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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#02_ぼくらの逃亡生活

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03お宅拝見

「ハイヨー」

 アルトがそれらしい掛け声と共に御者台から馬に鞭を入れる。するとそれまでそ知らぬ顔だった馬もヒヒンと引き締まった声を上げて歩き出した。

 走らせる必要はない。ひとまず街道から除けるだけである。

 東からの一行に「休憩中だったが、自分たちの為に道を空けてくれるのだな」と思わせるように、さりげなくやらなくてはいけない。

 スキルを持っている、と言う事は身体が覚えている、と言う事だが、気持ちの上では当然、初めての御者である。アルトは内心おっかなびっくりであった。あまり操作が荒々しいと、東からの一行に気取られるかもしれない。

 初めてなのに嫌なプレッシャーがアルトに圧し掛かる。降り始めた小粒の雨も、アルトの心を暗鬱な方へ導く手伝いをするようだった。

 しかし重ねて言うが、この世界では『スキルを持っている』と言う事は『出来る』と言う事と同義語なのである。もちろん、ロールと呼ばれる成功失敗の判定がひそかに行われるのだが、『ライディング』スキルを持っている以上、『荷馬車を十数メートル、ゆっくり動かす』程度の行為では、失敗の確率はきわめて低い。具体的に言うとおよそ3%程度だろうか。

 そんなわけで荷馬車はアルトの望んだ通り、街道から僅かに外れた草原上にゆっくりとその車輪を降ろした。

「スキルってすごいな。『ライディング』取っといてホント良かった」

 膝をガクガクさせたアルトが、そう呟いたのも無理はない。本当のところ、街道から縁石を乗り越えて、未舗装の草原に荷馬車を降ろした時に、ゴッという鈍い音が荷台からしたが、あえて目を瞑る事にした。積んであった荷物が少し跳ねたか崩れただけだろう。たぶん、そうに違いない。

「ささ、のんびりしてないで隠れますぞ」

 街道から数メートル離れて荷馬車が停止すると、レッドグースはその鈍重そうな身体を翻して御者台へと登り、そのまま幌のついた荷台へを身を隠した。マーベル、モルトも後に続き、初めから御者台にいたアルトが幌の暖簾をくぐったのは最後だった。

 くぐって、アルトはギョッとした。荷台がすでにスシ詰め状態だったからだ。

 もともと広くはない荷台である。半分は銀髪の少女が買い付けてきたと思われる、日用品や食料が占めているし、残った半分のスペースも、車座になったマーベル、モルト、レッドグースの3人と、ぞんざいに転がされた銀髪の少女で満杯だった。ふと銀髪の少女の頭にタンコブが見えたような気がしたが、アルトは、3人が少女を端にひっ転がした時に出来た物に違いない、と思うことにした。

 それにしても困った。すでに満員でアルトが入り込むスペースが見当たらない。

「アっくんは外にゃ」

 立ち尽くすアルトにそう宣告するのは、狭いスペースで器用に身繕いするマーベルだ。

 その言葉を聴き、アルトの顔面からは血の気が引いた。東から来る一団が追っ手だとすれば、当然、アルトたちの人相描きも手にしているだろう。そんな連中の前に、のほほんと姿を晒せるほど、彼の肝は据わっていない。

「え、いや、ちょ、そ、外、雨降ってるし、オレも入れてくれよ」

 慌てるアルトを尻目に、車座の3人は動く気配も見せない。

「やけど、御者もいない荷馬車が草原に放置されとったら怪しいやん?」

 確かにその通りだ。もしかしたら怪しんだ一団が調べに来るかもしれない。だがしかし、だからと言って指名手配中の男が堂々と出ていていいものだろうか。

「大丈夫、人相描きと言っても所詮は絵。少しばかり風体を変えてやればわかりゃしませんぞ」

 結局、その一言で、アルトの退路は断たれたと言っていい。


 取り急ぎ『鎖帷子(チェインメイル)』や『無銘の打刀』と言った『傭兵(ファイター)』の装備をはずし、替わりにレッドグースのベレー帽を目深にかぶる事にした。

「こ、これで本当に大丈夫なんだろうな?」

「なに、何処にでもいるヒョロ坊にしか見えませんぞ」

 この世界に来てから少しばかり筋肉が増強されたとはいえ、もともと本格的なスポーツもしていなかったアルトである。装備品の数々をはずしてしまえば、レッドグースの言う通り、何処にでもいる細身の少年でしかなかった。

