おまけ-第五章開始時点のキャラクタシートと「とある少年兵の独白」
こんにちはK島です。毎度のご愛顧ありがとうございます。
さて次回から始まる第五章に先駆け、開始時点のキャラクターシートを公開します。
このページは見なくても、物語を読む上では特に支障はありません。
邪魔臭いと思う方は飛ばして下さい。
第五章は、季節的に秋口辺りからの開始ですが、SSの「とある少年兵の独白」は、時系列的にはもう少し先の話です。
また先に言っておきますが「とある少年兵」はアルトではありません。
何度か作中で話だけ出てきている、内乱中のタキシン王国の話です。
では以下、お楽しみ下さい。
第五章開始時キャラクタシート
*******SS「とある少年兵の独白」*******
僕は少年兵だ。
少年兵と言うのは、つまり大人じゃないって事。
戦争は大人の仕事なのに、子供の僕が兵隊しているというのは、つまりこの国の戦争が長引いて、大人の数が足りなくなりつつある、という事。
何で戦争なんてするんだろう。
この国の王様が病気になって、王様の子供である王子様が、次の王様になることが決まったそうだ。
長男が親の職業を継ぐなんて当たり前の事。パン屋の長男はやっぱりパン屋になるし、大工の親方の一人息子もやっぱり大工になる。こんなのは常識だし、僕が教わったことによれば社会のルールだ。
大人は子供に教育をする。ルールは守るものだ、と言う。
そのくせ、偉い人ほどこれを平気で破る。
この戦争がそうだ。
長男の王子様が次の王様になると決まった時、王様の弟が騒ぎ出したんだ。「俺が王様になる」とか。
これは重大なルール違反だ。
そのくせ、軍隊の名前を『タキシン王国正統政府軍』と言った。何が正統なものか。
だけど、結局ルールと言うのは、乱暴者が破れば誰も裁けない。村で一番強いガキ大将が好き放題暴れるのと一緒だ。
それで、王様の弟が納める土地に、運悪く僕の村もあったので、そのうち僕の父が戦争に駆り出され、そして運悪く死んだ。
戦争で死ぬなんて本当に運が悪い。だいたいほとんどの兵士は、大きな怪我をしたりして帰ってくるのに。
まぁ戦争から帰ってくるほどの大怪我だから、戻って来たら来たで大変なんだけど。怪我を一瞬で治すことができる『聖職者』様なんて村にはいないしね。
それでも死んでしまうよりはいくらかマシだと思う。死んでしまえばそれまでだ。
父が戦争でいなくなってから、畑は母が頑張った。当然、僕も、小さな妹も手伝ったけど、やっぱり母は大人だし、一番働いた。
結果、母は身体を悪くしてしまった。
今でも母は畑に出るけど、以前ほどの仕事はもうできない。
そして、ついに僕も戦争に駆り出されることになった。
この時から僕は「村の子供」から、「少年兵」に変わったんだ。
本当は戦争なんてしたくないけど、仕方ない。この村を治めるのが王様の弟だし、畑から十分な作物が取れないんだから、僕が稼いでこないと。
兵隊になれば給金が出る。本当に少しだけど、それでも僕が畑をやるよりはちょっとだけ多い。
それで王子様の兵隊と戦って、勝ったり負けたり。いや、負けることの方が多かったかも。でも運良く僕は大きな怪我もしなかったし、なんとか死なずに済んだ。
そのうち、夏が過ぎる頃、王様の弟の軍隊は負けが込んできて、誰が見てもこの戦争の勝利は王子様の物だろうとわかるようになってきた。
それでも王様の弟が「戦争をやめる」と言い出さなければ、僕も兵隊をやめられないのが辛いところだ。逃げ出せば、村にいる母や小さな妹が困るだろう。
そうして秋になると、王様の弟は僕のいる小隊に変な命令を出してきた。
国の外れにある、小さな孤児院を攻めろと言うのだ。
