03タジェル商会
「貴公ら、邪悪な企てから早々に手を引くのだ」
その一言だけを残し、何の説明も無く、赤い法衣を着た謎の『聖職者』たちはアルトたちの目の前から立ち去った。
おたずね者であるアルトたちに対し、その話にまったく触れなかった事からも、はたして彼らは本当に『ラ・ガイン教会』の者だったのだろうか、という疑いを払拭仕切れない点もまた謎だ。
ねこ耳童女の腰巾着に納まっている薄茶色の宝珠は「いつクッションやアームチェアが出て来るかと、ハラハラしましたよ」などと、謎めいた心配事を吐露するほどだった。
とにかく謎に煙を撒かれたような気分になり、彼らがその直前に持っていたドラゴンへの不安感は一気に吹き飛んだ。というか、気持ちの上では、ドラゴンの卵採取などと言う危険な仕事やってられるか、という事に、いつの間にか決着してしまっていた。
これはもう謎の『聖職者』たちのお陰とも言えるだろうか。
「ところで『邪悪な企て』って何のことでしょうな?」
もうじき彼らのネグラである『金糸雀亭』に付くという頃、ふと夕暮れに酒樽の様なシルエットを落とすレッドグースが疑問をあげた。
「ドラゴンの卵採取、なわけないよなぁ」
今、彼らが携わっている企てがあるとすれば、せいぜい『錬金術師』ハリエットからの依頼仕事くらいである。だがアルトはさすがにそれが邪悪と言われる事だとは到底思えなかった。
強いて関連付けるとすれば、親ドラゴンから子ドラゴンを攫うという意味で、悪いと言えなくも無い。ただそんなこと言い出したら、人間は鶏卵を食事の糧とすることが出来ないのである。
「アイツら巨人崇拝にゃ。竜は関係ないにゃ?」
別に野球の話をしているわけではない。
『ラ・ガイン教会』はアルセリア島の創造主とされる『原初の巨人ガイン』を神と崇める宗派である。ねこ耳童女マーベルもその事を上げ連ね、アルトの考えに賛同した。
結局、しばし全員で頭を捻り、ひとまずモルトの案を採択する事にした。
曰く「きっとまたウチらが、教会の要人暗殺を企んどると勘違いしとるんやろ」であった。
何にせよ、あの赤い『聖職者』たちが追っ手でないならば、アルトたちにとっては割とどうでも良いことの様に感じられた。なのでこれ以上の詮索をするのを辞めて、ちょっと早めの夕飯にしようと言う事に落ち着いた。
さて、夕方の『金糸雀亭』は、旅人、冒険者、仕事を終えた街の人々などで混雑し始めていた。
アルトたちは席を早々に確保して一息つく。図書室での資料漁りなどと言う慣れない作業に加えて、先ほどの『ラ・ガイン僧職系男子の会』とやらの襲撃で、皆一様に気だるい空気を味わっていた。
「アル君、最近バイトの方はどうや」
そんな中、何の気なしに白い法衣のモルトが口を開いた。それはほんの世間話だ。アルトも特に身構えずに返答する。
「受注の方もひと段落したから、今は親方や先生方がミスリル銀の加工を習い始めたところです。だからバイトはしばらく休業」
「あー、あの嬢ちゃんやね」
「そう、あの魔女っ娘です」
アルトは夏の間、生活費の足しにと街の刀剣鍛冶レコルト工房でアルバイトをしていたのだが、その間に冒険者としての本業にて、失われたミスリル銀の加工技術を持つ『ミスリル鍛冶師』を連れ帰った。
かの『ミスリル鍛冶師』は、その後からレコルト工房に身を寄せており、この度、いよいよ技術の継承が始まったという訳だ。
「モルトさんは?」
自分の状況が語り終われば、今度は同じくアルバイターとして活動していたモルトの番といわんばかりに問い返す。
モルトはこの夏、この港街ボーウェンでもよく崇拝されている『水神ミツハ』の社寺で臨時奉職していたのだ。
「ウチの方もしばらく開店休業やね。先週、例大祭が終わったばっかりやし」