 だが、その一言は、多感な少年の心を深く抉った。もし元の世界に帰る事があれば、漫画週刊誌にある通販で、まったく簡単なトレーニング器具でも買おう。そう心に誓わざるを得なかった。

 そうしている間にも、東からやって来る一行は刻一刻と進み、アルトが何とか体裁を整えた頃には、もう目と鼻先だった。

 ここまで来ればこの一行の詳細も目視できる。

 ラ・ガイン教会の聖印(ホーリーシンボル)である山十字を刺繍した旗印を掲げたその一行は、5人の騎兵と、1頭引きの小型の箱馬車(クーペ)という構成だった。

 騎兵は白と赤を基調としたサーコートの下に銀に輝く『鎖帷子(チェインメイル)』を着込み、腰には『両刃の長剣(ロングソード)』を佩き、さらに『円形の小盾(バックラー)』を背負っていた。

 この装備構成はアルパと言う街で見たことがある。おそらくラ・ガイン教会『教会警護隊』所属の『警護官(ガード)』だ。

 そして小型の箱馬車(クーペ)。こちらは警護隊の物々しさとは裏腹に、質素ながら優美なデザインの物で、どこかの貴人が乗っている事を連想させた。

 どうも追っ手という風体ではない。教会の高官とその護衛だろうか。

 表情に硬い笑顔を張り付かせたアルトは、その一行となるべく目を合わさぬ様にしていたが、『警護官(ガード)』の1人がこちらを見止めたので仕方なく軽い会釈をした。

 するとその『警護官(ガード)』は整った列から踵を返し、小型の箱馬車(クーペ)に寄ったかと思うと、二言三言話して、すぐに速歩でアルトの方へとやって来たではないか。

「まずい、バレたか?」

 面倒なことになった、とアルトは硬い笑顔をわずかに歪ませた。

「何とかやり過ごすにゃ」

 荷馬車の幌に隠れた連中と小声で話し、高鳴る鼓動を無理に押さえつけ、アルトはもう一度頭を下げた。

「き、騎士様、どうかされましたか?」

 搾り出した声は半分裏返ってしまい、聞いていた幌の中のモルトは、目を掌で覆った。

「何かお困りの事でもありましたら、と思いまして」

 思いの他、優し気な声に、伏せていた目を上げてみれば、その『警護官(ガード)』はアルトとそう変わらぬ年頃の、亜麻色の髪をした柔和な少年だった。

「いえ、と、特には。ここで休憩してただけでございます、よ?」

 アルトのあまりの大根ぶりに、幌の中のモルトは、顔をふさいでのた打ち回った。さっきから、心配されているのかと思っていたら、実は笑いを堪えているのかもしれない。

「強いて言えば、アンタらが来たのが困り事ですな」

 小声でささやくレッドグースに、アルトは後ろ手に肘を入れておいた。半分はモルトに笑われた事への八つ当たりでもある。

「あ、いえ。どうやらゴブリンと争われたようなので」

 柔和な『警護官(ガード)』の言葉で、アルトの心臓は喉から飛び出るかと思うほど跳ね上がる。そういえば先に争ったゴブリンどもの後始末をつけていなかった為、その躯は街道周辺に散らばっているではないか。

