02悪魔のレストラン2
お昼時だというのにガラガラどころか、客の一人もいないレストランに、コックが一人ただずんでいる。さて、こんな店に入ってしまった場合、どうしたら良いだろうか。
これがグルメ漫画だったら、懇切丁寧に理由を問いただし、そして繁盛まで力を貸すところだろうか。
だが残念な事に、ここはそんな優しい漫画の世界ではなかった。強いて言えば、もっと殺伐としたゲーム世界なのだ。
そんなわけで『大地の恵み亭』の扉を開けたアルトたち一行は、まるでビデオの逆回しの如き動作で、すぐさま扉を閉めた。
「あーお腹空いたなぁ。さてお昼ご飯はどこで食べよう」
ことさらワザとらしく大声を放ち、アルトが店に背を向ける。当然、仲間たちもそれに追従した。
「そやなー、たまには良いもん食べたい気分やわー」
「アップストン菓子店などいかがでありますか?」
「それ、ご飯と違いますぞ」
しかしせっかく背を向けたはずの扉は勢い良く開き、渦潮の如き吸引力でアルトたちの後ろ髪を全力で引くのだ。もちろんその主とは『大地の恵み亭』の陰気なコックだ。
「ままま、そう邪険にすんな。な? 3日ぶりの客なんだ。食って行けよ。な?」
陰気、というか邪悪そうにも見える目の下のクマとは裏腹に、妙になれなれしいコックが、後ろ髪どころかアルトの腕にしがみついた。
「向こうの方に行列が出来てるにゃ。あっち行くにゃ」
あえて空気を読まずに、通りの5軒先を指差すマーベル。見れば確かに行列があり、どの表情も期待に満ちている。きっと美味いランチを出す店に違いない
だがコックはお構い無しにグイグイとアルトを引っ張った。アルトが仕方無しに、大変迷惑そうな表情でしぶしぶ振り向けば、やはり蜘蛛の巣の張ったような薄暗い店内が目に入る。明暗で例えるなら、これは明らかに暗の方だ。
「いや、そのオレたち間違えて入っただけなんすよ。マジで」
「いやいやいや、昼飯まだなんだろ? いいじゃねーか。ほら、入った入った」
結局一同は、押しの強さに負け、ついには薄暗い『大地の恵み亭』へと再入店を果たしてしまった。なかなかノーと言えない日本人なのである。
「しょうがないにゃ。食券で出せる料理を持ってくるにゃ」
いち早く諦めたねこ耳童女が、ため息混じりに腰を据える。その様子を見て、尻込みしていた他の一同も、おずおずと各々の席を決めて腰を下ろした。
「まー食券あるし。タダやしな」
そう、タダ飯である。金を払って微妙な物を出されたら、それはそれで大変悔しいが、人の奢りなら笑いのネタになるだろう。モルトもまたそんな心境で溜め息をついた。
「さぁ、食ってくれよ」
しばらくして、嬉々としたコックが大皿料理をテーブルに並べた。
豚こまと野菜の炒め物、きのこソースのハンバーグ、ソラマメの甘辛煮、等々。どれも見た目は普通だった。
「ふむ、食えなくはありませんな」
「そーやね。一味二味足らん上に、塩がキツイけど」
「モル姐さんの料理の方が美味いにゃ」
どうやら味の方はかなり微妙な評価だった。
特別、美味いわけでもないが、唾棄するほど不味いわけでもない。毎日の食事と考えれば、及第点だが少しずつウンザリが蓄積しそうな料理だ。
さらに最大の難点を言えば、ジャンクフード的なテイストだろうか。
「これ、いくらで出してるんだ?」
「一皿で3銀貨だよ。大盛りにすれば4銀貨、特盛で5銀貨。もちろんパン付きだぜ?」
もしや客が入らない原因は値段にあるのか、とアルトは思ったが、特別高いわけでもなかった。というかどちらかと言えば安い部類だ。そう言えば、チケットをくれた青年も「安い店」と評していた。元の世界に例えるなら、牛丼店のような気楽な店なのかもしれない。
