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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#10_ぼくらのダンジョン生活(最終章)

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34カラーダンジョンの罠

 最終章 ここまでのあらすじ


 真なる創造主にして氷原の魔狼ヴァナルガンドは、この世界を自らの糧とする為に創りたもうた。

 だが、彼を追い異世界から来たウォーデン老とその弟子ハリエットにより窮地に立たされたヴァナルガンドは、彼の忠実なる(しもべ)である人狼ギャリソンによって造られた迷宮『グレイプニル』へと逃げ込む。

 そしてヴァナルガンドとの戦いで深い傷を負ったウォーデン老は、迷宮の攻略をアルト隊に託した。

 迷宮攻略の期限は3月21日。

 それは昼と夜が釣り合い、糧となる世界からヴァナルガンドに及ぼす影響が、最も高まる日である。

 迷宮攻略の途中、アスカ隊、ドリー隊、ルクス隊を加え合同4(パーティ)となった一行は犠牲を厭わず第6層の攻略を進める。

 どうせこの迷宮(グレイプニル)内なら、死しても迷宮入り口にて復活するのだ。

 そうしてタイムリミットも迫る中、3月19日の昼頃に、人数の少なくなった一行は第7階層にたどり着いた。

 第7階層は『ウツロの縞瑪瑙』というゲームを模したものだと、カリストとレッドグースが言うのだが、彼らが語った攻略情報は微妙に食い違うものであった。

「『イロイッカイヅツ』なんやし、全部の色を一回ずつ通ればいいんやないの?」

 とりあえず、と、迷路内を全員でぐるっと回って見た後に、白い法衣のモルトが首を傾げた。

 最初に降り立ったのが壁、天井、床、すべてが黄色に染められた部屋。

 ここに『イロイッカイヅツ』とのメッセージがあった。

 そして部屋には6つの黒いドアが、それぞれ別の方向に設えられている。

 6つのドアにはそれぞれ名札が付いており、『イロハアカ』『イロハキイロ』などと別の言葉が書いてあるのだ。

 それぞれのドアをくぐると、書いてある通りの色に染まった廊下が続き、また黄色い部屋に繋がっている。

 ここまで来ると予想が立つが、その黄色い部屋にはまた6つの黒い扉があるのだ。

 途中、「無限ループなのではないか」との意見もあったので、これまでの階層で手に入れた用途不明のアイテム『$マークのコイン』を部屋に置いて進んでみたが、先の黄色部屋にはコインは無かった。

 そして戻ればコインはあった。

 つまり、無限ループではなく、単に同じ構成の多数の部屋が、色の着いた通路でつながっているという訳だ。

 唯一違うとすれば、最も奥と思われるいくつかの黄色部屋に、「ススメマセンヨ」というメッセージが付いた、開かないドアがあったということだろう。

 そこでモルトの始めのセリフとなるわけだが、それより前に「この階層は『ウツロの縞瑪瑙』だ!」と断言した黒の魔導士カリストと酒樽紳士レッドグースは、釈然としない表情でうやむやに頷いた。

