18野心と報復と仇討ちと
第9章のここまでのあらすじ
タキシン王国の内戦において、アルト隊は『王太子派軍』の協力者として参戦することとなった。
『王太子派軍』は王太子下のタキシン王国軍とレギ帝国からの派遣軍の混成軍だ。
ところが『エルデ平原会戦』『ロイデ山攻略戦』と、数で勝る戦に『王太子派軍』は立て続けで敗北。
また、その敗戦により、『王太子派軍』は多数の王国兵と総司令である騎士団長ハーラスを永遠に失い、首都タキシン市へと戻った。
そして手負いの『王太子派軍』は起死回生の一手『鋭い矢作戦』の展開を決定する。
その作戦とは、本隊にて『ロイデ山』の敵を引きつけつつ、アルト隊が敵本拠地『ロシアード市』にて敵首魁を討つというものだ。
いくつかの陽動支援を受け『ロシアード市』に潜入したアルト達は、見事、王弟アラグディアを討ち果たす。
だが、撤退のために義兄弟エイリークたちと合流したところで、彼らは『王弟派軍』の将軍であり、アルト少年の出身『ライナス傭兵団』の裏切り者、ベルガーと行き会うのだった。
粉微塵となった『ロシアード市』の門前で、計らずも各陣営から声が上が上がる。
「アルト、俺たちでベルガーの野郎をやるぞ」
「ヒビキ、冒険者どもはお前に任せる。小僧どもは俺がやる」
先の言葉が赤毛の『魔術師』・エイリーク。後の言葉が野望の威丈夫・ベルガー将軍だ。
「オウ!」
それを聞いたアルトの口から、不思議とすんなり返事が出、同時にエイリークの前へと駆けだした。
だが裏腹にアルトの心の中では葛藤があった。
少年アルトの記憶がどうあれ、今の彼はアルト隊の前衛であり盾役だ。
その自分が『ライナス傭兵団』の仇討ちの為とは言えアルト隊を離れるのに抵抗があったのだ。
だというのに、言葉と身体は動いてしまった。
これはこれまでにもあった、彼の中で事実として存在する、この世界で生まれ育った少年アルトの自己主張だ。
結果、ベルガー将軍の前に対峙したのは、アルトとエイリーク。そしてエイリークの妹分を自称する人形姉妹が次女、金緑色の『魔操兵』を操るプレツエルとなった。
またアルトを追いかけようとした残りのアルト隊の前には、紺装束の『シノビ』少女・ヒビキが立ちふさがった。
「む、アルト殿と分断されてしまいましたな」
出鼻をくじかれ、最後衛にいた酒樽体型の中年ドワーフ・レッドグースが呟くが、これにはすぐ、アルトに次ぐ前衛でもある白い法衣のモルトが返した。
「どっちゃにしろアレ相手やったら、前衛も何もないで」
シノビ少女・ヒビキがアルト隊を仇として記憶しているなら、アルト隊もまた彼女との戦いを憶えている。
以前の戦いでは、彼女の使うスキルでアルト隊後衛組は散々かき回されたものだ。
「厄介ですな」
「にゅ。だけどアタシもあの時のアタシじゃないにゃ」
しかし、後衛組の中でもっともHPが低いマーベルは、怖れるどころか不敵に笑みを漏らすのだった。
「おいエイリーク。ベルガーの野郎、あんな剣持ってたか?」
ベルガー将軍と向き合い、まずアルトが怪訝な顔で首を傾げた。
将軍閣下の構えた『両手持ち大剣』。
鈍色の輝きの中に禍々しい血のような赤が這い回っている。
明らかに普通の剣ではない、が、少年アルトの記憶の中にこの剣についての情報はなかった。
どころか、『王太子派軍』のハーラス団長を討った時も持っていなかった。
「おお? コイツが気になるか」
そんなアルトの疑問を聞きつけ、エイリークが答えるより先に当のベルガーがニヤリと笑った。
「この魔剣は確かに強ええが、戦争みたいな集団戦じゃ、ちと使い辛えのよ。だが今なら存分に使えるってもんだ」
