おまけ-第八章開始時点のキャラクタシートと「北東の端」
こんにちはK島です。毎度のご愛顧ありがとうございます。
さて次回から始まる第八章に先駆け、開始時点のキャラクターシートを公開します。
このページは見なくても、物語を読む上では特に支障はありません。
邪魔臭いと思う方は飛ばして下さい。
あと、キャラクタシートだけだと短すぎてシステム的に投稿できないので、ショートストーリーを1本掲載します。
*******SS「北東の端」*******
秋が終わり、冬が始まる頃。俺たちは北東の果てにある変わった村にたどり着いた。
「俺たち」と言うのは、俺と養父だ。
養父は20名からなる傭兵を率いる、『ライナス傭兵団』の団長だったが、熱病で前線を退いた隙に副団長から裏切りを受けた。
ここタキシン王国はもう何年も内戦をしている。
国王が熱病で倒れ寝たきりになり、次期国王の座を巡って王太子と王弟が争っているのだ。
国王も熱病。我が養父も熱病。まったく、嫌な疫病が流行っているのだろうか。
さて、我が『ライナス傭兵団』は王太子に雇われ、彼の軍に轡を並べて戦ったのだが、件の副団長は我らを王弟に売り渡し、自分は王弟軍の将軍に取り立てられた。
俺たちも王弟軍に組み込まれたが、半分以上は「やってられるか」と脱走した。
養父の義子、つまり俺の義兄弟は俺を含めて4人いる。
武者修行に出ていた末の義弟以外はこの騒動に巻き込まれたが、すでに俺を含め脱走済みだ。
いずれまた会うこともあるだろう。
その時、敵でなければいいのだが。
俺は長兄の責として、未だ熱に浮かされる養父を連れて、夏の終わり頃にロシアード市から脱走した。
ロシアード市と言うのは、タキシン王国の第2都市と言われ王弟派が拠点としている街だ。
それから秋の間はあちこち逃げ回った。
王太子軍とバチバチ遣り合っている王弟軍に追っ手を差し向ける余裕があるとは思えなかったのだが、考えが甘かった。
どうやら王弟は何か怪しい連中と手を組んだらしい。と言うのも、俺たちに掛かった追っ手が黒エルフだったのだ。
ともかく、そうして逃げ回って、やっとアルセリア島北東端のこの村にたどり着いたわけだ。
今、俺は熱病で朦朧としている養父を背負って、その村の手前にいる。
始めに「変わった村」と言ったが、ではなぜそう思ったかと言えば、こんな最果ての村にしてはずいぶんと高い柵を張り巡らしているからだ。
この国は内乱中だし国内は荒れ果てているので、自衛の為に馬防柵を整える村は何度か見たが、さすがに3メートルほどの丸太を隙無く並べた様な村は初めて見た。
柵のせいで中は見えないが、この柵だけ見ればまるで砦だ。
おっと、阿呆の様に柵を見上げている場合じゃない。早いところ村に入れてもらい、養父を休ませてやら無くては。
そう思って柵が開いている場所、つまり村の出入り口に近付くと声をかけられた。
「お待ち下さい」
見れば、粗末な『鎖帷子』を着けた2人の兵士が立っていた。おそらく門番に相当する者たちなのだろう。
やはり最果ての村にしては厳重だ。
まぁ、ここで争っても詮無いので、俺は大人しく立ち止まった。
「旅の者だ。見ての通り父が病でな。スマンが中で休ませてもらえないか」
「はぁそれは大変ですね」
2人の内、若い方が同情した目で、背の養父を覗き込んだ。が、もう1人、中年の方が彼の肩を掴んで止めた。
「あんたらその格好を見るに傭兵だな。厄介ごとは困るんだよ」
中年兵が言う。うむ、彼の言い分は最もだ。
国が荒れている、と先に言ったが、脱走兵や傭兵くずれが地方で村を荒らす例もよくあると聞く。俺がその悪い傭兵と見られても仕方の無い事だ。
だけど、ここは何とか信じてもらうしかないな。
「確かに傭兵だが、悪い事はしないと我が神に誓おう。なにとぞ良しなに頼む」
「あんたの神はどちらにおわす?」
「大陸極東、不知死の園におわす、刀剣の神、タケツ様だ」
「『太陽神の一派』か」
俺の言葉を聞き、2人はしばし思案し、中年の方が若い方に指示を出した。
「ちょっと俺じゃ判断つかねぇ。長官を呼んで来い」
「はい」
その指示で若い方が足早に駆けていく訳だが…、何だって? 長官?
