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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#09_ぼくらの従軍生活

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09軍靴は前進する

第9章のここまでのあらすじ

タキシン王国の内戦において、アルト隊は『王太子派軍』の一員としてとしての参戦することとなった。

『王太子派軍』は王太子下のタキシン王国軍とレギ帝国からの派遣軍の混成軍だ。

病に臥せっているタキシン王の為の薬を研究することになったハリエットたちを首都タキシン市へ残し、アルトたちを含む『王太子派軍』は、『王弟派軍』とエルデ平原にて会戦に臨む。

ところが会戦では思わぬ奇襲を受け、『王太子軍』は大きく被害を出し、対する『王弟派軍』は、一撃を加えた後、無傷で戦場を離脱した。

すっかり復讐心を植えつけられた若き『王太子派軍』総司令ハーラス騎士団長は全軍にて『王弟派軍』を追撃することを主張。

だが『帝国軍』の長ジャム大佐は一時撤退を主張する。

そこで『空飛ぶ庭箒』を使いアルト隊が偵察することとなる。

2機の『空飛ぶ庭箒』に、アルト、モルト、カリスト、レッドグースの4名が分乗し、彼らは『ロイデ山地』へと飛んだ。

 アルト隊が偵察に飛び立つ少し前の話である。

 『ロイデ山地』裾野の森を行く約100名からなる軍勢があった。

 『エルデ平原』における会戦にて、『王太子派軍』を鎧袖一触するだけして踵を返した『王弟派軍』ご一行だ。

 先頭を行くのは野心あふれる壮年の偉丈夫、ベルガー将軍。

 そのベルガー将軍は、進む馬の足をゆっくり停止させると、森の木々の隙間から見える『ロイデ山地』における最高峰『ロイデ山』を見上げる。

 とは言え、『ロイデ山地』自体が低山の集合地帯なので、最高峰と言っても高が知れている。

 せいぜいが標高350メートル程度だ。

 ベルガーの目に映る『ロイデ山』は裾野が広くずんぐりとした体格の山で、また、山頂はまるで巨人が大剣で水平に切り取ったかのごとく、それなりの平地になっている台形の山だった。

 ベルガー将軍は先頭を進んでいたので、当然、後続が詰まり始める。

 誰もが怪訝に思ってはいたが、この『両手持ち大剣(ツーハンドソード)』使いの大男を畏怖している為、気軽に声をかけられない。

 そんな中、後尾で馬を進めていた背の低いエルフが駆け寄ってくる。

 ベルガー将軍の副官を勤めるティリオンと言う男だ。

「将軍閣下、どうかしましたか? 早く『ロシアード市』に帰りましょうや」

「いや、『ロシアード市』には帰らん」

「は?」

 このまま軍を『ロシアード市』に戻し、しかる後に新たな作戦を始めると思っていた副官ティリオンは、まさかの回答に眉根を寄せた。

「もしかして王弟派の貴族たちに嫌気が差して反旗を揚げる訳じゃないですよね?」

 まさかのまさかだが、そもそもベルガー将軍は自らの所属する傭兵団を裏切って今の地位にいるので、それもないとは言えないな、と、ティリオンは妙に落ち着いた心境でその様に問いた。