ならば余計に、ここまで閑古鳥の鳴く様子が不思議だった。
「アンソニーのせいさ」
料理を食べながら首をかしげていると、訊いてもいないのにコックが勝手に語りだす。まぁ興味はあったので、一同は黙って耳を傾ける事にした。
さて、彼の話はここから妬み嫉みも混ざり、少々長くなる。聞くに堪えない言葉も多いので、ここは要点だけをまとめて以下に記しておこう。
『大地の恵み亭』の5軒隣に『煌きの畔亭』と言う店がある。そこが彼の言うアンソニーの店だ。この店に入る前にマーベルが指差した、行列の出来ていた店の事である。
アンソニーは同じ親方の下で修行した、同期にしてライバルで、「安くて満腹」を標榜とした同系統のレストランとしても、ずっと競い合ってきたと言う。
ところが2ヶ月前のある日、『煌きの畔亭』の評判が急激に上昇した。経営方針が「安くて満腹」から「安くて美味くて満腹」にバージョンアップしたのだ。
以来、『大地の恵み亭』は衰退の一途をたどり現在に至ると言う。
同じ値段なら、みな美味い方へ流れる。さらにボーウェン子らしいミーハーが、『煌きの畔亭』を繁盛させた。
これだけの話を、1時間にかけてじっくりねっとりと語られたから、たまったものではない。
昼休みが超過すると言う事で、アルバイトコンビはすでに退席し、背丈半分コンビと、さらに小さな人工知能搭載型ゴーレム、それにマーベルのベルトポーチに入った薄茶色の宝珠が店に残った。
「ならコックさんも路線変更すればいいにゃ」
「出来るならやってる。だが料理の腕がそう易々と上がるか」
マーベルが至極真っ当な意見を出すが、コックの言うことももっともである。料理だけでなく、職人の技と言うものは長い年月かけて熟成される物なのだ。端的に言うと、一般職として、膨大な経験値が必要なのだ。
「アンソニーだってそうだ。あいつの腕がいきなり上がるなんておかしい」
「経験値が貯まってレベルアップしたなら、1レベル分、急に腕上がりますけど」
摩訶不思議な喋る宝珠がポソリと言うが、コックの耳には届いていないようだった。もはや彼の意識はアンソニーへの妬みや嫉みで、熱暴走を始めていると言っても過言ではない。
「何かズルをしているに違いないんだ。変な食材使ったり。はっ、まさかアイツ、魔道に堕ちたんじゃ」
「色々ダメそうですな、この御仁」
他の様々な可能性を見落としていると言いたい。だが聞く耳は持たないだろう。レッドグースは残った仲間の顔を見渡し、そろそろお暇しましょうか、と目で合図を送った。 だがその合図をインターセプトしたか、陰気なコックはドワーフの太くて短い腕を、逃がすまいとでも言うかの様に、ガッシリと掴んだ。
「そうだ、アンタたち冒険者だろう? アンソニーのズルを調べてくれ」
レッドグースとマーベルは思わず顔を見合わせた。
仕事と言うなら受けないでもないが、おかしな事に巻き込まれたものだ。果たして本当に受けて良いものやら。
「して、そのズルを調べてどうするのですかな?」
レッドグースは神妙な表情で、代表して問いた。返答如何によっては、『煌きの畔亭』側から恨みを買う等の、更なる厄介ごともありえるだろう。
だがコックの言葉は、予想の少し斜め上を滑っていった。
「俺も、ズルする」
「受けましょう」
背丈半分コンビは半眼で互いに頷きあい、ほぼ即答で依頼を受領する。この様子なら、最悪の結末を迎えた場合でも、両店による泥仕合が始まるだけだろう。そうなればもう近付かないようにすればよい。
こうしてレッドグースたちは、一つの仕事を請け負い『大地の恵み亭』を後にした。