言うなり、まだ間合いがあるというのにベルガーが大剣を振りかぶる。
「気をつけろアルト! 何かやる気だ」
警告がエイリークから飛ぶや否や、その大剣は横薙ぎに払われた。
そして剣の切先がベルガー将軍の足元に弧を描き、すでにクレーター状に陥没した地面をえぐった。
そこで、互いにえもいわれぬ沈黙が流れる。
ただ、沈黙は長くはなかった。
「なんだ?」
何かに気付いたのかエイリークが疑問を呟く。
するとそれに呼応でもするかの様に、えぐられた地面から2つの何かが湧いて出た。
それは蒼褪めた肌の虚ろな目の人型だ。
「げ、ゾンビィか」
アルトが気持ち悪さから、つい声を上げる。
知り得ない怪物名は、例え元の世界で知っていたとしても語る事は出来ない。
これはこの歪んだ世界のルールであるが、アルトは過去にゾンビに遭遇した事があり、後にカリストの解説を経てその存在を知りえた。
ゆえにその名を叫ぶに至ったのである。
ちなみにいつ会ったかと言えば、この世界に来たごく初期の頃、ニューガルズ公国はアルパの街の『ラ・ガイン教会』だ。
だが、残念な事にそれはゾンビではなかった。
その事実は『魔術師』だけでなく『学者』の『職業』も取っている赤毛のエイリークからもたらされた。
「いや、あれはゾンビじゃねぇ。レッサーヴァンパイアだ」
「吸血鬼!」
アルトはその言葉で心臓を縮み上がらせる。
『吸血鬼』はおおよそ多くのファンタジー作品やゲームにおいて、相当な強者として描かれる。
場合によっては人間社会に溶け込む事も可能なかの怪物は、時に絶対強者ドラゴンよりも厄介であり、場合によっては街ひとつ、いや国ひとつを壊滅させる事も可能だ。
現に『メリクルリングRPG』でも、『国墜し』という二つ名で語られる『ヴァンパイア』の伝承もルールブックにチラリと記述があった。
だからこそ、アルトは恐れおののいた。
だが、それを察したか、並び立つ金緑色の巨大全身鎧がすぐに元気付けるかのように笑い飛ばす。
「はっはっは、アルト殿。あんなモノ恐れるに足らずでござる。吸血鬼は吸血鬼でも『レッサー』が付くなら、相手はたったのレベル1のザコ。プレツエルの『岩融』にかかればひと薙ぎでござるよ」
などと言いながら、手にした『長刀』をブンブン振り回した。
『岩融』とは、その『長刀』の銘なのだろう。
それを聞き、アルトはホッとため息を付いた。
レベル1ではまさにザコ中のザコ。そんなザコが『吸血鬼』の名を冠していいのか、などとさえ思えてしまう位である。
実際のところ、『メリクルリングRPG』の『レッサーヴァンパイア』は、ゾンビに『吸血』『疫病』という特殊攻撃が加わった程度で、本物の『吸血鬼』が勢力拡大の為に量産するものだった。
量産ゆえに性能もお察しなのだ。
しかし、だからこそアルトには引っかかる事があった。
アルト達のレベルを上回る『傭兵』ベルガーが、そんなザコを、なぜ魔剣の力を使ってまでこの場に召喚したのか。
だが、そんな杞憂はこれからの戦闘へ向けた意識により押し流された。
「おお、『レッサーヴァンパイア』やって。『イクソシズム』、こっちからで届くやろか?」
「ちょっと遠いですね」
シノビ少女ヒビキと対峙したうちの白い法衣のモルトが呟くが、その言葉はあえなくGMたる薄茶色の宝珠に否定された。
『イクソシズム』は『聖職者』の魔法で、低レベルの『不死の怪物』にさまざまなペナルティを付帯する。
「未だ戦闘フェイズが開始していないとは言え、向こうに気を取られている場合ではありませんぞ」
