闇の聖女と聖騎士はいま一度出会う
ご覧いただきありがとうございます。本日2回目の更新なので、ご注意ください。
✳︎ ✳︎ ✳︎
『光の聖女は聖なる力で人々を繁栄へと導き、闇の聖女は魔王と共に女神を殺す。』
それはこの国に住むものならば、子どもでも知っている勇者と聖女のお伽話の一説。
実の妹、今代の光の聖女イリーネに闇の聖女認定されてしまったリディアーヌは、自室に謹慎を命じられていた。屋敷の外は、闇の聖女の処断を願う神殿関係者が詰め寄っている。
(誰もが、安寧を夢見ている。こんな世界だから。いっそ、彼らの思うとおりになってもいいのかもしれない)
闇夜の髪をなでながらリディアーヌはひそかにため息をついた。
「あんまりです。お嬢様が闇の聖女のはずがないではないですか」
「エリーゼ……。まぁ、そんなに怒らなくても」
「何を言っているのですか!光り輝く御心をお持ちかつ誰よりも馬鹿正直なお嬢様が闇に染まるわけがないのに!」
「エリーゼの発言こそ思い込みの極みみたいだわ」
(光り輝くかはともかく、たしかに闇の聖女となれば極刑すら免れないかもしれないわね。そしてミカミ伯爵家へも少なからず影響がある)
不吉とされる黒い髪と瞳をもって生まれたことから『理外れ』と言われるリディアーヌ。
リディアーヌを取り巻く環境は平穏とは言えなかった。それでも、父と母はリディアーヌに教育を与え、淑女として最低限の教養を身につけさせ守ってくれた。
確かに、黒い髪と瞳のせいで社交界にはほとんど出たことがない姉に対し、妹は天真爛漫で誰からも愛されるいわゆる社交界の花というべき存在。
しかし妹のイリーネもリディアーヌに冷たく当たることはなく、むしろ仲の良い姉妹だと思っている。
聖女として任命されてから内政に少なからず関わっていたリディアーヌは、闇の聖女がもたらす影響力を理解することができる。
アルフリートを救いたいのだとしても、理外れと揶揄される黒髪黒目のリディアーヌをここまで育ててくれた父と母に、そしてミカミ伯爵家に迷惑をかけることは望んでいなかった。
(聖女にイリーネが選ばれたことが、父と母、そしてミカミ伯爵家の民をを救ってくれればいいのだけれど。それにしても闇の聖女なんて影響が大きすぎる。女神の神託は人々の希望なのだから)
「……少しだけバルコニーに出たいわ。1人で考えたい事があるの」
そう願うリディアーヌに最高の理解者であるエリーゼは、少しの逡巡を得て答える。
「お嬢様…………。かしこまりました。何かございましたら、すぐにお呼びください」
✳︎ ✳︎ ✳︎
エリーゼを部屋に残し、バルコニーに出たリデイアーヌは、夜空を見上げた。夜も更けて、今はおしかけていた神殿の関係者たちもそれぞれの家に帰っているようだ。
(繰り返しの人生が変わっていっても、この星空は変わらないのね)
以前の人生では聖女として眺めた星空は今も変わりなく。あの時の流れ星が今夜も流れているのをみて、リディアーヌは一人ため息を漏らす。
「……そこにおられるのはどなたですか」
そこには6回の人生で研ぎ澄まされた感覚がなければ、気が付かないほどの気配。
(どうしてここにいるの?)
それでもリデイアーヌは、半ば確信して振り返った。
「お初に御目にかかります聖女様」
「……聖女は妹です。訪れる部屋を間違っておられますよ。聖騎士さま」
そう言いながら貴族の笑みを張り付けて振り返ったリディアーヌは、その瞬間にヒュッと息を呑む。
暗闇にたたずんでいた聖騎士は、いつもであれば今宵の夜空そのままの瞳の色をしているはず。それなのに。
(なんでっ。なんで初対面でそんなに本気で怒ってるんですかぁ……)
闇夜のような紺色の髪に黄金の瞳の騎士が至近距離にいて、思わずリデイアーヌは地平線の彼方まで逃げたくなった。
いつもアルフリートは紺の髪に、深海や夜空を連想する美しい蒼の瞳をしている。でも、彼の心が強く揺らいだ時にその瞳は強いきらめきを持つ黄金に変化する。
アルフリートがその瞳の色を変える原因を知っているのは、彼に信頼されたごく一部の人間のみ。
自分がその一部の人間に入っているのだと理解していなくても、リディアーヌは知っている。
聖騎士アルフリート•シュノッルは、普段穏やかだが、本当に怒った時にはその瞳の黄金が強く煌めくことを。
そして今この瞬間、アルフリートの瞳は、今まで見たこともないほど煌めいていた。
最後までご覧いただきありがとうございます。次回も見たいと思っていただけたらぜひ、ブクマや評価をください♪感想も創作意欲があがります。よろしくお願いします。




