07伸るか☆反るか
そして特に何事もなく、件のオークション当日を迎えた。
秋の肌寒い夕方から夜にかけての時間である。いつもならもう店仕舞いして静かになっているはずの『商業地区』の一角が、にわかに活気付く。
そこは会場となる3階建てのタジェル商会社屋だ。
枠組みに立派な彫刻を施した門の前では、数々の装飾や意匠を凝らした馬車が次々に停車しては、着飾ったご婦人と紳士が降り、そして社屋へ入っていく。ほとんどは商人風、貴族風だが、偶に風変わりな者もいた。
そのうちの一団がアルトたちだ。
「ヤバイ。もう帰りたくなってきた」
一応はいつもの薄汚れた冒険者スタイルを隠すようにちょっとだけ着飾ってはいる。だがそれでも他の裕福層の紳士淑女たちから見れば、充分にみすぼらしく見える。
早速弱音を漏らすアルトは、いつもの『鎖帷子』を出来るだけ綺麗に磨き上げ、その上からサーコートを着込み、腰の差し料は目立たぬ様に灰色の布でスッポリと包んでいる。遠目なら貧乏騎士くらいには見えなくもない。
「どうせ誰も気にしてないにゃ。自意識過剰にゃ」
そう言葉を返すねこ耳童女マーベルは、『なめし革の鎧』と『小弓』は『金糸雀亭』に置いて来たので、草色のワンピースとウエストポーチと言う身軽な格好だ。
彼女の言は半分正解で、半分は的を射ていない。
よく周りを見渡せば、会場へ向かう者のうち、約半分は顔を隠すような簡易的な仮面をつけている。つまり、出来ればこういった催しに参加している事を隠したい者がいると言う事だ。
自分が財産を持っている事を隠したい者、誰かに見つかると具合が悪い者など、その理由は様々だが、こういった者たちは、自分を詮索して欲しくないが為に、他人の事もまた詮索しない。なのでアルトたちの様なこの場にそぐわぬ者がいたとしても、まったく見て見ぬ振りであった。
ただ残りの半数は顔が割れても特に困らないと言う暢気な貴族や商人で、彼らは彼らでアルトたちをチラリと見ては眉をしかめるのだ。
それでも今回のオークションは珍品奇品を集めた会なので、やって来る裕福層も比較的変わり者ばかりである。ガチガチの貴族主義者に比べれば反応も多少はマシだろう。
「まー、ウチらもちゃんと参加許可もろたし。気にしたらアカンで」
「そうですな。堂々としていたらよろしいのですぞ」
と、これはモルトとレッドグースだ。
モルトは持っている中で一番汚れの少ない白い法衣を選別して着ているが、それでも普段着の様なものだ。またレッドグースは『金糸雀亭』で演奏を行う時に着る、煌びやかなステージ衣装である。一張羅だがこれはこれで場違い感を醸し出している。
「自信を持つであります。サムライの兄貴殿は蛮族にしては立派な人物であります。このティラミスが保障するでありますよ」
褒めているのか貶しているのかいまいち判らないのが、レッドグースの帽子の上で仁王立ちの人形少女ティラミスだ。
彼女が生まれた大魔法文明時代の常識からすれば、魔法を使わない人間は全て蛮族である。この中だと純粋に蛮族と言えるのはアルトだけと言うことになるだろうか。
純粋に、と言うのは、『吟遊詩人』の呪歌は、辛うじて魔法と分類されるからだ。
ちなみに彼女がいつも着ている、深緑のワンピースと革ジャンは、一張羅の様でそうではない。実は同じものが5着あるのだ。
いくらか微妙な言葉も混じっているが、それでも何とか気を持ち直し、アルトはゆっくりと面を上げた。
確かに貧乏で、この場に集った紳士淑女の中ではみすぼらしく見えるかもしれない。だが貧乏は別に恥ずべき事ではないはずだ。
愚行の末の失落ならそれは確かに恥だろう。だが精一杯やった結果でこれなら仕方が無いじゃないか。と言う開き直りもあっての事だ。
