書いてみたけどしっくりこなかった奴
本作は未完成です。
書いてはみたものの、しっくりきませんでした。
別途新作プロットを構築するにあたり、放流します。
プロローグ
月のない夜。太古の墳墓の高く盛られた土の丘に、屍王ネクロヴァルドの姿があった。
朽ちた玉座にどかりと座る。腐敗の王冠を戴いた頭部からは、溶けた肉が常に滴り落ちた。
骨と臓物の入り交じった巨大な体躯。吐く息は腐臭を放ち、生者は嗅ぐだけで卒倒する。
墳墓の周囲を紫色の瘴気が包む。アンデッドの力を増幅させる屍王の結界だ。
王に仕えるのは666体のゾンビ兵。倒しても倒しても立ち上がる不死の軍勢である。
並みの冒険者では、この墳墓にたどり着くことすらままならない。
ばかりか、これまで幾多のS級冒険者パーティーを返り討ちにしてきた。
魔族の中で最も魔王に近いとされる魔公爵。
とても俺みたいなD級ソロ冒険者の手に負える相手じゃない。
つい、さっきまでは。
屍王の溶け落ちた目が俺をじろりと確認した。
「どうやって我が軍団の防御陣を突破したのだ小僧?」
「土にでも還ったんじゃね。知らんけど」
答えてやる義理なんか無ぇよ。
屍王は立ち上がった。
「よかろう。偶然とはいえ、ここまでたどり着いたことに敬意を表して……我が直々に貴様の息の根を止め、腐敗の眷族にしてくれるわ。光栄に思うがいい」
ドロドロに溶け続ける魔族の顔に吐き気がした。
濃密だった紫色の瘴気が薄れて消える。屍王は俺のユニークスキルの効果に気づいていない。まあ気づいたところで、対処する術なんてないんだけどな。
俺のユニークスキルは、こういう手合いに特効だ。
マントの下から短杖を取り出す。
攻撃手段といえば、魔力を込めてぶん殴るのが関の山。我ながら付与術師が聞いて呆れるぜ。
「ほほぅ。そんな小枝のような杖で我に刃向かうとは……愚かなり!」
屍王が俺目がけ、溶けかけた指先を向ける。腐臭漂う声とともに、死の呪詛が放たれた。
どす黒いオーラが人の頭蓋骨を模し、俺の心臓目がけて飛ぶ。
絶対食らったら死ぬ。いや、死ぬより酷いことになるやつだ。ゾンビ化して、未来永劫こき使われることになる。
死んでたまるかよ。俺にはまだ、やりたいことがたくさんあるんだ。
だから……魔力解放!
魔力を込めた短杖で、俺は浮遊する頭蓋骨をフルスイングした。引っ張るように弾き返す。長打コース。途中で頭蓋骨は砂糖菓子のように砕けて雲散霧消した。
「――!? バカな! 我が呪詛を打ち返しただと!? 貴様ら下等生物が誇る、最高戦力のS級どもですら抗えなかったというのに!」
そりゃ驚くよな。S級冒険者といったら、国家的な英雄たちだ。今までその指先で何人も葬ってきたんだろう。
「人間ごときが防げるものではないのだぞ!」
「打ち返された事実は覆らないが?」
言うなり俺は、ちょっと、いや、かなり嫌だけど、屍王との距離を詰める。
「なっ!?」
こっちから仕掛けてくるとは思って無かったんだな。強者故の驕りってやつだ。
短杖を振り上げ振り抜き、王の膝をぶち抜いた。跪かせると両肩に一発ずつ打撃を浴びせる。いともたやすく両腕がもげた。
「ぐああああああああああああああああ!」
「うるせぇしキモいし臭ぇんだよ!」
仕上げに屍王の頭部を殴打。首から上がずるりともげて頭部が地面に転がった。
あっという間の出来事に、屍王も何が起こったのか理解できていなさそうだ。
「貴様! 貴様貴様貴様貴様! 我に何をした!」
「何もしちゃいないさ」
「我が人間ごときに後れを取るなどありえぬ! いったい何者だ!?」
「ただの付与術師。D級冒険者だよ。お前が倒してきたS級からみりゃ、雑魚もいいところさ」
