眠るは暗黒騎士目覚めるその瞳は
ご覧いただきありがとうございます。無事、第一章本編最終話にたどりつきました。
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ドアノブにすら繊細な装飾が施されている。リディアーヌはそっとドアを開けて中を覗き込んだ。少し薄暗い室内に目が慣れず、すぐには何も見えなかった。
魔王の言葉から中に何があるのか予想して、リディアーヌの胸は息苦しくなるほどにひどく高鳴っていた。
「あ……」
寝台に眠る人影を見て、リディアーヌは思わずそばに駆け寄る。
「アルフリート……さま」
(少しやつれたわ……。顔色も……)
やつれた顔つき、でも長い睫毛も、整った鼻筋も、薄い唇もそのままにアルフリートは眠っていた。
ポロポロポロッ……リディアーヌの瞳から落ちた涙がアルフリートの頬にかかり流れ落ちる
(あっ……いけない、離れなくては)
その時アルフリートが目を開き、ぼんやりとした目でリディアーヌを見つめた。掠れた言葉が口元から紡がれ、節くれたその指がリディアーヌの頬に触れた。
「リディアーヌ様……。ご無事で良かった。貴女があんな目に合っていたのは夢だったんですね」
起き上がったアルフリートがリディアーヌの手を引いて、強く抱きしめた。
「アルフリート……さま」
リディアーヌは、あの時の意識が薄れる寸前の甘美な感覚を思い出し、思わずアルフリートの背中へと自分の腕を回した。
その瞬間、ビクリとアルフリートの体が強く緊張し震える。
そしてリディアーヌの肩を押しのけて見つめるアルフリートの瞳は、右は深海の色、左だけが太陽のように輝いていた。
「あ……夢じゃないのか?……では、アレも」
口元を手で抑え、寝台を降りて離れようとするアルフリートの上衣の裾をリディアーヌは両の手で掴み、そして祈るように呟いた。
「行かないで。私、アルフリートさまに話さなくてはいけないことがあるんです」
「話すことなど。私には貴女のそばにいる資格がない。……貴女があんな目に遭うなんて。俺の、せいで」
(やはり、アルフリートさまは知ってしまったのね)
「ごめんなさい。責任感の強いアルフリートさまは、私の顔を見れば思い出してしまいますよね……。ただ、ひとつだけ伝えたくて」
(……泣いてはだめ)
リディアーヌはなんとか笑顔になり、アルフリートを、正面から見つめた。
(大丈夫。笑うことができている)
「アル。あの日の約束を守ってくれてありがとう」
コスモスのトンネルで笑いあったあの日から、外の世界に怯えていたリディアーヌは変わることができたのだから。
そして、リディアーヌはアルフリートの上衣からそっと手を離しその場を去ろうとした。
「…………っ」
その手を掴んで、リディアーヌを振り返らせたアルフリートの唇がリディアーヌに、重なる。
あの時、一瞬だった触れ合いは、今は息をするのも忘れるほど永く。それが離れても、片方だけ輝く満月と宵闇のような瞳にはリディアーヌが映っていて。
「……ずるい、です。リディアーヌ様……。そんなの逃してあげられなくなるに決まっているじゃないですか」
つぶやいたアルフリートが、もう一度、二度とそっと触れる口づけを繰り返す。
「貴女を遠くから守ろうと、誓ったのに」
「私、貴方にまた会えるなら、何度繰り返しても苦しくなんてなかったの。でも貴方のそばに居られなかった、今までの時間は寒くて苦しかった」
アルフリートがもう一度、リディアーヌを抱きしめる。リディアーヌも、今度は躊躇うことなく抱きしめ返した。
「……分かりました。それでももう、繰り返しも御身を犠牲にするのもなしですよ」
(……ひっ?今まで見たことがないくらい両の瞳が輝いていらっしゃる)
「今回の人生で再会したあの日。実は前回魔王がかけた祝福をその唇を通していま一度かけさせて頂いています」
あの日の口づけを思い出して、リディアーヌは思わず己の口を両手の指先で押さえる。
(凄い瞳がギラギラ輝いてる。未だかつてなく、お……怒ってらっしゃるぅ……)
―――俺が死んだ時、貴女もその生を終える。貴女が死んだら俺も死ぬ。
「素敵な祝福だとは思いませんか?」
「ふぁっ、アルフリート様?それって、世間でいう」
深い口づけに、『呪い』の二文字は言うことはできなかった。
これにて第一章完結です。やっと現在の2人がきちんと再会してくれてホッとしております。お話はまだまだ続きますので、よろしくお付き合いくださいませ。
この後はもう少し、アルフリートとエリーゼの出会い、バルトルトとアルフリートなどの挿話を挟んで第二章を開始します。
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