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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#06_僕らの捜査官生活

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四方山話_英雄の伝説

今週は本編の更新はありません。

その代わりといっては何ですが、ちょっと閑話を。

 「メリクルリングRPG」の世界において、英雄と呼び称されるのはレベル10を越える者、という大まかな基準がある。

 先日、レギ帝国西部方面軍騎士連隊隊長ジャム大佐が、同僚から英雄と呼ばれて眉をしかめたことは記憶に新しい。が、それもこれも彼が7レベルだからである。

 ジャム大佐は西部方面軍において、押しも押されぬ最強の人物だ。だがそれでも英雄ではない。

 ではこの西部方面という地方に真に英雄と呼ばれる人物はいないのか。

 答えは否。実は一人いる。

 彼の名はマッカ・ベッケライ。御年250歳になるドワーフの男である。港街ボーウェンの下町にある「ふっくらパン工房マッカチン」のご隠居だ。

 今回はこの1人の英雄の話をしよう。


 まず簡単にアルセリア島の歴史についておさらいしておく。

 500年前の中央大陸における『大魔法文明』の崩壊から始まる蛮族の拡張により、アルセリア島南半分は蛮族による「オルク王国」が、北半分は古エルフ族による「タキシン王国」が支配するようになった。

 だがそこから200年も経つと両王国は衰退し、各地の有力者による反乱と独立などにより、小国が乱立し覇を競う時代へと突入した。

 マッカ・ベッケライが生まれた250年前は、そんな戦国時代である。

 北の地では「タキシン王国」の地方長官であったフォッセー大公がうち建てた「ニューガルズ公国」が早々に覇を握り、領土を大きく減じた「タキシン王国」は象徴として権威を残す為にと生き存えさせられた。

 このことで北方の戦乱は落ち着きを見せる。

 だが南の地ではさらに激しい戦乱が続いた。

 現在、南半分の覇を握るレギ帝国が生まれたのは、そんな情勢の中であった。

 アルセリア島南部地域の中央付近にガイグルという名の砂漠が広がっている。レギ帝国はそのガイグル砂漠の幾つかの部族が集り建てた国である。

 そこから戦国時代を勝ち抜いて、レギ帝国はアルセリア島南部を平定するのだが、今回語られる、マッカ・ベッケライという人物は、主にこの戦国時代、レギ帝国の軍人として活躍した人物だ。