盾役不在で隠密性能重視とは言え『傭兵』と言う『職業』を相手にしなければならないのに向こうの心配ですか、などとため息混じりに苦言を吐くレッドグース。
いつもなら一番お気楽な彼が真剣になるのは、当然、自らが危険に晒される事になるからだ。
「ごめんちゃい」
ところがこれに軽い言葉で謝罪を返すモルト。
まぁ彼女は前衛職の『警護官』持ちなので、これまでもアルトと並んで近接戦をこなした経験があるからこその余裕かもしれない。
「開始、していないにゃ?」
と、そこへ首をかしげたのはねこ耳童女マーベルだ。
「ええ、まだ戦闘フェイズは始まっていません。ですがもうすぐ…」
彼女への回答は、その腰のベルトポーチに収まっている薄茶色の宝珠だ。
その元GMが言いかけたところで、マーベルは言葉をかぶせて小さな手の平を虚空に向かって突き出した。
「今の内にゃ。『勇気の精霊』召喚!」
「承認します」
マーベルの言葉が空気に融ける。
ねこ耳の少し上の宙に忽然と六角形の光が現われた。
すでにお馴染み、コブシ大ミツバチの姿をした勇気を司る精霊の登場だ。
「戦闘フェイズ、開始です」
元GMからその様に告げられたのは、その直後の事だ。
マーベルは1ラウンド得した事に小さくガッツポーズをとるのだった。
薄茶色の宝珠から上がった、戦闘開始の声を聞き、気を引き締めなおしたアルトが大太刀『蛍丸』に手をかける。
『蛍丸』は彼の背に担がれているが、柄は左肩側にある。
その打刀より長めの柄に両手を沿え、まるで前方に投げ飛ばすかのように勢い良く引き抜いた。
シャンと言う高い金属音とともに現われた長い刀身は、うっすらと金色の光を湛え、虚空に残像を描きながら中段へと構えられた。
普通の打刀などを背に担ぐ場合、柄は利き手側に寄越すのが一般的であるが、大太刀ともなると、こうして距離を稼がないと抜くに抜けないのだ。
そうして各々の戦闘準備が済んだ頃、敏捷値において最速であるねこ耳童女マーベルが行動を開始する。
「先手必勝、潜る前にやるにゃ。『ブレイブニードル』!」
「承認します」
元GMの声を通して世界が魔法を認めると、瞬間、マーベルの頭上に滞空していたコブシ大ほどもある蜜蜂が螺旋旋回を始め、すぐさま一本の『騎兵の尖槍』になった。
「貫けにゃ!」
そしてマーベルが右手で前方を指し示すと、『騎兵の尖槍』は真っ直ぐに飛翔した。
6レベルの『精霊使い』マーベルが使える最強の攻撃魔法『ブレイブニードル』は、実のところ同レベルの『魔術師』『聖職者」という『魔法使い』と比べても、抜きん出た攻撃力を持つ。
その鋭い精霊の尖槍が紺装束のシノビ少女・ヒビキへと突進する。
「ちっ」
ヒビキは咄嗟に身をかわそうとするが、この尖槍は尖槍であって尖槍では無い。
その正体は歴とした意思を持つ精霊なのだ。
よってかわすことなどできようも無く、彼女の紺衣装は鋭い光槍で深く突かれる結果となった。
ヒビキの脇腹から赤い鮮血が上がる。
これによりヒビキには大きな打撃を与えたが、さすがに一撃必殺とは行かない。
彼女もまた高レベル『傭兵』であるので、魔法に対する防御策もいくらか持ち合わせているのだ。
致命傷とは行かないまでも大きな痛手を負ったヒビキは、流れる血をそのままに屈み込んで地に手を着く。
もちろん、痛みで膝を屈したわけではない。
それは次の瞬間に彼女の唇から漏れた言葉により証明が始まる。
「『忍法・影潜り』」
地に着いた手。いや、それは地ではなく、自らが地に落とした自らの影だ。