「その、ゴブリンに襲われたところ、通りすがりのお侍様に助けていただきまして、今は気分の悪くなった妹を休ませているところ、です。はい」

 つい早口になってしまう焦り調で、必死にいい訳をひねり出す。だが、それを聞いたモルトなどは床を叩いて笑い出す始末。アルトはもう生きた心地がしなかった。

「…妹さん、元気そうですね、安心しました。ではお困りのことがありましたら教会へどうぞ。われらラ・ガイン教会は、迷える羊にいつでも手を広げています」

 柔和な『警護官(ガード)』は少々苦笑いを浮かべながら、反転して護衛の列に戻っていった。

 アルトなどはもう、3日分の疲労を一度に背負った気分で、ずりずりと御者台に身を崩すのだった。



 さて、少女は固い板の上で目を覚ました。

 なぜ自分はこんな所に寝ていたのだろう、と、まだぼんやりする頭で考える。するとその頭の鈍痛に気付いた。初めは寝すぎたことによる頭痛の類かと思ったが、どうも外傷に由来するもののようで、早い話がタンコブが出来ていた。

 さらに深まる謎に、未だ覚醒しない脳で疑問の符号をぐるぐると巡らせるが、彼女の近くであがる数人の笑い声に邪魔され、すぐに考えるのを止めた。

 不思議なもので、頑張って考えている時より、諦めた時ほど頭は冴える事がある。彼女は徐々に覚醒する脳裏に、自分の使命を思い浮かべることに成功した。

 そう、彼女にはやるべき使命があるのだ。

 彼女、銀髪の少女がゆっくりと身を起こし、辺りを見回す。そこは自分が用意した小さな荷馬車の幌の中で、なぜか大いに笑い盛り上がる冒険者たちの姿があった。

 銀髪の少女は感情のこもらぬ冷めた声で呟いた。

「なに、これ。ちょっと、想定外」




「ほほう、なかなか立派なお屋敷ですな」

 目を覚ました銀髪の少女に招待され、アルトたち一行は街道から数時間ほど離れた小さな村にある、彼女が住んでいると言う屋敷を訪れていた。

 レッドグースが言うように、屋敷は2階建ての立派な門構えで、古くはあるが良く手入れされているのが一目でわかるほどに、庭木なども整えられていた。

「こここ、ここには一人で住んでるんですか?」

 自分好みが多分に入った美少女を前に、アルトは緊張しながらも果敢に声をかけた。2ヶ月も一緒にいるのでモルトには慣れたが、もともと女性と話す機会に恵まれていなかったアルトである。この美しい銀髪の少女を前に、少々舞い上がり気味なのは仕方がない。

 ちなみにマーベルには初めからあまり緊張しなかった。

「いえ、父と住んでます。でも父は仕事で家を空けてます」

 アルトの問いに、銀髪の少女は穏やかな笑顔を浮かべながら答える。とにかくアルトたちと挨拶を交わしてから、めったに笑顔を絶やさぬ少女だった。

「お父さん、お仕事なんにゃ?」

 しかしこのマーベルの問いには笑顔を浮かべるばかりで返答は無かった。

 彼女の名前はナトリと言った。

 街道上で彼女が目を覚ました後、互いに名乗り合い現状を確認しあったのだが、以下はその時の会話の一部だ。


「近隣の村で買い付けた品を運ぶ途中にゴブリンに襲われたんです。私は『精霊使い(シャーマン)』の素養がありますので、何とか応戦したのですが、多勢に無勢で結局、力尽きてしまい…」

