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繰り返しの元聖女は聖騎士改め暗黒騎士を守りたいのに溺愛される  作者: 氷雨そら
第3章 理は崩れていく
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人類の戦いと小さな協力者たち

ご覧いただきありがとうございます。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「すさまじいな」


 騎士団長のつぶやきは、騎士団やともに戦うエドワルド王子、その戦いを見た全員にとって共通した意見だろう。


 アルフリートが魔獣を屠っていく速度は群を抜いている。誰よりも強く、誰よりも凛々しい聖女の祝福を受けた存在。聖騎士アルフリート。いや、決してこの世界には存在しないのだと教えられてきた勇者が目の前で戦っていた。


「俺たちも負けてはいられん!このまま魔獣をすべて滅ぼしてくれようぞ!」


 しかし、魔獣の大群は途切れる様子がなかった。リディアーヌやアルフリートが戦い続けていても、確実にヒトは数を減らしながら追い詰められていく。それでも、まだ人々の心を絶望が塗りつぶしてしまうことはなかった。


「戦え!人類の力をここに示せ!」


 誰もが諦めることはない。子どもや戦えない者たちも、食事を作ったり傷病者の手当てを手伝ったりとできる限りのことをしていた。


「リディさま……じゃなかったお嬢様!おかえりなさい」

「ハンナ!無事でよかったわ。その恰好どうしたの」


 リディアーヌのもとに現れた赤い髪の少女ハンナはなぜかメイド服を着ていた。孤児院でいつもリディアーヌが可愛がっていた少女だ。ハンナは少しだけ以前より背も伸びただろうか。その後ろからは、リルルとメルルもお揃いのメイド服で現れる。


「おかえりなさいませなのです。お嬢様」

「おかえりなさいませ。お嬢様」


「あなたたち。どうしてここに」


 クルクルと動き回るリルルをメルルが止めようとしている。落ち着きなく回りながらも、しっかりと返答するのはリルルだった。


「長老様のご命令で、一足先にこちらにむかっていたのです」

「お嬢様、支える。それが里の総意」


 パタパタと少し落ち着きのないリルルに対して、メルルとハンナは大人びたしぐさだ。ハンナはメルルを見本にすることに決めたらしい。さすがにしっかり者だとリディアーヌは妙に感心してしまう。


「でも、ここは危ないのに」

「そうでもありませんよ。なぜか弱体化しない忌々しいあの男と強く気高い聖女であるお嬢様がいるこの場所が安全でないというのなら、世界のどこを探しても安全な場所などないでしょうから」


 振り向くとずっと会いたかった、リディアーヌの最大の理解者が静かに立っていた。


「無事だったのね、エリーゼ」

「ええ、なんとか生き延びました。バルはともかく、この短剣は本当に優秀でしたから」


 なんとなく、その短剣を見るエリーゼの瞳が愛しいものを見るように見えた。


(あらら?まさかバルトルトさまと何か進展があったのかしら)


「お嬢様。余計なことを考えておられると、その身を危険にさらしますよ」

「ふふ。エリーゼの事を考えるのに余計なことなんてないわ」

「は。本当にお嬢様は無自覚の……」


 しかし、エリーゼは笑顔を見せている。ほんのひと時、幸せだった一番最初の人生の時間が帰ってきたように錯覚する。


(ううん。今回の事を終えたら、必ずもう一度あの時間を手に入れて見せるわ)


 今まで、アルフリートを守りたい一心で繰り返してきた時間は、回数を増やす度に苦しみの比重が増えていった気がする。


 それでも、今回の人生では、大切な人の数がどんどん増えていって……


――――お前さんも俺の守りたい仲間に入ってるんだよ。ということはさ。もう少しは仲間が増やせると思えないか?


 今までずっと敵として戦ってきた、今は頼もしい仲間、ギュンターの言葉が不意にリディアーヌの心に浮かんだ。


 今までの人生では、一部の人たちを除いて、遠巻きに見られたり、心無い言葉をかけられることが多かったリディアーヌにとって、仲間が増えていくことは素直にうれしい。


(一人でも多くの仲間を救いたい。それであってるんですよね。勇者さま、女神さま)


 たぶん、あと少し持ちこたえられれば戦線が動くはずなのだ。それまで必ず王都を守り抜いて見せる。それでも、リディアーヌはもう一人で戦う必要がない。たくさんの仲間に助けられながら、戦っていくことができるのだから。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「しっかし、すごい数だったな。俺もう腹減ったよ」

「ああ、しかしようやくアルフリート殿たちと合流できそうだぞ」

「ふああ、寝ずに戦うのはなれてるけど、よく俺たち生き残れたよなぁ」

「……そうだな。まあ、きっと勇者の加護でも授かっていたのだろう」


 ギュンターとキース2人はアルフリートと合流すべく、ようやく王都に足を踏み入れていた。その言葉を聞いたキースがぴたりと歩みを止める。


「……やっぱり、勇者は死んだのか」

「ああ、考えたくはないが、間違いなかろう」

「ちっ。手合わせしてもらう約束だったのに」


 そう言いながらもキースはうつむいてしまう。里の掟には厳格なキースだが、付き合ってみれば仲間に対する情は誰よりも厚いのがすぐわかる。


「泣くなキース殿」

「なっ泣いてない!」


 ギュンターは微笑ましいものを見たとでもいうような表情で、キースのまだ幼さの残る顔を見つめた。キースはその強さはアルフリートやギュンターよりまだ少し劣っている。しかし、その年齢からの伸びしろを考えれば、その実力は空恐ろしいものがあった。


「この戦いが終わったら、もちろんギュンターの旦那は俺と戦ってくれるんだろ」

「ふむ。構わないがまだまだ俺には敵わないと思うぞ?」

「そんなんわかってる。でも、里の人間以外を守ろうと思ったのは初めてなんだ。もっと強くなりたいんだよ」

「はは。じゃあ、実戦の積み重ねが一番だろう。……なんとしても生き残れ」


 ギュンターはキースの頭をなでた。


「……子ども扱いするなよ」

「俺にとってはまだまだ子どもだよ」


 そう言いながらも、まんざらでもなさそうなキースを見て、ギュンターはほんの一瞬だけ辛そうな表情を見せた。


「こんな子どもが戦わなくてすむ世界が一番だろ」


 その呟きは風に消えて誰の耳にも届かなかった。


最後まで見て頂いてありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハンナ登場!無事でよかった!メイド3人娘かわいいです^_^ さらに、エリーゼにギュンター、キース。大事な仲間たちが集まって来ましたね。 あとはバルトルトの到着を待つのみ♪
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