彼女の言葉とともに世界に認められたそのスキルは、同時に発動を開始。すなわち、ヒビキがズブズブと自らの影の中に消えていったのだ。
『傭兵』に存在する『忍ビルド』と呼ばれる長い苦難のスキルツリーを辿った末に身につけることの出来るこのスキルは、隊列などに影響されずに戦闘フィールドを移動する事が可能だ。
しかもその移動を他人から見破る事は難しく、彼女はたやすく敵の背後を取る事が出来るのだ。
「あちゃ、潜られた。みんな気をつけるんや」
白法衣の乙女・モルトに言われるまでもなく、各員はどこに現われるか解らないシノビ少女に対し、最大現の警戒にあたる。
そして続きモルトは自らの行動に出る。
「ウチは襲撃に備えて『ネメシスブレイド』や」
「ではワタクシはシノビ殿が現われるまで『ハイディング』させていただきましょう」
「ともに承認します」
言うなり引き抜いたモルトの『鎧刺し』が怪しい赤の光を湛える。『警護官』の迎撃用スキルだ。
そして酒樽紳士レッドグースは、スキルの力で虚空へと掻き消えた。
同ラウンド。
危険に晒されているアルト隊の後衛組だが、アルトたちもまた、そちらを気にするほどの余裕はない。
野望の狂士ベルガーがレッサーヴァンパイアを召喚した事で数の上では3対3。
レッサーヴァンパイアがザコと言うので数に入れなかったとしても、ベルガーは『英雄目前』と言われる事もある強者だ。
メリクルリングRPGで『英雄』とは、すなわちレベル10以上の事をさす。
ならば『目前』と呼ばれたベルガーは9レベルと言う事であり、対峙するアルトやプレツエルのレベルが7なので2レベルの差がある。
この世界における2レベルとは、数で押せば勝てる可能性も出てくる、という実力差なのだ。
つまり3対1でも5分の勝負。気を抜くわけには行かないだろう。
「さて、攻撃魔法でもぶち込んでやりたいところだが…」
アルト、プレツエルと比べて素早い『ミスリルの魔導師』の異名を持つエイリークが少しばかりの迷いを見せる。
ベルガー憎しの感情からすれば、とにかく殴りつけてやりたい。『魔術師』なのでそこは攻撃魔法。
そういう思いがあるのだが、かといって3人全員でとにかく攻撃一辺倒で倒せるかと言えばそうとも言い切れない。
ならばここは、と、エイリークは瞬間伏せた顔を上げた。
「『ファイアアームズ』を『魔法変化』。2倍消費だ」
言い放ち、ミスリル銀製の右義手手首を左手で握る。しばし力を込めるように震え、カッと開いたミスリル銀の右手の平には2つの火球が現われた。
火球は解放され螺旋状に宙へと舞い上がると弧を描いてアルトとプレツエル、それぞれの武器へと巻きついた。
魔法の炎を纏ったそれぞれの武器。
この魔法を受けた武器は、攻撃の度に炎による追加ダメージで敵を襲うのだ。
「奴の首を取るのはお前らに任せる。頼んだぞ前衛」
「おう」
「任せるでござる」
エイリークの魔法を己が武器に貰い、2人は意気込んで声を返した。
「さぁ準備は終わったか? なら俺の番だ。『バンディッドストライク』!」
ここでアルトたちより高い敏捷を持つベルガーが、手にした魔剣『血の饗宴』を天に掲げる。
すると唐突に現われた黒雲から不吉なる雷が降り注ぎ剣身に宿り、そこから豪風を伴った一撃が繰り出された。
『バンディッドストライク』は『傭兵』のスキル『両手剣修練』の先にある攻撃スキルだ。
それは雷撃などによる打撃力の大幅な強化だけにとどまらず、敵を吹き飛ばすノックバック効果も併せ持つ。
この凶撃をその身に受けたのは、ミスリル銀の大鎧。いや『意思伝達操作型ゴーレム』を駆るプレツエルだ。
