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国境

 ヴィルヘイム公爵との会談から二日後、シャルロット一行は国境へと向かう事となった。

 シャルロット、ヴァネッサ、イレーネ、ヴォーリア・バニー(首狩り兎)のテターニア、ダーク・エルフのクロムウェル。そして、ヴィルヘイム領より騎士二十五名、魔道師五名、計三十五名での出立となる。


「お前の事だ、慎重に事を進めると思うが、気を付けてな」


「シャーリィ、気を付けてね」


 出立に当たり、ヴィルヘイム公爵とアンナマリーが言葉を贈る。


「承知いたしました。御心使い感謝いたします」


「アンナマリーもありがとうね」


 シャルロットはヴィルヘイム公爵とアンナマリーに礼を言うと、騎士達の方へと向きを変える。

そして


「さあみんな! ブニョブニョ退治に出かけるわよ!」


 残念臭漂う言葉で鼓舞するのだった。




 ヴィルヘイム領主邸を出たシャルロット一行は一路南を目指す。

 その道中で出会う行商人、街道に点在する街や村、その一つ一つで行軍は停止する。

 最初騎士達は首を傾げたが、シャルロットがそれらの者に問いかけた言葉で、ようやく何をしているのか気付くのだった。

 シャルロットがしていた事? それは、ワームの被害に遭ってはいないか? と言う問いかけであった。そうする事で範囲を狭め、着実にワームの生息域を付き止めて行く。それが、シャルロットが選んだ手法であった。

 この様に各村々に立ち寄りながら、一行は南へと進んで行く。そして、クリスタニア王国の最南端へと辿り着いた。


「この森周辺にしか被害は出てなさそうですね」


 馬車から降りるシャルロットに、手を貸しながらヴァネッサが口を開いた。


「そうね。でも、もう一か所話を聞かなきゃいけない所があるけどね」


「えっ? それは一体……」


 不思議そうにヴァネッサはそう呟いた。

 その声に答える様に、馬車から降りたシャルロットは、南の方角を指さした。そこにあったのは…………


「………国境警備所」


 ヴァネッサがポツリと呟いた。


「そ、常時滞在している兵士の皆さんなら、より詳細な話が聞けると思ってね」


 シャルロットは、言うや否や国境警備所へと足を向ける。


「こんにちわー。お話聞かせてもらえませんか?」


 警備所の窓から、中に居る兵士達に向かってシャルロットは声を掛けた。少々間抜けに聞こえたのは、まあ御愛嬌と言った所だろう。


「何だお前は! 出国ならば、隣の法国側の警備所に行け!」


 馴れ馴れしさが気に障ったらしく、兵士はシャルロットを怒鳴り付けた。


「ああ、そうじゃ――」


 シャルロットが事を説明しようと口を開くが援軍は身近に居たのだった。


「キサマ! 公爵様の命で此処まで来て下さったカーディナル卿に対して、何て物言いだ!」


 シャルロットの後を追う様に付いて来た壮年の騎士が、兵士を叱り付ける。この声に反応して、兵士は怒りを宿した表情で声の主を睨みつける。だが、一瞬で怒りの表情は消え去り、泣き出しそうな表情に変わった。


「き、騎士団長殿! い、一体何用で国境警備所に……」


 兵士は、その表情と相まって、声までもが尻すぼみになって行っていた。

 それはともかく騎士団長とは、ヴィルヘイム公爵は相当の手練を回してくれていた様だ。


「まーまー。騎士団長さんも落ち着いて」


「しかし、カーディナル卿への失礼な振舞い、騎士団としては……」


「いいから、いいから」


 二人の間に割り込み、何とか騒動を治める事にシャルロットは成功した。


「ねえアナタ。お詫びって訳じゃあ無いけど、お話を聞きたいからレックホランド法国の兵士さんを呼んで来てくれないかしら?」


「はっ! 了解であります」


 ヴィルヘイム兵の男は、急ぎ道の反対側に建てられているレックホランド法国の国境警備所へと走って行った。

 ほどなくしてヴィルヘイム兵が、二人のレックホランド兵を伴い帰って来た。レックホランド兵二人に、警備所内に居たもう一人を加えてヴィルヘイム兵二人。計四人がシャルロットの前に立つ。