「D級……しかも付与術師だと!? 仲間の力を高める魔法を操る後衛職であろう? 貴様のような腕力バカの付与術師がいてたまるか!」
首だけになってもギャーギャーとよく騒ぐ。
「いるんだな、これが」
「ぐぬぬ。おかしい! なぜだ! 我が肉体は無限に再生するというのに! なぜ肉体が復活しない!?」
「あーそれね。無理だよ。お前……自分が弱くなってるってことに、気づいてすらいないんだから」
「我が弱くなった……だと!? そんなはずはあるものか!」
まったく。高位の魔族様ほど自信に満ちあふれていらっしゃるんだから。
俺は屍王の頭をぎゅうっと踏みつけた。
「俺ってユニークスキル持ちなわけ。おかげで苦労してるんだけどな。まあ、それはそれとしてキモい相手にさ……おもいっきりデバフが掛かるんだ。レベルダウンとか特殊能力封印とか」
自分の力を語る時は、相手が死ぬ時だ。
「う、嘘だ! やめろ! 踏むな! 踏むなああああッ!」
ブーツの靴底から伝わるブニブニの感触に背筋が粟立つ。同時に俺のスキル――キモカワジャッジメントがさらに効果を発揮した。
もはや屍王は、ただの屍だ。
「潰れる! やめろ! た、助けてくれ!」
「キモい見た目に生まれた不幸を呪うんだな」
俺は屍王の頭を踏み潰した。ぐしゃりと音を立てて、魔公爵は静かに消滅した。
1.
冒険者ギルドの報告カウンターで、俺は係員の男の胸ぐらに掴み掛かった。
「屍王ネクロヴァルドを倒したやろがい!」
男は黒縁メガネをクイッとさせた。
「たまたま通りかかった時に、勝手に死んだんでしょう? それをご自身の成果だなんて、よく言えたものですね」
冒険者登録していると、腕輪に撃破した対象の反応が自動記録される。
それが証明になるんだが、この係員ときたらまるで信用しない。
男は冷たい眼差しで、にらみ付ける。
「警備兵を呼びますよ」
「チッ……」
手を離す。納得はしちゃいない。
「魔公爵が勝手に死ぬわけねぇだろ」
「D級ソロ付与術師が魔公爵を単独撃破できるわけがないでしょう」
平行線だ。しかし……悔しいが、こいつの言い分にも千分の一理ある。俺のギルド評価じゃ魔公爵とタイマン張って勝利なんて、ありえない。
受付の男は襟元を正す。そもそも……だ。
なんで俺の担当だけ可愛い女の子じゃねぇんだよ。クソクソクソ。
「だいたい魔伯爵以上の魔族を相手にする場合、ギルドから正式に依頼を受けた上で『パーティー』で任務に就くのが常識です。万年ボッチのソロプレイ大好きな貴方に出番はありません」
「好きでソロしてねぇよ! ちゃんとパーティーメンバー募集だってかけてるだろうが!」
「はいはい。たしか条件は『可愛い子大歓迎』でしたっけ。ずいぶんと良いご身分ですねD級の分際で。選り好みできるお立場ですか?」
「黙れよ……こっちは本気なんだ」
「真顔で何言ってるんです? いい大人でしょう?」
「うるせぇ! 可愛い子じゃないと組む意味がないんだよ!」
男は再びメガネをクイッとさせた。
「ハァ……私も忙しいんです。とっとと消え失せてください」
手ではらうようにして俺はギルドから追い出された。
◆
あの野郎、いつか土下座らせてやるからな。「ひいクレイ様ごめんなさい、わたくしめがわるうございました」と百万回唱えさせてやる。
王都の裏道。
賑やかな大通りから一転、静かだった。人もまばらだ。
腕組みし、独り歩く。
そもそもユニークスキルというやつには、当たり外れがある。
しかもそいつを持って生まれたために、他の魔法や剣術スキルが取得できなかったり、できたとしても普通の人間より経験値が必要になったりする。
スキルは使わなきゃ人生のデバフにしかならん。たとえどんなに狂った仕様でも。
おまけにユニーク持ちってのは、バレるのが命取りだ。汎用性が無い初見殺しみたいなもんで、逆に「攻略」される危険があった。
