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ぼくらのTRPG生活  作者: K島あるふ
#01_ぼくらのTRPG生活

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12/208

12ダンジョンスイート

 RR(リキャストラウンド)、またはRT(リキャストタイム)はスキルや魔法に設定されている『再使用までにかかる時間』を表す数字だ。

 例えば『魔術師(メイジ)』の初歩的攻撃魔法である『マギボルト』のRR(リキャストラウンド)は『1』。これは1ラウンドに1回使用できるという意味の数字だ。

 また『弓兵(アーチャー)』のスキル、スナイピングのRRは『6』。1回使用したら5ラウンド経過しない限り再使用が出来ない。

 RT(リキャストタイム)はより長いスパンで使用される場合の数字で『1時間』や長いもので『24時間』と言った設定になっている場合もある。

 これにより強力な技、術の連発は出来ず、使用タイミングや順番の変化で様々な戦術を練ることが出来るようになっている。




 夜が明け、空に昇った太陽があまねく大地を照らす。

 林を覆った闇は融けてなくなり、替わりに爽やかな緑の香りを風に乗せる。

 あの獣の夜襲後、寝てしまったモルトたちを起こすことが出来ず、結局、アルトは噛み跡を残したまま朝を迎えた。

 笑いをかみ殺しながら『キュアライズ』を使うモルトに僅かな殺意を感じるアルトだが、自分の不注意にも原因があるのでなんともいえない。

 ともかく、アルトたち一行は朝の時間をのんびりと過ごして出発した。

 目的の地図にある遺跡はここからそれほど遠くないし、特に急ぐ理由もなかった。

 林を抜けると再び草原と曖昧な小道。たまにまた林や丘が現れては消える。そうして昼ごろには、迷いながらも地図にある遺跡と思われる場所へ到着した。


 切立った崖の脇に立てられた、平屋レンガ造りの小屋があった。小屋のレンガは古さを物語るように、所々ヒビやコケ、蔦が這い回っている。

 崖は遥か昔に崩落や地形の変化で出来たらしく、その土肌に地層を露出させていた。

「なんか普通っぽくにゃい?」

 マーベルの正直な感想だった。実のところ、誰もが思ってはいたが言わなかったのだ。

 遺跡と言う言葉で連想される光景、それは古代の宮殿跡だったり、王権の巨大さを示す陵墓だった。しかし目の前にあるのはただの古いレンガ造りの家でしかない。

「そりゃ、竪穴式住居跡だって遺跡なんだ。これが遺跡たって普通だろ?」

 同じ若さのアルトだったが、彼の認識がおそらく正しい。派手さはなくとも、古代より残された建造物なら遺跡で間違いない。

「こんなだから未発掘なんでしょうなぁ」

 それもまた正しいだろう。確かに誰かが通りかかっても、猟師小屋か何かと勘違いされても不思議ではない。それほど普通で特徴のない古いだけの小屋であった。

 また勘違いの元は他にもある。正面に取り付けられた木製の扉だ。扉は古びてはいたが朽ちてはいないのだ。

 誰かが定期的に直しを入れていなければこうはならないのが普通なのだが。

「劣化防止の魔法ですね。大魔法文明期の標準的な建築仕様です」

 と言うのはGMの解説だ。

「まぁ呆れて眺めててもしゃーない。入ってみようや」

 さすがに手持ちの酒類は品切れらしく、珍しく完全な素面であるモルトが率先して扉に手をかける。はたして、扉は特に抵抗もなく開いてしまった。

「モルト殿もなかなか剛毅ですなぁ。罠があるかもしれないと言うのに」

「なんやお酒入ってへんと、調子出んわー」

 レッドグースの指摘に『ああっ』と頷くモルトだが、後悔や反省の色はない。

 さて、小屋の中である。

 屋内は外観から想像できるものと同じ広さの広間だった。

 奥に扉、隅の小部屋に小キッチンやトイレと言った生活の為の施設がある以外、たくさんの書棚と机があるだけ、といういかにも『研究一筋』を体現した部屋だった。

 ただ書棚には殆どの書が残っておらず、残っているものも初歩の魔道書など、価値の薄そうなものだけであった。売り払って得られる金銭と、持ち出しの手間を秤にかければ、『置いて行こう』と思う人の方が多いかもしれない。

