リンダの復帰
翌朝シィルが目覚めると目の前にはリンダが元の様子で意識を取り戻していた。
「あっ、お兄ちゃん、目が覚めたの?」
そして、なぜかシィルの部屋にリウの姿があった。
目覚めたものの何も口に出さず、ただ自分の体や手が動くのかを確認するリンダ。
それらがしっかり動くことが分かると今度は顔を上げて周りを見る。
そのタイミングでシィルと目が合う。
「あ、あんたは? それにここ……」
「僕はシィルです。それとここは宿屋に取った僕の部屋です。それよりも体の方は大丈夫なのですか?」
昨日まではろくに返事すらできなかったのにそれが一日たっただけでこの変貌……それも何かしたわけではなく本当に一日休んだだけなのに……。
首をかしげるシィルだったが、それ以上にリンダが困惑しているようだった。
「あぁ、体は大丈夫だ。それよりあたいはユースリッドの館に囚われてたはずなのにどうして……?」
何があったのか思い出そうとするリンダ。
しかし、考えれば考えるほど頭痛が起こりそれ以上思い出すことができなかった。
リンダが思い返しているときにリウが顎に手を当てながらうつむき、ポツリと呟く。
「お兄ちゃんを狙っていたのはユースリッド……って人なんだ」
そのつぶやきを聞いてようやくシィルはリンダを奴隷商から購入しようとした理由を思い出した。
そうか……ユースリッドって人が……。
あれっ? たしかミグドランドやエリーもユースリッド……じゃない、ユーグリッドだった。
似たような名前だな。
もしかしたらその人も貴族なのかもしれない。
それもただの貴族ではなくてミグドランドと所縁のあるような……。
「お兄ちゃん? いやいや、ユースリッドが狙っていたのはポーション売りのエリーという貴族の少女だぞ?」
リンダが何を言っているんだと言わんばかりに話してくる。
するとさっきまで黙っていたケリーが言う。
「噂のポーション売りはにいちゃんのことだよ?」
「えっ!? う、嘘だろ?」
「嘘なんかじゃないよ。ねっ、にいちゃん?」
困惑するリンダ。リウは少しあきれた様子でケリーを見ていたが、当の本人は何も気づくことなくシィルへと話を振っていた。
「本当は普通のポーションを売ってるだけなんだけどね。なんかやたらと買ってくれた人が凄い人だから尾ひれがついたんだろうね」
シィルは乾いた笑みを浮かべていた。
Sランク冒険者や貴族や冒険者ギルドの御用達のポーション売り。
たしかにこれなら尾ひれがついた結果、凄いポーション売りがいる……になってもおかしくないよね。
実際はみんな知り合いというだけなのだが。
「なんだ……、そういうことだったのか……。あたいはそもそも監視する対象すら間違っていたのか……」
リンダが遠い目を向ける。
そんな彼女を見てると少しだけかわいそうにも思える。
「それよりもあなたをそんな状態にした方法ってどんな方法だったの?」
リウが鋭い目線を向けながらリンダに確認を取る。
しかし、頭を抱えて何も思い出せない様子だった。
そこでリウは少し聴き方を変える。
「それならポーションを買った後、あなたはどうしたの?」
「それなら真っ直ぐにユースリッドへ渡したぞ。するとそれを一気に飲み干して、何も変化がないと分かるとあたいを地下牢へ閉じ込めたんだ。そのあとは……あっ!?」
リンダが何か思い出したようで声を上げてくる。
「何か思い出したの?」
リウが慌てて聞く。するとリンダはゆっくり思い出しながら話してくれる。
「あれは……そうだ。あたいが捕まっていた牢屋にあのユースリッドがやってきたんだ。手には小瓶をもって……。そして、それを無理やり飲まされたあたいは意識を失って、気がつくとここにいたんだ」
つまり全ての原因はそのユースリッドにあったのか。
問題はそのユースリッドって人がどこにいるか……。あとはこの王都にいる間に何かされないように対策を取っておかないといけないな。
シィルは顎に手を当てて少し考え事をしていた。
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