第3章55話:離脱
その言葉に、怒りに顔を染めた者たちが幾人かいた。
うちの一人……斧戦士の男が告げる。
「テメエ、調子に乗るなよ……ぶっ殺してやる」
斧戦士の男が、斬りかかってきた。
上段から振り下ろされる斧。
しかし俺は斧の軌道を避けつつ、脇腹へと拳を放つ。
「ぐあっ!!?」
斧戦士がひるんだので、俺は彼のあごにも一発、パンチを叩き込んだ。
拳の直撃を食らってひっくり返る斧戦士。
そのとき。
「ハァッ!!」
衛兵の女が、俺に向かって手をかざした。
その手のひらから魔法が放たれる。
水の魔法弾だ。
「ぬるい」
俺は手を振り払う動作で、水の魔法弾を砕く。
「なっ!?」
衛兵の女が目を見開く。
俺はその女に接近して、みぞおちに蹴りを叩き込んだ。
女が倒れる。
そのまま俺は、近くにいた男2人、女2人を殴り、蹴り飛ばして昏倒させた。
周囲の者たちが、どよめく。
「つ、つよい……!?」
「なんだよこいつ!?」
「全然魔力はなさそうなのに……!」
俺の戦闘力に恐れをなしたか、一瞬、彼らの戦意が鈍る。
しかし、それを鼓舞する者がいた。
聖職者である。
「怖気づいてはいけません! アンリの討伐は聖女さまと精霊の御意思。必ずや達成せねばならないのです!」
その言葉だけで。
多くの者たちの戦意が戻った。
俺への敵意や殺意がふたたび目に宿っている。
(これが信仰の強さだな)
と俺は分析する。
心の中に信じるものがあるから、不安や怯えをねじ伏せることができる。
ゆえに、精霊の信徒たちを敵に回すのは厄介なのだ。
そして、さっきから人がどんどん集まってきている。
俺が『勇者殺し』であり聖女の敵であると知って、戦える者は次々と戦闘に参加しようとしてきていた。
(面倒だな)
やはり全員を倒してまわるのは、かったるいと感じた。
俺がリースバーグ国にやってきた目的は、神殿国民の虐殺ではない。
さっさと逃げてしまおう。
俺は右足を地面にドン、と踏みつける。
と同時に、周囲に向けて、サイコキネシスの衝撃波を放った。
「なっ!?」
「ぐあああっ!?」
砕け散らされた足元。
そして、衝撃波を受けて吹き飛ばされた戦士たち。
俺の近くにいた連中が、軒並み吹っ飛ばされた形だ。
(さて、退散するか)
俺は地を蹴り、ジャンプする。
近くにあった白い建物の屋根に飛び乗った。
「お、おい! 待て!」
「逃げるな!!」
と、下から声がする。
俺は無視して、振り返ることなく、その場を去ることにした。