「がっかりだにゃぁ」

 妄想していた迷宮が誰よりも大きかったマーベルのテンションは、下落の一途をたどるばかりだ。もうストップ安寸前である。

「いや待って、この扉、おかしくないか?」

 顎に手を当てつつ首をかしげたのはアルトだった。

 入ってきた出入り口からちょうど正面になる扉。それは良く見れば『隠されていたんじゃないか?』と疑いたくなる様相を呈していた。すぐ隣に、どけられたような本棚が無造作に立っているのだ。

「確かに変やな。ここホンマに未盗掘やろか?」

 アルトに並び正面から扉を捉えるモルトも頷く。ただアルトはその反応に首を振った。

「それだけじゃない、わからないかな」

 だが一様にみな、アルトの疑念に気付かないようで首をかしげた。

 アルトは仕方なく回答を口にした。

「小屋は崖を背にして建ってた。つまり、この扉の向こうって、崖だろ?」

 それは崖の下へと続く地下遺跡の入口であった。



 今度は一同に押し出されたレッドグースにより、扉は念入りに調べられた。

 ところがやはり罠も錠もない。このダンジョンの作者が無頓着すぎるのだろうか。

 一応のところ慎重に扉を開けてみると、その先は降りの階段だった。だが暗くてさらに先となると何も見えない。

「道が狭いな。1列で行こう。オレが先頭で行くから…」

「しんがりはお任せくだされ」

 なぜかそういう空気だったのでリーダーシップを取るアルトに、元気よく応えたのはレッドグースだ。

「しんがりって真っ先に逃げる役じゃないぞ」

「…しんがりはお任せくだされ」

 少しだけテンションが下がったような気がした。


 直線距離で7メートルも降るとすぐ廊下に突き当たった。廊下は左右に分かれている。先頭を行くアルトが松明をかざして見るが、どちらもすぐ先で折れ曲がっていて、進まねば何があるのかわからない状態だった。

「マッパーが必要なんやないか?」

 背後から通路先を覗き込むモルト。その顔が肩越しにあまりに近く、アルトの心臓は思いの他跳ね上がった。

「ま、マッパー?」

 緊張を逸らそうと言葉を返してみるが、あまり逸らせた様に思えない。

「あんま馴染みないか? そのまんまや、ダンジョンの地図(マップ)を描く係りの事や」

 なるほど、ダンジョンではそういうことも必要になるのか。とアルトが素直に感心する。言われて気づくが、彼が読んだいくつかのTRPGリプレイ集では、あまりDAダンジョンアドベンチャーは無かった気がする。