 だがその心配は杞憂でしかなかった様で、ベルガー将軍はその太い首を横に振った。

「王弟殿下の取り巻きどもにうんざりしているのは確かだ。だからこそあそこに陣を張って『王太子派軍』を迎え撃つことにするのさ」

「おお、なるほど」

 聞いて、ティリオンはおどけたように手を叩く。

 『ロシアード市』に戻れば王弟殿下の周りにいる政府高官気取りの貴族たちが、どうせまた威勢のいい無理難題を吹っかけてくるのだ。

 自分たちは戦場に立ったこともないのに、偉そうに戦略戦術論をぶって、である。

 ならば、王太子派の本拠地である『タキシン市』と、王弟派の本拠地である『ロシアード市』を結ぶ街道にある『ロイデ山地』で陣を張る、と言う選択肢も悪くないだろう。

「そこでおまえ(ティリオン)は護衛を数名連れて『ロシアード市』へ行け」

「ええ、そりゃないですよ将軍閣下」

 自分も軍務につく者として、現実をわかっていない連中にはホトホト嫌気が差していたので将軍閣下の策には大賛成だっただけに、この命令には思わず表情を歪めた。

 だが、この命令も理由があってのことで、ベルガー将軍は頑として撤回する気はなかった。

「たった100名の軍勢とは言え飯を食わねば戦えん。お前は『ロシアード市』で王弟閣下に食料を無心して来い」

「ああなるほど。私のような痩せっぽちのエルフでも、食わなけりゃ生きていけませんわな。いやはや、お任せください」

 ついでに『ロシアード市』で旨いレストランにでも寄って来るか、などと算段しつつ、ティリオンは恭しく敬礼を捧げた。



 天幕会議のあった日の夕方。

 冬の短い太陽の時間が終わる直前ほどの頃、『空飛ぶ庭箒』で偵察行を続けるアルト隊はついにベルガー将軍率いる『王弟派軍』の姿を捉えた。

 とは言え、少しばかりの予想外な様子に少しばかり困惑した。

 てっきり『王弟派軍』は『ロシアード市』に向けてひたすら撤退しているか、いるとしても隠れていると思っていたのに、当の連中と来たら『ロイデ山』山頂に堂々集合しているではないか。

 『ロイデ山』は台地状になっており、山頂は100名がキャンプしても余裕があるほどの平地がある。

「進軍経路を抑える形で陣を張るには丁度いい場所と言うことか」

「数の不利を埋めるにも、上を取ると言うのは良いのではないですかな?」

 『空飛ぶ庭箒』2号機の上から、物知り顔で戦略戦術評を繰り広げるカリストとレッドグースだが、飛ぶことで発生する空気の壁が邪魔をして、アルトやモルトの1号機にその声は届かない。

 感心して訊いてくれる人がいないと言うのは、インテリぶった人間にとって至極残念なことである。

 ところが2人の気持ちが微妙になるよりも早く、獲物は飛び込んできた。

 アルトが『空飛ぶ庭箒』1号機を2号機に自ら寄せ、疑問を発したのだ。

「『山城』ってのも聞いたことあるから、戦で上にいる方が有利なのは何となく解るんだけど、あんなの迂回して『ロシアード市』を攻めちゃえばいいんじゃないのか?」

 確かにそういう方法もあるかもしれない。

 だが、これにはカリストが首を振って否定した。

「標高が低いが見晴らしが良さそうだ。多少の迂回ではあそこから丸見えだろうね。見つけたなら、行軍中の『王太子派軍』の横っ腹を突撃で食い破ってくるかもしれない。『王太子派軍』が上手く迂回して『ロシアード市』を攻めたなら、逆に彼らががら空きの『タキシン市』へ攻め上がるかもしれない」

「つまりは、どちらにしろ『王太子派軍』は彼ら『王弟派軍』を無視はできない。という訳ですな」

 言葉を継いで結論付けてくれたレッドグースの言により、アルトやモルトは大いに頷いて感心した。

 インテリぶったおっさん2人もこれにはニッコリだ。

「ほなら、どないしたら良い(ええ)のこれ?」

 と、さらに先の結論を求めたのは白い法衣のモルトだ。

 彼女はアルトの背に掴まっているだけなので、とにかく暇だった。

 暇であるが故、話題の機会をさらに追求にかかった。

 ところがカリストもレッドグースも、これに答えるのはあえて止めにして首を振る。

「いろいろ策はあるんだろうけど、まぁ僕たちの任はあくまで偵察だからね。そういう戦略戦術については、我らが騎士団長(ハーラス)殿に委ねるとしよう。さ、もう少し陣を探ってから帰ろう」

