ユースリッドの館
しばらく待っているとマリナが人を一人連れてきた。
「おいおい、なんで俺が呼ばれてるんだ?」
「お兄様がいたら安心できますので。それにお兄様もシィルさんにお世話になったじゃないですか?」
「そ、それはそうだが……」
突然呼び出されたアルタイルはマリナに言い負かされて少し不満そうな表情を見せる。
「あ、あの……、マリナさん?」
さすがに第一王子のアルタイルを連れて一緒に回るのはまずいのではないかと思い、シィルは不安げに聞く。
しかし、マリナはにっこりと答える。
「大丈夫ですよ。こう見えてもお兄様は剣の腕が立ちますし、それにこの町で私たちに手を出そうなんて考える人はいませんよ」
それでももし何かあったら大変だと思うんだけど……。
シィルは更に心配になるがマリナが部屋の横を見ながら更に告げる。
「それに私たち以外にも頼りになる方が付いていますので」
頼りになる方?
シィルも同じようにマリナが向いていた方を見るが特に誰かいるわけではなかった。
あっ、もしかして自分たちには気づかれないように護衛の人がつくということだろうか?
たしかにそれなら安心かも。
ようやく安心できたシィルは無茶なお願いを聞いてもらったアルタイルに頭を下げてお礼を言う。
「今日はありがとうございます」
「お、おう……」
するとあまりに突然言われたことで拍子抜けしたのか、アルタイルは曖昧な返事しかできなかった。
◇◇◇
それからシィルたちはマリナの案内の元、貴族街の方へと足を運んできた。
目の前には今まで見ていた王都の街よりも更に大きな建物が立ち並ぶ風景であった。
小さいものでも普通の宿の数倍。
大きいものだとお城に匹敵するのではと思えるほど大きな建物が立ち並ぶその通りをさも当然のように歩くアルタイルとマリナ。
しかし、シィルたちは流石に場違いなような気がして戦々恐々しながら体を少し縮こませて歩いていた。
通りを歩いている人は少なく、他の場所みたいに店の外に出て呼び込みをしているような場所もない。
そもそもお店自体が極端に少ない。
たしかにこんな場所だとリンダに案内してもらうのは不自然だったかもしれない。
当のリンダは何食わぬ顔で堂々とシィルたちの後についてきていたが。
「ここがユースリッドさんのお屋敷になります」
マリナが指差していたのは先程見えたお城に近いほど大きい館であった。
そして、そこからちょうどのタイミングで一人、男の人が出てきた。
ただ、その男は目の前にいたシィルには目もくれずにまっすぐマリナやアルタイルの前へと向かっていく。
「これはこれはアルタイル様とマリナ様。私めの屋敷に何かご用でございますか?」
シィルが無視されたことに少しムッとなるマリナ。
しかし、シィルの方は気にした様子もなく一歩下がってマリナたちの様子を伺った。
そのときにリンダがまるで親の敵のように男のことを睨んでいたことに気づく。
楽しげに談笑する男とアルタイルをよそにシィルはリンダのそばによって小声で聞いてみる。
「どうしたの? あの人が何かあるの?」
「あいつだ!」
「んっ?」
あいつ?
シィルが訳もわからずに聞き返すが次第とその言葉の理由を理解していく。
「あいつがユースリッドだ!」
あの人が?
会話している感じだとそんな風には見えない。
しかし、直接の面識があるリンダがそう言うなら間違いはないのだろう。
マリナの確認が取れれば確実なんだけど……。
ユースリッドがひたすら会話をして離れてくれないのでなかなかシィルは彼女と話すことが出来なかった。
そして、十分ほど話して満足したのかユースリッドは町の方へと歩いて行った。
「今の人がそうなの?」
マリナのそばに行くとそれを確認する。
すると一度小さく頷いてくる。
「えぇ、そうです。貴族至上主義でシィルさんのことすら見ないなんて……。それでも昔の戦争で活躍していた人で人気はある人なんですよ。あまり他の人と話す人でもありませんし……。ただそのときに右手が動かなくなったらしくて――」
気がつけば一月以上毎日更新を続けていました。
可能な限りこのペースを保ちたいと思います。
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