「10フィート棒も欲しいですな」

 今度はレッドグースから聞き慣れぬ言葉が飛び出す。だがマッパーと同じく単純な事かもしれないし、アルトは少し考えてみる事にした。

 結果、なんだかよくわからなかったので無視する事に決めた。

「こういう時はアレにゃ。左手の法則」

 左右どちらにいこうか迷っていると、マーベルが左手を大きく挙げながら言った。背が低い為か、こうして主張しないと目に入らない。

「なんだ? フレミングか?」

「ちがーうにゃ。こうして左手を壁に添えて進むと迷路で迷わないにゃ」

「なんでだよオカルトか?」

 アルトとマーベル。学年で言えば1つ下だが、現在見た目にそれ以上の開きを感じる為か、アルトはなんだかマーベルの言に素直に頷く気に慣れなかった。

「オカルトじゃないにゃ」

 だがそれも少ししつこかったか、マーベルはねこ耳を垂らし拗ねた様に唇を尖らせた。

「ウチは『右手の法則』やと憶え取ったけどな」

「どっちでもいいのです。迷わぬように一定方向で外周する方法ですからの」

「ほへー」

 言い出しといいて感心するマーベルだった。

「そ、そうか。じゃぁ左手で行って見よう。こうか?」

 アルトも納得しつつ、左手を壁に付けてみる。壁も床も天井も、ていねいに石造りでひんやり冷たい。

 一歩、松明の灯火で照らしながら通路へ踏み出す。左手を壁に添えているので、当然、左折だ。

 その時、アルトの耳に微かだが音が届いた。それは左の通路の曲がった奥からで、“いぇぃ!!!・・・”という甲高い声だった。

 アルトは黙って振り返った。

「やっぱり右手にしとこう。うん」


 右手の通路に進み角を曲がると、程なくして扉にぶつかった。扉は鉄製だったが、やはり劣化防止の魔法が施工されている様で、錆ひとつ無かった。

 そして扉には部屋の内容を示すと思われる金属の板が貼り付けてあった。

「アっくん、なんて書いてあるにゃ?」

「いや読めないんだけど」

 メリクル語なら読めたが、残念な事にそれはメリクル語ではないようだ。なにか不思議な形をしている。

「いえ、読めますよ。『言語学』を使用宣言してください」

「マジか。『言語学』使用する」

 はたしてGMの言ったとおり、宣言した途端に、その文字はぐにゃりと形を変え、アルトに読める文字に変化した。

「緒元魔法で使われる『魔法語』ですね。大魔法文明期には通常の言語として利用されてましたから」

 GMはマメ知識を披露している隙に、アルトは金属板の解読にかかる。

「ええと『ゴーレム第一試験室、管理者・デピス』。そう言われてもな。誰?」

「え、デピス!」

 珍しく驚愕に声を上げるGMの反応に一同がまた驚く。

「な、なんだ、知っているのかGM」

「ええ、デピスというのはルールブックの『世界の案内の章(ワールドガイド)』にも名が出てくる有名人です。大魔法文明時代の人物で、ゴーレムを生み出した最初の『魔術師(メイジ)』なんです」

 ゴーレムはユダヤ教の伝承に登場する『土くれ』から作られた召使いで、主人の命令を実行するといわれている。

 ゲームにおいては魔法で作られた土くれ人形で、簡単な命令を聞く戦闘ロボのように扱われる事が多い。

「わかった。めるきどの街にいたアレにゃ」

「ようせいのふえやな」

 あらゆるゲームに登場するので、ゴーレムに対する共通理解はあるようだった。

「中央大陸の人ですが、まさかこんな田舎の島に彼の研究施設があるなんて」

 少し興奮気味に語るGM。もしかすると、将来的にデピスを扱ったシナリオも考えていたのかもしれない。

「『試験室』ってんなら、罠なんかあるわけないよな。自分も入るんだろうし」

 しかし世に数いるGMの中には、そういう場所にも罠を仕掛ける者もいる。油断してはならないのである。

「ま、念の為、ですな」

 レッドグースはそう言いつつ扉の前にしゃがみこみ、掌でペタペタと触れる。しばらく触れ回すと、今度は錠を探り、最後に耳を当てた。

「オーケーじゃの」

 彼の言葉を待ち、アルトは早速、扉を開けた。


 扉の先は横幅10メートル、奥行き5メートルほどの広間だった。ただその正面の壁は真ん中2メートル程が開き通路が延びていた。その通路は傾斜45度の上り坂。通路の入口には『この先、第二試験室』とやはり『魔法語』で書かれている。

