ウルフの簡単な倒し方(シィル限定)
その言葉を聞いてシィルも慌てて馬車から外を見る。
それにつられるようにリウとケリーも見てくる。
目の前には魔物の姿は見えず、巻き上がる砂埃だけが目に付いた。
ただ、姿を隠してしまうほどの砂埃なんて大群が近づいてきてないと起こらないだろう。
「こ、これが町の外の日常なのですか?」
「そ、そんなことあるはずないじゃないですか! 普通一体だけ遭遇するとかですよ? なんでこんなに寄ってくるのですか?」
慌てふためくマリナ。
兵士たちも動揺が隠せないようだった。
「なんとか切り抜ける方法は?」
「とりあえず逃げる方向で……。兵士たちにはしんがりを務めてもらいます!」
「は、はっ!」
マリナへ向けて敬礼した兵士たちは襲いかかってくるウルフに備えてそれぞれ武器を構える。
「今の間に逃げましょう!」
「で、でも兵士さんたちが……」
ウルフは弱い魔物……それでもあの数を相手に今この馬車を守っていた兵士たちだけで相手にするには分が悪かった。
それでも今この場には自分たちしかいない。
ポーションを売ることしかできないシィル。ケリーに回復魔法を使ってあまり魔力が残っていないリウ。乗り物酔いをしているケリー。第二王女のマリナ。手のひらサイズのスライムのスラ。
うん、下手に行けば邪魔をしてしまうだけだ。ここは早く離れた方が兵士たちにとっても良さそうだ。
それを理解したシィルはそれ以上何も言わずにマリナに向けて一度頷いた。
◇◇◇
兵士たちを残し、馬車はウルフのいない方へと逃げていく。
流石に兵士たちの方が心配になり、いざという時にはポーションが使えるようにシィルは準備をしていた。
そして、それを馬車の床に置いていた時に覗き込むように見てきたスラを見てふと思う。
そういえば怪我をしたスラにポーションを飲ませたら人を襲わない魔物になっていたよね?
もしかして、このポーションをあのウルフたちに与えると人を襲わない魔物になる?
少しぶっ飛んだ考えにはなるが、一度スラで成功している以上試してみる価値はあるかもしれない。
そう考えたシィルはマリナに向かって言う。
「馬車止めて! もしかしたらあのウルフを追い払う方法があるかもしれない」
「えっ!?」
◇◇◇
ウルフたちがいた場所に戻ってくると兵士たちはたくさん倒されていたが、ウルフの方もかなりの数が倒されていた。
その理由は兵士たちの他にどこにいたのか、Sランク冒険者のアランたちがウルフ退治に加勢してくれていたからだ。
三人は素早い動きでウルフを討伐していってくれるのでもう心配することはなさそうだ。
ただ、先程思いついたウルフを払う方法……それだけは試したいと思いながら倒れている兵士たちにポーションを飲ませていく。
倒れていた兵士は五人。
全員にポーションを飲ませ終わる頃にはアランたちが殆どのウルフを討伐し終えたあとだった。
するとちょうどアランの攻撃によって致命傷を受け、飛ばされてきたウルフがシィルの目の前に現れる。
これはチャンスだと思い、シィルはそのウルフにポーションを飲ませようとした。
ただ、その不穏な気配を感じたのか、ウルフは必死にその場から逃れようとしていた。
それでもすでに致命傷を受け、虫の息であったウルフはそれを防ぐことはできず、必死に顔を背けていたものの最終的にシィルのポーションを飲まされてしまう。
その瞬間にウルフの体が光り輝き出し、苦しみのあまり唸り声を上げる。
そしてスラみたいに人を襲わない魔物に……なることなく、そのまま姿を消し、綺麗に光り輝く石だけを残していった……。
それを拾い上げるとすべてのウルフを倒し終えたアランが驚きの声を上げる。
「そ、それってまさか高純度の魔石か?」
「高……純度?」
「あぁ、魔石はその純度が高ければ高いほど高額になるんだ……。きっとそれはすごい値段になるぞ」
そういってアランはシィルの肩を叩いてくるのだった。
【残りポーションの数、24本】
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