 『ウツロの縞瑪瑙』は日本初のファンタジー・コンピュータRPGと言われる古いゲームだ。

 迷宮(グレイプニル)のここまでの傾向を見る限り、そうした古いコンピュータゲームから引っ張ってきたネタが満載であった。

 とは、レゲーマニアとの称号を与えられた鈍色の女偉丈夫アスカの証言である。

 そうなれば当然、この階層も同様に元ネタがあるのだろうし、おっさんとおっさん予備軍の言葉から『ウツロの縞瑪瑙』がその元ネタなのだろう、と予想できる。

 だが、とモルトは不満そうに言葉をつづけた。

「そもそも『イロイッカイヅツ』ちゅーメッセから『順番にせえ』ちゅーのを読み取るんは無理やろ」

「確かにそこが『ウツロの縞瑪瑙』でも悩まされたところなんだけどね」

 モルトの言うのももっともだ。と頷きつつも、カリストは苦笑いを浮かべる。

「僕も『ウツロの縞瑪瑙』をプレイしていた時は同じように思って、何度もチャレンジしたさ。でも、ただ結果を言えばそれじゃダメだったんだ」

「せやけど、おっちゃん(レッドグース)にーちゃん(カリスト)の意見がちゃうやんか」

「そうですなぁ」

 と、今度の反論には「まいった」とばかりにレッドグースが唸った。

 カリストがプレイした『ウツロの縞瑪瑙』では『赤、紫、緑、青、黄、白』の順だったそうだ。

 レッドグースがプレイした『ウツロの縞瑪瑙』では『白、黄、青、紫、赤、青』だったそうだ。

 どちらも、その順番以外では迷宮を抜けられなかったというのだから、おそらく正しいのだろう。

 だが、正解がそれぞれで違う、というのが問題である。

「むーん」

 モルトも困ったね、という表情で考え込む。

 そこに、これまで黙っていたアスカが耐えかねてズイと前にでる。

 いや、実際には姿とは違ってリアルではボッチ属性だったアスカなので、話を切り出すタイミングが掴めなかったというのが正解なのだが。

 ともかく、そんな彼女の決意じみた前進を応援するかのように、同年代の2人が小さく声を上げた。

「よっ、レゲー大将」

「レゲー大明神にゃ」

 サムライ少年アルトと、ねこ耳童女マーベルだ。

 特にマーベルなどは小学生然とした小ささだが、これで中身はアルト、アスカと同様に高校生である。

 アスカはそんな声援に少し嫌そうな顔をしてから切り出した。

「実は私も『ウツロの縞瑪瑙』はプレイしているのだが、私の時は『赤、紫、緑、青、黄、白』の順だった」

 つまり、カリストと同じという訳だ。

 これを聞いて、未だに極大魔法の影響から自分で立てないカリストはニンマリと口元を歪め、レッドグースは眉をしかめた。

「そうすると、ワタクシの記憶違いですかな」

「歳を取ると記憶が頼りにならなくなることがあるのであります」

 レッドグースのベレー帽の上から、小さな人形少女もまた彼の言葉に頷いてそんなことを言った。

 生まれてから経過した年月、という話なら、ここにいる誰よりも彼女ら『人形姉妹(シスターズ)』こそが最年長なのだが、思っていても誰も突っ込まなかった。

 ただ、いくつかの視線が物言わず寄せられただけだった。

 そんなゲーマーたちの会話を呆れたように聞いていた、マーベルと同じくらい小さい人影が溜息を吐く。

 人影、というか、全身紺の装束を着こんでいるのでまさに『影』と言った風体だ。

「話は終わったか? なら、その順番とやらを試せば良いじゃないか」

 その人物、シノビ少女ヒビキがそう言った。

 言い争っていた元日本人のゲーマーたちは、揃ってポンと手を打って「その発想は無かった」とばかりに頭上へ電球を浮かべるのだった。


 そう言う訳で一同は階段のある最初の黄色部屋へと戻る。

「この黄色は数に入らんの?」

 ふと、モルトが疑問を口にするが、『ウツロの縞瑪瑙』プレイ組である3人は揃って首を振った。

「入らないんだな、それが」

 代表して答えたのはカリストだったが、どの顔も一様に遠い目をしていたので、皆、過去のプレイで引っかかった口なのだろう。

 ともかく、一同はカリストとアスカの記憶を採用し、『赤、紫、緑、青、黄、白』の順に通路を進んだ。

 すると、最後の白い通路を抜けた先に、『ススメマセンヨ』と名札の着いているドアのある部屋へと辿り着く。

 もっともこのドアの部屋はいくつかあるので、「たどり着いたから正解」と言えるかどうかまでは判らない。