「なんだこの部屋?」

 特に危険らしい危険は見当たらなかったので、アルトたちは広間に散開して珍しげに眺める。端には机もあり、その上には数枚の羊皮紙もあった。

「アっくん、解読よろ」

 やはり『魔法語』のようで、アルト以外誰にも読めない。

「『アルファ、チャーリーNG、ブラボーOK』。なんだこりゃ」

「試験結果やないの? ゴーレム・アルファ号、ブラボー号、チャーリー号の」

「試験って?」

 モルトは無言で坂の通路を指差した。

 息を呑みながら坂を見上げるアルト。45度の坂というのは、もはや普通に立って歩く事は不可能だ。壁、と例えてもいい。しかもその床は特に磨かれた石が使われていた。

「これを登ったのか、ブラボー号は。さすがブラボー…」

 なかなか過酷な試験じゃないか。滑り落ちる自分の身を想像すると、嫌な汗が背中をぬらすのだった。

「これデピやんはどうして先に進むんやろな?」

「安心してください。『魔術師(メイジ)』は5レベルで空飛びますから」

 それは何の安心にも繋がらなかった。


 坂の通路は下から眺めると実に『壁』という感想しか漏れ出なかった。長さは目測で約20メートル。容易い登坂ではあるまい。

「よし、まずオレから行く」

 幼少時に滑り台を逆さから登ることに夢中になったこともある。男子ならそういう時期が誰しもあるはずだ。ならこの中で最もアドバンテージが高いのは自分に違いない。

 アルトは自分に言い聞かせるように呟き、徐々にやる気を上げていく。イメージの中では髪が逆立ち、金色のオーラを噴き出しているはずだ。

「アルト殿、これを」

 気合充分で旅立つアルトに、レッドグースは餞別でも渡すかのように、そっとロープを渡した。彼のナップサックに仕舞ってあった、長さ10メートルのロープである。

「上についたら垂らしてくだされ。みなの努力が半分ですみますぞ」

 アルトは無言で頷いた。

 心配そうにアルトを見つめるモルト。反対にキラキラとした目で坂を見るマーベル。彼女らとレッドグースを手で下がらせ、アルトは2度、深呼吸をした。

 つま先で床を叩き、靴の具合を確かめる。軽く垂直にジャンプして全身の様子を確かめる。靴は元の世界のハイテクシューズに叶う訳もなく、『鎖帷子(チェインメイル)』は重く、『無銘の打刀』は走るのに邪魔だ。しかし置いて征く訳にも行かない。ならばチャレンジするのみだ。

 ゆっくりとした助走からスタートを切る。徐々に速度が上がる。身に付けたモノ共がガシャンガシャンと音をたてる。しかし、集中の前にそれは静寂に飲み込まれる。

「オレは行ける!」

 アルトは叫びつつ、坂の前で大きく踏み切る。滑る前に次の脚を出せ。まるで忍者が水の上を渡るように、アルトはたちまち坂の1/3へと到達した。

 しかし、そこまでだった。

 坂の途上で脚は止まり、磨かれた石に滑らぬよう耐え続ける。アルトの脳裏で苦しいカウントダウンが始まる。その数字はおそらく耐えられる時間を示す、僅かな秒数だ。

「まだだ、まだ行ける!」

 自己暗示にも近い叫び。だが彼に勝算がないわけではない。磨かれた石と言っても摩擦力がゼロなわけではないのだ。足を引っ掛けることだって必ずしも無理なわけではないはずだ。