さて、アルトはその様に自分に言い聞かせ、強引な理屈を持って何とか開き直った訳だが、そんな努力をあざ笑うかの様に、アルトたちと近い生活レベルを思わせる服装の3人組が、やけに堂々とタジェル商会社屋の正門前に現れた。
真っ赤な法衣に身を包んだ中年『聖職者』の3人組、『ラ・ガイン僧職系男子の会』と名乗った、あの連中である。
今、この場にいるということは、十中八九オークションの客だろう。
さっきまでアルトたちをちらちら見ていた紳士淑女たちは、この新たな闖入者に揃って視線を移す。赤男達はそんな注目を受け、なにやら満足そうに胸をそらして門をくぐって行った。
「確かオークション参加資格に『一定以上の資産』と『信用』があったはずだろ? あいつらクリアしてるのかよ」
アルトは思わず口先を尖らせてそう洩らす。彼ら冒険者一行はこの条件をクリアするのに、コネをフル活用しつつ難儀したのだ。奴らは果たして、そう言う苦労あっての参加なのだろうか、と言うやっかみ含みの発言である。
「いやー、腐敗した宗教は儲かりますからの」
と、宥めるように言うのは、この中でも人生経験が豊富な部類である中年紳士のレッドグースである。
確かに宗教の組織などを利用すると、驚くほど簡単に財を集めることが出来る。
その為、多くの宗教にはそう言った行為を戒め律する法があるものだ。
しかし利便性や公共性を優先して融通を利かせていると、そのうち法自体が拘束力を無くしてしまう。また、教義におけるモラルを初めから持っていない者にとっては、そんな拘束力がそもそも無い。
特に件の『ラ・ガイン教会』は腐敗の噂が絶えない組織なのだから、その資産も計り知れないと想像できる。
だが、と、不思議そうに首を傾げたマーベルが、その言に反論する。
「でもあの赤いおっちゃん達、『腐敗は許さない』とか言ってたにゃ」
「あー、そうやったなー。あと『ロードスの平和は俺が守る』やったっけ?」
「それちょっと違いますね」
続けて思い出したモルトが話を継ぎ、元GMが微妙な声色でツッコミを入れた。
そう、彼ら「ラ・ガイン僧職系男子の会」が言う事には、彼らの活動指針は以下の3つだったはずだ。
一つ、始祖ガインの教えを忠実に守ること。
二つ、その教えの布教に努めること。
三つ、教えから逸脱し腐敗する者と対決すること。
四つ、この島の平和に寄与すること。
どうも同じ『ラ・ガイン』の名を冠しながらも、新法王キャンベル率いる腐敗派もとい現世利益優先派や、亡くなった元法王ランドンを初めとする原点回帰派とも少し違う派閥のようだ。仮に言うならば、教義実践派といった感じだろうか。
「じゃぁそんな真っ当な宗教家どもが、いったいどうやって、何の目的でオークションなんかに?」
しかしそんなアルトの問いに答えられる者は、ここにはいない。正答を返すことが出来るのは、すでに門の向こうに消えた赤い法衣のあの3人だけなのである。
それでも無責任な予想くらいは立てられる。口にするのはやはりレッドグースだ。
「背後や資産についてはわかりかねますが、狙いはドラゴンの卵かも知れませんな」
彼の言葉にアルトは存外の表情で振り返り、モルトはさもありなん、と頷いた。
「ウチらに『邪悪な企みから手を引け』とか言うとったしなー。何の事か知らへんけど、ウチらがやっとるのはドラゴンの卵探しやし、やっぱりどっかでおっちゃんらが言う『悪事』に繋がっとるんやろなぁ」
だから企てを阻止する為に、自らドラゴンの卵を手に入れてしまおう、と言う魂胆なのではないか。そういう予想だ。
明確に競る相手がいる。この事実に一同は眉をしかめた。オークションである以上、当たり前だが競れば競るほど落札価格は跳ね上がるのだから。
ともあれ、いつまでも遠くから眺めていても仕方が無いので、アルトたちは立派な門をくぐった。
玄関ホールでは、地味だが仕立ての良い礼服をお仕着せられた小者たちが、やって来た紳士淑女を広くなだらかな階段を使って2階へと案内している。まったく、先日通った社員通用路とは大違いだ。