「どっせい、でござるぅ」
どこか間の抜けた台詞を上げつつ、手にした長刀『岩融』にてベルガーの一撃を受け止める。
重量級同士の激突。
さらに言えば『バンディットストライク』によるエネルギーの激突と霧散。
この勢いは風圧となって周囲に撒き散らされた。
「ほお、コイツを受け止めるか」
「無傷と言うわけにはイカンでござるが」
刃同士とともに少ない言葉を交わし、両者は飛び退るように分れて距離をとる。
傍目からは重装甲のプレツエルが完全に受け止めたように見えるが、衝撃が両腕を通して身体を蝕んでいた。
とは言え、全HPからすれば微々たるものだ。
「お返しでござるよ!」
少しばかり痺れる両の腕に力を込め、プレツエルは長刀『岩融』を上段に構え、溜めもせず振り下ろした。
「『木の葉打ち』でござる!」
刃が弧を描くが同時に叫びを上げる。
それは『傭兵』の中でもアルトと同じ『サムライ』ビルドである者が放つスキルだ。
長刀の刃が青い稲妻を纏い、大振りからの体勢が戻り切っていなかったベルガー将軍の肩口に叩き込まれる。そして同時に、刃に纏わり付いた稲妻がベルガーの全身を襲った。
武器によるダメージと付帯効果の麻痺。この2段構えこそ、スキル『木の葉打ち』の真骨頂だ。
だが、さすが英雄目前の実力者。将軍ベルガーは全身を苛む稲妻の脅威に耐えた。
つまりダメージこそ通ったが、付帯効果『麻痺』には掛からなかったというわけだ。
「こいつは驚いた。その形で『傭兵』かよ」
『鎖帷子』の上から将軍章であるモール付きの『サーコート』と言う戦士にしては軽装備の威丈夫ベルガーが一瞬目を見開いて声を上げる。
肩口から切られた傷も浅くは無かろうが、気にした風もない。
ベルガーが驚くのも無理は無い。
本来、戦士系である『傭兵』は攻撃力重視であり、どのビルドにおいても『板金鎧』以上の重装備が出来ないようルール付けられているのだ。
メリクルリングRPGのルールに縛られたこの世界で、その様に決められた事と言うのは絶対だ。
ゆえに、『傭兵』のスキルを使う全身鎧と言うのは、まさに異端中の異端と言える存在であった。
ちなみになぜ可能かと言えば、プレツエルのそれは全身鎧の形ではあっても、あくまでゴーレムだからである。
そしてベルガーの疑問に誰が答える間もなく、金緑色の全身鎧の影から躍り出る者がいた。
腰を低く落とし、大太刀の峰を肩に担いだ疾風の剣士。整い切れない癖毛の短髪を風に流すその少年。
アルト・ライナーその人である。
「隙だらけだぜ。食らえ『ツバメ返し』」
全身をねじる様にして力を集め、肩を押し上げるようにして大太刀『蛍丸』を跳ね上げる。
同時に力を込めた右手の握り、そして刃をコントロールする為に柄頭に添えた左手。
まるで両手の延長の様に一連となって、淡い光を湛えた刃が弧を描く。
その長い先にある先端の速度は物理の法に則り、『胴田貫』のそれを越える。
見る知者がいればため息とともに「まさに神速」と例えただろう斬撃が、ベルガーの左肩から袈裟懸けに入った。
もちろんそれだけではない。
振り抜き、そして逆袈裟に反転し、天に向かってさらに振り払われた。
ベルガーの胸元から斜め二文字の鮮血が上がる。
「小僧が、腕を上げたなチクショウ」
「小僧じゃねえ、アルトだ。憶えておけ。お前を殺す者の名だ」
アルトは体勢を立て直し間合いを開け、残心とともに言い放った。
ベルガーはニヤリと不敵な笑みを漏らすだけだった。
戦闘が始まると描写ばかりで尺を取ってしまいますね。
どうかお付き合いください。




