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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#03_ぼくらの新生活

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33/208

03帝国騎士

 港街ボーウェンの北東側には高台になっている区画がある。

 他の地区からは数本の階段で繋がるこの区画は、貴族や大商人などの裕福層が住まう『山手地区』だ。

 他には『港湾地区』、『商業地区』、『住宅街』、『職人街』などがあるが、それらを明確に分ける境界はない。ただ『山手地区』のみが高台へ続く小さな崖により区画されている。

 先日はせっかくこの『山手地区』訪問を回避したと言うのに、結局アルトたちは細い階段を登り、いよいよ裕福層のお屋敷町へと踏み出した。

 アルトたちを呼び出したはずの帝国騎士マーカス・マクラン卿が、治安維持隊隊長としての職務を休んでいるので、仕方なくの登台である。

 アルトたちは、出来れば『山手地区』には来たくなかった。

 階段を登り切ると、そこには石畳で舗装された、塵一つ無い清潔な路地や、過去に訪れたナトリやゼニーの屋敷を最低ランクとするような立派な館の数々が建ち並んでいる。

「ぱないのぅ」

 レッドグースは誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。

 何が半端無いのかと言えば、場違い感である。

 裕福層が住まう地区なので、武具を着けた者などほとんどいない。いたとしてもそれは治安維持隊や貴族お抱えの私兵で、どれも洗練された装備を身に着けていた。

 だからアルトたちは、『山手地区』には来たくなかったのだ。

「ところで疑問があるにゃ」

 マクラン卿の屋敷を目指し、なんとなくソロソロと固まって歩く一行だったが、そんな場違い感などモノともしないマーベルが、元気よく手を挙げる。

「はい、マーベルさん、なんでしょう」

 教室で生徒を指す様にして答えるのは薄茶色の宝珠(オーブ)だ。

「貴族と騎士って何が違うにゃ?」

 先日、詰め所でマクラン卿の名が出た時、レッドグースが『卿』と言えば貴族、と言っていた。だが紹介されたマクラン卿は『帝国騎士』と冠されていた。この辺りのニュアンスが、マーベルにはいまいちよく分からなかった。

「国によっても定義が違いますが、メリクルリングRPGでは統一見解が以前リプレイで出てました」

「おお、そういえば発売前に雑誌連載されてましたな」

 リプレイとは、TRPGのプレイ風景を文章化し、読み物としても楽しめるよう整えたものだ。その中でも公式で発表されているリプレイなどは、ルールブックの補完的な役割を務めることも多い。

 今回の事例もその一つだった。

「簡単に言いますと、領地を認められ、租税で暮らすのが貴族。国から俸給を貰って生活しているのが騎士です」

「まるきり公務員ですな」

「ほんなら軍人と騎士の違いはなんやの?」

「それは位の違いでしょう。騎士は王や皇帝から認められ、叙勲された高位の軍人です。手柄を立てた者とか、後は元々平民ではない場合も多いですね」

 説明を黙って聞き終えると、アルトは安堵の一息と共に、軽く鼻息を噴いた。

「ほー、つまりこれから行くのは、たかが公務員の家と言う事じゃないか。なんだビビる事無かったぜ」

「アっくん、びびってたにゃ?」

「べ、別に」

 マーベルはそんな彼の顔を目を細めて覗き込み、アルトは必死に目をそらす。

「たかだか公務員と言っても、街の治安維持隊の責任者ですからな。警察署長程度には偉いですぞ」

 それを聞いて、アルトは再び固唾を呑んだ。

「まーたビビっとる」


 それからしばらく歩くと件のマクラン邸にたどり着く。豪華ではないものの、歴史の古さや質実剛健な堅牢さが見て取れる、なかなか立派な屋敷だ。

 ビビりのアルトが小さなねこ耳童女の背に隠れるので、仕方なくレッドグースが代表として扉を叩いた。使うのは獅子の顔を模した真鍮製のノッカーだ。

 程なくして扉は開かれ、地味だが仕立ての良い、ダークグレイの三つ揃いの背広(スリーピーススーツ)を着た老人が、冒険者たちを出迎えた。年老いてはいるが、その白髪からは考えられないほど背筋がピンと張っている。

