噂のポーション売り
「おいおい、わざわざそんな高いポーションを買わなくても道具屋まで行けばいいだけじゃないのか?」
シィルからポーションを買った冒険者パーティの一人であるラワンがポーションを買ったミグリアに向かって言う。
「まぁすこし高いがこのチクチクした痛みから早く解放されるわけだからいいじゃないか……」
ミグリアはポーションの蓋を開けると中身をゴクゴクと飲み干していく。
「そうは言っても銀貨一枚だもんな。俺なら道具屋まで行くけどな。だってそれポーションだよな? 銀貨一枚なら中級ポーションくらいの値段じゃないか」
確かに言いたいこともわかる。
それでも道具屋までこの痛みを堪えていくこととポーションを飲んでもそれからしばらく傷が治らないことを考えると早めに飲むに越したことはない。
ポーションを飲み終えたミグリアがふぅっと大きくため息を吐く。
するといつもの傷が癒えていくような感覚に包まれる。
がそれも一瞬で終わる。
まさかだまされた? 路上販売のポーションだもんな。
そう感じて自分の体を見る。
すると先ほどまでついていた傷が全て治っていた。
「なぁ、ポーションってこんなに早く傷治ったか?」
信じられない顔でラワンに聞くミグリア。
「たいした傷じゃなったんだろう? それよりもさっさと冒険者ギルドに行くぞ! 依頼達成の報告をしないとな」
どうにも腑に落ちないミグリアは首を傾げていたが、そんなことはお構いなしにラワン達は先に冒険者ギルドへと足を進めていった。
◇◇◇
それからラワン達は道具屋で銅貨四枚のポーションを買い飲んでいたがやはり傷が治るのに数分かかっていた。
ほとんど同じ傷なのに……という気持ちはあったものの実際には傷が浅かったとかそういった事情なのかもしれないと自分を納得させる。
そして、夜。
宿の中で寝間着へと服を着替えているときにラワンが驚きの声をあげる。
「おい、お前のその背中! どうしたんだ?」
背中? ミグリアは自分の背中を見ようとするがここには背中を映せるようなものなんて何もなかった。
「一体何があったんだ?」
「いや、お前の背中の傷が一つもなくなっているから何をしたのかと思ってな」
まじまじと背中を見られる。
そんなはずないだろう。冒険者なんてしていたら治らない古傷なんていくらでもつく。
なんとかして背中を見るために窓に映った自分の背中を見る。
するとそこには傷一つない自分の背中が映し出されていた。
「う、嘘だろ……一体どうして?」
何もした覚えがないはずなのにどうして?
とそこでいつもと違うあのポーション売りの少年のことを思い出す。
もしかしてあの少年のポーションを飲んだからか?
それ以外に考えられる要素はなかった。
ただこんな古傷まで治してしまうポーションなんて聞いたことがない……。
というよりそもそも古傷が治る方法そのものを聞いたことがない。
「一体あのポーションはなんだったんだ?」
思わずミグリアはその言葉をつぶやいていた。
◇◇◇
どうしても気になったミグリアは次の日も同じようにポーション売りのところへやってきた。
「ポーションはいりませんか?」
昨日と全く同じように二人の少年と一人の少女がポーションを販売している。
するとミグリアのことに気づいたのか、昨日ポーションを売ってくれた少年が近づいてくる。
「あっ、昨日の……もしかして今日も買いに来てくださったのですか?」
嬉しそうに笑みを向けながら聞いてくる。
まるで小動物のようなその微笑みにミグリアは思わず言葉に詰まる。
ただ首を横に振って我に返った後、聞きたかったことを聞いてみることにした。
「いや、今日は別の用事だ。ここのポーションについて聞きたいのだが?」
「ポーションに? といってもよそと変わらない普通のポーションですよ?」
ただのポーションだと言い張るポーション売り……。
それだとあえて値段を高くしていた理由がないだろう……。
「それならどうして値段を上げていたんだ?」
「それは――」
言葉を詰まらせてくる。
やはり何か特別なことでもあったのだろうか?
とその時に横にいた少女がすこし頬を染めながら言ってくる。
「これはお兄ちゃんが作ったポーションですから……」
つまりどういうことだ?
この少年が作ったから高い? もしかして素材に特別なものでも使っているとか?
それでこの少年も知らないような効果が発揮されるから周りが値段を上げさせた……とかなら考えられるか。
つまり値段以上の効果のあるポーション……そう考えるとミグリアは自然とお金を取り出していた。
「今日も一本もらえるか?」
「はいっ、わかりました!」
ポーション売りの少年は嬉しそうに鞄からポーションを取り出してくるとそれを差しだしてきた。
ブックマーク9,000突破!!
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次話より例の貴族と対立することになります。
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