だから仲間にすら言えない。秘密を知られるということは、命を握られるに等しい。
特に、俺みたいなスキルの場合は――
「にゃ~ん」
うほ! かわいい猫ちゃん発見。茶トラに白で、長い尻尾をピンと立てる。俺を見るなり、路地裏の木箱からぴょんと降りて向かってきた。
人なつこい。俺にウインクする。ああ、可愛い。超可愛い。天使だわ。しゃがみこんで、そっと手を差し出す。
俺の指の匂いを嗅いで安心したのか、目を細めると茶トラはグルグルゴロゴロと喉を鳴らした。
そのまま頭突きをするように俺のスネに頭をぐいっと押しつける。
瞬間――
破滅の音を立てて俺の右脚の骨は砕けた。
「ぐああああああああああああああああああ!」
痛すぎる。天国から地獄に真っ逆さまだ。断末魔みたいな俺の絶叫に驚いて、茶トラは走り去った。
路地裏で一人きり、折れた足を抱えて胎児のポーズになる。
ああもう、コレだから。コレだから嫌なんだよ。
俺のユニークスキル、キモカワジャッジメントはバフとデバフ両方の効果があった。
平たく言えば、俺がキモいと思った相手が弱体化し、俺が可愛いと思った相手が強化される。敵味方関係なく。
だから勧誘するパーティーメンバーは可愛いのが絶対条件なんですね。
俺がD級止まりでソロなのも、この呪いのせいだ。
初中級の冒険者が戦う魔物には、可愛いのが多い。俺が混ざった初心者野良パーティーは、序盤の雑魚の代名詞モフモフラビットの群れに壊滅させられかけた。
だってさ、可愛いんだもの。まるで綿菓子みたいにふわふわな兎が、群れを成してくるんだぜ。
モフりたくもなるだろう。
ああ、なんだろう。涙が出てきた。このまま一生、俺、ボッチなのかな。
王都の裏路地で泣きながら足を押さえて転げ回る。少ない人通りはさらに減った。みんな薄情すぎるだろ。
泣きながら叫ぶ。
「誰かーーッ! 治癒術師呼んで~!」
三十分ほど放置された。
世知辛いね、世の中って。あははは。
3.
「あの屍王ネクロヴァルドが倒されただと」
「最も魔王に近いと言われた奴が……」
「いったい誰に討たれたというのだ!?」
「たった一人の人間の冒険者だと? あり得ない!」
「つまりその人間を倒せば屍王より『上』ということだな」
「間者を出せ。そやつの正体を突き止めるのだ」
俺の知らないところで魔族たちがざわついているのを、今の俺は知るよしもなかった。
◆
「大丈夫ですか?」
金髪ふわふわロングの碧眼おっぱい大きめな、超絶美聖女様が俺の元に駆け寄った。
可愛い。美しい。麗しい。
息絶え絶えに告げる。
「良かったら治癒魔法をおなしゃす」
「いったい何があったんですか? 裏路地とはいえ王都ですし、治安だって良いのに」
「ええと……猫に……頭突きをされまして」
正直に話すと聖女は首を傾げた。
「猫に? 嘘は良くないです! かわいい猫ちゃんの頭突きで負傷だなんて」
「いや本当なんですってば!」
彼女はゆっさたゆんと胸を揺らして、這いつくばる俺に近づく。
谷間はが迫った。デカい。柔らかさの中にハリもあって、理想のおっぱいだ。
顔だって清楚系美人ながらも、ちょっと垂れ目気味で穏やかそうで、とっても可愛い。
見とれるほどだ。
彼女はぷっくりほっぺたを膨らませると。
「一旦診ますけど、怪我が嘘だったら許しませんからね」
名誉の負傷をした俺の足にそっと手を当てた。真剣な表情だ。
「これは……確かに折れていますね。転んだだけで複雑骨折なんてありえません」
「猫が可愛すぎて」
「だから嘘はやめてください」
事実なんよ。とはいえ、信じちゃもらえないだろう。
聖女は困り顔だ。と、何かにハッと気付いて俺の耳元で小声で言う。
「もしかして……誰かを庇っているんですか? 人質を取られているとか」