 双眸と口元は、長く白い眉と口ひげで隠され、表情を見取る事は出来なかった。あと見て取れる特徴と言えば、鋭く尖った両耳。長命で魔法に長けたエルフ族の特徴だ。

「ようこそお客様方、お待ちしておりました。私は当マクラン家で執事を務めるセバスティアと申します。どうぞセバスとお呼び下さい」

「つーか今、初夏だよな」

 上から下まで隙間が無いその服装に、アルトは思わず呟いた。しかも老人は、その服装で汗一つかいていない。

 だが、そんな様子を意にかけず、セバスと名乗った老人は、右手を胸に当てながら優雅な所作で頭を下げ、呆気にとられているアルトたちを屋敷内に迎え入れた。

「主人はこちらにおります。どうぞ」

 立派な角を持つ鹿首のトロフィーが飾られた、古式めいた廊下を進み、やがて一つの部屋へとたどり着く。セバスと名乗った老人は、扉を静かに叩いてから開き、アルトたちに道を譲るように扉の脇へとその身を置いた。

 扉の先は約4メートル四方の部屋で、真正面に窓、その前に重厚な執務机、右手の壁に書棚と左手の壁に高級酒類の数々を並べたサイドボードが据えられている。

 執務机の椅子には、20代半ばほどの精悍な青年が、頭を垂れて座っていた。

 青年はセバスより一段と良い仕立てのドレスシャツと、その上からウエストコートを着ている。その腕や首の太さはアルトの倍くらいありそうだ。

 部屋に案内されたはいいが、青年はこちらに気付いていないようで、どうも心労が祟ったような顔付で、何言かをブツブツと呟いている。

「え、えと」

 困ってアルトは言葉を捜す。こんな時、まず何を言ったらいいだろう。

 数秒経っても状況に変化が見られず、冒険者たちは扉のすぐ内側で、戸惑いながらお互いの顔を見合わせる。目が一様に「お前、なんか言えよ」と語っていた。

 見かねたセバスは戸惑うアルトたちを追い抜き、うつむく青年に大股で歩み寄る。

「ぼっちゃま、お客人がお見えでございます」

「ん? ああセバスか」

 その声で、青年はやっと我に返ったように顔を上げた。だが『客人』との言葉が聞こえなかったのか、長年共にした使用人に対する気楽な態度で言葉を続ける。

「というか俺ももうマクラン家当主だ。いいかげん『ぼっちゃま』はやめてくれ」

 どうやら彼がマーカス・マクラン卿のようだ。

「それよりもぼっちゃま、お客人です」

 年老いた執事に念を押され、マクラン卿はやっと客人たるアルトたちに気付いた。気付いてから慌てて誤魔化すような咳払いをする。

「ゲフンゲフン。あー、ご足労痛み入る。ようこそボーウェンへ。俺、いや私がボーウェン治安維持隊隊長のマーカス・マクランだ」

 挨拶の為に立ち上がったマクラン卿は2メートルはあろうかと言う長身で、その太い腕や脚も相まって、恐ろしいほどの威圧感だった。

「む、無理」

 アルトは後に「レベルとかそんなチャチなもんじゃねぇ、とにかくあれには勝てそうにない」と語ったという。


 帝国騎士マクラン卿の話は、おおよそ先日『金糸雀(カナリア)亭』で聞いた話と同じだった。

 すなわち、アルトたちは隣国の要人暗殺の容疑者であるが、その真偽は極めて疑わしいので、帝国では特に逮捕も拘束もしない。との事だ。ただそういう情報があったので、念の為、面通しを済ませておきたかったそうだ。

