闇の聖女はもう一度信じる
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その日は晴天だった。
「アルフリートさま」
「リディアーヌ様……行きましょう」
アルフリートと共に戦うのは、とても久しぶりな気がする。今までのリディアーヌなら、何とかしてアルフリートを守ることばかり考えていただろう。
(でも、もう一度信じることにした)
繰り返しの中、アルフリートへの気持ちが失われる世界。それでも、それがなによりも大事であることだけは忘れたりしなかった。
今日未明、黒龍がキサラギ領の西に現れたという早馬が届いた。時期は、リディアーヌが知っているものとほとんど変わりがない。
「アルフリートさま?戦いに行く前に逆に聞いてもいいです?」
「なんなりと……」
「ご褒美は何がいいですか?」
「…………え?」
めずらしく狼狽えた様子のアルフリートを見て、リディアーヌは、ふふっと笑った。
いつも、アルフリートの言葉に揺り動かされるリディアーヌの気持ち。たまにはこんなのもいいだろう。
「…………貴女に、忘れられたくない」
「…………アルフリートさま」
「でも、俺は何回でも好きになってもらうつもりです。覚悟して下さいね?」
(それは、私がもらうご褒美なのでは?!)
今度はリディアーヌが赤面する番だった。
「ま、心配するな。俺がちゃんとトドメは刺してやるからな!」
ギュンターが、赤茶色の髭をいじりながらニカッと笑った。敵になった時もあったけれど、味方になったギュンターは本当に頼もしい。
「俺も忘れてくれるなよ?帰ったら序列決定戦もう一回だからな!流石にバルトルトの兄さんよりは序列が上になりたいからな!」
キースも余裕の笑顔だ。『任せておけ』というように、プルプルと、リディアーヌの左手首につけたコルタナが揺れる。
(あら?コルタナの色が少し薄く、白っぽくなっている気がするわ?)
「さ、行きましょう?リディアーヌ様」
「ええ」
魔王はいなくなってしまったから、黒龍を倒したその先の未来をリディアーヌはもう知らない。
それでも今は仲間がいる。頼もしい仲間たちに、背中を預けることのなんて心強いことか。とリディアーヌは晴れた空を仰いだ。
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「行かなくてよろしかったのですか?我が君」
「あのメンバーなら、黒龍相手でも過剰戦力だよ」
ギルマンに晴れやかな笑顔を向けて、勇者が答えた。
「…………それは間違いないですな」
「ギルマンこそ、行きたくなかった?理に縛られたアルフリートより、よっぽど強いでしょ?君は」
その言葉に、元魔王軍序列一位が笑みを深める。
「…………それは、若者たちに任せます。今は内政を通して、序列四位殿を弄るのが楽しいのでね。まさに、底なしの吸収力ですから」
「ふーん。さすがバルトルト。でも、ひ弱だからほどほどにしてやって?」
「ギリギリの匙加減は心得ております」
ギルマンに魅入られたバルトルトを、勇者は少しだけ気の毒に思った。
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「くしゅんっ。……ん?風邪ひいたかな?」
その頃、書類に囲まれたバルトルトは、人知れずくしゃみをした。
本気になった時のバルトルトはとても優秀だが、体は一つしかない。周りには、体力回復のポーションの瓶が散らばっていた。
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ギルマンと勇者は話を続ける。
「それに、行かない理由は他にもあるんだよ。客人を出迎えなければならないからね」
「それはもしや序列四位殿の……」
「うん。俺は俺の戦いがある。理が支配する世界を終わらせるための下準備さ」
勇者は微笑んだ。ミナトとシンジのいた世界には、理と代償など存在しなかった。だが、この世界は繰り返す理に支配されている。
「……俺は何としても大事な女神を迎えに行く。そのためには、ほころびかけた理は邪魔だからね」
「我が君。アレと戦うのですね」
勇者は聖剣を握りしめる。それは諦めていた運命への挑戦だった。
「うん。でも、そのあともきっと魔獣は消えないから、理のない世界には、新しい力が必要だ」
たぶん、力なきものに力を与える新たな武器は理の代わりに、自由と戦乱をもたらすのかもしれない。歴史がそれを証明している。
そしてその時、勇者はやはり武器をこの世にもたらした魔王と呼ばれるのだろうか。
「それでも、構わない。その先に望む未来があるなら。…………待っていて、ミナト」
それぞれが、それぞれの望む未来に足を進める。そこにあるのは、破滅か自由か?その答えは、まだどこにも存在していなかった。
最後までご覧頂きありがとうございました。
物語は繰り返しのその先へと進みます。
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