少し歩みを止めて、寂れたレストランを振り返ると、夏だと言うのに寒々しく枯葉が舞う様が幻視できた。
「あ、なんか見たことある店だと思ってましたが」
ふと、マーベルのベルトポーチから顔を覗かせた、薄茶色の宝珠が呟く。その寝床の主は、聞きつけるとすぐさま首を傾げた。
「GMは知ってるにゃ?」
「アレですよ、アスカさんと出会った日に」
「ああ、アスカ殿が『依頼の品』を届けたレストランですな」
すなわち、大蛸騒動の直前の話で、あのズダ袋に入ったピンク色スライム状のナニか、である。
「変な食材使ってるのは、お前の方にゃ」
マーベルは嫌そうにねこ耳を伏せて呟いた。
思い出して、あのスライムがハンバーグに使われているのでは、などと思うと気分が悪くなったので、アルバイト組を抜いた一行は、ひとまず『金糸雀亭』へと戻る事にした。
おなじ薄暗いにしても、こちらは『準備中』なだけであり、店内の隅々までがおばちゃん店主によって綺麗に掃除されている。
「ふにゅー、ひと安心にゃ」
昼間なのでガラガラな店内のいちテーブルに突っ伏し、ねこ耳童女が深く息を吐く。連れのドワーフもまた、彼女の向かいにドカリと腰を下ろした。
「依頼は『アンソニーのズルを調べろ』ですが、良く考えたらまだ見ぬアンソニー殿がズルしている証拠はないのですな。どうしたものですかな」
カウンターの奥でせわしく料理の下ごしらえをする店主を眺めつつ、レッドグースは自慢のカストロ髭を撫で付ける。マーベルはその言葉に、うんざりとした表情で頷いた。
「全部、あのコックの妄想にゃ」
「十中八九、アンソニー殿の、日々の努力が花開いた結果であります。宝珠の兄貴が言った通りで違いないであります」
レッドグースの帽子から、ぴょんとテーブル上に降りたティラミスが相槌を打ち、マーベルの手慰みにされている薄茶色の宝珠は「いやあ」と照れた。
「それにしても明暗が激しすぎですぞ。『料理人』レベルが上がったとして、果たして1レベルでそこまでの差がつくものですかな?」
「ふみゅ」
言われてみれば、とマーベルはねこ耳を伏せたままテーブルから頭を上げた。
魔法使い系の職業なら、レベルアップで使える魔法が増える分、1レベルの差は確かに大きいだろう。だが純粋な手先の技能はどうだろうか。
「具体的に言うと、出来に関する数値が10ポイント上昇ですね」
答えの出ない疑問に突き当たったマーベルたちに、すかさず元GMがシステム的な解説を入れる。だがその10ポイントが、果たしでどれだけの大きさか解らずに、プレイヤーたるマーベルはさらに首を傾げた。
「えーとですね。そもそもあらゆる行為は『成功ロール』と言うダイスによって決まるわけですが、行為に関する『職業』のレベルは、その成功率に密接に関係するわけです。で、成功率の公式が」
「ぐー」
「寝てますな」
「ぐぬぬ」
マーベルはあっという間に寝息を立て、解説を聞いてもらえなかったGMは歯噛みするのだった。
「要するに料理の出来は、当社比10%アップと言う事です」
「にゃるほど」
味と言う曖昧な基準で10%アップと言われても、ホントの所良くわからないのだが、元の世界では広告業界的に良く使われる表現だっただけに、マーベルもなんとなく解った気になる。元GMの宝珠も、どうにか納得してもらえた事で、満足げな輝きを湛えた。
「とにかく、一度、偵察に行ってみる方が良さそうですな」
そう、結局は情報もないのに頭を捻っても、何も解らないのだ。
レッドグースはそう思い切り、未だテーブルにくてっと伏せているマーベルを促して、自らも立ち上がった。