 また追加の情報としては、レギ帝国はニューガルズ公国と国交が無いので、そもそも正式な逮捕要請もきていない、と言う話だった。

 くれぐれも街で騒ぎを起こさない様にと釘を刺されはしたが、これにて、レギ帝国でのアルトたちの自由は、公的に認められたと言ってもいいだろう。


「な、な、あれ。あれ!」

 話が一通り終わると、モルトはさっきから気になっていた、酒瓶の並んだサイドボードを指差す。瞳はハート型の輝きを湛え、その視線はもうずっと釘付けだ。

 だがもう誰も注意もしないし反応もしない。レッドグースなどはあからさまに無視の体で、今にもアルトたちの退出を促そうとするマクラン卿に言葉を投げた。

「ところでマクラン卿には何か心配事がおありで?」

 それはモルト以外がずっと気にかけていた事だった。彼らの入室直後の様子から、絶対と言っていい程、何か困りごとがあるはずだ。別に解決してあげようとか思わないが、ただの野次馬根性である。

 マクラン卿はその言葉で思い出したように、ヘナヘナと椅子に身を投げて、再び頭を垂れた。

 窓から日の光が差し込んでとても明るい部屋だったが、マクラン卿の周りだけは何故か光が届いていないかのようだった。

「妹が…昨晩帰ってこなかった」

 闇に沈み込むようなマクラン卿がポツリともらすと、一同は声をそろえる。

「は?」

「だ、か、ら」

 瞬間的に沸騰したのか、何故かアルトに詰め寄るマクラン卿。

「俺の、かわいいかわいいかわいい妹が、昨晩帰ってこなかったんだよ!」

 怒りとも嘆きともつかない表情で頭を抱えたマクラン卿は、屋敷を揺るがす程の絶叫を上げるのだった。

「なんにゃ、ただのシスコンにゃ」

 ねこ耳童女は、やけに大人びた表情でため息をついた。


 その後、マクラン卿から小一時間ほど「かわいい妹」について語られた一同は、セバスの手引きで逃げるように屋敷を後にした。

「一口に言いますとお嬢様は家出中なのでございます」

 マクラン卿のあまりの取り乱しように、最初は事件かとも思ったが、セバス氏の言で一同は納得して頷く。良かった、事件に巻き込まれたいたいけな少女はいなかったのだ。

 そして別れ際に、セバスは更に口を開く。

「公的に自由を得た冒険者様方に、老婆心ながらご忠告を。『盗賊(スカウト)ギルド』にも一度ご相談されることをお勧めします」




 『盗賊(スカウト)ギルド』はその名の示す通り、『盗賊(スカウト)』など、裏社会で暗躍する者たちの互助組合である。

 規模は国や街で様々だが、大体どこの街にも存在し、縄張り内の裏社会を牛耳る役割を持っている。

 ギルドには、実際に盗みを働く者もいれば、情報などを欲する為に所属する冒険者もいる。また暗殺者も抱えられている事が多い。




 つまり、セバスの忠告は、公的な自由だけでなく、裏社会にも手を回さねば、今後は教会の雇った暗殺者におびえる事になる、かもね、と読み解く事が出来るだろう。

 さて、セバスの不吉な忠告に従うにしても、アルトたちには『盗賊(スカウト)ギルド』がどこにあるのかわからない。

 当たり前だが、裏社会の組織が目抜き通りに看板掲げているわけがないのだ。

「ま、その件はワタクシが行きましょう。皆さんは先に宿にでも戻ってくだされ」

 行く宛知れずで途方にくれたアルトたちだったが、そう言い出したレッドグースに後を任せる事にした。

 そういえばこの酒樽紳士は『吟遊詩人(バード)』にして『盗賊(スカウト)』だった。元GMである薄茶色の宝珠(オーブ)が言うには、『盗賊(スカウト)』にしか判らない符丁があるそうだ。

 ならレッドグースに任せるのが一番だろう。

 そういうことになり、『山手地区』を出た所でレッドグースと別れたアルトたちは、ひとまずその場で足を止める。

「まだ昼だけど、これからどうする?」

「仕事でも探すにゃ?」

 そう、仕事だ。現実社会だろうとゲーム異世界だろうと、生活するならなにはともあれ金である。しかもすでに宿泊費が赤ランプを点しているアルトの財布などは、可及的速やかに補充してやらねばならない。