綺麗な白い壁紙と花束で飾られた廊下と、赤い絨毯を敷き詰めた階段。それらを外の夕闇など忘れさせるほど煌びやかな灯りで照らしており、一見、どこの貴族の館だ、と思わせるような豪奢な造りだ。
「何も商人が社屋をこんな豪華にしなくてもいいだろうに」
入るとき以上に及び腰となったアルトが負け惜しみの様に呟くと、その後ろから割りと堂々とした態度のレッドグースがそれに返事する。
「それは違いますな。高価な取引をする商人は、こうした雰囲気作りをすることで、客をその気にさせるものですぞ」
そんな言葉に一同はほほうと感心して頷いた。さすがは元の世界で自営業を営んでいただけはある。何の商売かは知らないが。
確かに彼の言葉は真実だ。
たとえば宝石を散りばめた、何百万もする指輪を購入するなら、出来れば銀座に軒を連ねた煌びやかなジュエリーショップで買いたいものだ。間違ってもうらぶれた街角の質屋の流れ物など、購買意欲がそそられない。
さて、その様な雑談をしつつ、小者の案内で2階へ上がると、そこには大きな両開きの扉があり、扉の先に50人強がゆったりと椅子を並べられる程の広さのレセプションホールがあった。
ホールの奥には小さな舞台と演台が設えられており、客人たちがその舞台を余すことなく見る事が出来るように、放射状に席が設置されている。おそらく、これから始まるオークションの品々が、あの舞台で展示される仕組みだろう。
アルトたちはなるべく目立たぬように、後ろの端の方に席を定めて腰を落ち着けた。すでに会場の貴族商人たちの興味はオークションに移っており、アルトたちを無遠慮にじろじろと窺い見るような視線はなかった。
「ふう、これで一息つける」
開き直ったとは言え、それでも気を張っていた面々は、座った事でやっと人心地ついたと言えるだろう。まだ表情は硬かったが、そんな様子を見て、案内役とはまた別の小者が盆を携えて寄って来た。
盆の上には赤く透き通った飲み物を注いだグラスが5つ乗っている。
「どうぞ」
アルトより少し若い小者の少年が、まだ声変わり前なのか高い声でそう言いながら、盆の上のグラスを各々に配る。
「お、ティラミスの分もあるでありますか。ここの商人はよく出来た丁稚を使っているでありますな」
グラスは5つ。彼女のそんな言い様に、小者の少年は一度だけギョッとしてから、頭を深く下げて足早に立ち去った。彼はおかしなトラブルを避ける為グラスを用意しただけであり、人形の少女が喋るとは思っていなかったのかもしれない。
「私の分はないのですね。まぁ飲めませんけど」
と、これは薄茶色の宝珠の愚痴だ。
給仕がいなくなると、不意にアルコールの匂いが香ってきた。香りの元は各々に配られたグラスである。
赤い液体は果実酒なのだろう。途端にモルトの表情はニンマリと緊張の取れたものに変わった。久々に薄めていない酒の摂取である。
あまりに嬉しそうな顔をするものだから、マーベルは自分のグラスをモルトへと差し出した。それを見て、アルトを始めとした3人もまた、グラスを譲る事にする。
彼らの席の脇に置かれたサイドテーブルに、モルトへ捧げられたグラスが並ぶ。酒神キフネに仕える『聖職者』の面目躍如と言ったところだろう。
各々が白い法衣の乙女に感化されてほっこりしていると、これまでザワついていた会場が、ゆっくりと静まり始めた。見れば、前方の演台に一人の男が着くところだった。
綺麗に切り揃えた髪と油断ならぬ鋭い眼が特徴的な、商会社長のタジェル氏である。
「皆様、まずはご来場ありがとうございます」
タジェル氏が慇懃に挨拶すると、集った紳士淑女たちは揃って拍手を始めた。少々戸惑ったアルトたちだが、周りに習って手を叩く。するとすぐにまた先ほどまでの静寂が戻ってきた。
