疑惑
書籍化が決定しました。詳細は活動報告にて書かせていただきます。
「ぜ、全部ですか!?」
さすがに驚いたシィルは聞き返してしまう。
しかし、男性は頷き返す。
「あぁ、全部だ。これほどのポーションがこの値段で買えるなら喜んで買わせて貰う」
「わ、わかりました。ありがとうございます……」
本当に良いのかなと思いながらもお金を受け取りポーションを手渡す。
ただ、今までもこういう人が多かった。
(もしかして僕のポーションは値段以上の価値がある?)
「いやいや、ただのポーションにそんな価値なんてあるはずないよ」
口で否定してはいるものの一度生まれた疑惑はなかなか払拭できなかった。
一度自分でどのくらいの効果があるのか、調べた方が良いかもしれないな。
シィルは早速、いつもどおりポーションづくりに勤しんでいく。
◇
目の前にはたくさんのポーション。
あとは切れ味がよさそうなナイフ。
本当なら怪我をした人に飲んで貰うのがよかったのだが、この町にはなぜか大きな怪我をしている人が一切いなかった。
冒険者をしている人ですら怪我がないのは違和感しかないが、話を聞いても「お前のおかげだ!」と笑って肩を叩かれるだけだった。
訳がわからずに首を傾げるシィル。
けが人がいないならもう自分で傷を作るしかない……。
……うん、やっぱり怖いよね。
ナイフを持つ手がどうしても震えてしまう。
それでもやらないとと覚悟を決めてナイフを手に突き立てる。
……痛っ。
先がちょっと刺さっただけでナイフをどかしてしまう。
手には小さな切り傷ができ、そこから血がゆっくりと流れ出る。
そして、すぐにポーションを飲むと切り傷は一瞬で治っていた。
「うーん、この傷くらいだと普通のポーションでも治るんだよね……。でも、それ以上の傷になるともっと深い傷を付けないといけないわけだよね……。さ、さすがに自分でそこまでの傷を付けられる自信はないかも――」
そうなるとこのポーションの力を調べるには別の人の手を借りるしかない訳か……。
そんなことを考えていると部屋の中にリルが入ってくる。
「お兄ちゃん、ちょっといいかな?」
「うん、大丈夫だよ。どうかしたの?」
リルの方に振り向くとリルは小さな鳥を抱えていた。
「どうしたの、その鳥……」
「うん、家の近くで苦しそうにしていたから……。お兄ちゃん、治すことできないかな?」
ポーションで治るかどうか……、そのレベルの傷を負っているように見える。
実際にポーションで治らなかったらどうしよう――。
相手が自分じゃないとなると途端にそんな不安が押し寄せてくる。
でも、少しはよくなるかな……。
そう信じ込むとシィルはポーションを鳥に飲ませていった。
するとポーションで治るかどうか……くらいの傷ですら一瞬で治療することができた。
それをみてシィルは理由はわからないもののはっきり理解したことがある。
「どうしてかはわからないけど、僕のポーションは中級のハイポーションだったんだ!」
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『社畜さん、ヒモになる〜助けた少女は大富豪の令嬢だった〜』
あらすじ
ブラック企業で働く有場健斗は夜、コンビニに行く途中で車にぶつかりそうになっていた少女を助けて、代わりに怪我を負った。
気がつくと病院で寝かされていた俺は上司からの電話で病院を抜け出そうとする。
するとそこに助けた少女が現れて宣言してくる。
『命を助けてくれたお礼に私があなたを引き取って養っていくと決めました――』
この少女は大富豪の令嬢でその宣言通り、あっさりと俺はその大企業へと引き抜かれてしまう。
業務内容は少女と一緒に過ごすこと……。
こうして俺は社畜からヒモへとジョブチェンジを果たしてしまったのだった。