 よよよと目を伏せるナトリにいいトコ見せようと、アルトは大仰に自分の胸を叩いた。

「ご安心ください。ナトリさんと荷物は我々で守りました。いや、アナタは運がいい」

「その守った積荷の一部はワタクシたちが、少々食い散らかしましたがな」

「おなかペコペコだったにゃ」

「えらいすんません」

 続く各々の台詞のせいで、ちっともいいトコにならなかったので、アルトはがっくりとこうべを垂れた。

 しかしナトリはその話を無言の笑顔で受け流し、あまつさえ深々と頭を下げる。

「いえいえ、あなた方は命の恩人です。お礼もかねてぜひ、我が家へいらしてください。質素でお恥ずかしいですが、精一杯おもてなしさせていただきますから」

 こうした按配で一行は街道を離れ、このナトリの屋敷へと招かれる事になった。

「ところでGM、この人、『精霊使い(シャーマン)』何レベルにゃ?」

 同職ということで気になったのか、マーベルは薄茶色の宝珠(オーブ)に小さな問いをかける。宝珠(オーブ)はしばしの無言の後に、マーベルに習って小声で答えた。

「抵触事項ですが…マーベルさんよりは高いですね」

「…NPCの癖に……」

 偶然出会った村娘にいきなり上を行かれたことがショックだったのか、マーベルは悪態をついた後しばらく無言となった。




「ひとまずこちらでお寛ぎください」

 そう言って通されたのは、食堂のようだった。

 5人が入ってもまだ余裕がある広さのその食堂には、やはり5人が席についても十分余裕のあるテーブルが据え付けてあり、建物同様、古いながらもよく手入れされているようだった。

 アルトたちはすぐ席にはつかず、しげしげと食堂を見回した。

「ゼニー殿のあの屋敷よりは、ワタクシは好きですな」

 誰に語るでもなく、レッドグースがそうもらす。ゼニーの屋敷、と言うのは、以前、紆余曲折の後にゴブリンから奪回した、不動産商ゼニー氏の持ち物件のことだ。あの屋敷に比べれば、ナトリの屋敷は質素だが、逆に閑静で落ち着いている、とも言える。

 ナトリはそんな感想には気も止めず、何者かを呼ぶように手を叩く。

「ベルタ、お客様にお茶の用意をしてください」

 使用人でもいるのだろうか。しかしこの屋敷ではナトリと父の二人暮らしだと、先ほど聞いたばかりだったので、モルトは人差し指を頬に当てて小首をかしげた。

 そんなモルトの疑問をよそに、食堂と厨房を結ぶ戸が小さく開いたかと思うと、これまた小さな頭が、おずおずとその影から半身を覗かせ、すぐさまトテトテと小さな足音を立ててナトリの背に隠れるように駆け込んだ。

 それはエプロンドレスに身を包んだ、マーベルよりさらに幼く見える、黒い髪をおかっぱに切りそろえた小麦色の肌の幼女だった。

「かーわーいー。なんやこれ、妹? あんまり似てへんな?」

 モルトが瞬間移動でもした様に、ナトリの背に隠れる幼女の下へ屈み込む。ベルタと呼ばれた幼女は、恥ずかしそうにナトリのスカートを握り締めて顔を隠した。

「ベルタ、お客様にお茶をお出しして?」

 ナトリがやさしく、もう一度言うと、ベルタはハッと顔を上げて、コクコクと頷いた。そしてモルトに軽く目礼すると、来た時と同じ様にトテトテと厨房へと去っていった。

「ブラウニーにゃ」

「ぶ…にゃ? なんだって?」

 マーベルの呟きが良く聞こえず、アルトが間抜け顔で聞き返す。だが言を引き継いだのは薄茶色の宝珠(オーブ)だった。

「ブラウニー。スコットランドの伝承に出てくる妖精です。日本の座敷わらしみたいなもの、ですかね。『メリクルリングRPG』では『精霊使い(シャーマン)』の使役する精霊のひとつです。4レベルと2レベルの『精霊魔法』に、ブラウニーに家事をさせる魔法があるんですよ」