「聞くが、この村には何があるんだ? こんな高い柵を張り巡らせ、しかも政府高官が治めているのか?」
まずいかもしれない。
立地からしてここは王弟の勢力圏だろう。
勢力圏内でも果てに逃げれば大丈夫かと思ったが、さて。
中年兵は俺の問いたい事が一瞬わからなかったみたいで眉を歪めたが、すぐに解に至ったようだ。
「ああ、何か勘違いがある様だな。教えてやるよ」
中年兵は口の端に不敵な笑みを浮かべながら、誇らしげに高い丸太の柵を指す。
「この柵から向こうは女王陛下が治める独立国『リルガ王国』さ」
リルガ王国…だと? 聞いたこと無いぞ。いつの間にこんな事が。
「ははは、困惑してるな。なに、まだ建国中さ」
な、なるほど。タキシン王国の内乱にウンザリした連中が集って独立しようって腹か。なかなか面白い事を考える。
しかも女王陛下と来たか。女傑だな。会って見たい。
と、そんなやり取りをしている間に、さっきの若い方が、さらに小さい子供を連れて戻って来た。
子供、と言うか幼女だな。6歳くらいか?
「ん!」
若い兵に連れられた幼女はずいぶんと偉そうに胸を張って右手を挙げる。すると俺と話していた中年兵はすぐさま敬礼の姿勢を取った。
え、なぜ?
「ハンナ長官殿、この傭兵が入国を求めています。背負われている方が熱病の様子」
何? 長官だと? この子供が?
俺が目を白黒させている間にも、その幼女は頷きながら歩み寄ってきた。寄ってきて、匂いを嗅ぐように鼻をスンスン鳴らしながら周りをぐるりと回った。
何か変だ。と一瞬思ったが、すぐにその違和感の原因がわかった。
その子供の頭から獣の耳が生えているのだ。
いや耳だけではない、フサフサの尻尾も生えていた。
『草原の妖精族』か?
いや、ケットシーは猫の耳が生えている種族だったはずで、コイツはどちらかと言えば犬の耳だ。
犬の耳を生やした亜人族など聞いたことも無い。
「ん」
俺の困惑など他所に、その犬耳っ子は満足げに頷いて中年兵に顔を向けた。
「は、よろしいのですな? おい傭兵、長官の許可が出た。感謝しな」
やはりこの幼女が長官なのか。何の長官なんだ? いや色々疑問はあるが、今は養父を休ませる方が大事か。
「ご許可いただき感謝する。この村、いや国で騒ぎを起こさぬと誓おう」
養父を背負ったまま、浅く頭を下げると、ハンナ長官殿は「にぱっ」と太陽のような笑顔を浮かべてから、颯爽と駆け出した。
俺はしばし呆然と揺れる尻尾を眺めていた。
「さて、宿泊できる所に案内してやろう。いや、診療所が先か?」
俺の反応を微笑ましそうに眺めていた中年兵が、幾らかの時を見計らってからそう言った。
こいつは驚いた。国とは名ばかりの辺境村かと思ったら診療所まであるのか。
そう思って中年兵に付き従い、柵を越えてからさらに驚いた。
村、いや国内と言うべきか。その、柵の内側は綺麗に掃き清められた道と、丸太を綺麗に組み上げた幾多の建物が並んでいた。
広くも無く質素だが、よく手入れされている。道を行く人々も暗い顔している者など一人もいない。
そうして中年兵に案内され、しばらく道を進むと、赤い十字紋を看板にした建物にたどり着いた。
これも然程大きくは無いが、よく手入れされた丸太小屋だ。
「さ、ここが国営診療所さ。所長に会ったら驚くぜ」
すでに驚いているさ。まぁ細かい事はいい。医者がいるなら早いところ養父を見てもらおう。
中年兵と別れて俺は診療所の戸を叩いた。
しばし待つと中から小さな女の子がそっと戸を開いて顔を覗かせた。
所長とやらの孫娘か何かか? と思いかけてまた驚いた。その幼女の頭から、ウサギの耳が生えているじゃないか。
さっきの犬耳っ子といい、こういうアクセサリーが流行っているのか?
「よ、ようこそ診療所へ」
おどおどとしたうさ耳っ子に案内されて中に入る。
綺麗なシーツを敷いた診療台に、簡素だが整えられた机と棚。そして机の向かっていた白髪白髭の老人がゆっくりとこちらを見た。
この老人が所長か。
「養父がここ数ヶ月、熱病でうなされているのです。所長殿、どうかお願いします」
「はいはい、もちろん誠心誠意診ますとも。ただ一つ、勘違いなさっているようで」
「は?」
世話になるのだから、と丁寧に腰を折ると、老人が髭を揺らして笑った。
笑い、今しがた俺たちが入ってきた戸の方に手の平を向ける。
「この診療所の所長は私ではなく、そちらのリンネ様でいらっしゃいます」
「リ、リンネです」
振り向けば、さっきの幼女がおどおどと頭を下げて、それですぐにピューっと駆けて行きカーテンの影に隠れた。
意味がわからなかった。
犬耳幼女が衛兵から『長官』と呼ばれ、うさ耳幼女が医者から『所長』と呼ばれる。
リルガ王国。一体この国は何なんだ。
その後、マリカ一世と名乗る御歳3才の女王陛下に謁見し、俺はさらに腰を抜かすほど驚く事になる。




