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第3章86話:精霊後

誰もが剣を引き抜いた。


誰もが槍を手に取った。


斧を、つちを、矢を。


己の得物えものを手にして、激昂げっこうする。





「アンリを殺せぇえ!!」


「殺せええええええええええええええッ!!」


「精霊の仇だ!!」


「絶対に許すなぁアアアアアアアアッ!!!」





血の涙を流し……


張り裂けんばかりに叫び声をあげて。


怒涛どとうのごとく兵士たちが突撃を仕掛けてくる。


津波のように押し寄せる足音。


俺は静かに笑った。


「愚か。――――しかし、それでいい」


精霊のために生き、そして精霊のために死ぬことがほまれだというなら。


俺が、望みどおりの結末を与えてやる。


誇りを持って、死ぬがいい。


「空間切断」


次の瞬間。


俺を中心として、周囲の空間が広範囲こうはんいに切断される。


そのたった一撃の【空間切断】により、神殿騎士団の兵士たちが全員、水平に両断された。


血の大輪だいりんが咲き乱れる。


断末魔だんまつまの絶叫とともに、切断された肉や、切断された防具が舞い上がる。


空へと吹き上がった血の雨が、遅れて降り注いでくる。


俺はサイコキネシスでまくを張り、血を浴びるのを防いだ。


100人以上の命が、一瞬にして散った。


あまりにも呆気なく。そして凄惨せいさんに。


数秒後。


周囲の大地は、真っ赤な血に染まっていた。


元の色が何色だったのかわからなくなるほど、血だまりが広がっていた。


(終わりだな……)


俺は兵士たちの魂へ、静かに黙祷もくとうをささげる。


そのあと、神殿騎士団から戦利品をいただいておくことにした。


彼らが持っていた剣や盾、アイテムバッグなどは根こそぎサイコキネシスによって回収する。


現在の俺には、容量無限のアイテムボックスがあるので、いくらでも収納可能だ。


回収した戦利品は、血に濡れているので、まずはサイコキネシスで血を除去してから、アイテムボックスへどんどん投入していく。


そして、それらが済んだら……


ただ一人、この場で生き残った存在――――アレクシアへと目を向ける。


彼女は、血の海となった地面にぺたりと座り込んで、呆然としていた。


大量の血を浴びて汚れている。


俺は、アレクシアに近づいた。


「アレクシア」


返事はない。


俺は告げた。


「ミリーナは、お前が守ってやれ。いいな?」


これから神殿国は大変な時代になるだろう。


なにしろ精霊を失ったのだから。


そんな激動の時代を生きる、親なき少女ミリーナを、どうか支えてやってほしいと思う。


アレクシアの眉が、ぴくりと動いた。


もう、俺から語ることはない。


長話ながばなしをするのは美しくないし、本当に言いたいことも伝わらない。


だから、アレクシアにかける俺の言葉は、これで終わりだ。


俺はきびすを返す。


そんな俺の背中に、アレクシアは声をかけてくる。


「待て……! お前はいったい――――」


アレクシアの言葉を最後まで聞く前に。


俺は【転移魔法】を使って、その場を去った。





かくして、リースバーグ神殿国への旅は終了するのだった。


そして新しい旅路が、また幕を開けることになる。




―――第3章 完






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