だがマーベルは気だるそうに目だけを傾け、仲間のドワーフを非難する。
「食休みがまだ終わってないにゃ」
すでに働いている人もいると言うのに、と呆れつつも、結局はもう小一時間は要するだろう、とレッドグースは諦めの溜め息をついた。
「なんだ暇そうだな」
食休みと決め込み、閑散とした『金糸雀亭』でうつらうつらと午睡に身を委ねていると、全身を固める鈍色の『板金鎧』を着た、黒髪の女戦士がやって来た。金髪の癖毛を2つに縛った、背の低い魔法少女も一緒である。
どうやらひと仕事終えてホームに戻ってきた様相だ。
「実際、暇ですぞ。本業が開店休業中ですからな」
肩をすくめて答えるレッドグースに、黒髪のアスカもまた同様に肩をすくめた。
例の大蛸騒動からこっち、細かい依頼がちらほらあったくらいで、冒険者稼業はあまり忙しくないのだ。
アスカたちも「ひと仕事」と言っても依頼仕事ではなく、自ら奔走して遺跡探索などをしているようだった。
「ねぇ、暇ならティラミスを貸して貰えないかしら」
すぐ近くのテーブルに席を決めつつ、金髪のマリオンがふと口をつく。その言葉に、好奇心旺盛なねこ耳童女は、すぐさま伏せた耳をピンと張った。
「何かオモロいの見つけたにゃ?」
はじめはマリオンを咎める様な視線だったアスカも、ここに至っては借りを作るのも悪くないと思ったようで、ポットから水を注ぎながら答えることにした。
「今、探索中の遺跡に、大掛かりな仕掛けがあるみたいなんだ。ここは一つ『魔法工学士』としての知識を借りたい」
これを聞き、自分でテーブルに広げた小さなランチョンマット上でゴロゴロしていた小さなティラミスは、はたと動きを止めて半身を起こす。その隣には、いつの間にかアスカの頭巾から這い出てきた、彼女の2人の姉妹が並んで座っていた。
「ふむー、面白そうでありますな。それに良いタイミングでもあります」
「何がいいタイミングなのデス?」
ティラミスの言葉に疑問を投げかけるのは妹の一人。チェック柄のインバネスコートに鹿追帽という出で立ちの人形少女、名をクーヘンと言った。
「そっちも何か面白い事があったのかしら」
姉妹達の元気そうな様子で笑顔になりながら、話に合いの手を入れるように言うのは姉の一人。純白のパフスリーブワンピースにナース帽と言う格好の、エクレアと言う名の少女だ。
3人共に『人形姉妹』と銘打たれた、人工知能搭載型ゴーレムの姉妹である。
「こちらはちょっとした身辺調査の依頼を受けましてな。これから動く所なのです」
それぞれが約14センチメートル程度と言う、非常にちんまりとした少女達の様子に、レッドグースは頬を少し緩ませながら答える。話の輪にいた一同は、なるほどと軽く頷いた。
「そういう調査関連はクーヘンが得意なのでありますよ」
そう言われてみれば、とマーベルは気だるそうに、古式ゆかしい探偵ルックのクーヘンに目を向けた。確か専用職業が『探索者』と言ったか。
「ではしばらくの間、コンバートしたらどうかしら」
妹の言いたい事を正確に読み取ったエクレアは、名案とばかりに小さく手をたたきながら実際に提案を掲げる。こうして、しばしクーヘンが、ティラミスの代わりに仲間に加わる事となった。
「まぁそんなに大げさな任務じゃないですけどね、こっちは」
いつもと違う編成に盛り上がる小人達に、テーブル上でマーベルに転がされていた薄茶色の宝珠は、苦笑いと共に呟いた。
「で、何の調査をするデスか?」
仔猫、白イタチ、盗賊という、なんとも調査に適したように見える1隊は、しばしの歓談の末に『金糸雀亭』を出て、一路、『港湾地区』と『職人街』の境付近を目指した。