王様の弟はきっと切羽詰まって、気がおかしくなったんだ、と僕は思った。
でも命令だから仕様がない。孤児院にはきっと僕の小さな妹のような子供たちがいるだろう。嫌だけど、戦争だから仕方ない。
小隊と言うのは、つまり少人数のグループだ。戦争をやる時は、だいたいこのグループで行動する。
僕のいる小隊は、大人が4人と少年兵が2人。大人の内2人はベテラン兵だった。
といっても全員本当の兵隊じゃない。みんな、それぞれの村から参加を強要された人たちだ。
戦争は専門の兵隊がやるもので、農民なんかを集めてやるのは野蛮な行為だと言われている。
だから一応、僕らのことは「志願兵」とか「義勇兵」とか言われている。こういうのを建前っていうらしい。大人は子供に「嘘をつくな」と言うくせに、こうやって本当の事を隠す。ずるい。
それで、その6人で孤児院を攻めた。
孤児院は当たり前だけど子供ばかりで、大人は院長先生と呼ばれる一人だけ。簡単な仕事だと思った。
だけど負けた。詳しい戦いの内容は省くけど、結果的に僕たちは降伏した。
孤児院の、たった一人の大人は思ったより若かった。30歳位だろうか。院長先生なんて言うからもっと老人を想像していのに。
この院長先生がすごい人だった。
剣とかはからっきしだ。斬り合えばたぶん僕の方がまだ強い。
じゃぁどうすごいのかと言うと、言う事とかやる事がすごいのだ。いつもニコニコしているばかりのクセに、人がやらないような事を平気でやる。
まず僕たちが降伏して孤児院に入ると、院長先生は「子供達が幸せに暮らせる国を創る」とか言い出した。
国を作るだって。最初、僕はこの人は頭がおかしいんだと思った。言葉、というか言い方も変だった。たしか、なんかもうちょっと変な事を言ったと思う。
これは後で聞いて納得したんだけど、その院長先生は、半年くらい前に遠い国から来たばかりだそうだ。だから言葉が変なのは仕方ない。きっと文化が違うのだ。
だいたい同じ国でも、都会と田舎じゃ少しだけ言葉が違う。それでよく田舎物は馬鹿にされる。
話が反れたけど、そう、国を創るとか言い出したんだ。
もうここからおかしい。国なんてものは、ずっと昔に英雄や神様が苦労の末に創ったもので、そんな簡単に創れるものじゃない。だいたい、国といっても、この孤児院と、せいぜい近くの村くらいじゃないか。
でも、やっぱりこの人はすごかった。
まず、僕たちに家族を呼び寄せるように言って人を集め始めた。そして近くの村を兵隊の基地にして、攻めて来る王様の弟の兵隊を何度か撃退した。
院長先生が言うには、王様の弟は、王子様とも戦わなくちゃいけないから、たくさんでは攻めてこれない。だから守りだけにすれば勝てる、だそうだ。
そしてその隙に、遠くにいる王子様に遣いを送って、冬が来る頃にはとうとう孤児院と村を一つの国として認めさせてしまったんだ。
これはすごい事だと思う。院長先生は昔話の英雄と同じ事をしたんだ。戦いはてんでダメなくせに。たぶんこれが政治ってやつだと思う。
国となると、また人は集ってくる。この頃から院長先生は「宰相」とか呼ばれるようになった。
院長先生改め宰相様は「この国に集った子供はみんな義兄妹だから仲良くするように」と言った。
ちなみに、この国の王には僕の妹よりも小さな、孤児院の女の子がなった。
人が増えたのでもう兵隊はやらなくてもいいよ、と宰相様は僕に言ったけど、僕はたくさんに増えた義弟や義妹たちの為にも続ける事にした。ここまで来れば僕だって戦士のように戦えるくらいになったから。
まだ、子供だけど。
戦争は嫌いだけど。
でも、もう仕事になってしまったから。
だから僕は少年兵だ。いつしか、大人の、本物の兵隊になるまでは。