「はじめまして、と言う方はいらっしゃらないと思いますが、改めまして。当商会代表のタジェルです。まずは今回も無事にオークション会を開催出来ましたこと、日頃からお引き立て下さいます皆様に、御礼申し上げます」
再び短くも統制されたような拍手が起こる。ここに来てアルトたちもこの拍手の意味を理解した。つまり、タジェルの挨拶に対する相槌なのだ。
このあと、また丁寧な挨拶がしばし続き、それから、オークションについての簡単な説明がなされる。
だいたいの流れは以下の通りだ。
まず出品物がお披露目され、競りが開始する。そうしたら購入したい価格を、購入したい者が表明する。それより高い金額でも買いたい者は、それを上回る金額を表明する。こうして最も高い金額を提示した者が落札となる。
落札者は数日中に落札金額を支払い、それと同時に商品を手にする。
落札後に落札者の都合で購入できなくなった場合、2番目の者が購入する権利を与えられる。この時、2番目の者が購入しない場合、競りに参加した他の者達に通知を出し、もう一度オークション形式で購入者を決める。
と、このような具合だ。
すでに各々、カタログにて予習済みなので、説明に納得できないところは特に無い。もう後は自分の目当てを待つばかりと、深く椅子に腰掛けなおした。これより決戦の始まりである。
「では早速行きましょう。ロットナンバー1」
タジェル氏が自信に満ちた表情でそう言葉を止める。すると舞台裾から美しい真珠色の絹敷物で覆ったサービスワゴンを、一人の秘書風な女性が押して出て来た。ワゴンの上には、これまた美しい琥珀色の液体を満たしたクリスタルの瓶が乗っている。
それを見た瞬間の事だ。白い法衣を着た酒神の神官が跳ねるように身体を起こし、目を皿のようにしてその瓶に注目する。いったい何事か、と仲間達は彼女の動向に驚愕しつつも、かの商品と視線を行き来させてから「ヤバイ」と悟った。
「すでにお気づきの目の高い御仁もおられる様子ですが。コホン。中央大陸は西方の酒蔵街、アルベイにおきまして『神の指先』の異名を持つ職人が造りました、30年物のアクアビテにございます」
続けてこの品の謂われを語るタジェル氏。要するに高価な酒である。
モルトの瞳はすでにハートを浮かべてクリスタル瓶を穴が開くほど凝視している。もう発射数秒前、と言った様相だ。
「大陸にいたって滅多に手に入りませんよ。アルセリア島にいたら、お目にかかるのも、これが最後かもしれません。さて、開始価格は1万銀貨から、どうぞご入札下さい」
タジェル氏が煽る様にそうコメントを沿え、ついにオークションが開始した。
その、ほんの一瞬の出来事である。これはマズイと頷きあったアルトとレッドグースが彼女を取り押さえるべく飛び出すより速く、まるで射出されたと例えるのが正しいほどのスタートを切った白いピルボックス帽の乙女が、恍惚とした表情で高らかに叫んだ。
「1万2千銀貨や!」
あまりの勢いに、誰もが驚いて振り返った。開始直後だというのに、モルトはもうクライマックスか、と言うテンションだ。
「『聖職者』殿から1万2千銀貨が提示されました。察するにキフネ神の信徒でありましょうか。さて、皆様、もうありませんか?」
進行役の眼がより一層鋭く光り、さらに煽り立てる。すると会場に集った中でも、特に酒に眼が無い御仁たちが一斉に立ち上がった。
「1万3千銀貨」
「いや、1万3千500銀貨でどうだ」
そうして数人が声を上げると、件のアクアビテはあっという間に1万9千銀貨まで値上がりした。入札直後に取り押さえられたモルトだったが、他の入札が上がるたびに、まるで親の仇でも見るように裕福そうな貴人達を睨み付けた。
だが無駄遣いさせるわけにはいかない。アルトはモルトの背に乗りながら、必死にその口を押さえる。感触的に何かモゴモゴ言っている様だが、この状態の読唇が出来る者がもしいたら「2万銀貨や」との発言が読み取れた事だろう。
