即死のようだった。




 緒元魔法3レベル『フィズフォージ』は、使用時に指定した相手の能力値のどれかを、一時的に上げる、または下げる効果がある。

 今回は「ストレングス」、すなわち筋力アップとして使用された。

 この魔法にかかれば、か弱い女性もたちまち屈強な鉱山夫の如き腕力を手にする事ができるのである。




 さて置き、敵が排除されれば後は人命救助だ。

 敏捷値の点から言っても、この中で最後の順番に当たるのはエクレアである。そのエクレアが、先のアスカの指示に従い、胸を刺され倒れた中年紳士へと目を向け、手にした『聖槌(メイス)』を両手で掲げた。

「『ヒーリングシャワー』」

 純白のパフスリーブワンピースがはためき、掲げられた『聖槌(メイス)』から無数の光が束となって宙を舞う。

 そして光束は緩やかな弧を描き、狭い店内に雨となって降り注いだ。

 優しい金糸の雨は、生首男の締め付けで僅かに傷ついたナトリの柔肌を瞬時に癒す。

 だが、横たわる中年紳士の傷は、依然としてドクドクと赤い液体を流し続けていた。

「なんでだ、どうして治らない?」

 その様子を見てアスカが振り返って仲間達を見渡す。

 誰かが答えを持っていることを期待しての行動だったが、どうやらアスカ以外の誰しもが、その理由に思い当たっていたらしく、皆一様に痛ましい表情で目を逸らした。

「お姉ちゃん、彼はもう死んでいるのです」

「馬鹿言うな。まだ生きてるじゃないか」

 仲間を代表して、回復スキルの行使者であるエクレアが、頭のナース帽を脱ぎながら答える。が、アスカはその回答をすぐさま否定して、横たわる中年を指差した。

 中年紳士は『ヒーリングシャワー』による治癒の雨を浴び、僅かにうめき声を上げ、その胸は呼吸の為か静かに上下していた。

「ほら、まだ生きている」

「アスカ、そうじゃないわ。あの人は死んでいるの。死んでいて、なお私たちに言い残す事があるのね。死に切れず、ああして留まっているの」

 耐えかねて、溜め息交じりにマリオンが言うが、アスカはただ眉を寄せて首を傾げるだけだった。

 呼吸がある、うめき声がある。ならば、彼女の常識としては生きているのが当然だ。

 生きている、という事は、この世界では「HP(ヒットポイント)が最低でも1ポイント残っている」と言うことで、その状態なら回復魔法やスキルでたちまち元気になる筈だった。

 だが、他の皆は、彼は死んでいると言う。その意味がアスカには理解できなかった。

 その様子に、マリオンとナトリは顔を見合わせて無言で相互理解を得、アスカを押しのけて横たわる中年紳士へと近寄った。

「遺言があるのね? 聞いてあげるわ」

「あり、がとう」

 中年紳士の傍らに膝をついてそう言えば、彼はうっすらと目を開けてそう答える。

 答え、続けて覚束ない震える唇で言葉をつむぎ出した。

「私は、タキシン王国男爵位、マイケル・マドセンです。私はもう助からない、ですがどうか、どうかセナトール殿下を助けてください」

「セナトール殿下ですって?」

 名を聞き、耳を済ますように聞いていたマリオンが驚きに声を上げた。中年紳士の生死についてまだ腑に落ちないながらも、アスカはこの反応に振り返る。

「マリオン、知っているのか?」

「知っているも何も、タキシン王国王太子の1人息子よ」

「?」

 また謎が増えた、と言わんばかりに疑問符を飛ばすアスカだった。

「私たちはタキシン王国王子派の高官、マドセン男爵を助けに来た訳だけど、その王子派の首魁が王太子なわけ。まぁ世間的に『王子派』って言われてるけど、正確に言えば『王太子派』ね」

「その王子…いや王太子に息子がいるのか?」

 手早く解説してくれたマリオンに対し、アスカはさらに深く困惑する。

 彼女のイメージの問題なのだが、王子と言えば若いイケメンがまず頭に浮かぶ。この困惑はそのせいだ。

「王子と言っても三十路だもの。嫡子の1人くらいおかしくないでしょ」

「三十路なのかっ」

 なので、そうハッキリ言われて、アスカは衝撃につい復唱してしまった。

 そんなやり取りを他所に、引き続きマドセン男爵の遺言に耳を寄せていたナトリが静かに頷く。

「わかった。あなたの望みは私たちが果たす。安心して逝っていい」

 その感情を匂わせぬ平坦な物言いに、マドセン男爵は大いに満足して微笑むと、そのまま静かに息を引き取った。

 今度はアスカから見ても、明らかにお亡くなりになったようだった。

 しばし黙祷を捧げ、かの紳士の死を悼む僅かな時間が過ぎると、アスカが思い出したように呟く。

「つまり、何だったんだ?」

 それはマドセン男爵の生死についての疑問。まだ話すし僅かに動くのに「死んでいる」という状態についてだ。

「何といわれても、偶にそう言うことがあるのよ」

「そう、生命の神秘。あのまま放って置くと、彼は心残りのせいでアンデット化する」

 結局、彼女らからは納得できる回答は得られなかったが、この歪んだ世界で「そう言う事もある」と言われては、もうそれ以上疑問を挟む余地は無かった。

 ちなみに、ここにかの元GM氏がいれば、この事象について喜んで解説をぶってくれた事だろう。

 すなわち、これはTRPG的な、ゲーム的案件であった。

 ストーリーの都合上で死ぬのだが、何も残さずに死なれると情報が伝わらずに詰んでしまう。そう言う時に、偶に発生する現象である。

 あの薄茶色の宝珠(オーブ)殿は、名付けてこれを「死に際ロスタイム」と呼んでいると言う。

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