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繰り返しの元聖女は聖騎士改め暗黒騎士を守りたいのに溺愛される  作者: 氷雨そら
第3章 理は崩れていく
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戦況の反転

ご覧いただきありがとうございます。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 遠くにアルフリートと戦う黒龍の姿が見える。人々はその威容に畏怖するしかなかった。それでも、絶望に心を塗りつぶされてしまわないのは、すでに誰からも勇者と呼ばれ始めたアルフリートへの信頼からだった。


 その手に聖剣を持つアルフリートは、黒い鎧のままだった。以前なら忌避されていたその色は、今は勇者と聖女を表す聖なる色という認識だ。それほど、わずか1週間の間に世界の認識は塗り替えられていた。


 人類は善戦している。しかし、それでも1匹2匹と王都に魔獣が侵入することが増えてきている。リディアーヌはやはりなぜか、一番に魔獣に狙われる。魔獣に知恵はないと言われているが、それでもどこをつぶしてしまえば一番効率がいいかを本能で知っているようだった。


「お嬢様!」


 エリーゼが、リディアーヌを突き飛ばした。その直後、いつかリディアーヌを追い詰めたあの魔獣が現れた。白い体毛は美しい。しかし、どこからも目立つその色は、黒に並び立つ自然界での強者の証ともいえた。


 リディアーヌが前を見やると、エリーゼの足が朱に濡れている。


「エリーゼ!」

「お嬢様!いったん退却を!」


 絶対にエリーゼを失うわけにはいかない。そう決意して走りこもうとしたリディアーヌを轟音が阻んだ。


――――パァン、パァン


 エリーゼにとっては以前にも聞いたことがあるその音。戦況を切り崩す最後の切り札だ。


「わ。またピンチになってるんですか?エリーゼさん……。すぐ手当てしてもらってくださいよ!?」

「バル、あなた毎回もう少しだけ早く来られないの。使えない男だわ」


 そう言いながらも、エリーゼの口角は上がっている。


「命がけで来たのに相変わらずの物言い!……でも、そうですね。すみませんでした。痛かったでしょう?……早く下がってください」


 魔道銃が100丁用意できるというのは、事実だったようだ。バルトルトは大きな武力をもって戦線に駆け付けた。訓練されたキサラギ領の騎士たちに、魔道銃が配られていく。


「今回は回数制限なく打てるようになりました。ところで……あの、勇者は」


 リディアーヌが手にしていたコルタナは、すでに泣きそうになっているバルトルトがその言葉を発した瞬間、激しく点滅し光り出す。


「…………は?あんた、いなくなってまで僕に指図すんのやめろよ?!」


 コルタナが激しく点滅するのは全く止まらない。


「は?やらないって言ってるだろ!後ろの女神っぽい人も、ついでみたいに囃し立てるのやめてくれ」


(また、バルトルトさまがコルタナと話している。なんだろうこの会話の既視感)


「ぐ。勝手に話しかけておいて言いたいこと言ったら黙りやがった。この…………魔王」


 バルトルトが泣いている。いつも弱音ばかりのイメージもあるバルトルトだが、泣いているのを見るのは誰もが初めてだった。


 バルトルトは情が厚い。そして、懐に入れてしまった相手の願いは何があっても完遂する。それが、彼と付き合い本当のバルトルトを知ってしまった誰もが抱く評価だった。バルトルト自身はそう思っていないようだが。


 バルトルトは髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き毟ると、涙をぬぐうこともなく前を向いた。


「さ、魔道銃の力。見せてやってよ。僕より後から練習し始めた君たちのほうが圧倒的に扱いが上手いんだからさ」


「序列四位、宰相バルトルト殿に敬礼!」


 キサラギ領の騎士たちは、プライドが高い。強さがすべての序列を決める魔王軍。その後は勇者の剣として鍛え抜かれた彼らは、強さを絶対としていた。


 しかし、バルトルトは人類の中でも武力では最底辺に近い、それは本人だけでなく彼と関わるすべての人間の知るところだ。それでも、騎士たちはバルトルトに最大の敬意を示す。


「……はあ、君たちは敬意を示す相手を間違っているよ。アルフリートとかほかにたくさんいるだろ。でも、僕は君たちが最高に強いこと、もちろん認めてる。この後のことは頼んだ」


 一糸乱れずに、キサラギ領の騎士たちがそれぞれの武器を頭上にあげる。


「「「われらが剣は勇者とともに!」」」


キサラギ領の騎士たちは、今はいない主君に勝利を誓った。

 

最後までご覧いただきありがとうございました。


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