隠れ里の双子姉妹と長老の秘密
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隠れ里、ハイデ。そこには隠密を生業とし、なによりも契約の履行を重要視するという一族が住んでいるという。
(思ったより普通の街だわ。子どもたちの姿も……)
周りの様子を伺うリディアーヌに気づいた少女が小走りで近づいてきた。
「ねっ、お姉さんが闇の聖女さまなのです?」
肩の上で切り揃えられた銀の髪に黒い瞳の少女が言う。そのあとを、もうひとりの少女が追ってきて注意する。
「ダメ。リルル!長老さまに叱られる」
続いてそれを止めるのは、同じく肩で切り揃えられた黒の髪に銀の瞳の少女。
「えー?どうしてなのですメルル?みんな闇の聖女さまを待ってたのです」
(わっ、可愛らしい)
正反対の色合いをした双子の少女は、リルルとメルルという名前らしい。
髪の毛をクシャッと掻き分けてキースが双子の前にしゃがみ込む。その表情は先ほどまでと違い柔らかい。
「リルルにメルル。長老とこれから大事な話があるんだ。あとでな」
「はぁい!分かったのです。キースさま!」
「はい。キースさま」
2人は競走するように走り去っていく。
(孤児院の子たちはどうしているかしら。私が急にいなくなって、どう思っているのかしら)
癒しの力により、神殿に通うようになってから同時に孤児院へも通い続けていたリディアーヌ。子ども達は、リデイアーヌに良く懐いていた。
「あー、驚いたか?すまねぇな」
「いいえ、とても可愛らしいですね」
「ん?2人の見た目を見てもなんとも思わないのか」
心底意外とでもいうように目を瞬いてキースはリディアーヌを見る。そして初めて合点があったかのように言った。
「あぁ、そういやアンタもか」
「え?」
ため息をついたエリーゼが、リディアーヌに説明をする。
「お嬢様。この里のものはほとんどが、『理外れ』なのですよ」
「あ。なるほど……そうなのね」
(そうするとキースやエリーゼもそうなのかしら?)
「お嬢様。私やこの男は残念ながら『理外れ』ではありません」
2人のやり取りを少し厳しい顔で聞いていたキースが破顔する。
「……残念ながらって……ははっ、あんたら変わってるのな」
「お前に言われるまでもなく、お嬢様の存在が他の下々のものと同じはずがないでしょう」
エリーゼの尖った物言いに動じるわけでもなくキースは言う。
「まぁ、アンタらみたいな人間のほうがありがたい。俺は契約が有効なうちは、主殿、つまりアンタらを守らなくちゃいけないんだからな」
「そう言われれば」
リデイアーヌは、先ほどから引っかかっていたことをキースに尋ねることにした。
「ねぇ、どうしてキースさんは私たちを助けてくれるの?契約とか主ってなんのこと?」
「んん?さっきの黒いにいさんは仲間なんじゃないのか?あのにいさんがアンタを守るように契約を迫ってきたんだよ。俺は自分より強いものは尊重する主義だからな」
(アルフリートさま……)
キースは少し癖のある髪をクシャッとしてさらに続ける。
「詳しくは長老に聞いてくれ。あと、キースさんってのはなんとかならないか?キースでいいからさ」
人懐っこい様子で、リディアーヌに呼び捨てるように頼んでくるキースに、エリーゼが代わりに答る。
「命知らずですね」
「はぁっ?なんでだよ」
「そんな呼び方をお嬢様にしたら、あの男に存在を消されますよ。まぁ、その前に私が寝首をかくと思いますが」
キースは大きなため息をつくと、呟いた。
「おいおい、あからさまな嫉妬かよ。まぁ、諦めるか。ほら、長老の家に着いたぞ」
そこは、他に比べて少し大きいだけの家だった。木造で赤茶色で艶のある小さい波打った板のようなもので屋根が覆われている。キースの案内でリディアーヌとエリーゼは中に入っていった。
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