水神ミツハの社寺では、共通して夏の終わりごろに神への謝礼祭が行われる。この時期奉職する『聖職者』はとても多忙になるが、その反動で終了後はしばし暇になるのだ。
と、2人がほー、へー、とたいした内容も無い世間話をしている隙に、『吟遊詩人』であるレッドグースは、帽子に『人形姉妹』を乗せたまま、いつもの様に演奏を始める。
これが彼の本業とも言える、最近の日課であった。もちろん本業と言えるほどには御捻りによる収入もあるのだ。
ちなみにマーベルは2人の話に耳を傾けつつ、退屈そうにテーブルの木目を指でなぞっている。このねこ耳童女は3人と違って借金が無いので、あまりアクセク働いていない。せいぜいレッドグースのステージスタッフとして、演奏後の銀貨集めを手伝う程度だ。
「あんたら、夕飯はどうするんだい? 何か注文するかい?」
と、騒々しい店の奥から、中年女性の威勢の良い声が飛んできた。『金糸雀亭』の主である、恰幅の良いおばちゃん店主だ。
モルトはしばし悩み、安めの料理をいくつか注文した。すると、自分から問いかけたくせにおばちゃん店主は少しばかり意外そうな顔をする。
いつもなら厨房を拝借して自炊をするところだからだ。
「なんだ少し景気が良くなったね。もしかして朝の依頼の目処が付いたのかい?」
朝の依頼とは当然、『錬金術師』ハリエットからの、『ドラゴンの卵採取』の事だ。
「なかなか難易度の高そうな話だったけど。そうかいアンタらも冒険者らしくなってきたねぇ」
初めにアルトたちがこの店を訪れた時は、その世間知らずさに呆れたものだが、と、おばちゃん店主は笑顔で頷いた。
だがアルトたちは返事に困ったように苦笑いするばかりだ。
これにはおばちゃん店主も見込み違いだったことに気づき、今度は意地悪そうな笑みを浮かべる。
「やっぱりダメかい。ま、簡単に目処が付く品じゃないわな」
「ええ、まぁ」
アルトも苦笑いながら頷いた。
「なら、そんなアンタらに朗報だ。良い情報があるんだけどね」
と、意地悪そうな笑みの根拠だったと思われる事を言い出した。もちろん話の流れからして、ドラゴンの卵関連だろう。
これにはアルトもモルトも、退屈そうにしていたマーベルも、ガバッと身を乗り出してカウンター越しのおばちゃんに詰め寄った。
「ま、その前にもう一度注文を聞きなおそうか。お任せでいいかい?」
つまり情報料の代わりと言うことである。一同は財布を開き、少ない銀貨に眉を寄せつつも渋々頷いた。
しばし待ち、地鶏の野菜詰め丸焼き、高級海鮮とアスパラ炒め、大鮫ヒレの干物入りスープなどと言う、このメリクルリングRPGの世界では、まだ見たことも無かった様な高価そうな料理がテーブルに並ぶと、一同は目を丸くして料理を見渡し、他の客達も物珍しそうに覗き込んできた。
「メニューの高い方から出して来やがった」
アルトは顔を両手で覆って肩を震わせた。
「そんで、情報って何にゃ?」
早速、切り分けもされていない丸焼きにフォークを突き刺しながらねこ耳童女が口を開く。パリパリに焼かれた鶏の皮がフォークに纏わりついて剥がれると、観客は垂涎を堪えてゴクリと喉を鳴らした。
そんな様子から目を離せないモルトをさて置き、おばちゃん店主は得意げに手を腰に当てつつ情報を語る。
「実は昼頃、大陸商人が幾つかの珍品を、タジェル商会に持ち込んだのさ。その中にドラゴンの卵があったらしい」
渡りに船とは正にこの事である。一度は諦めた高額報酬が一同の脳裏を掠め、高級料理のに対する支払いについては、一気に思考から吹っ飛び、アルトは机の下でしきりにガッツポーズを繰り返した。
ちなみに演奏中だったレッドグースは、急に観客が減ったので非常に寂しい思いをしたと言う。
明くる朝、平均的な商会の開店時間を見計らって『商業地区』を訪れて、アルトたち一行はまず、あんぐりと口を開けた。
