闇の聖女は素直に想いを伝える
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鏡の前で身なりを整えながら、リディアーヌはため息をついた。
(エリーゼがいないと、なんだか調子が出ないわ。エリーゼは、幼い頃からいつもそばに居たから)
6回の人生では長い旅にも出たから、リディアーヌは伯爵令嬢といっても自分のことは自分でできる。それに魔王城のメイドの優秀さはエリーゼに引けを取らない。
しかし、それとこれとは話が別だった。
「はぁ……。ところでアルフリートさま?お入りになりませんか」
どうもアルフリートも様子がおかしい。
言いたいことがあるようだが、エリーゼがいないからと安全のため少し開けている扉の前でソワソワとしているばかりだ。
声を掛けてようやく入ってきたアルフリートが、しばしの逡巡の後、口を開いた。
「……リディアーヌ様。イリーネ様にお会いになりたいですか?」
「……そう。謁見の申し込みが来たのね。……イリーネは無事なのかしら」
聖女の力の代償を知ってから、妹のことはずっと気になっていた。あの、聖女選定の日に様子がおかしかったことも気になる。
「リディアーヌ様。申し訳ありません。聖女はその力で傷ついた人々を癒している。という情報ばかりでした」
今までのアルフリートであれば、イリーネからの謁見希望を、私には知らせることもなく処理していた気がする。
(ちゃんと選ばせてくれることが、本当に嬉しい)
左眼は何故か金色のままになってしまったけれど。
(その蒼も、美しい黄金も……。私はとても……)
そんなことを考えていたら、ストンといつもリディアーヌの心の奥底にあった、正体不明の大切な感情の名前に思い当たった。
(……ただ大切なのではなく…………好き)
いつもリディアーヌを最優先にして、たくさんの言葉を与えてくれたアルフリート。彼のためになら、どんな代償も迷わず選択できるリディアーヌ。
(でも、もっと単純に。大切な言葉は伝えていなかった)
「あっ……アルフリート、さま」
「はい。リディアーヌ様?」
「もっとこっちに来てください」
少し困ったような笑みを浮かべて、アルフリートが近づく。リディアーヌが、その手を掴んで顔を見上げた。
「アルフリートさまは、もう魔王城の中は探索しました?」
「ええ、まぁ。リディアーヌ様をお迎えするにあたり、一通り網羅しています」
「では、一番景色が綺麗なところに、連れていって下さい」
「は……。リディアーヌ様が望まれるのであれば」
アルフリートが連れていってくれたのは、尖塔の最上部だった。遠くに、赤や青の地層が美しい山も、この国の最高峰も見える。
「ありがとうございます。アルフリートさま。とても美しいです」
「喜んでいただけてよかった」
そう言うアルフリートに微笑みかけたリディアーヌはアルフリートの横に並んだ。
アルフリートに聴こえてしまうのではないかというほど、心臓が高鳴り、酷く喉が渇いたが、リディアーヌは勇気を振り絞ることにした。
「…………好きです。アルフリートさま」
「リディアーヌ……様?」
「私は、アルフリートさまが好きです」
その瞬間、片側の深い海の色をした瞳から真珠のような涙がひとつだけ溢れ、アルフリートが顔を背ける。
「……貴女をあんな風にしてしまった俺には、そう言っていただく資格がありません」
(貴方を苦しませる原因が、私だってこと、わかってる)
リディアーヌは、その高い肩に両手を置いて、頬に優しく口付けした。
「……アル。それでも、アルが好き。見えなくなってしまっていたこの気持ちには、その名前しかないみたい。貴方の気持ちを教えてほしい」
「……あの瞬間。美しいコスモスが咲く中で、貴方にあったあの日から、俺はずっと」
たった2文字の言葉を伝えるのに、2人はずいぶん遠回りしたように思う。あの瞬間から、たしかにその気持ちは存在したのに。
「好きです。リディ」
その瞬間、涙をこぼしながらも嬉しそうに笑ったリディアーヌの顔をアルフリートは永遠に忘れないだろう。
そしてリディアーヌも、この大切な瞬間を今度こそ決して忘れたくないと願った。
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