 もし補充が出来なければ、橋の下が今後の住まいとなるだろう。

「仕事っつってもなぁ。アルバイト情報誌とか、ないよなぁ」

 あるわけが無い。いや、むしろ無いならそれをこの世界でビジネスモデル化すれば、もしかして大儲け出来るかもしれない。

 だが残念な事にいち普通科高校の劣等生であるところのアルトには、当然そんな発想は無かったし、いち女子高生であるマーベルもまた然りだ。

「というか、『金糸雀(カナリア)亭』に戻って適当な依頼を斡旋してもらえばいいでしょうに」

「おお、その発想は無かった」

「にゃかった」

 ビジネスモデルはどうでもいいが、その発想は冒険者としてあって欲しかった。などと今更ながらに思う薄茶色の宝珠(オーブ)であった。

「そういえば、モルトさんはどこです?」

 ため息の合間に気付けば、いつの間にか白い法衣が見当たらない。あわてて辺りを見回せば、少し先の露店で一人果実酒を引っ掛ける赤ら顔の乙女がいた。法衣の白さと顔の赤さでなにやら見た目にお目出度い。

「ほうら、アル君もベルにゃんもコッチおいで。美味しいおちゃけが待っとるでー」

 赤い果実酒がなみなみと注がれた木製のコップを掲げながら、モルトはいかにも嬉しそうにそう声を張る。

 路肩に広げられた簡易テーブルを遠目に見れば、すでに空のコップが3個も並んでいるではないか。この数か月分の素面を帳消しにする勢いだ。

「いや、オレたち未成年だから」

「そうにゃー」

 律儀に日本の法を順守する高校生コンビだった。

 そんな2人をおかしそうに笑い飛ばし、モルトはまた1杯空ける。これで空のコップが4個。そして心得た露店主は、すかさず5杯目を運んだ。

「ふおー、しーみーるーでー」

「まずい、ビーストモードだ。誰か止めろ!」

「無理にゃー!」

 次々と差し出される杯、その度に空になるコップ。簡素な露天席はもうわんこ蕎麦ならぬ、わんこ酒と化していた。そのスピードはまるで砂漠に水を捨てる勢いだ。

 アルトはモルトが心配だった。身体の事ではない。懐の話だ。

 確か彼女の財布も潤沢ではないはずなので、このままではアルトより先に橋の下へ行く羽目になるかもしれない。行くなら先に行かねばいい場所がなくなるかも。などとちょっと混乱。

 いやいや止めなければ、早く!

 そう思い立ち、アルトは駆け出そうと一歩足を踏み出した。

 しかし結果的に、彼より早く、モルトの飲酒にストップをかける者が現れる。

 両手を差し出し露店主から杯を受け取ろうとしたモルトの眼前で、12杯目はあえなくその者に蹴り飛ばされて宙を舞った。

 回転しながら中身の赤い液体を撒き散らすコップ。絶望じみた表情で、コップの軌道に合わせて身体を傾けるモルト。そして飲酒ストッパー氏は酒杯以外にもテーブルに椅子、露店さえも蹴散らしながら、最後にはレンガの壁を背にして振り向きざまに『短剣(ショートソード)』を構えて止まった。

 それはコゲ茶色のボロ布を全身に纏い、大事そうに小汚いズダ袋を抱えた、眼光鋭い小男だった。

「なにすんじゃー、ウチのお酒が死んだやんかー」

 すでに微妙に言う事がおかしいモルトだったが、状況は彼女を介せず勝手に流れる。騒然とする屋台街に、さらなる物騒な人物が登場したのだ。

 コゲ茶の男が蹴散らして作った道を悠然と歩くのは、黒く長い髪をなびかせた、鈍色の『板金鎧(プレートメイル)』と大きな『凧型の盾(カイトシールド)』で武装した凛々しい戦乙女だ。