「そんでも、最後にここ着くちゅーのは、期待できるんとちゃうか?」

「そうにゃ」

 と、気楽そうにワクワク顔を晒しながらモルトとマーベルが顔を見合わせた。

「まぁ、間違えたとしても、怪物(モンスター)いないみたいだから何度でもチャレンジすればいいさ」

 一応、アスカと共に先頭を歩いていたアルトが肩をすくめる。

 すでにこの階層に降り立って3時間ほどが経過していたが、これまで一度も遭遇戦(エンカウント)が無かったのでアルトもまたお気楽な表情だ。

「確かに。ゲーム通りなら、ここまで何度も怪物(モンスター)と出会っていたはずだからな」

 アスカも同意して頷く。

 が、彼女の表情には少しばかりの不安もあるように見えた。

 珍しくそんな機微に気づいたアルトが首を傾げる。

「どうした?」

「いや…」

 アスカは口ごもりながら、小さな声で言葉を紡ぐ。

「順調すぎて、何か罠があるんじゃないかと思って」

 不吉な予想だからこそアスカは小声だったのだが、それでもその言葉は皆の耳に届いた。

 届いたからこそ、その場はより深い沈黙に包まれた。

 しばし、幻聴すら聞こえてきそうな静寂で部屋が満たされ、それを破る様にレッドグースは静かに笑った。

「ほっほっほ。かと言って足踏みしていては先に進めませぬ。ともかく、正解かどうか確かめましょうぞ」

 言って、彼は『盗賊(スカウト)』の仕事だとばかりに先頭に立った。

 先頭、というか、そこは『ススメマセンヨ』のドアの前だ。

「『ウツロの縞瑪瑙』通りなら、正解であれば最後の『ブラックタワー』へ進めるはずですぞ」

 レッドグースはそう言いながらノブに手をかけ、そして慎重にドアを押し開けた。

 そう、開いたのだ。

 無事開いたことで、各員の顔は同じように「ほっ」とした空気をはらんだ。

 が、次の瞬間、その表情すべてが強張り、そして驚愕に変わった。

 なぜなら、ドアを開いた次の瞬間、レッドグースの身体がドアの向こうの漆黒へと吸い込まれ、光の粒となって消えたからだ。

 吸い込まれただけならば、「条件が正解で、どこかへワープした」とも思うところだが、この光の粒は見覚えがあるものだ。

 そう、この迷宮(グレイプニル)において、HP(ヒットポイント)ゼロとなり死亡判定がなされた場合に起こる現象だ。

 この迷宮においては、死亡すると光の粒となって消え、そして迷宮入り口にて復活を果たす。

「え、死んだ?」

 驚愕、呆然、そんな時間が過ぎると、レッドグースが消えたことによって再び先頭となったアルトが呟いた。

「間違いありません。レッドグースさんはドアを開けた直後に死亡したようです」

 その言葉を元GMである薄茶色の宝珠(オーブ)氏が肯定した。

「順番が違うとこうなるってことか」

 そして深刻そうに視線を落とし、アスカがそう呟いた。

 どうやら、そう言うことらしい。



 レッドグースが消えた後、残ったメンバーはまた元の階段部屋まで戻った。

「で、どうするんだ?」

 これまで「考えたってしょうがない」とばかりに着いて歩くだけだったバッタ男(ファルケ)が腰に手を当てて口を開いた。

 あの角ばったバッタ口で、よく人間の言葉が喋れるな、と感心しつつ、アルトもまた腕を組んでうーんと唸る。

 どちらにしろ、元ネタとやらを知らない彼らは、考えたって見当違いの案しか出てこないのが解っているので、だいたいがポーズである。

 残ったメンバーで元ネタと思われる『ウツロの縞瑪瑙』を知っているのはカリストとアスカだけ。

 その2人にしたって、昔一度プレイしただけで、そのおぼろげな記憶があるに過ぎない。

 その記憶から導き出した道順が不正解だったとなれば、もうこれはお手上げと言ってもいい。

「僕たちの憶えていた道順も、記憶違いだったのかな?」

「どうだろう。なにせ結構前のことだからな」

 チャレンジ前の自信はどこへやら、と、2人はうな垂れる。

 そんな2人を見て、現地人であり元ネタどうとか言われても訳が分からない金髪の魔法少女マリオンが溜息を吐いた。

「そもそもあの酒樽とアスカの言ってる道順が違ったのだもの。もうこれは人によって答えが違う、とかそんな哲学的なアレなんじゃないかしら」

 投げやりと言えば投げやりな言葉である。

 が、これでマリオンは「気に病むな」と慰めているつもりであった。

 実際、言われてアスカは多少気が楽になった。

