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第27話 ちんこ特大勃起大爆発薬


 アダルトショップ――。

 大人のおもちゃを中心に、女性用下着やコスプレ衣装などを販売するお店。


 ……初めて来たが、独特な空気感だな。


 見たところ、客はほぼ男性。

 殺伐としていて、それでいてどこか温かくて、優しい雰囲気。

 ワタシたちを見て一瞬ギョッとするも、しかし排斥しようという感じはない。


「……あれ? エリシア、どこ……?」


 ゼラの声に、周囲を見回す。

 一緒に入店して、つい数秒前までワタシの隣にいたのに、もう影も形もない。


 なるほど、そういうことか……。


 ワタシは気づいている。

 エリシアは、レイデン殿のことが好きだ。


 このマンネリ、解消した者が彼との一対一の時間を手にする。

 ――つまり、戦いはもう始まっている。


「あっ、ヴァイオレット……!」


 ゼラを振り払うように、ワタシも小走りで店の奥へ向かった。

 敵はエリシアだけじゃない。ゼラもまた、レイデン殿に想いを寄せている。強力なライバルが二人……一分一秒も、時間を無駄にできない。


「マンネリ解消……マンネリ解消……ふぅむ、難しいな……」


 ワタシ自身、こういったものへの知識がほぼない。

 その上ワタシは、レイデン殿の趣味がわからない。


 乳のデカい女が好き。


 それは知っているが、逆に言うとその一点のみ。

 マゾなところはあるし、サドなところもあるし。ワタシたちのような年下だけじゃなく、チェルシーさんのような年上にも興奮するし。何か特定の衣装にこだわりがあるとかでもない。


「何も知らないのか、ワタシは……彼のことを、何も……」 


 独り言ちて、重い空気が肩に落ちてきた。


 ワタシたちの事情は何でも察してしまうクセに、逆に彼はワタシたちに何も悟らせない。

 元孤児で、どん底から成り上がって、世界最大規模の冒険者パーティーの創設メンバーなのに、そういう過去をまるで感じさせない。


 あれだけ豪快で開けっぴろげな性格なのに、自分の核となる部分は巧妙に隠している。


 悔しいが……そういうところも含めて、魅力的なんだよなぁ。

 いやまったく、どうしようもない男に惚れてしまったものだ。もっと健全で誠実な男など、いくらでもいることはわかっているのに。


「……ん?」


 陳列棚を眺めながら歩いていると、ふと、ある商品が目にとまった。

 〝ア○ルハイパー調教セット ~君も今日からメス豚の飼い主!! 気高き女騎士のケ○穴を凌辱し尽くせ!!~〟……酷い商品名だな。作ったひとは、果たしてこれを両親の前で音読できるのだろうか。


「しかし、なぜ女騎士なんだ……あぁ、堅い女とか、真面目な女とか、そういうものの代名詞だからか? 融通の利かなそうな女のお尻を開発するのが楽しいと、そういうことか……?」


 瞬間、ワタシに電流が走る。


 堅い女、真面目な女……まさに、ワタシのことだ。

 このパッケージに描かれた、『くっ、殺せ……!』と快感に耐える女は、まさにワタシだ!


 ……これか?

 マンネリ解消の最善手は、これなのか……?