 そうして、しばし『ロイデ山』上空を遊覧したアルト隊は、日が落ちてから『王太子派軍』が陣を張る『エルデ平原』へと帰参した。



 翌日の午前、再びアルトとカリストは司令部の天幕へ入った。

 偵察行の報告自体は、先日の帰還直後にしていたのだが、総司令ハーラス団長から「軍議にてもう一度、皆に詳しく述べてくれ」と言われたゆえである。

「皆、そろったようなので軍議を始めます。今回はアルト殿が持ち帰った情報から、如何に我らが攻め上がるかを検討します」

 アルト達が天幕内の決められた席に着くと、総司令たる若きハーラス団長が高らかにそう宣言した。

 この言葉を聞き、幾人かの軍議参加者たちにどよめきが起こる。

「あれ? 進軍か退却かを決めるんじゃなかったでしたっけ?」

「偵察に行く前はそういう話だったけはずど。うーん」

 小声でアルトとカリストがそう言を交わす。

 どよめきが少なからず起こったということは、軍議参加者たちも同じような認識だったはずだ。

 そんな戸惑いを代弁するかのように、帝国からの派遣軍の長、傷顔の頑強な騎士、ジャム大佐が手を上げた。

 その手に従ってか、ざわめきが収まる。

「ハーラス殿。進軍することはすでに決定事項なのか?」

 この問いに、ハーラス団長は静かに、だが頑とした意思を持って頷いた。

「然り。まずは偵察隊の報告を聞いて欲しい」

 と、促され、アルトは緊張しながら立ち上がり、昨晩、ハーラス団長にしたのと同じ様に、現在の『王弟派軍』の様子を述べた。


 『ロイデ山』山頂の平地部に陣を構えた『王弟派軍』。

 まずは各方面を見張るためだろう。山頂平地の縁に等間隔に兵士が配置され、また、平地部の中央に補給物資を集積。

 その物資を囲むように天幕を張っていた。

 そうした報告を聞き終えると、ハーラス団長が再び口を開く。

「どちらにしろ『ロイデ山』を砦化されては『ロシアード市』へ至るのも困難となるでしょう。なら、まだ備えが整っていないうちに攻めるのが得策と私は考えます。どうでしょうか?」

 各自、アルトからの報告とハーラス団長の意見を噛み砕くだけの時間を、しばしの沈黙ですごす。

 その上で、帝国軍側代表、ジャム大佐が応えた。

「確かにハーラス殿の考えも理があるが、次席指揮官を欠いたままのこちらも体制が整っているとは言えないのではないか?」

 次席指揮官とは、その名の通り、指揮官に万が一があった時に、指揮権を引き継ぐ者のことだ。

 この『王太子派軍』で言えば、ハーラス団長が倒れた時の予備、と言うことである。

 ただ、次席指揮官であった副団長は、先の『エルデ会戦』で戦死している。

「何も王都タキシンまで退くこともないでしょう。次席指揮官はこの後、新任を選出すればいいことです」

「ふむ」

 ジャム大佐はこの意見を聞いて、しばし思考する為に沈黙した。

 ハーラス団長も、何も強行に意見を押し通すつもりはない様で、ジャム大佐を始めとした反対派が考える時間を与えることにしたようだ。

「この場合、進むのと退くの、どっちが正解なんです?」

「正解か。難しいことを聞くね」

 その与えられた思考時間の中で、アルトは自隊の参謀であるカリストに問う。

 が、カリストも簡単には判断できないらしく、しばし顎を撫でた。

「『無視できないから積極的に排除する』というのも解るし、とりあえず退却して、『王弟派軍』が山頂で干上がるまで無視を決め込む、というのも手だと思う。まぁ砦を築かれちゃうと、確かに面倒だろうけど」