なぜなら、タジェル商会は想像以上に大きな店だったからである。
アルトたちの知っている『商会』と言えば、少し前の依頼仕事で関わったガメッツィーニ商会や、ニューガルズ公国で世話になったゼニー商会くらいだが、どちらもこじんまりとした2階屋で、臨時雇いを抜かせば従業員は社長本人のみ、と言う規模だった。
ところがタジェル商会と来たら、「どこの役所か」と言うほど立派な、幅広い3階建て社屋だ。おそらくこの港街ボーウェンでも五指に入るであろう大店である。
1階の立派な門構えには幾人もの小者がおり、やってくる行商人の馬車を荷揚げ場へと案内している。おそらくそこでは担当の商会社員が商談をまとめていることだろう。
あまりに立派だったので、アルトは誰に話しかけて良いやらとしばし迷ったが、結局馬車案内をしている小者に、おずおずと話しかける。
小者は慇懃なほどに丁寧なお辞儀をしてアルトたちを歓迎した。
「いらっしゃいませ旦那様方」
「ええと、昨日の卵が、その」
だが矢面に立ったアルトの言葉は非常にしどろもどろだった。話しかける前に、頭の中で台本を用意しなかった故の結果である。
対応した小者の方でも、この要領を得ない冒険者の少年を扱いかねて困った。
こうしてる間にも商売に熱心な行商人が次から次へとやってくる。小者の給金はそうした行商人を案内した数だけ発生するので、この隙にも他の小者に稼ぎを持っていかれているのだ。
「旦那様、難しい話でしたら、上に案内しましょうか」
扱いかねて、小者は面倒そうに商会社屋の最上階を指差した。つまり時間のかかる客は相手してる暇が無いので、全部上役に投げてしまおう、と言う魂胆だ。
こうしてアルトたちは、まるで強制横スクロールに流されるかのごとく、まんまとタジェル商会社長室へと案内されるのだった。
商会社屋の広さにしてはやけに急な通用階段を、小者を先頭にして昇り、一行は3階のにある社長執務室にたどり着く。そこでアルトたちを向かえたタジェル氏とは、きれいに刈り揃えられた髪と油断ならない鋭い目付きが特徴の壮年の男だった。
「ようこそタジェル商会へ」
タジェル氏はアポ無し訪問の冒険者風情に、笑顔を投げかけつつ深々と腰を折った。
「本日はどの様なご用件で当商会へ、と、おっと」
続けて忙しさをおくびに出さずも早速話を切り出した。切り出しておいて、途中で軽い絶句を果たす。
「これはこれは『ロゴロア』退治の勇者殿ではございませんか」
そうのたまったから、アルトたちもまた少し驚いた。
『ロゴロア』とは2ヶ月ほど前にアルトたちが戦った、海の魔物である。
『ロゴロア』退治は、同じ『金糸雀亭』を根城とする、黒髪の『警護官』アスカとその仲間たちが『船員ギルド』から請けた仕事だったのだが、幾つかの事情からアルトたちも参戦したのだ。
これほどの大店なので、もしかするとかの戦いにおいて、タジェル商会はスポンサーの内の一社だったのかもしれない。
タジェル氏がその様に砕けた話題を振ってくれたおかげで、アルトの緊張も少し解け、何とか頭が巡り始めた。
「改めまして、当商会の代表タジェルです。勇者様に置かれましては、当商会にどの様なご用件で?」
それぞれとにこやかに握手を交し、応接セットのソファーを勧めながら、タジェル氏は自分の執務机に戻ってそう言う。彼の目はもう油断無き商人の目だ。
「ワタクシたちはこの商会に、ぜひ売って頂きたい物があるのですな」
「そうでしたか。当商会で扱える品でしたら、もちろん何でもご用意いたしますとも」
なかなか切り出さないアルトをさて置き、酒樽の髭紳士レッドグースがそう話すと、タジェル氏は納得顔で鷹揚に頷いた。