 もし本当に「人によって回答が違う」などということであれば、この階層のクリアは相当難しものとなるわけだが、クリアできない責任は別にアスカにないことになる。

 まぁ、元々、誰もアスカに責任取れなど言ってはいないのだが、古いゲームを知る者の一人として、彼女はいつの間にか自らその重圧を負っている気になっていたのだ。

 マリオンの言葉で一人が気楽になっているところで、もう一人の「知る者」がさらに深刻そうな表情を浮かべた。

 いやこれは深刻、というよりは、深く考え込むときの顔だ。

 眼鏡のレンズが光を反射しその瞳がうかがい知れぬため、他の者からは表情を読むことは困難だった。

 しばし、彼の思考を邪魔せぬようにと沈黙が広がり、そしてカリストが呟く。

「人によって違う? 数パターンの答えがあって、ランダムに割り当てられるのか? アスカ君と僕が同じ答えだったことから、その仮定は成り立つな。いや待てよ、ランダムなのかな。何かパターンが変わる条件があるのかもしれない」

 そしておもむろにカリストが顔を上げる。

「アスカ君、君が『ウツロの縞瑪瑙』をプレイしたのは、何だったかな?」

「何、とは?」

 急に言われ、アスカはその質問の趣旨が掴めずに困惑する。

 カリストは半ば別の思考に潜っていたため、曖昧な物言いで何と伝わるかと考え、そしてまた口を開く。

「僕が持っていたのはMSXだった」

 つまり、カリストが聞きたいのはアスカが持っていたパソコンの機種だ。

「それなら私もMSXだ」

「そうか、だから僕とアスカ君の記憶していた道筋が一緒だったのかもしれない。おやっさんはなんだったかな。ファンファンフォンを渡しておくべきだったか」

 呟き、カリストはまた深く記憶の海へと沈んで行った。




 ドアを開けた瞬間に痛みもなくHP(ヒットポイント)をすべて奪われたレッドグースは、これまでの例にもれず迷宮の入り口門がある縦穴の中で気づいた。

 穴の上からさわやかで淡い陽の光と共に、不快な声が降り注ぐ。

wasted(ウェイステッド)!」

 頭上へと目を向ければ、外の明かりを後光の様に背負って宙に立つ、初老執事風の男がいた。

 迷宮で死んだ時、一時的にここで会うことが出来る迷宮の製作者、ヴァナルガンドの忠実なる(しもべ)、強化人狼ギャリソンである。

 もっともギャリソン本人はすでにこの世の住人ではなく、ここに姿を現しているのは彼の残滓でしかない。

 ともすれば人それを「幽霊」と呼ぶ。

 そのギャリソン氏の残滓はニヤニヤと、いかにも楽しそうにレッドグースの元へと降りる。

「そんなに嬉しいですかな?」

 レッドグースはいくらか呆れたように息を吐くと、平坦な視線でかの人狼を眺める。

 ギャリソンはすぐに低く笑って肩を揺らした。

「ああ、嬉しい。人の不幸はいつだって蜜の味だ。その不幸をもたらしたのが、私の作ったダンジョンだというなら、なお嬉しい」

 そうですか、と肩をすくめ、レッドグースは「なんの身にもならない幽霊との会話などさっさと切り上げよう」と思いつつ、よっこらせと立ち上がろうとした。

 ただ、ふと興味を覚えて立ち上がるのをやめ、しばし考える。

 浮かんだ疑問と、それに対する一つの仮定。

 そして口を開く。

「ああ、一つ教えて下さらんか」

 それは答え合わせの様な質問であった。

「答えられることだけ答えるが、それでもいいか?」

「結構ですとも」

 レッドグースは返答があったことに満足して、その問いを口にした。

「いろんな古いゲームを知っているようですが、あなたが当時、持っていたパソコンは何でしたかな?」

「FM-7だが。それが?」

「いや、なんてことない、他愛もない世間話ですな。ちなみにワタクシはX-1ですな」

 表情を緩め、レッドグースは座っている床の感触を手でしばらく確かめて、それからゆっくりと立ち上がった。

 ギャリソンは少し怪訝そうに眉をしかめ、だがすぐに肩をすくめて首を振る。

「そうかい。まぁなんでもいい。またここで会えることを楽しみにしている」

 そう言って、虚空に消えた。

 と、同時に、レッドグースの脳裏から、たった今かわしたはずの会話の記憶も、また掻き消えたのだった。


ちなにみアスカさんのMSXは、物置の奥に仕舞われていた、お父さんの持ち物です。

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