「いや、別に」
「……わかりました。やむにやまれぬ理由があるんですね。今、治しますからじっとしていてください」
勝手に解釈してくれて助かる。騙したような形になったのは心苦しいけど。
長い髪を耳元でたくし上げ、彼女は俺の患部に触れた。
それにしても、可愛いな。近づくと良い匂いがする。桃みたいだ。
やばい。ドキドキしてきた。
聖女が治癒魔法を使う。
「小治癒魔法!」
ああ、めっちゃ可愛いな癒やされるな。と、思った瞬間。
俺の折れた足がムキムキになった。
激痛が走る。治癒の力も与えすぎればなんとやらだ。肉体の方が耐えきれない。止めないと痛みで気絶しちまう。
「――!?」
「だ、大丈夫ですか!? 失敗しちゃいましたね。サービスで大治癒入れます!」
「いや待って! 待ってってば! 大治癒は! 大治癒だけはダメだって!」
「大治癒魔法!」
俺の全身を光の魔力が包み込む。
やばい。うっかり可愛いと思ったばっかりに、彼女の治癒魔法が強化されてしまった。
キモカワジャッジメントの暴発だ。
俺の肉体が回復を通り超えてムキムキマッチョになり、筋肉や骨が太く急成長して服がビリビリと破れる。
全裸になった。無事なのは羽織っているマントだけ。
同時に少女の絹を裂く悲鳴が上がる。
「きゃああああああああああああ!! なんで脱いでるんですか!?」
「脱いでねぇよ破れたんだよ!」
「この変態! 露出魔! ばかああああ!」
涙目になると聖女は走り去った。
胸をゆっさゆっさと揺らして立ち去る彼女の背中に――
「可愛かったなぁ。名前、聞いとけばよかった」
正直な感想が漏れた。彼女が遠のくと大治癒(バフ有り)魔法も落ち着いて、俺は元の肉体に戻る。
全裸の俺が王都警備隊に捕まったのは、この五分後のことだった。
全裸マント罪だった。
4.
王都警備隊の拠点。地下尋問室で、俺は冷たい石の床に正座待機していた。
鉄格子の向こうでタイトスカートの女が足を組み直す。
尋問官だ。黒髪ショートボブで、いかにも仕事ができそうである。
なお、俺は相変わらずマントの下は全裸だ。
顔を上げた。
「せめて服を着させてください」
「黙れ不審者。口答えは許さん」
ツンツンだな。俺は右手の腕輪を見せた。
「不審者じゃねぇよ! 冒険者だっての!」
「そんなもの、貴様の腕輪を見れば誰でもわかる」
「なら釈放しろ」
「ギルド所属の冒険者だからといって、変態犯罪者ではないとは言えないからな」
女の視線は氷のように冷たい。脚線美を強調するタイツに包まれた足。くびれた腰。おまけに、たわわだった。
クソッ! 可愛い系じゃなくて美人系だ。どうせ尋問されるなら、可愛い方がいい。
尋問官の女は調書を手にした。
「貴様の罪状を確認する。通りすがりの善意の治癒術師少女に対し、突然全裸になってみせたことで精神的苦痛を与えた婦女暴行罪。全裸マント姿で王都を駆け回り、警備兵から逃げようとした騒乱罪に公務執行妨害及び猥褻物陳列罪。魔公爵を単独撃破したという妄言をのたまい、ギルド職員に暴行未遂までしたというではないか?」
スラスラと罪状を読み上げやがって。全部誤解だっつーのに。
「聖女ちゃんの件は事故なんだよ。怪我した俺を治癒魔法で癒やしてくれたんだ。ただ、彼女の治癒魔法が暴走して、俺の肉体を強化しちまって」
「被害者からも調書をとったが、身体強化系魔法は使用していないとのことだ」
ああ、もう! キモカワジャッジメントのバカバカバカあんぽんたん。説明できないんですけど。秘密保持って大変だね。
「だから事故なんだって! 聖女ちゃん自身も自覚できないレベルだったんだよ」
尋問官は書類をテーブルに置くと腕組みした。おや? 意外にこっちの話に耳を傾けてくれるのか?