結局それからしばらくして、当の酒は太った赤ら顔の紳士が2万1千500銀貨にて落札し、事なきを得た冒険者の男達は溜め息混じりに額の汗を拭った。
「さて続いてロットナンバー2、中央大陸北方にて発見されました、水晶に閉じ込められたエノコログサ」
見れば次に運ばれてきたワゴンに鎮座するのは、直径15センチメートルはあるかと言う、虹色の水晶球だ。しかも中にはタジェル氏の言の通り、エノコログサがくるりと弧を描く姿勢で閉じ込められている。
ちなみにエノコログサとはイネ科の雑草で、通称ネコジャラシとも言う。
直後、爛々と目を光らせるねこ耳童女が視界に入り、アルトは「あ、これはヤバイ」とまたもや悟った。
オークションは次々と進行する中、未だ目的の品は現れないと言うのに、ティラミスを除く皆、すでに満身創痍でだった。
「さっきのは思いもかけず危険でしたぞ」
「やっぱりオークションは危険が危ないにゃ」
自らも罠にはまりそうになったがゆえに、金髪の童女は頭上のねこ耳を力なく伏せてレッドグースの言葉に頷いた。
「ついカッとなったわ。堪忍なー」
冷静になったモルトもまたグッタリとして謝罪を述べた。
そんな自粛ムードになりつつもオークションは関係なく進む。かくして、いよいよ目当ての品の順番が巡ってくるのだった。
「ロットナンバー18」
タジェル氏が声高に進行する。カタログによって事前に知らされている順番通りなら、その番号こそ『ドラゴンの卵』につけられたナンバーだ。
アルトたちは油断無く、会場の全体に素早く視線をめぐらせる。色めき立つ者がもしいれば、それがライバルとなるからだ。
まずは『ラ・ガイン僧職系男子の会』の3人。赤い法衣の妙に堂々とした中年達だ。
彼らはアルトたちとは違い、舞台正面にその居を定めているので探すまでも無い。そしてこの時を向かえて互いに頷きあい、手にしていたグラスをサイドテーブルに置いた。
ちなみに飲酒が戒律的にどうなのかわからないが、彼らのグラスはどうやら水が注がれているようだった。
他にはと言うと、マーベルがもう一人、ライバルらしい人物を見つけた。
『鎖帷子』にサーコートを重ねた、字面だけで言えばアルトと同じ装備の初老の男だ。ただ、こちらは銀製の鎧と立派な紋章をあしらった上着。また、背はあまり高くはないが、身体つきは岩の様な頑強さを持っていると見え、その顔は歴戦を思わせる傷と立派な髭に覆われていた。高位の騎士だろうか。
「たぶん、ドラゴン育てて乗る気にゃ」
その一言に、考えが及びもしなかったアルトが衝撃を受ける。そう言えば自分も『ライディング』スキルを持っていたのだ。本来なら真っ先に思い至るべきだろう。
ひとまず、以上がライバル候補と思われた。
どちらも資金の程は窺い知れない。赤男どもはそもそも資金の出所もいまいち想像つかないし、騎士は基本的に俸給で生活する身分なので、先祖伝来の財産や、特別な報奨金でも得ていない限り、さほど裕福ではないはずである。
などと一同で今更対応しようが無い事をボソボソと話していると、いよいよワゴンに乗せられた、全長30センチメートルもあろうかと言う白い楕円体が運ばれて来る。
「これぞ本日の珍品シリーズが一つ。中央大陸の北方にそびえる永久凍土のベッサム山に住む、神竜が一柱『白竜ブラームス』の妻竜が生んだ『ドラゴンの卵』です。採取にあたり、葬られた冒険者の数はなんと14人。重軽傷合わせれば100人を越えます」
口上の意味は良くわからないが、とにかくすごい謂われらしい。ライバルと思われる騎士などは、その話を聞いてより瞳を輝かせている。
「開始価格は2万銀貨から、さぁ奮ってご入札下さい」
しばしの間を空けてタジェル氏がそう宣言し、いよいよ目当てのオークションが始まったのだ。




