報告
リンダから一通り話を聞いたあと、シィルたちはマリナに会いに来ていた。
この町に住む貴族……ということもあり、彼女なら聞きやすくて詳しいかなと思ったからだ。
ただ、リンダはすごくいづらそうにバツの悪い顔をしていた。
しかし、それを気にした様子もなくマリナはシィルの顔を見て微笑んでいた。
「珍しいですね、シィルさんの方から会いに来てくださるなんて」
「えぇ、少しだけ聞きたいことがありまして……」
するとマリナは後ろにいるリンダへと視線を送る。
それで納得したように頷いてくる。
「その方がシィルさんがお金を欲した理由なのですね。奴隷……それも犯罪奴隷の方ですか……ただ、無事に元に戻られたようで良かったです」
犯罪奴隷とは主に犯罪を犯して奴隷に落とされたもののことを指していう。
雇い主がそのものの罪が晴れたと思えば解放することがあるものの基本的には死ぬまでそのものの奴隷だ。
そして、いくつかの禁則事項を設けられ、それを破った際に意識を失わせるほどの衝撃を与える奴隷契約魔法を使われている。
ただ、その度合いも雇い主の采配による部分が大きく、今のリンダはシィルたちに攻撃を加えたりしてこない限りはそれほど厳しい度合いにはしていなかった。
「えぇ、元々は僕を探していたらしい貴族の人に雇われていた人です」
「なるほど、それでわざわざ禁止されてる毒を使ってまで意識を失わせていたのですね。それでその人の名前は?」
マリナが自分の中ではおおよそ答えが出ているものの改めてシィルに確認をしてくる。
「えっと、ユースリッド……って人だったと思います。ただ名前がエリーたちに似ているので……」
「なるほど……ユースリッドですか。たしかに彼の方ならやりかねないですね」
マリナが頷いてくる。でもやりかねないと思われているなんていったいどんな人なんだろう?
シィルは少し不思議に思ってしまった。
「それでその人がどこに住んでるとかって分かりますか?」
「それなら普通に貴族街にいけばいいですよ。その中でも特に大きな屋敷がユースリッドさんの館ですから……」
まぁわざわざ会いに行くこともないけど、どこにいるかの場所だけは忘れないようにしよう。
もしかしたら使う必要がでるかもしれないから……。
「よろしければご案内いたしましょうか?」
「いえ、そこまでは大丈夫です。それで僕がこの町に来た理由のお祭りなんですけど?」
「あと二日後に開催されますよ。思ったよりシィルさんのお迎えに時間がかかりませんでしたので、少しお待たせすることになってしまい申し訳ありません」
マリナが頭を下げて謝ってくる。
お祭りなら元々日が決まっていただろうし、この王都に来てすでに終わってましたとは流石にできなかったのだろう。
それなら少し早めに迎えに来て待ってもらう。
それについては何も不思議ではない。
ただ一つ、ユースリッドの不安があることを除けば……。
やっぱりどんな人かわからないよりは直接一度会っておく方がいいかもしれない。
突然の対処よりは対策が取れやすいだろうし。
「やっぱりそのユースリッドさんの館まで連れて行ってもらってもいいですか?」
「はい、わかりました」
マリナが嬉しそうに答える。
ただ、その横でリウがシィルの服を掴んでくる。
「ユースリッドさんの館ならリンダさんが場所わかるんじゃないかな?」
たしかに元々は雇われていたわけだし知っていてもおかしくない。
「それもそうですね。それならリンダさんに――」
「いえ、何かあったとかを考えるなら私も一緒の方がいいですよ。あと護衛の方を何人か……いえ、目立たない方がいいですね。少しだけ待っていてくださいね。今準備をいたしますので」
それだけ言うとマリナは部屋をさっさと出て行ってしまった。
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