「お仕事中ごめんなさいね。少し話を聞かせて貰いたいの」


 シャルロットの言葉に、四人の兵士は了解の意を告げる。


「それで、聞きたい事なんだけど、ワームの事なのよ」


「ワームと言うと、時々出現すると言われている巨大ワームの事でしょうか?」


 シャルロットの問いかけに、ヴィルヘイム兵の一人が返事を返した。


「そう、それの話を聞きたいのよ」


 シャルロットはそう言うが、四人の兵士達は困った様な表情を見せる。

 その表情を垣間見、シャルロットだけでは無く行動を共にしていた者達も首を傾げた。


「どうしたの?」


 不思議そうにシャルロットは問いかける。その言葉に、ヴィルヘイム兵の一人は申し訳なさそうに口を開いた。


「しばらくの間、巨大ワームの話は眉唾だと思われていたのです」


「どう言う事?」


「国境守備隊の兵士の中で昔から語り継がれていたホラ話と言われていました。何せ、誰も巨大ワームを見た事が無いのです。近くの集落の者達も含めて」


 ヴィルヘイム兵の一人がそう話すと、他の三名も同様の反応を示した。


「それじゃあ、先日の調査隊で初めて存在が確認されたって言うの?」


「ええ、そう言う事です。話は二十年程前からあったらしいので、誰かは見ているのかも知れませんが」


 警備兵の話には、首を傾げるばかりである。

 一体何が原因で、こうも目撃例が少ないのか。

 シャルロットはその原因を探ろうと頭を捻る。

 他の者達も持論を展開し、ああでも無いこうでも無いと近くに居る者と言葉を交わし合う。


「考えられる可能性としては二つね」


 今まで沈黙を守っていたシャルロットが、唐突に口を開いた。


「二つ、でありますか?」


 騎士団長がシャルロットへと問いかける。


「ええ。前提として、さっきの彼の話で巨大ワームが英雄戦争の生き残りって事が解ったわ」


「はい、忌々しいがその通りの様で」


 シャルロットの言葉に、騎士団長が同意を示し他の面子は頷く事で意を示す。


「それで一つ目の可能性何だけど、ワームの生活圏が森の中のみの場合よ」


「森の中のみですか……。姫様の言葉にケチを付けるのはいささかはばかれますが、その推理には無理がある様に思われます」


 シャルロットの言葉に、イレーネが否を突き付ける。それに対してシャルロットは、別段気分を悪くする様子も無く


「うん。わたしもそう思う」


 あっけらかんとそう答えた。


「それで、こっちが本番。二つ目の可能性。それはね、ワームがずっと休眠していた可能性ね」


「「休眠?」」


 シャルロットが言った二つ目の可能性に、全員の声が重なった。


「そうじゃあなきゃあ、最近まで地上に出てこなかった理由が見当付かないもの」


 シャルロットの言う事には一理ある。だが、何故休眠していたのかが解らない。それを補足する様に、シャルロットは再び言葉を紡ぐ。


「先日の会議に参加していた人は知っているでしょうけど、ワームがウンディーネ(水精霊)を宿しているんじゃないかって話が出たのよ」


 出たのよ、と言ってはいるが、言いだしっぺはシャルロットである。


「それでね、レギオン・モンスターの融合の際、そのウンディーネ(水精霊)が何か悪さしていたとしたら?」


「つまり姫様は、ウンディーネ(水精霊)を巻き込んだ三体融合のため、融合後に何らかの不都合が起きた、と?」


「そう! コレ、かなり良い線行ってると思うんだけど」


 シャルロットの言葉に、皆肯定の意を口にする。しかし、本当かどうかは、直接相対してみないと解らない。だからこそシャルロットは、警備兵に許可を求める。


「ワームをおびき出すために、音爆弾を使いたいんだけど、許可を頂けるかしら?」


「音爆弾で、ありますか?」


「ええ」


「我々、ヴィルヘイム側の警備兵としては、閣下の命ですから反対する事はありません」


 そう言ってヴィルヘイム兵は、視線をレックホランド兵へと向けた。


「巨大ワームなどが暴れ出したならば、当然我が国の民へも被害が出ます。どうぞお使い下さい」


 レックホランド兵からも、無事許可の言葉が貰えた。

 後は、ワームを呼び出す場所の選定である。だが、シャルロットはすでにその場所を決めていた。


「クロム。あなたの村へと案内してちょうだい」


 クロムウェルの瞳をじっと見つめ、シャルロットは言葉を紡ぐ。


「私の村、か?」


「ええ。あなたの村で、全てに決着をつけるわ」


 思い悩む様なクロムウェルの背中を、シャルロットは僅かに押した。


「解った。案内しよう」


 クロムウェルは淀んでいた瞳に力を込め、力強くそう言い切った。

 一行は、クロムウェルの誘導により目的地を目指す。

 ワームによって滅ぼされたクロムの故郷へと。


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