「あれ『金糸雀(カナリア)亭』にいた人にゃ」

 食い入るように場を注視していたアルトは、同様にしていたマーベルの言葉にハッとする。確かにそれは、先日の昼、『金糸雀(カナリア)亭』で見た『警護官(ガード)』だ。

 美しいというより、格好が良いという言葉が似合いそうな戦乙女は、腰に佩いた『両刃の長剣(ロングソード)』をすらりと抜いてコゲ茶の男に向ける。

「それは私の物だ。大人しく返せばこの場は見逃してやる」

 コゲ茶の男はどうやら物取りだったらしい。この『警護官(ガード)』からズダ袋を盗み、そして追われた末の大立ち回りだったのだろう。

 だが追い詰められたに見えたコゲ茶の男は、ニヤリと笑いながら『短剣(ショートソード)』の刃に舌を這わせた。

「その偉そうな口、果たしていつまで叩けるかな?」

 言うや否や、集まりつつあった人込みから、男と同じ格好の者が更に3人進み出る。一様に抜身の『短剣(ショートソード)』を構えていた。

「あ、こりゃ戦闘フェイズが開始しちゃいますね」

 マーベルの腕の中に抱えられた薄茶の宝珠(オーブ)が呟くと、途端に5人の空気が一変した。ここから5人は戦闘ルールに支配される。

「おお、えーぞーやれー」

「ケンカにゃケンカ。火事と喧嘩は江戸のはにゃー」

 いつの間にか合流していたモルトが、鶏腿の照り焼きを片手に気勢を上げ、マーベルも習って身を乗り出した。

 アルトは少し冷静さを取り戻し、冷ややかな目で仲間の女性たちを眺めるのだった。


(エネミー)4つか。ならば『ワーニングロア』だ」

 コゲ茶のボロ布を纏った4人の軽戦士と対峙した、黒髪の戦乙女が咆哮を挙げる。その言葉がマイクエコーをかけたかのように周囲に響き、目に見えない重圧が4人を襲う。

 その瞬間から、軽戦士たちは彼女から目を離せなくなった。




 『警護官(ガード)』のスキル『ワーニングロア』。

 この警告の叫びを聞く者は、警告者を無視できなくなり、結果、警告者は攻撃を独占する。つまりこれは、敵の攻撃を一身に浴びる事で仲間を守る為のスキルだ。

 効果は12ラウンド、範囲はランクを倍する人数。

 今回は4人の視線を捕らえた事から、彼女の『ワーニングロア』は最低でもランク2(ノービス)と考えられる。




「なんだこれは!」

「落ち着け、アイツ『警護官(ガード)』だ」

「く、視線がはずせねえ」

「仲間もいないのに『ワーニングロア』だと? 間抜けなヤツよ」

 ひきつけられた軽戦士たちは次々に声を上げる。だが彼女の台詞はまだ続く。

「よしかかったな。エクレア、クーヘンもう出ていいぞ。攻撃が来る!」

「りょーかいデス!」

「エクレア出ます」

 誰に対する言葉か戦乙女の声が上がると、それに応える様に、彼女のアンダーウェア付属の頭巾(フード)から、小さな小さな何かが飛び出した。

「おい、あれ!」

 それを見たアルトは驚愕に目をむいて、我らが小さな仲間ティラミスを探す。しかし残念ながら彼女はレッドグースに同行した為ここにはいない。

 仕方なく視線を戦場へ戻せば、黒髪の戦乙女の後ろに約14センチメートルの小さな少女が2人、それぞれの得物を構え控えていた。

 1人は長い薄茶の髪をストレートに垂らした『聖槌(メイス)』の少女。もう1人はふわふわのクセ毛を2つに結わえた快活そうな『スリングショット』の少女だ。

 アルトはこの光景に固唾をのむ。

 それは以前ティラミスが語った、世界にたった7体の人工知能搭載型(インテリジェンス)ゴーレム、『人形姉妹(ドールシスターズ)』のうちの2体だった。

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