「被害者の泣き顔に興奮していたのではないか? 性的な意味で」
「してねぇって!」
泣き顔も可愛いとは思ったよ思ったさ。けど、泣かせたかったわけじゃない。
怜悧な視線が俺を射貫く。
「冒険者ギルドの職員の証言では、度々虚偽の申告をしているとのことだが?」
あのクソメガネ。余計なこと言いやがって。
「嘘じゃないぞ! 腕輪にちゃんと撃破の証拠が残ってるだろ!」
「D級ソロの付与術師が魔公爵を単独撃破できるはずがないだろうに。どうやって改ざんした?」
「改ざん!? ふざけるな! そんなことできるなら、もっとリアリティのあるラインの魔物なりなんなりを倒したフリして、左うちわでウハウハ幸せに暮らしてるっての!」
「なるほど。それが貴様の本心か」
「ちがっ! 誘導尋問だ! 弁護人をつけてくれ!」
「誰も引き受けはしないだろうな。だが……」
張り詰めた冷たい空気が、ほんの一瞬だけ緩んだ。
尋問官は俺を指さす。
「太古の墳墓を支配していた魔公爵、屍王ネクロヴァルドの消滅が確認されている。未だに討伐したと申し出るS級パーティーはおらず、ちょうどのタイミングで貴様がギルドに撃破報告をしたというのは、いささか出来すぎている」
おお。やっと理解してくれるのか。
「出来すぎもなにも、俺が倒したんだから」
「どうやって?」
「えっ……」
「S級パーティーが束になっても敵わない屍王を、どうやって倒したかと訊いているんだ」
「そんなもん、杖でパシーンよ」
「……」
「あ! あれだ! ほら別のS級パーティーと激闘を繰り広げた直後にさ、俺がファイナルストライクしちゃったっていうか」
無言の圧が怖い。
女は椅子から立ち上がった。
「正直に言えないというなら……」
「なら?」
「死刑」
「ちょっとまてぇい! なんでそうなる?」
せいぜい聖女の前で全裸になっただけだろ。
女は口元を緩ませた。
「王国を揺るがす危険なユニークスキル持ちの可能性もあるからな。騒乱の芽を摘むのも私の職務だ」
こいつ、俺がユニークスキル持ちだと疑ってるな。
正解です。
そもそもユニークスキル持ちというのは絶対数が少ないし、持っている人間も話したがらない。というか、話すとやばい。
尋問官は鉄格子越しに腕を伸ばすと、俺の顎を掴んでクイッとさせた。
やだ、キュンとしちゃう。俺が女の子だったらだけど。
「どうなんだ? 正直に言うなら無罪放免にしてやらんこともないぞ」
「なんだその、やるのかやらんのかどっちかわからん言い方は」
「黙れ」
長い指が俺の頬をプニュっと挟んで潰した。
「ひゃべられなひんれすけろ」
「無様だな」
蔑む眼差しに……ドキドキしてきた。こういう世界もあるのか。可愛いとはまた別の何か、不思議な感情がわき上がる。
尋問官は告げる。
「最後通告だ。ここで死ぬか、白状して自由の身になるか」
女は頬から手を離した。
ええい、ままよ。座して死ぬわけにはいかない。俺はまだ、まともに固定パーティーを組んだことがないのだ。
D級ソロで、しかも性犯罪者として終わっていいわけがない。
「き……キモカワジャッジメント……です」
「キモ……なんだと?」
「キモカワジャッジメントだ。俺がキモいと思った相手に強烈なデバフが掛かる。可愛いと思った相手には、ものすごいバフが乗る」
尋問官はハッと目を丸くすると、自身のあご先を軽くつまむようにして頷いた。
「なるほど。屍王の外見は魔族の中でも屈指のおぞましさと聞く。つまり、貴様の私感によって、その力を封じられるほどのデバフが掛けられた……と?」
だからそうだと言ってるだろうが。改めて整理してくれてありがとうございます。
「そうだよ」
尋問官は同じく聖女に起こった治癒魔法の異常現象を、強力なバフによる影響だと推測した。
「ああいうのがタイプか。清楚なのに、胸が大きい金髪ふわふわ系美少女だったな」
「う、うっせぇよ」
女の鋭い視線が再び俺を射貫く。
「しかし、キモカワジャッジメントか……そんなユニークスキルは前代未聞だ」
「いやマジなんだって」
「では……証明してみせろ」
「は? どうやって」
尋問官は真顔で言う。
「私のことは……どう思う?」
「は?」
「貴様のスキルが本当なら、私になんらかのバフが掛かるはずだろう!」
確かに美人さんではあるけど、俺の求める可愛いとはちょっと違う。
つーか、この人、クール系なのに自分が可愛いって自覚してんのか?
