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エクス・マキナも救われたい  作者: 氷雨 ユータ
Ⅶth cause ネガイを赦す権能

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神通にひずむ

「まあ、そうは言っても僕が好き放題話して満足して終わりなんてあんまりだ。そう思いませんか? だから一応、質問をしようか。式宮有珠希君。ずばり君は何を視ていると思う?」

「……因果だろ。始まりから終わりまで。過去と未来と現在の全て。赤い糸がそれを表していて、白い糸が現在、青い糸が未来、後はたまに変な糸があるけどそれは分からない……何だよ。人から聞いた話だけど結構信用出来ると思ってるんだ。実際、当たってる筈だろ」

「…………そうか。そういう認識か。当たらずとも遠からず、どちらかと言うと外れより。誰も答えを持ってないんだ。仕方のない認識ですね」

「なあ、何で俺を知ってるんだ? 指名手配ってこゆるさんの時のだろ。何で……」

「腰を折るなと言いましたけど? あの状況で指名手配なんてあり得ちゃならないシチュエーションだ。観察しに行ってみたら君自身も他と歩調の合わない行動を取っていた。だから今までずっと観察させてもらった。はい解答お終い」

「……」

 こゆるさんから部品を回収する為だったとはいえ、指名手配は俺の想像以上に他の場所へ影響を及ぼしていたようだ。想像力が欠けていた。たまたまコイツが良心的だったから良かったものを、他のどんな奴が同じきっかけで観察していないとも限らない。考えただけでもぞっとする。

「結論から言うと、それは因果じゃない。視てておかしいと思いませんでしたか? 因果が糸となって現れるなら、何故糸を切るのがトリガーとなっているのか」

「そういう力……だからだろ。超能力に理屈を求めるなよ」

「超能力に理屈を求めるな!? こーれは驚いた、何でもありの力なんて存在しない。科学に則しているかいるかいないかだけでその辺りを断定するなんて愚かですよ。確かに、因果を断ち切るなんて表現もありますね。何らかの連鎖を終わらせる、これ以上続けさせないという意味で。それで白い糸は解決しよう、じゃあ『未来』を司る青い糸はどうなる? 続けさせないも何もまだ始まっていない。始まっていないものを終わらせるなんて不可能だ」

「因果の中ではもう全部記されてるんだろ? 俺達にとって未来でも因果にとっては―――もう過去みたいな」



「じゃあ因果って何だ?」



 …………いや、だから。

「そいつの誕生から終わりまでの全部だよ。さっき言っただろ」

「途中まで生物限定だったのに、今じゃ無機物にも広がってる。全てを内包した赤い糸とやらが。これはどう説明するんですか?」

「―――視えてるのか?」

 むくろは答えない。これ以上話の腰を折られたくないようだ。だがこの答えも決まっている。物に因果があるのは人と密接に関わっているから。文明とは即ち人の歴史。生きていなくても そこに因果があるのは当然の事だ。

「……じゃあ、死体はどう説明しようか。僕はその、全部わかってるみたいな認識が気に食わない。死体とは既に因果を終えた物だ。だが死体には因果が残っている。これも説明してもらいましょう」

「………………」

 マキナにも、その説明はもらっていない。そして俺にも分からない。死体に何故因果があるのか。全てを謎にしているのは『認識』の規定の影響力が万全であった時からこの現象は存在していた事。物の因果が人との関わりであるなら、そもそも認識されなかった死体には因果など存在してはならない。人の因果としても物の因果としてもあれだけは説明できない。

「…………分からない」

「答えはすぐそこにありますよ。君は超能力に理屈がないと思っているようだけど、ある筈だ。小難しい話は何処にもない。分かるだろう。君の傍にはいつも居た。()()()()()()()()()使()()()

 むくろが立ち上がって、近くに生えていた木に姿を隠す。それは一秒にも満たない視界の身切れだったが、次に姿を現した時、そこには見覚えのある煌びやかな姿が現れた。

「……マキナ!?」

 金髪銀眼、人ならざる美貌と力を持った理外の美女。一目見ればその記憶は色褪せず、例えばその輝きはかつて海賊や冒険家が追い求めた財宝に近い。いつまでもいつまでも記憶の中で燦然と輝き、人の欲を捉えて離さない。