 マッカ・ベッケライがパン職人として独り立ちした20歳頃、徴兵によりレギ帝国軍に呼ばれ、下級兵士として斥候隊の一員となる。

 今でこそ「戦争は専門の軍人により行われるもの」という風潮が世界で認知されているが、当時はまだ一部の階級が戦争の度に民衆を徴じ軍を整えるのが一般的だった。

 さて、ドワーフといえば敏捷に欠ける種族、というのは常識だが、ではなぜドワーフであるマッカ・ベッケライが斥候だったのか。

 当時、徴兵検査官だった下士官の、こんな言葉が文献に残っている。

 曰く「信じられん。アイツは本当にドワーフか?」

 徴兵検査では健康チェック以外にも、配属を決める為の体力試験などもあった。

 マッカが参加した年の検査、その短距離走、中距離走、長距離走で、彼は必ず10位以内にランクインしたのだ。

 当然、後にも先にも、彼の記録を破るドワーフはついぞ現れない。

 彼の数あるふたつ名「ドワーフ最速理論」はこの時付いたと思われる。


 さて、入隊からしてこの様に伝説を残したマッカ・ベッケライだが、その後にも数々の伝説が残っている。

 特に有名なものをいくつか紹介しよう。


 ある時、敵兵300が守る砦を帝国軍が攻めるべく、マッカ・ベッケライが所属する斥候隊が偵察任務を請け負った。

 それは月の無い晩であった。

 夜道は暗く、また奇襲への備えか籠城の為か、砦は灯火をあまり焚いておらず、マッカは暗きに逸してつい仲間とはぐれてしまった。

 仲間がこれに気付いたのは陣へ戻ってからだった。

 だが気付いたとてもう手遅れだろうと、仲間の死を悼みながらも報告を上げる。結果として、帝国軍は翌朝の夜明けと共に突撃することとあい決まった。

 ところが、である。

 暁が大地と砦を照らし始めると遠見役が「なにやらおかしい」と騒ぎ始める。

 事態を重く見た指揮官は、急ぎ斥候隊に再偵察を命じた。

 そして砦へ接近した斥候隊の面々が見たものは、正面櫓の上で盛んに手を振るマッカであった。

 その姿といえば、全身を返り血で赤黒く染めた悪鬼の様であったと言う。

 そう、隊からはぐれたマッカは、砦へ侵入して敵兵300を向こうにして大立ち回り、夜が明ける前にはもう彼に手向かう者は一人もいなかった、という有様だった。

 帰還したマッカに彼の上官は難しい顔で訊ねた。

「何があったのだ」

「いえね、トイレ借りようと思ったら束で掛かって来やがったから、ちょいと揉んでやったまでさ」

 以後、マッカがトイレを欲した時は、一軍の大将ですら急ぎ設えさせたと言う。


 また別の時、単独偵察任務中に、敵兵100に囲まれた帝国兵の小隊を発見した。

 マッカは迷わずこれに飛び込み、一点突破で血路を開き、小隊を引きつれ何とか逃亡を果たす。

 もちろん大手柄ではあるが、あまりの無茶っぷりに上官に叱られ、ついには「味方救出禁止令」を出されたという。

 ここまでも無茶な話であるが、ここからがまた彼らしい。

 後日また同じような状況に出くわしたわけだが、止める仲間を振り返って言った。

「救出じゃなきゃいいんだろ?」

 何をするかと思えば、仲間には帰るようにと指示を出しつつも、またもや敵軍の背後へと単身突撃。

 包囲されていた味方の寡兵は、この隙を突いてまんまと逃亡を果たした。

 マッカもやはり大暴れしてから逃げ出したわけだが、さすがに右足骨折、左腕喪失、肋骨骨折など、重傷を負う。

 だが平然とそのまま40kmを踏破して帰還したと言うからとんでもない。

 曰く「救出? バカ言うない。俺はただ敵兵を見てケンカしかけただけだ。小隊は隙を見て勝手に脱出したのだから、小隊長の手際でも褒めてやれ」と。


 さて、その頃の帝国軍には従軍する『聖職者(クレリック)』はほとんどおらず、彼の治療はなかなか進まなかった。そのせいでしばらくは絶対安静、と従軍医師から厳しく言い渡されていた。

 いたのだが、4日後に医療テントから約20kmほどの平原で行われた会戦にはこっそり参加し、多くの首級を挙げたようだ。

 ようだ、と言うのは彼の参戦が非公式であり、上官に叱られると思ったマッカも手柄を一切報告しなかったからだ。

 ただ、戦場には、誰が刈ったか判らない首が、山と積まれていたと言う。


 その後にも「勝手に退院して出撃」とか「命令書を偽造して突撃」など問題行動が幾らも出てくるのだが、その度に多大な戦果を上げてくるので、もはや誰も止める事はできなかった。


 これほど多くの戦果を上げた歴戦の勇者なので、後世、話を聞いた者は一様に「どれほど凄い装備をしていたのか」と思うのだが、実の所は支給品の粗末な『なめし革の鎧(ソフトレザーアーマー)』を終戦まで愛用していた。

 武器も、大体はその場で拾った適当な物で間に合わせていたようだ。

「金が無いわけじゃあるまい。せめて『鎖帷子(チェインメイル)』くらいは着けたらどうか」

 と、かつての上官が言ったが、マッカはこう答えたそうだ。

「いえね、あれ息苦しくて嫌いなんだよ」


 これだけ猛烈なマッカの活躍はすぐに皇帝陛下の目に留まった。

 始めは「頼もしいことである」と大いに喜び褒め称えたものだが、彼の滅茶苦茶な戦いぶりが続くと、陛下もさすがに恐れおののくに至ったという。

 これほどの男がつまらん局面でうっかり戦死でもしたら、全体の士気にもかかわるだろうし大いに困る。

 そう思った皇帝陛下は、マッカを将軍か貴族に取り立てて前線から下げよう、と立ち並ぶ高官たちに相談した。彼の上げた戦果を知らぬ者はいなかったので、誰からも反対はなかった。

 かくしてマッカは帝城へ呼ばれ、皇帝陛下よりじきじきのお言葉と数々の褒美と共に昇格を言い渡された。

 のだが、マッカは全てを素気無く突っ返した。

 曰く「デスクワークなんざやってられっけぇ。こちとらケンカがライフワークよ」と。


 この手の伝説はだいたい尾ひれが付き物で、事実を紐解いてみれば話半分、などと言うことも珍しくない。

 だがマッカ伝説の始末に終えないところは、上官に叱られるのが嫌で戦果を隠しまくった結果、検証すればするほど残っている逸話以上の戦果がひょっこりと顔を出す、という所である。


 そんなこんなでレギ帝国は大躍進を果たし、アルセリア島の南半分を平定。いよいよ終戦となった。

 戦後、これほどの大功労者に何の褒美も無いでは格好が付かない、と密かに皇帝陛下が頭を下げまくり、やっとマッカが承諾したのが、今の港街ボーウェン内にある100坪にも満たない小さな土地の所有権だった。

 これが現在、「ふっくらパン工房マッカチン」が建っている土地である。

 貰った土地に店を建てたマッカは、惜しまれつつも軍役には戻らず、街のパン屋として愛され続け今に至る。

 「ふっくらパン工房マッカチン」。『山手地区』の数々のお屋敷でもご用達になる評判のパン屋。

 今は20歳になる息子が立派に後を継ぎ、マッカ自身は楽隠居だ。

 かの英雄は、かわいい孫と趣味の狩りの為、野山を駆ける毎日だという。

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