離れた2人は互いを想う
お越しいただきありがとうございます。第一章本編は、残すところあと3話です。
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黒を基調とした装飾に高い天井、重厚な作りの広間で、執事服に身を包んだ薄紫の髪と瞳をした壮年の男性が膝をついた。剣は、すでにその手にはない。
「ガハッ……いくらなんでも貴方、強すぎるのではないですか。これではまるで……」
「……魔王。約束通り序列一位は俺ということでいいですか?それともまだ、誰か他に戦いたいものがいるなら、それでも構わないですよ」
頬杖をついて、魔王に相応しい豪奢な椅子に座っている魔王は、しかし15、6の見た目で幼さを残しチグハグな印象を受ける。
「ふーん。本当に前の時とは間違えた強さだ。それで、序列一位になった願いは、魔王軍の指揮権が欲しいという望みで良かったかな?」
「そうです。叶わないなら、魔王、あなたとも戦う事になりますが」
魔王はその黒い瞳を三日月に細めて言う。
「それはとても楽しそうでそそられるな。まぁ俺にも制約というものがあるから、残念だけどその誘いにはのれないんだ。でも、指揮権は今の君には与えられない」
「では、お前を打ち倒して手に入れる」
ギィンッと青い火花が散る。剣を指先のみで受け止められ、流石に黒い鎧の騎士も後ろに飛び退いた。
「はははっ。今の君ではダメだよ。一般的に言えばあの時より強くなったけど、あの時の方がまだ俺に勝てる可能性があったのだから」
「な……にを」
「君はさ、少し眠りなよ。ずっとまともに眠っていないだろ?その間に俺は君の大事なあの子を迎えに行ってくるから」
その瞬間、黒い鎧の騎士、アルフリートの体が黒い焔に包まれ、その体が床へと倒れ込んだ。
「リディアーヌ……様」
恋焦がれるその名を呼んで、アルフリートは意識を手放した。
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シャラン……
「……っ。アルフリートさま?」
何故かアルフリートに呼ばれた気がして、リディアーヌは振り返る。
もちろんそこにアルフリートはいない。代わりにそこにいて不思議そうな顔をしてこちらを見ているのはキースだった。
「あの黒い鎧のにいさん、アルフリートっていうのか?主殿とはどんな関係なんだ?」
(アルフリートさまとの関係?繰り返した日々を知っている私にとっては、誰よりも守りたいヒトだけれど、アルフリートさまにとっては?)
「私にとってとても大切なヒトよ」
「そっか。じゃあ……おぉっと、ふざけるな。ほんとに頭がかち割れるだろっ」
エリーゼが作った巨大な氷塊をすんでのところで避けたキースが叫んだ。
「万死に値することを述べようとしたその口。頭ごと消滅させようとしたのですが失敗しましたか。とても残念です」
「おーい。こんな稼業の俺ですら今まで経験がないレベルで物騒な物言いだぞ」
(2人が打ち解けてくれて良かったわ)
こう見えてエリーゼは、敵には容赦なく、その他の人間には完璧なメイドとしての立場しか見せることがない。
こんなふうに、エリーゼが一見冷たい言い方ながらも軽口を叩くのは、信用が置けると思った相手だけなのだ。
多分氷塊もキースであれば確実に避けられると踏んでのことだろう。おそらくだが。
(きっとあと少しでアルフリートさまに会えるはず。会ったら一体何を伝えようか)
何かを伝えて、2人の今までの関係が崩れてしまうのが怖い。今、アルフリートとリディアーヌの距離はすでに変わってしまったのか、変わりつつあるのか。
それでも伝えることなく繰り返してきた今までの人生は、もしかしたら間違っていたのかもしれないとリディアーヌは思った。
(アルフリートさまの瞳が煌めくのは、怒りだけではなかった。むしろ、怒りのせいで黄金に様変わりした時には、自分を責めて、自分に怒りを覚えていたのだと、今は思い出すことができる)
今回の人生で、アルフリートに出会ったあの瞬間。アルフリートの瞳が黄金に煌めいていたのは、たしかに怒っていたのだろう。
(今ならわかる。あの時アルフリートさまは、自分を責めていたのだわ)
リディアーヌは、左手首のブレスレットをそっと撫で、瞳を閉じて頬を擦り寄せた。
「アルフリートさま……」
たとえどんな結末になっても、アルフリートへ自分の思いも、今までの繰り返しの真実も伝えたいとリディアーヌは思う。
(アルフリートさまがしてくれた、たくさんのことに誠実な自分でいたいから)
アルフリートとリディアーヌが今回の人生で三度出会うまで、たぶんあと少しなのだから。
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