「自我自賛になりますが、当商会は大陸との貿易を手がける大店です。アルセリア島ではなかなか手に入らないあらゆる物をご用意する事ができます」
さらにその様に続けながら、誇らしげに少しだけ胸を反らす。
「欲しいのはドラゴンの卵にゃ」
だが、ねこ耳童女が気もせず放ったこの言葉で、一瞬だけかすかに顔をしかめた。
しばし沈黙が流れる。
考えているのか、それとも言い淀んでいるのか、タジェル氏はアルトたちを見回してわざとらしい大きな溜め息を付いた。
「残念ですが、それをお売りすることはできません」
先ほどまでの言い様とは矛盾しそうな勢いの冷たい断言であった。なのでモルトなどは眉をひそめつつタジェル氏の表情をうかがった。
だがそこには変わらずの営業スマイルが張り付くだけだった。
「もう買い手が決まっとるんかな?」
続けて探るようにモルトが言うと、タジェル氏はゆっくりと首を振る。
「皆さんも知っているかと存じますが、ドラゴンの卵は貴重品です。その他にも様々な貴重品が入荷いたしました。確かにそれらの買い手はまだ決まっておりませんが、すでに使い道が決まってるのですよ」
皆一様に疑問符を頭上に浮かべた。そのもったいぶった言い回しが理解できず、黙って話の続きを待つ。
タジェル氏は口元を小さく歪めつつ、無言の質問に対する回答を口にした。
「かの品々は、当商会が主催する秋のオークションに出品が決まっているのです」
アルトたちは思いもしなかった回答に、あんぐりと大口を開けた。
その後しばらく、「そこを何とか売って下さらんか」と頼み込んでみたが、出品物はすでにお得意様に公表されているし、さらには『出品カタログ』の作成も発注してしまったという。出品物がある程度公表されてしまっている以上、それを取り下げるのは商会の信用にも関わる事となるだろう。それゆえ、結局アルトたちの望みは聞き入れてもらえなかった。
「カタログが出来たらお届けしますよ」
タジェル氏はトボトボと帰路に着くアルトたちの背にそんな言葉をかけつつ、ゆっくりと手を振るのだった。彼の硬質な営業スマイルは、消沈するアルトたちからすれば、何か意地悪そうにも見えたと言う。
「オークションかー。そりゃ無理ゲーだ」
『金糸雀亭』へ帰還し、客のいない午前中の食堂でアルトは力なくテーブルに突っ伏した。
アルトも元は日本の現代人らしく、この世界に来る前は何度かネットオークションに入札した事がある。
だがこれまで入札したほぼ全ての商品は、オークション終了15分前くらいから高騰を始め、「お前ら新品で買えよ」と叫びたくなる金額で終了するのだ。
おかげでオークションに対する彼のイメージは「暇を持て余した金持ちの遊び」でしかない。素人の出品した中古品を、市場価格付近で買うヤツが多いのだから、そう考えてしまうのも仕方が無い。
そんな悪印象である所のオークションに、今回の目的であるドラゴンの卵が出品されてしまうのだ。例え彼らの手元に報酬込みの8万銀貨があるとは言え、これはもう絶望しかない。
「オークションは危険にゃ」
そんなアルトに賛同する様に、ねこ耳をピンと立てたマーベルが言う。その瞳はいつに無く真剣な面持ちだ。
「そうですかな? キチンと割り切って利用すれば結構便利ですぞ」
これは普段からネットオークションを賢く使っていたレッドグースの言である。だがマーベルは激しく首を振るのだ。
「穴の無い50円玉が出品されてたから入札したにゃ。そしたら希望落札価格じゃにゃいのに早期終了で落札者になったにゃ。後で送られて来たのは、穴の無い50円玉の写真だったにゃ」
「おまそれ…」
何でそんな物が欲しかったかはさて置き、マーベルが引っかかったのは有名な詐欺だ。かくして、彼女のオークションに対する印象も、アルトとは違った意味で最悪だ。
「ちなみに、なんぼで落札したん?」