 その様にアルト達が雑談を交わしている時、他の軍議参加者達も、近隣者と意見を交わし始める。

 耳を傾ければ、どれも賛否両論ありで結論が出ない様子であった。

 そんな中、思案していたジャム大佐が意を決して目を開く。

「よろしい。ハーラス殿の進軍論に賛同しよう」

 傷だらけの顔からそんな言葉が飛び出したから、主に帝国軍に多かった反対派の者は驚きに声を上げた。

「ジャム大佐、山の攻略を1.5倍兵力では被害が大きいかと…」

 代表する様に声を上げたのは、隣に座っていた帝国騎士の大男、マクラン少佐だ。

 派遣されてきた帝国軍内では、おそらくジャム大佐に次いで実戦経験が多いだろう。

 また、会戦のような軍同士の激突を除き、山野戦、市街戦などの特殊状況ならば、実はマクラン少佐の方が経験豊富だ。

 なぜなら、マクラン少佐は野盗などの非正規戦力と遣り合うことの多い『治安維持隊』を束ねる立場なのだ。

 だが、そんな一種専門家の意見を遮って、ジャム大佐は言葉を続けた。

「ただし、次席の指揮権はこちらでいただく。その条件が受け入れられるなら、『ロイデ山』攻略も承認しよう」

 これには、不服の声を上げていた反対派諸兄も「おお」と感嘆符をもらす。

 正規軍にとって指揮権というのは大変重要であり、当然ながら、できるだけ自軍に置いておきたいものだ。

 だとすればこの条件は却下される可能性が高い。

 ならばこそ、あえてジャム大佐はその様な要求を出した。

 よしんば受け入れられたとしても、その場合は正式な次席指揮官だ。

 攻略が失敗したとしても、帝国軍の損耗は最小限に抑えられるだろう。

「よし、いいでしょう。次席指揮権は帝国派遣軍司令、ジャム大佐にお願いします」

 だが、そんな思惑を知ってか知らずか。いや間違いなく気付いていないだろう若いハーラス団長は、即答した。

 それほどまでに、ハーラス団長の復讐心は彼を支配していたのだ。

 条件を出しそれが承認されたなら、これ以上反論をすることは許されない。

 タキシン王国とレギ帝国の混成である『王太子派軍』は、かくして『王弟派軍』の立てこもる『ロイデ山』を攻略することと相成った。

「それでは作戦について吟味していきましょう」

 ハーラス団長は、おそらく徹夜で仕上げたのだろう作戦概要書を、机代わりの粗末な台に叩き付けた。



「で、なぜこうなったし」

「何か言ったにゃ?」

 数日後、『王太子派軍』が分散して『ロイデ山』を囲む中、アルトは再び機上の人として『ロイデ山』の山頂を臨む位置へと飛んだ。

 すなわち『空飛ぶ庭箒』の再利用である。

 ただし、今度の任務は偵察ではないし、搭乗メンバーが違う。

 飛び立った1機は操縦者アルト、後座にモルトと変わらないが、2号機は操縦者に急遽『ライディング』を取得したマーベル、後座にカリストという構成だ。

 なぜ『ライディング』持ちのカリストが後座にいるかというと、魔法に専念する為である。

「しっかし、こんなん上手く出来るんかな?」

 1号機後座のモルトが白い法衣を風になびかせながらそう呟く。

 小さい声ながら、なぜかその呟きを拾ったカリストは嬉々として応えた。

「『出来るかな』じゃない。やるんだよ」

 字面なら、いかにも迫力のある台詞だが、どうも言いたくて仕様がないといった風のカリストなものだから、これはまったく凄みを感じなかった。

「こちら地上。上空の様子はどうですかな? 送れ」

 と、カリストの懐にあった『ファンファンフォン』が鳴動してから声を上げる。

 もちろん、その四角く小さな石版然とした『魔法の物品(マジックアイテム)』自身が意思を持ち喋っているわけではない。

 『ファンファンフォン』は約500年前まで大陸で栄えていた、『大魔法帝国カステーラ』の遺物で、それぞれの『ファンファンフォン』に振られたIDナンバーを入力することで、どれだけ離れていても『ファンファンフォン』同士の会話が出来るという優れものなのだ。