「失礼。僕は変装が得意でね。望むなら声も真似したっていい。まあともかく、偽物だ。答えを教えてあげたんだよ」

 

 理屈を持った超能力。即ち『規定』。ある一定の範囲の法則を司り支配する力。


「…………嘘、だ」

「嘘?」

「だって、俺の……心臓、は。マキナの心臓、が」

「そこが勘違いなのさ。君の心臓―――もとい部品は『認識』を司っちゃいない。何故糸が視えるかなんて、もう分かるよね」

 違う。違う違う。そうであってはならない。それは不自然だ。この前提が覆されたら、今までのあらゆる考察が意味を無くしてしまう。おかしい。だって俺はキカイなんて知らない。マキナとの出会いが初めてで。

「あ、あ、あれか? 部品が……」

 これは言い切る前に俺の中で違和感が生じてしまった。マキナは存在しない規定に対してハッキリ無いと言う。アイツが持っていない可能性も他のキカイの存在が判明した今は考えられるが、それもマキナと出会ったのが初めてなら通用しない。俺の身体に部品があるならそれはマキナの物である筈。やはりアイツが知らないなんて事はあり得ないのだ。

 

 つまり、前提が違う。


 やはり俺は、キカイと出会った事がある。そしてそれは恐らく―――クデキと呼ばれるメサイアのトップだ。

「君のそれは『意思』の規定。人間の意思に対して自由に干渉する力だ。やろうとした行動を止めたり、今してる行動を中断させたり。断じて不思議な力でも何でもない。そもそも君は今となってはそこまで特別な人間じゃない」

「……どういう事だよ。『意思』って。じゃあ赤い糸は何なんだよ! あれは切れないし、意思でも何でもないぞ!」

「最初に言っただろ。君の答えは当たらずとも遠からず。『意思』の規定があるのは確かですけど、それだけじゃない。赤い糸とそれ以外の糸は別物なんだ」

 むくろがマキナの姿のまま、俺の手を引っ張って立ち上がらせる。同じ顔立ちでも笑顔がないとここまで印象は変わるものか。しかし夢のセカイと思われた筈の景色を歩くなんて不思議だ。景色が現実のように続いていくのも……いや、心象セカイだったか。

「別物ってどういう事だよ」

「別物は別物だ。『意思』の規定のままだったら切れないのはおかしい。簡単に言ってしまえば君の視界は『意思』の規定とそれが変質したもう一つの力が同時に存在してる。分かります? そしてそっちも因果なんかじゃない」

 心象セカイには人っ子一人存在しない。俺とむくろだけの世界が風景のみで続いている。目指す先にあるのは、病院だ。『傷病』の規定と初めて遭遇したあの病院。兎葵も最初は病院で話そうと思っていたとか何とか言っていたが、あそこに何があるというのか。

「…………アカシックレコードとか?」

「感覚は近いけど、本質は違うね」

 非常口を使って病院の中へ。二階に上り、誰も使っていない病室の一角までやってきた。めぼしい物はない。見渡す限りベッドとシーツと斑点だらけの天井ばかり。むくろはベッドを覆うカーテンに入って身体を隠し、今度は俺の姿に変装した。手首を口の前に当てて冷ややかに笑う自分には当然のように腹が立つ。

「死体に糸が視える理由。それは単に存在しているからだ。本来はあまねく全てに糸が張り巡らされていないといけない。君のそれは言うなれば『セカイ視』。究極の俯瞰」

「……俯瞰の限界?」

「君の目が捉える世界は赤い糸の檻に閉じ込められているよね。それが君の視界だ。キカイが生来から所有している眼と言えば分かります?」



 …………え?


