風邪
「本当に大丈夫なの? お兄ちゃん、いろんなことに気を回しすぎてあまり寝れてないんじゃないの?」
「そ、そんなことないよ……。だからこうしてポーションも作れてるわけだし」
「うん、普通のポーションをね」
リウが口を尖らせて言ってくる。
ただ、普通のポーションが作れているなら何の問題もないと思うんだけどなぁ……。
わざわざ強調して言うことなのかなと不思議に思うシィル。
「そんなこと言って無理したら意味ないよ……とりあえず今日はお兄ちゃんが昨日作ったポーションを……」
「昨日の分はもう売ってしまったよ?」
それを聞いたリウは顔に手を当てて首を横に振った。
「とりあえず今日はお兄ちゃんが満足したらまっすぐかえりますからね!」
「う、うん……」
リウに押し負ける形でシィルは頷く。
まぁ自分一人で済むならいいけど、ポーション売りに付き添ってくれているリウやエリーにまで風邪を移したら申し訳ないもんね。
シィルが何とか納得するとリンダがシィルたちに近づいて来た。
サッとシィルの前に立つリウ。
後ろにある草陰が少しざわついた気もした。
しかし、それ以上に目の前にいるリンダに意識を集中しているせいで周りのことには気が回らなかった。
「何しに来たの!?」
リウが睨みつけながら言うとリンダは小さく微笑んだ。
「いいのか? 今日のあたいは客として来たんだぞ?」
客という言葉に反応するシィル。
しかし、それをリウが一蹴する。
「どうせ、客といってお兄ちゃんに取り入ろうとしているんでしょ?」
「お兄ちゃん? あぁ、そっちの坊やは置いておいてくれ。あたいが用があるのはそこのお嬢さんのポーションなんだ」
えっと自分が作ったポーションなのに用なし?
シィルは少し落ち込み、草場の近くでしゃがみ込む。
「えっと、お兄ちゃん?」
そんなシィルの側にリウが近付く。
すると、そんなリウやシィルが突然草陰に引きずり込まれた。
「えっ!?」
「静かに……」
あまりに突然のことで驚きの声をあげるシィル。
そこに隠れていたのはアランで、口元に手を当ててあまり大きな声を出さないようにいってくる。
よく見るとアラン以外にもニーグやミリシアの姿もあった。
そして、ミリシアは杖を前に構えいつでも魔法が打てるように準備をしていた。
「ミリシア、何かあったら任せるよ?」
「うん、大丈夫!」
「ニーグ、お前はあの女がどこに行くかを見張っていろよ?」
「へいへい、まぁ適当にやらせてもらうさ」
誰かに依頼を受けたのかもしれない。三人はリンダの行動を監視しているようだった。
するとエリーとリンダが話し始める。
「さっきも言ったがポーションを売ってくれよ? あんたポーション売りなんだろう?」
何か勘違いしているようでリンダがポーションを売っているのはエリーだと思っているようだった。
「えっと、あれ僕が出て行かなくていいのですか?」
どう見ても用事があるのは自分だ。
それなら自分が出て行かないといけないのではと思ったのだが、当然のことながらアランに却下される。
「うん、とりあえずエリー様に任せておいて。どうもエリー様をポーション売りと勘違いさせるようにさせていたのはミグドランド様みたいなんだ。理由はわからないけど、シィルくんが襲われるのを避けたかったのだろうね。エリー様ならたくさんの護衛の人がついているわけだし」
護衛がついていたとしてももしものことがあったら大変なのになぁ。
シィルが事情を聞いて少しそわそわとし出す。
しかし、何か起こるわけでもなくあっさりとエリーがリンダにポーションを売り、それを受け取ると満足げにリンダは去って行った。
「ニーグ、後は任せるよ。僕がシィルくんを、ミリシアがエリー様の護衛を行うよ」
「おう! 任せろ!」
ニーグはポーションを手で弄んでいるリンダの後を気づかれないようにこっそりとつけていく。
なるほど、彼女のアジトとかを見つけるために僕達を……というかエリーを利用したのか。
「アランさんたちが今動いているのもミグドランド様の?」
「あぁ、そうだ。どう見ても怪しいからね、背後関係を洗おうとしていたんだよ」