おっぱい大きいのは好きだけど、可愛いとは違うくない?
「俺の好みじゃないんで」
途端に尋問官の顔が真っ赤になった。
「な、な、なんだと! わ、私では発動しないというのか!? これでは真面目に訊いた私が、ば、ば、バカみたいではないか!」
わぁ! 恥ずかしがってる。クール系お姉様が「私可愛い?」って質問してきて、自分が期待していた反応じゃなかった時に、自身の行いが急に恥ずかしく思えてきて、床を転げ回る時の奴だ。
か、可愛い。ギャップがたまらん。
瞬間――
「どうしてくれるんだ! この空気!」
バン! と、尋問官が台パンした。同時に、頑丈そうな木のテーブルが粉々に砕け散った。
◆
ユニークスキルが確認された結果、俺は無事釈放の運びとなった。
尋問官からのご厚意で、衣類も用意してもらえて一安心だ。
尋問官の私室にて。彼女が執務机についたまま言う。
「貴様の能力は理解した。これは確かに、他言無用だろう。今後、何か困った事があれば私を頼ると良い」
尋問官は名刺をくれた。セリナさんか。彼女は続けた。
「冒険者ギルドと被害者……ではないか。治癒術師の彼女には、私から穏当な説明をしておこう」
つまりキモカワジャッジメントについて、秘密にしてくれるというわけである。
「恩着せがましいな。元はと言えば誤認逮捕だろ」
「黙れ。貴様が全裸マントで王都を逃げ回った事実は覆らないからな」
追われれば逃げるのは本能だろうに。
不意に、少しだけセリナの表情が和らいだ。
「しかし、急にどうして私をその……か、可愛いと思ったのだ?」
かすかに頬を赤らめて伏し目がちになった。うん、自覚ないんだこの人。
「恥ずかしそうに『私可愛い?』なんて質問しちゃう人、可愛いに決まってるでしょ」
「――ッ!?」
顔真っ赤である。かすかにどころではない。頭から湯気が上がりそうだ。
可愛いな、こいつ。と、ちゃんと注意喚起せねば。
「おっと。机叩くなよ。砕け散るから」
「わ、わかっている!」
振り上げた拳をセリナはそっと降ろした。
「ともかく、貴様の力は対魔族の切り札になるやもしれん」
「まあ、キモい魔族限定だけどな」
「釈放はするが、気をつけることだな。その力を悪用することがあれば、私が自ら手を下すことになるだろう」
きっちり釘を刺されました。俺とて自分が可愛いと思った女性の拳で粉砕されたくはない。
ともあれ無罪放免。さて、これからどうしたものか。
―本文ここまで―
本当に、このあとどうしたものかとなってしまいました。
別のプロットを作成するにあたり、ここで供養させてくださいませ。
メモ
冒頭から、ややテンポが悪いかなと思った。
能力は主人公の主観によって、敵味方の能力が変わるというもの。
コミカルな感じは好き。
話の続きは、がんばればひねり出せそうだけど、天啓降りず。