「アタシも使えるにゃ」

「マーベルさんの使える方は、寝ている間だけですけどね」


 **********


 2レベル精霊魔法『メイトラン』。4レベル精霊魔法『ハウスサーバント』。共にブラウニー1人を使役して建物内の雑用に従事させる事ができる魔法である。

 ただし2レベル精霊魔法『メイトラン』でブラウニーを使役できるのは、術者が寝ている間だけである。

 4レベル精霊魔法『ハウスサーバント』は効果時間6時間、昼でも夜でも制限はない。

 また、通常の精霊魔法では、2種類以上の精霊を同時に使役する事はできないが、『ハウスサーバント』に関しては、他の精霊使役の妨げにならないという特徴がある。

 ただしどちらもブラウニー複数を使役する事はできない。


 **********


「ん? でもおかしくないか?」

 GMの説明を受け、一度はなるほどと頷きかけたアルトだったが、ふと、浮かび上がった矛盾点に気付いた。

「にゃにが?」

 マーベルはその矛盾に気付かなかったようで、ねこ耳をゆらして首を倒す。

「だって『ハウスサーバント』の効果時間は6時間なんだろ? でもナトリさんはどう考えても6時間以上外出してただろ」

 アルトの指摘で、一同が小さく「あっ」と手を打った。

 確かに、この屋敷に到着してからナトリは彼らの目の届く場所に常にいたが、精霊魔法を使用していない。さらに近隣の村に買い付けに出かけていたので、少なくとも6時間以上は外出しているはずだった。

 なら、このベルタと呼ばれたブラウニーは、誰がどうやって召還したものなのか。

 ナトリはその問いにも笑顔だけで返答とし、代わりにベルタを呼んだときと同じ調子で手を叩いた。

「アン、リンダ、グーニー、荷を降ろしますから手伝ってください」

 すると一行が入ってきたのと同じ扉から、新たに3人の小麦色の肌の幼女が入ってきた。もちろん3人ともブラウニーである。

「あ、あれ? 『ハウスサーバント』は1人だって?」

 説明を聞いたばかりのアルト、もともと知っていたマーベルとGM、3人が三様に驚きを示し、対してナトリは何の回答も示さず、3人のブラウニーを連れて部屋を辞した。

「しばしお寛ぎください。私は荷を片付けてきますので」

 残されたアルトたちはしばらく無言で考え込み、その疑問の外にいたレッドグースは別のことで頭をひねっていた。

「ようじょ、ようじょか。『精霊使い(シャーマン)』を今からでも取るべきですかな」

「おっさん、やめとき」

 その呟きに、モルトはため息をつきながら手の甲を差し出すのだった。



「考えられるのは『大魔法文明』時代の遺産ですね」

 ベルタが拙いながらも危なげなく入れてくれたお茶を前に、薄茶色の宝珠(オーブ)が語りだした。

「『大魔法文明』自体は、『魔術師(メイジ)』による文明ですが、『神聖魔法』も『精霊魔法』も大いに研究されましたから、現代の魔法より高度だったはずです」

『大魔法文明』とは、メリクルリングRPGの世界における古代文明のひとつで、現存していないような、数々の高度な魔法で栄えた文明である。

「つまりその当時のアイテムか、魔法自体かを、ナトリ殿が持っている、ということですかな」

「それって結構えらいことちゃうの?」

「えらいことでしょうねぇ。資産価値にしたら、それこそ天文的な数字になるかもしれません。もっとも売ろうとも思わないでしょうし、買える人もいないでしょう」

「マジか。えっと、ベルタはなんか知らないか?」

「?」

「このお茶、美味にゃ」

 しばらくはそんな話題で持ち切りだったが、上記のような一応の回答らしい予測が出たところで会話が途切れた。

「さて」

 と、途切れたところでレッドグースがおもむろに席を立つ。

「おや、どちらへ?」

「ちょっと雉撃ちですな」

 トイレの事である。

 そう言いおき、レッドグースはふらっと部屋を出て行った。一同もめったな事はなかろうと、気にも留めずに見送った。

 だが、レッドグースがこの部屋に戻ることは二度と無かった。

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