 お尻……確かに、経験はない。

 レイデン殿も、誘ったら喜ぶかもしれない。


「ふっ、ふふふ……勝ったな……!」


 〝ア○ルハイパー調教セット ~君も今日からメス豚の飼い主!! 気高き女騎士のケ○穴を凌辱し尽くせ!!~〟を手に、ワタシ一人、既に勝利に酔っていた。




 ◆




 何もあたしは、まったく考え無しにアダルトショップに来たわけではない。


「ヴァイオレットさん、ゼラちゃん、ごめんね……あたし、レイデンさんのこともらっちゃうから……!」


 ()()の存在は、前々から知っていた。

 でも、あたしには必要ないだろうと手に取っていなかった。


 早足で店内を練り歩き、()()を探す。

 ――そして、ついに見つけた。


「ふふふっ……これで、あたしの勝ちだね……!」


 魔術薬、というものがある。

 読んだまま、魔術が込められた薬。

 服用することで、一時的にその魔術が発動する。


 あたしが手に取ったのは、飲むと母乳が出る魔術薬――〝んモぉ~~~たまらん!! 彼女(ママ)のおっぱいにしゃぶりつけ!!〟という商品。


「――……自分の取り柄を最大限活かす。これは、勝負の鉄則だよ」


 きっとあの二人は、何かえっちな衣装を買うとか、えっちなおもちゃを買うとか、その程度のことしかやってこないだろう。


 別にそれが間違っているとは思わない。

 だが、最適解はおそらくこれだ。


 レイデンさんはおっぱい狂。

 そしてあたしは、周りよりもかなりおっぱいが大きい。

 なら、その強みを最大まで拡張してあげればいい。


「あと、これも……!!」


 牛柄のえっちなビキニを手に取り、ふふっと鼻を鳴らす。

 このあたしがこれ着て、ピューピューおっぱい出たらさ、絶対にえっちくない? レイデンさん、たぶん正気失っちゃうよ? ふへへへ!!


「……っ」


 急いで会計へ持って行くが、ヴァイオレットさんと同タイミングだった。

 流石はヴァイオレットさん……あたしと違って何も考えていなかったはずなのに、この判断の早さ。〈白雪花(うち)〉のリーダーは優秀だ。


 ……でも、あたしの方が選択は正しいはず!

 ゼラちゃんはまだみたいだし、これは勝ったね!


「二人とも……遅い……」

「ゼラちゃん!?」

「ゼラ……い、いつの間に買い物を済ませて……!?」


 会計を済ませて店を出ると、買い物袋を持ったゼラちゃんが待っていた。


 ヴァイオレットさんはともかく、あのゼラちゃんがこの速度で買い物を!? いつものんびりまったりしてて、服とか買いに行ったら平気で三時間くらいかけるゼラちゃんが……!?


「ゼラ……一体、何を買ったんだ?」


 と、ヴァイオレットさんは尋ねた。

 ゼラちゃんは「んっ」と返事をして、買い物袋からそれを取り出す。


「……これ、レイデンに無理やり飲ませる……」

「「――――ッ!!」」


 〝ちんこ特大勃起大爆発薬〟――つまり、媚薬。


 そうか、その手があったか。

 大人のおもちゃだのコスプレだの、そういうもので誘惑したところで勝率は100%じゃない。レイデンさんの股間事情を、完全に把握しているわけじゃないから。


 ……でも、これは違う。

 興奮してもらえるかもらえないかのギャンブルではなく、確実にちんこをいきり立たせる必殺必中の一撃……!!


 何より、【戦神の加護】で暴力に訴えられるゼラちゃんなら、飲ませる過程に小細工がいらない。

 自分の強みを完全に理解した上での戦法。


 負けた……!

 おっぱい噴水しながら牛柄ビキニ着たって、こんな反則技使われたら勝てないよ!


「くっ、殺せ……!」


 ヴァイオレットさんも敗北を悟ったのか、悔しそうに地面に手を着いた。

 あたしは彼女の肩に手を置き、共に涙をこぼす。


 ……あぁ、終わった。

 恋って、こんなに呆気なく散っちゃうものなんだ……。


「二人とも……これ、一緒に使お……?」


 ゼラちゃんの言葉に、あたしたちは顔を上げた。

 そこにいた大切な幼馴染は、慈愛に満ちた聖女のような笑みを浮かべていた。


「ゼラ、いいのか……?」

「んっ」

「レイデンさんを独り占めするチャンス、なのに……?」

「んっ」


 何の躊躇いもなく頷くゼラちゃん。

 あのひとを独占したくて仕方がなかったあたしは、彼女の懐の広さに涙が出そうになり、だから負けたのかと納得する。


「〝ちんこ特大勃起大爆発薬〟で……みんなで、幸せ、なろ……?」


 最初に動いたのは、ヴァイオレットさんだった。

 ゼラちゃんを抱き締め、「お前はいい子だなぁ!!」と叫ぶ。すぐにあたしもあとに続いて、友情の素晴らしさを味わう。


 もう、抜け駆けをするようなことはやめよう。

 だってあたしたちは、同じパーティーなんだから!!


「あのー……〈白雪花(スノードロップ)〉の方々、ですよね……? こんなところで何を……?」


 真っ赤な髪と瞳が特徴的な美人さん。

 怪訝そうにあたしたちを見て、紙袋を見て、お店を見て……そして、苦笑いをする。


 しばらく固まり、そのひとが誰か理解し、ハッと背筋を伸ばす。


 レイデンさんの古巣――。

 〈竜の宿り木〉の頭領、アリス・エルドラゴさんだ。


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