 ちなみに『大魔法帝国』時代は子供のおもちゃとして流通していた。

 他し事(あだしごと)はさておき、カリストの会話の相手は、地上の『王太子派軍』と共にいるレッドグース通信士からであった。

「こちらカリスト。上空は曇りなれど風は無し。作戦に支障はない。送れ」

「了解。任務の成功を祈っておりますぞ。通信終わり」

 そして通話を終えたカリストは、またもや満足そうな笑みで顔を満たした。

「なんにゃオクレて」

「自衛隊ゴッコかな」

「子供にゃ」

 2号機操縦者マーベルは、そんな様子に大層呆れた顔でため息をついた。


「さて、任務に移るかな。アルト君、準備はいいかい?」

「いつでもいいですよ。カリストさん」

 ひとしきり冗談笑いを終えたところで、カリストは『漆黒の外套(ダークマント)』をバサリと翻し、反って真面目な表情になる。

 問われたアルトもまた、緊張を含んだ顔で頷く。

 すると、まずねこ耳童女マーベルの駆る『空飛ぶ庭箒』2号機が垂直上昇を開始し、後に続いてアルト駆る1号機が追った。

 見る見るうちに山頂より100メートル、200メートルと離れ、そして250メートルを越えた所で反転。

 2機の『空飛ぶ庭箒』は前後を入れ替えて、今度は山頂へ向けて急降下を始めた。

 先頭をアルトとモルトの1号機。

 ここでモルトが膝で姿勢を維持しながら両腕を振り上げた。

「GM、『ブレッシング(祝福)』いくで!」

「承認します」

 モルトの声が聞こえたのかは判らないが、空気の壁を隔てたマーベルのベルトポーチに納まっている薄茶色の宝珠(オーブ)が応える。

 すると その直後に振り上げられた両手から、紙吹雪にも似た光のシャワーがアルトの頭上へと降り注いだ。

 続いて鳴り響くのは荘厳な鐘の音。

 これこそモルトの仕えるキフネ神による祝福の鐘だ。

 『聖職者(クレリック)』のスキル、『ブレッシング(祝福)』は対象者のあらゆる行為にボーナス値を与える神の御技である。

「よっしゃ、オレの番。『防御専念』だ」

 そしてキフネ神の祝福を受けたアルトは、その力を背負いながら、一手に敵の攻撃を引き受けるべく身の守りを固め備えた。

 対する山頂側。

 すなわち『王弟派軍』は慌てた様子で裾野に向けていた『十字弓(クロスボウ)』を上空から迫る奇怪な箒に向けて放つ。

 メリクルリングRPGにおいて、「高度差のある相手に攻撃する場合のペナルティ規定」は定められていない。

 その為、射程さえ満たしていれば攻撃は可能である。

 つまりは急速に突入してくるアルトに対し、長射程の飛び道具である『十字弓(クロスボウ)』ならば、攻撃ができるというわけだ。

 だがそれでも『十字弓(クロスボウ)』特有の短い矢は当たらない。

 十余という数の矢が放たれ上がる中、アルトはくるりくるりと『空飛ぶ庭箒』を操ってはかわし、または『ミスリル銀の鎖帷子(チェインメイル)』の手甲部分で弾いた。

 高レベルの『傭兵(ファイター)』が『ブレッシング(祝福)』を得た上で『防御専念』するのである。

 そう簡単に当たるものではないのだ。

 などという第一波の射撃を凌いだ直後だ。

 アルト機の背後にピタリと付いていたマーベル嬢の駆る2号機が、サッと『王弟派軍』の目の前に現れた。

 現れたかと思うと、ひらりと急降下から箒を翻して向きを変える。

 目指すは山頂中央部に集積された、食料などの補給物資だ。

「いかん、守れ!」

 『王弟派軍』の誰かが叫んだ。

 おそらく士官の誰かだろう。

 だが、空を飛んでくる『魔術師(メイジ)』相手に、何を如何に守れというのか。

 誰もがその命令に反応できないうちに『空飛ぶ庭箒』2号機は、あっという間に補給物資の山へと迫る。

「『魔法強化(マグメソッド)』『ファイアボール』だ」

「承認します」

 カリストが補給物資を飛び越しながら吼え、そして世界がそれを許す。

 すると彼の指に嵌められた魔法の触媒である銀の指輪から、バレーボールほどの火球が飛び出し、そして落下した。

 落下し、火球が破裂する。

 見る見るうちに補給物資の山は四散し、そして燃え盛った。

 そう、今回の彼らの任務とは、補給物資に対する爆撃任務だ。

 アルトの駆る1号機は、さしずめ直掩機と言った所だろう。


「任務成功。トゥラトゥラトゥラァ!」

 その後、何度か魔法を変えつつ爆撃を繰り返し、そしてアルト隊は山頂から飛び去るのだった。

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