その途上で、マーベルのねこ耳を操縦桿の様に掴んだクーヘンが訊ねる。そう言えば『金糸雀亭』ではお互い雑談ばかりで、仕事の話はしていなかった。
「『煌きの畔亭』にゃ」
ねこ耳を弄られる事に少しイライラしつつ、マーベルは端的に答える。だがクーヘンはそれだけで満足げに大きく頷いた。
「ふむ、急に繁盛した謎に迫るデスね。それは面白そうデス」
この言葉にはレッドグースも少し驚いた。なる程、ティラミスが勧めるだけはあって情報通だ。
「詳しいにゃ?」
素直に感心しつつ、マーベルが頭上の小人に意識を向け、耳がピクピクと動いた。クーヘンは目を輝かせて逃げる耳を掴みなおしながら答える。
「お店に入った事はないので、それ程ではないのデス。エヘン」
言葉では謙遜しているが、いかにも得意気である。
さて、しばらく歩くと、いくつかの通りを経て『職人街』の端までたどり着いた。ここまで来ると、けたたましい金属を打ちつける職人の音は、かなり小さくなる。代わりと言っては何だが、隣接する『港湾地区』の喧騒が聞こえ始めた。
「あれデスね」
ねこ耳童女の頭上からクーヘンが指差すのは、『大地の恵み亭』と同じくらい規模の平屋店舗だ。さすがにランチタイムも終わりかけの時間だけにもう行列はないが、さきほど遠目に見た『煌きの畔亭』に間違いない。
「どうやって調べるにゃ?」
あと十数メートルという距離まで迫った所でマーベルが首を傾げる。頭上のクーヘンが滑り落ちそうになるが、慌ててねこ耳を掴みなおし事なきを得た。
「聞き込みデスか? それとも忍び込むデスか?」
早速とクーヘンが自慢の鹿追帽の位置を直しつつ、得意分野を披露しようと舌なめずりする。が、帰ってきた答えは期待と少々違う方を向いていた。
「いや、ここは『虎穴に入らずんば虎児を得ず』ですぞ」
そう自信満々に言い放った『盗賊』であるはずのドワーフは、実に堂々とした足取りで『煌きの畔亭』へと進み入店してしまうのだった。
面食らった2人もまた、困惑しながらも彼の後を追って店の扉を押す。すると程よく油を差された扉は軽く開き、明るく清潔な店内の様子が視界に飛び込んできた。
『大地の恵み亭』とはこの時点で大違いだ。
「これは負けて当然にゃ」
呟きながらさらに店内を見回せば、すでに席を決めたレッドグースが、早々にメニューを開いていた。
「お昼ご飯、まだだったデスか?」
「もう食べたにゃ。がちょさんにとっては、あれはおやつにゃ」
「そう、デスか」
テーブルに近付けば、うだつは上がらないが人は良さそうな中年ウエイターに、矢継ぎ早な注文を告げるレッドグースの声が聞こえた。クーヘンはドン引きだった。
ウエイターは良く通る声で厨房に向けてオーダーを告げると、新たに同席したマーベルたちにも愛想よく挨拶をする。
「いらっしゃいませ。何かご注文は?」
「がちょさんの料理をつつくからいいにゃ。それより、店主のアンソニーさんって、どの人にゃ?」
もうここまで来たらぶっちゃけるのが一番だと思い、マーベルがはっきりと訊ねる。中年ウエイターは細い目を驚きでいっぱいに見開くと、おずおずと自分を指差した。
「アンソニーは私ですが」
すると誰が料理を作っているのか。
一瞬、脳内が真っ白になり、一同は頭上に疑問符を浮かべながらカウンター越しの厨房へ目を向ける。
だが残念ながらその回答を得る事は叶わなかった。なぜなら、厨房には白くて厚いカーテンが引かれ、中を窺う事が出来なかったからだ。
レッドグースとマーベルは、困惑しながらも納得した。すなわち、『煌きの畔亭』の料理人は、すでにアンソニーではなかったのだ。




