聖女と聖騎士の誓い
リディアーヌとアルフリートの絡みが少ないこの作品。異世界恋愛タグなのに。今回はがんばります。
✳︎ ✳︎ ✳︎
(これはいったい)
リディアーヌはきっとミカミ伯爵家にいるに違いないと確信していたアルフリートだったが、予想していた光景とはあまり違うその状況にさすがに驚きを禁じ得なかった。
「聖騎士アルフリート殿!お久しぶりです」
なぜか、いつもアルフリートを聖騎士でありながら理外れだと、王国の恥とまで時に言っていた騎士団員たちが、平伏している。
「ああ、久しいですね。騎士団長殿。しかし、この状況はいったい」
「聖女リディアーヌ様のお力によるものです」
アルフリートはやはり。という思いとなぜ?という思いで複雑な気持ちをため息とともに吐き出した。
「それで、戦況はどうなっていますか」
「今は、戦線を押し上げ維持していますが。しかし、魔獣の数は多く、魔力が低下している団員も多い。特に理外れと呼ばれていた者たちはそれが顕著です」
やはり戦況は厳しい様だ。しかも、今のリディアーヌの魔力量は確実に以前よりも少なくなっていることが予想された。
「聖女イリーネさまが今は全線で騎士たちの援護に回っています。エドワルド殿下も、自ら前線で戦っておられます」
「王都はいつ、一枚岩になったのでしょうね」
神殿が主な後ろ盾になっているエドワルド殿下と、高位貴族の影響が強い王国騎士団は今まで共闘するような関係ではなかったはずだ。共通の敵がいる状況というのは理由の一つにしても、あまりにも連携が強固になりすぎている。
「聖女リディアーヌ様のお力です」
「リディアーヌ、様の……」
「アルフリートさま!!」
奥の部屋から出てきたリディアーヌがアルフリートの腕に走りこんでくる。アルフリートはそれをしっかりと受け止めた。
「リディアーヌ様。やっと追いつきました。遅くなりましたことをお許しください」
「え?アルフリートさま……どうしてそんな」
よく見ればアルフリートの瞳は、深い海の色に戻っている。久しぶりにその両目がその色に染まっているのを見たリディアーヌは少しだけ不思議な感じを受けた。
(金色の瞳も消えてしまったのね。好きだったのに、少しそれだけは惜しいわ)
「リディアーヌ様には、ご報告があります」
「そう、私の部屋残っていたのよ?イリーネが残しておいてくれたの。行きましょうか」
「ええ……。それでは騎士団長殿、キサラギ領からの伝達がありますので、いったんお暇致します」
「ああ。我々は聖女イリーネ様とともに、魔獣を排除している。お疲れのところ申し訳ないが、アルフリート殿の力が必要だ。あとで合流してくれ」
「もちろんです」
✳︎ ✳︎ ✳︎
「アルフリートさま。さっきは何であんな言い方」
「リディアーヌ様。貴女の立場は以前と変わってしまった」
「え……」
「俺が貴女に以前のように接しては示しがつきません」
その通りなのだろう。アルフリートの言うことは正しい。それでも、その言葉にリディアーヌは突き放されたように感じてしまった。
(あれ……その瞳なんか、煌めいていませんか)
そんなアルフリートは、感情の読めない表情をしている。それなのに、今は黄金にならないはずのアルフリートの深い海の底をした瞳の奥がキラキラと瞬いている。
「アルフリートさまは嘘つきです」
「リディアーヌ様?」
「私、はっきり言ってアルフリートさまを守りたいとしか考えてないんですからね。だから、そんな顔と言葉で突き放そうとしたって駄目です」
アルフリートが、眉を寄せてリディアーヌを見つめる。煌めく瞳は気のせいではなかったらしい。今は黄金にならないけれど。
「リディアーヌ様が皆に認められる日を願っていたのは本当です」
「アルフリートさまはいつも味方でいてくれたわ」
「ひとり占めしていたかったというのはわがままだってわかってます」
「うれしいです」
いつも、アルフリートは自分を最後にしてしまう。リディアーヌもその傾向が強いのだけれど。
「あの、今なら2人きりですよ」
そうアルフリートの耳元でささやいてみたリディアーヌ。アルフリートは刹那、瞠目すると性急な動作でリディアーヌの唇を奪った。
「貴女は逃げ道をふさいでしまうんですね」
「ん……っ」
「俺はいつも、貴女を傷つけないために耐えているというのに」
繰り返される口づけに、リディアーヌの瞳がうるんでいく。
「でも、この続きは戦いが終わった時の褒美にとっておきますよ。というより、今まで繰り返してきた褒美。まだもらっていないものが残っているからまとめて頂くことにしましょうか」
少しだけ意地わるげなアルフリートの微笑み。
「もう、俺たちのつながりは切れてしまいました。貴女がもし死ぬようなことがあれば、生き残った俺は世界を滅ぼしてしまいそうだ」
「……ひゅわ?!」
「世界のために生き残ってください。聖女様?」
どういうことだろう。もし、魔獣の脅威から王都が救われても、リディアーヌが死んでしまえば真の魔王が誕生するとでもいうのだろうか。
それは、すでにお互いが死んでも共には死ぬことができない2人の、もう繰り返すことができないリディアーヌへのアルフリートからの鎖なのか。
(ほ……本当にやりそうなのが怖すぎる)
何としても生き延びて見せようと、今までにないほどにリディアーヌは決意を固めた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
【☆☆☆☆☆】からの評価、ブクマ、感想など頂けるととてもうれしいです。