 

「………………ちょ」

「切れないのは当然だよ。その糸は存在を担保してる。万が一にも切れてしまうようならそれは存在を抹消される。生まれてもない過去から、とっくに終わった未来からも。『意思』の規定が歪んで生まれたこの力は、君に根を張りつつある。これ以上の無茶はキカイとの取引を失敗させる事にもなる。だから、無理はしない方がいい。解放されたいなら」

「ちょっと待ってくれ! おかしいぞ。キカイの視界だっていうなら……何でマキナは、心当たりもなく見当違いな事を」

 再び話を遮られてむくろは不機嫌そうに睨んできているが、知った事じゃない。おかしいと感じたから答えが欲しい。正しい答えを持っていると豪語するなら是非とも教えてもらいたい。一秒でも早く、俺を正常にしてくれ。


『多分…………心臓の……私が顕現するに至って最初から空っぽだった場所の部品よ』


 最初から、空っぽだった。   

「……不完全だったから、視えない、のか」

「ついでに言っておくと、部品とはパズルのような物だ。君のもつ規定を渡した所で彼女の心臓には嵌らない。自暴自棄になって変な事はしないようにね」

 そんな事はしない。むしろ殺されずに済むという事が判明して安堵しているくらいだ。一方で正解している筈と思っていた推測をひっくり返されて困惑している。今後の動き方も白紙になってしまった。

「…………何で俺に、こんな事教えるんだ? 見返りが要らないってのがおかしいだろ。お前から教えてもらわなきゃ、俺はいつまでも……勘違いを」

「その勘違いを正したかっただけ……と言っても信じてはくれないか。強いて言えば、どう動くかに興味があるだけ」

「どう動くか?」

「波園こゆるを守る為に君はただ一人抵抗した。そんな君に情報を渡せば、どんな風に動くんだろうって。単に誰かを助けたかったとも言うね。人を救う趣味があるんだよ僕は。さあそろそろ目覚めようか。このベッドに寝るんだ」

「…………ああ」

 言われた通りにベッドに横たわると、慣れた手つきで布団を掛けられた。背中を向けている内にその姿は牧寧に変化しており、意地悪っぽく笑う顔が不思議と似合っている。

「じゃあ最後に―――()()()()()()()()() ()。お休み」


 妹の指でデコパチをされた瞬間、虚空から記憶にない声が響く。







『やめろ……やめろ! 有珠に手を出すな! そいつは普通に生きなきゃ駄目なんだ! ……頼む。やめてくれ。俺の親友、なんだ』


























 目を覚ます。記憶は明瞭で、綻びはないように思う。あれが夢でないなら、間際に聞こえた声が何なのかを是非ともむくろに聞きたい所だ。心の中にずかずかど踏み込んできた男性? は禍々しい煙を放つ大釜を沸かしながら、俺の目覚めを待っていた。

「…………むくろ」

「やあ目覚めたか。視界はどうだい。無機物にまで赤い糸は広がっていないだろう」

 視えているみたいに言い切られるのはともかく、彼? の言う通り赤い糸は引っ込んでいる。どうやって病状を戻したかは聞くまい。今も頭は混乱しているのに、余計に情報を増やしたらもっと分からなくなる。

「…………助けてくれて、せんきゅ。でも俺はまだ、お前に聞きたいんだけどな」

「残念だけど僕が知ってるのは君の視界の正体くらいだ。どうして君の記憶がないのかとか、幻影事件の犯人とか、『認識』の規定は誰が所有しているのかとか。そういうのは知らない。ただ行先を提案する事は出来ますよ」

「何処だッ」

 むくろは身体を上に反らして俺に向かって笑いかける。身体は柔らかくないのか辛そうで、喋る端から身体がぷるぷる震えていた。

「…………人間教会。そこに居る男は曲者だけど、色々な情報を知ってる。情報を得られるかは君次第だがね」

「…………そうか。有難う。何でそこまで色々知ってるかも気になるんだけど、そっちは教えてくれないのか?」

「これ以上長居すると一緒に居た女の子を悲しませてしまうよ? また時間がある時にでもおいで。工房はいつでも開いてるから」

 諒子を引き合いに出されると弱い。アイツは友達だ。動けない状況ならまだしも元気になってしまった以上、迎えに行かないのはわざと意地悪をしているみたいで気が引ける。俺の直ぐ手前にある扉を開けて階段を降りたらそこが玄関らしいので、様々な疑問を残しつつも俺は祭羽むくろの工房を後にする。




「また会おう」 

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