 アルトは意を決して上体を上げた。

 しかし残念なことに、この試験場が彼の跳梁を許さなかった。

 先を見据えるように上げられた彼の視線に飛び込んできたそれは、バレーボールに似たゴム製のボールだった。

「のべっ」

 アルトは避けるすべもなく、顔面でボールを受けるのだった。


 どうやらそのゴムボールは、坂の中盤に差し掛かると10個ほど降ってくる仕掛けになっているようだ。

「いや、無理だろ、これ無理ゲーだって!」

 結局、全身にボールを受けて滑り落ちたアルトは、続けて3度挑戦し、1度は『無銘の打刀』で数個のボールを撃退したが、やはり3度の敗北を喫した。

「よーし、次はアタシ行くよー」

 腕を振り回してやる気充分のマーベル、気分はもうアスレチックだった。


 結局の所、何回挑んだか判らない程の時を費やし、彼らは全員、頂上へ辿り着いた。

 最後の挑戦者となったレッドグースが、ナップサックから『登坂用クサビセット』を取り出した時には、さすがに殺意以外の感情を認められなかった。

 ともかく、全員登坂に成功。これより先にある『第二試験室』を目指す訳だが。

 頂上から臨む彼らの目に飛び込んできたのは、いくつかの飛び石を配されたプールだった。

「ねぇ、もしかしてアレが『第二試験室』?」

「またまた面白そーにゃね」

 彼らの挑戦が、また、始まる。



「あのさ、オレたち、なんでこの遺跡に来たんだっけ?」

「なんでやったっけ?」

「遊びに来たんだよ?」

 ひとまず坂の頂上で休憩を取りながら、アルトは素朴な疑問を口にする。登坂に夢中で自分を見失っていた気がするのだ。

 しかし見失っているのは彼だけで無いことが、かの返答でも十分にわかるだろう。

「つか財宝だよ財宝。別にアスレチックやりに来たんじゃないんだよ。こんなんでホントに儲け出るのか?」

 キレるアルト。誰にキレていいか判らないが、それでも叫ばずにいられない。

 そもそも彼らは、これからの旅の路銀を稼ぎに来たのだ。

「ここ試験場やろ? 無理かもなー財宝」

 考えて欲しい。例えばどこかの工科大学の研究室に行ったとして、即物的な財宝がどれだけ手に入るだろうか。

 いやもちろん、ロボット技術など、金銭に代えがたい知識は得られるだろう。だがそれは同じ技術者だった場合だ。

 夜忍び込んだカネ目当ての泥棒が欲しがるものなど何もないのではなかろうか。

「いやいやいやいや、お待ちくだされ各々方」

 今にもアルトの口から『帰ろうか?』と出そうだったが、それより早く押しとどめるのはレッドグースだ。

 レッドグースはナップサックの中からひとつの『短杖(ワンド)』を取り出す。

「なになに?」

 早速、好奇心に駆られたマーベルが駆け寄り、杖の先端でスンスン鼻を鳴らす。

「下の机で発見しました。鑑定結果『コマンドワンド』。価格は銀貨1万枚」

「1万枚って、ゼニやんからの報酬の10倍やんか」

「奥に行けばこんなお宝が他にもあるかもしれませんぞ?」

 一同の目がドルマークに変わる。銀貨1万枚、日本円にあえて換算すれば100万円。超大金ではないが、4人で分けても、それなりに1ヶ月遊んで暮らせるだろう。

「いや待て待て、おっさん『学者(ワイズマン)』じゃないだろ。鑑定ってなんだ」


 *******


アナライズ(鑑定)』は『学者(ワイズマン)』のスキル。未知のアイテムの名称や効果、価格、すべてのパラメータを鑑定する。


 *******


 しかしレッドグースは『吟遊詩人(バード)』で『盗賊(スカウト)』、更にこの上『学者(ワイズマン)』まで取得しているとは、経験値的にも考えにくい。

「いえ『アナライズ(鑑定)』ではなく、『プライスチェック(価格鑑定)』ですね。『盗賊(スカウト)』の持つ基本技能です」

 すかさずGMのフォローが入る。


 *******


 『プライスチェック(価格鑑定)』は名前の通り、物の価値を鑑定する技術だ。ゲーム的には『アイテム名称』と『市場相場価格』を知ることが出来る。


 *******


「効果はわかりませぬが、名前と場所から推理するに、ゴーレムに命令を与える『短杖(ワンド)』と考えると妥当でしょうな」

 おお、と一同から感嘆の声が上がる。同時に彼らの欲も燃え上がる。

「100万円か、ふふ、腕がなるぜ」

 再びやる気を取り戻したアルト。彼は一端のトレジャーハンターの目をしていた。

 なにより『戦闘しなくて良さそうだ』という意識が、より一層、彼を前向きにさせるのだった。

「ところでおっさん、それガメるつもりだっただろ」

「何の話か、一向に理解できませんな?」



 その後の彼らを待ち受けていたのは、数々の難関。

 浮石が沈むプールをはじめ、高速回転床や砲撃される一本橋、ダークゾーンにマピロ・マハマ・ディロマット。転がる鉄球、落ちる丸太、強制スクロールに動く歩道。

 越えるほどに心身ともに彼らは消耗していった。いや、マーベルだけはなぜかツヤツヤしていたのだが。

 そしてついに、彼らは最後の扉に到達する。部屋の名称を書く金属板には『宝物倉庫』と書かれていた。


 だがあまりにも消耗していた彼らは気付かなかった。その金属板の文字がやけに真新しいことに。

 廊下の隅に打ち捨てられた薄汚れた金属板。そこには『廃棄場』と書かれていた。

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