モルトの問いに、ねこ耳童女は悲しげに、そして静かに首を振るだけだった。
ひとまず、世間を彼らよりは知っている大人の男女2名が宥め、カタログのエスティメート価格を見てから考えよう、と言うことになった。
エスティメート価格とは、主催者側が予想する落札価格のことである。これが8万銀貨を越えるようでは、確かに話にならないのだ。
そして数日後の朝のことである。
気まぐれな朝の散歩から帰って来たレッドグースは、ちょうどタジェル商会の小者が例のカタログを持って『金糸雀亭』を訪れた所に遭遇した。
受け取ったオークションカタログは、数々の出品物を色つきの挿絵で掲載した、革の装丁の書だった。
「ほほう、これはまた立派なですな」
「カタログだけでも高級品の風格であります」
レッドグースは、自慢のカストロ髭を撫で付けながらこの重厚なカタログを褒め、彼の帽子の上から覗き込んでいた小さな人形少女ティラミスもまた、驚きに目を見開いた。
印刷技術がまだ発達していないこの世界では、本自体が高価な品である。
活字ではなく木彫りの版下を使って複数刷る場合もあるが、殆どが手書きの写しによる家内制手工業品だ。
つまり本1冊に対する人件費が高いのだ。
だというのに、このカタログは挿絵までが付いている。いったいどれだけの人件費がかかっているのか。
「どんなものが出て来るにゃ?」
酒樽紳士たちが、まだ客のいない『金糸雀亭』のテーブルにカタログを広げて感嘆していると、珍しく早起きしてきたねこ耳童女マーベルが覗き込んで来る。
捲られるどのページにも絵師渾身の精密な挿絵があり、ただ眺めるだけでも美術品を愛でるかのように価値ある時間と思われた。
「魔王の刻印入り悪魔の目玉、フェニックスの尾、銀の天使紋。どれほどの価値があるかわかりませんが、いかにも珍品奇品ですな」
添えられたエスティメート価格を見ても適正かどうかも判らない品々だ。何に使うのかすら想像付かない。
「フェニックスの尾といえば」
ふと、マーベルの掌の上からカタログを覗いていた薄茶色の宝珠が訳知り風に口を挟んだ。
「かの大作RPGでも昔はアイテムがカナ表記だったでしょ? なので私、ずーっと『フェニックスおの』だと見間違えてたんですよ」
だがその内容といえば、唐突過ぎて、薄茶色の宝珠同様に中年のレッドグースだけが頷きながら話を聞く。
「まー、本来の効果以外でも、不死の怪物を一撃で倒したりしますからの。そういう勘違いもあるかもしれませんな」
「何言ってるかわからんにゃ」
「同意であります」
当然、少女たちには大変不評な話題だった。
さて、その様に朝の食堂でワイワイと話をしていると、残りの仲間が階段を下りてやってくる。白い法衣とピルボックス帽のモルトと、『胴田貫』を提げたまだ寝ぼけ眼アルトである。
「お、カタログ届いたんだな。どれ『ドラゴンの卵』はいくらだ?」
言われて、レッドグースたちは改めてカタログに目を落とす。肝心の部分にはまだ目を通していなかったからだ。
はたして、数ページ捲ると目的の品が載っていた。
「ふむ、エスティメート価格で4万銀貨ですな」
「なんとかなりそうやね。これやったらオークション参加で決まりやろ」
カタログの通りに事が進めば、軍資金8万銀貨の半分が残る計算だ。これならまだ大儲けである。
だが続いて捲った先の章で述べられた項目で、一同はまたもや落胆の溜め息をつくことになる。
すなわちそれはオークション参加要綱であり、参加者条件であった。
要約する事曰く「一定以上の資産を持つ、貴族、または商人など、当商会の認める信頼がある者」。
いくら手練になろうとも、所詮はアルセリア島にのたくる冒険者でしかないアルトたちが、その条件をクリアできているわけが無いのだった。




