女神との邂逅
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眩い光に包まれて、思わず目をつぶったリディアーヌが、次に目を開けた時、そこは真っ白な空間だった。
だが、そこにいつも佇む女神が見当たらない。代わりに、イリーネが立っていた。
「……お姉、さま」
「イリーネ、あなた」
「忘れたくないと思っていたことは覚えているのに。まだ、今はお姉様だとわかるのに」
イリーネは、かなり聖女としての力を使ったようだ。その言葉には混乱と困惑が見てとれた。
「なんで……。なんでそんなに力を使うことになったんですか?」
リディアーヌは、慌ててイリーネを抱きしめる。
それにしても、ここまで記憶が消えるほど力を使うなんてあり得ない。理外れではないイリーネは、リディアーヌほど影響がないはずなのに。
「魔石を額に埋め込んだ魔獣が、王都にたくさん現れて……。キサラギ領にも、そろそろ伝令が届くはずです。でも、先程この女神の神託の場に……」
「女神さまは……」
「呼ばれた瞬間は、いつものように微笑んで佇んでいたんです。でも、急に表情が変わって」
(あの声、コルタナから聞こえた声は、女性の声だった。イリーネにとても似てる。そして、何かが起こっている。早く戻らなくては)
手に握ったままのコルタナが、また震えた気がした。目線をそちらに移したリディアーヌは、息を呑む。
「コルタナが、白銀になってる……」
「お姉さま。私、戻りたい。とても大切な、大切ななにかを王都に置いてきているんです。戻らないと!」
「イリーネ。まさか」
愛する人を忘れる聖女の宿命。前回会った時、第三王子に笑いかけていたイリーネの笑顔。
「あの、第三王子……エドワルド殿下はどうなさったの?」
「え?誰……ですか?王子……様。そう、聖女は王子様を守る。これは忘れてはいけないの」
イリーネが、眩い光を放つ。
「これ以上、力を使ってはダメ!!」
「ごめんなさい。お姉さま。これだけはどうしても、譲ってはいけないんです。……またお会いしましょう」
そのまま、光に巻き込まれて気づくと、勇者の前に立っていた。
「リディアーヌは、いつも予想外のところから現れるね?コルタナが言ってたよ。前回は隠し通路から現れたって?」
勇者はいつもの様子だった。だが、すでに出立の準備が整っているようだ。
「リディアーヌ、ありがとう。俺たちの理を壊してくれて」
「勇者さま」
「俺はもう、勇者じゃない。唯のシンジだ。力も弱まっているし、命も無限じゃない」
「でも、戦うんですか」
リディアーヌは、初めて勇者の本当の笑顔を見た気がした。
「ミナトが、戦ってるからね。それにまだ、アルフリートくらいの強さはあるんだよ?次は君たちを理から解き放って見せる」
(え?それは、弱まったと表現していいものなのかしら)
どう答えたらいいのかと、リディアーヌは思案していると、ギルマンとバルトルトが入ってきた。
「あ、バルトルト。やっと来たか」
「は、お呼びと聞き参上いたしました」
「君、今日から宰相ね?俺、出掛けてくるから。内政の全権はバルトルトに預けるよ」
「は?何言ってんだ、魔王……。僕のこと、そんな信頼してると痛い目見るって何度も言ってるだろ?」
勇者は、バルトルトに歩み寄って肩を叩く。
「これからの政治は、武力よりも知力だ」
「……え?冗談じゃなく、本気?!」
「信頼してる。バルトルト、よろしくな?」
そう言い残して、勇者は消えた。
「転移の宝珠……。やられた。ああ、やってやるよ。どうなっても知らないからなっ」
バルトルトは、リディアーヌに視線を移す。リディアーヌも、後始末は頼りになるバルトルトに全投することに決めた。
「リディアーヌ様、アルフリートに連絡しておきますね。あいつ、リディアーヌ様が急に消えたせいで、このまま放っておくと暴走しかねない」
「……私も先に王都に行くと伝えてください。待ってますと」
バルトルトが、目を見開く。
「は?そんなのアルフリートになんて説明……あ!リディアーヌ様まで、いざという時にって渡してたそれ使うんですか?!」
転移の宝珠は、こういう時に使うのだとばかりに、リディアーヌもその場から再び消えた。
バルトルトの苦難は続きますが、本人はそこまで嫌がってはいないと思います。




