第15話 投資詐欺
「あー……えっと、つまりこういうことか? ヴァイオレットが俺とヤりに来たら、そこには既にエリシアがいたと。そしたら、エリシアがヴァイオレットの役目を代わると言い出した。んで、どっちがその役目に相応しいか路上で下着バトルをしていた、と……」
「「……はい……」」
レイデンさんの家に押し入った、あたしたち。
あたしとヴァイオレットさんは、床に正座しながらベッドの上のレイデンさんの話を聞く。改めて事の流れを説明されると、我ながらアホ過ぎて顔が熱くなってくる。
「そもそもだが、何でエリシアが俺とヤりたがるんだ? ヴァイオレットはともかく、俺はお前とそんな約束してねえだろ」
この間のお母さんの一件で好きになっちゃいました、とか言えない。
だってこのひと、絶対に恋愛とか面倒くさがるタイプじゃん!
そもそも、これだけ優秀なのにこの年齢まで独身な時点で色々お察しだよ!
万が一、ここであたしが告白なんてしようものなら、
『えー、重い。そういうの、俺いいや。エリシアは帰ってくれ、ヴァイオレットとヤるから』
ってな展開になるに決まってる!!
……勝手に妄想しといて何だけど、めちゃくちゃクズだ。
何であたし、こんなひとのこと好きなんだろ……。
い、いやでも、いいところはあるの!
本当に悔しいけど、いいところはあるの!
だからあたし、どうしてもレイデンさんのことが欲しいの!!
「レイデンさんとそういうことした次の日、ヴァイオレットさんってば、すごく機嫌がいいからさ! そういうことなら、あたしも経験してみたいなーって! そう、思って……!」
このひとをものにするには、言葉を用いたってダメだ。
あたしの身体でメロメロにする!!
それしかない!!
だからあたしは、今日ここに来た。
娼館のチェルシーさんに搾られる前に、あたしが搾り切ってやろうと思ってやって来た。
「そ、そんな私情まみれな理由で、ワタシの役目を取って代ろうというのか!? ダメだダメだ! そんなのはダメだ!」
焦ったように、ヴァイオレットさんが口を挟む。
……あたしは気づいている。
このひとも、レイデンさんのことが好きだ。
何でわかるかって、これは理屈じゃない。
女の勘が、そう囁く。
今日あたしがここへ来たのだって、半分はこのひとを阻止するためだ。
あたしと気持ちが同じなら、絶対にチェルシーさんに嫉妬する。自分以外の女にとられまいと、確実に行動を起こす。
そして、案の定やって来た。
今は、あたしを排除しようと躍起になっている。
「レイデン殿、よく考えろ! ワタシの方が、あなたのことを熟知している! 夜のお供にはぴったりなはずだ!」
「で、でもあたし、ヴァイオレットさんより色々触り心地いいと思うよ! な、何でもするしっ!」
「何でも? 何をすればいいかの知識もないのに、下手なことを言うものじゃないぞ」
「知識はあるよ! これでも……そ、そういう小説とかで、勉強してるもん……!」
「なるほど、あの下着は創作物の影響というわけか。勉強熱心なのはいいが、重要なのは実践経験! それに関してはワタシは――」
「二人とも、ちょっと黙れ」
身体の芯にまで響くような、レンデンさんの低い声。
あたしたちは揃って閉口し、彼を見上げた。Sランク冒険者らしい堂々とした空気に、ゴクリと息を飲む。
「据え膳食わぬは男の恥――……俺の、好きな言葉だ」
何を言っているかいまいちわからないが、無駄にキメ顔でカッコいいなと思った。
「大勢で食う飯は美味い」
言いながら、上着を脱ぐ。
「セックスだって、大勢でヤる方が楽しい。――男は、俺しかいらないけど」
思い切り下を脱ぎ、全裸になった。
一糸纏わぬキメ顔の中年男性が、何の恥じらいも感じさせない立ち姿を披露する。
「さあ、3Pだ!! Sカップダブル盛りだぁああああ!!」
「やるわけないだろうが、バカたれがぁ!!」
雄叫びをあげたレイデンさんの顔を、ヴァイオレットさんがすかさず殴り飛ばした。
ベッドへ吹き飛んだ彼は、顔をおさえて悶絶する。
「な、何が3Pだ!! ワタシたちは、どちらかを選べと言っているんだ!! そうだろ、エリシア!?」
「えっ? ……あ、うん! そうだよ、どっちか選んで!!」
「ワタシかエリシアか、二つに一つだ!! さあ、選べ!!」
「選んでよ、レイデンさん!!」
ベッドの上でうずくまっていたレイデンさんは、あたしたちを一瞥してため息をついた。
ボリボリと頭を掻いて、そのまま身体を丸める。いじけた子どものように。
「……選ぶとか無理だって、俺。どっちもすげー可愛いもん……」
「そ、そんな褒められても、3Pはしな――」
「うん、だからもういいかな。明日、チェルシーちゃん予約してるし……」
その一言に、ブチッとあたしの頭の中で切れちゃいけないものが切れた。
ヴァイオレットさんも気持ちは同じなようで、お互いに歪な笑顔を見せ合う。冷たい無言の中、二人の意見が合致する。
「……レイデン殿の気持ちはよくわかった。よし、3Pをしよう」
「えっ、マジで!?」
うずくまっていじけていたレイデンさんは、ヴァイオレットさんの言葉に振り返った。
しかし、あたしたちの表情を見るなり、その額には冷や汗が浮かぶ。
「な、何か二人とも、顔怖くない……で、ですか……?」
「ん? 何も怖くないぞ? なぁ、エリシア」
「そうだね。これからえっちなことをしようってのに、怖いわけないじゃん」
コートを脱ぎ去るヴァイオレットさん。
あたしも倣って、服を脱いで床へ放った。
「いやいや、目が笑ってないって! 怖いって!」
「レイデン殿は何も心配しなくていい。――ただ、今夜でそのちんぽには機能不全になってもらう」
「あたしたち以外じゃ反応しないよう、教育してあげなくちゃね」
ギッ――。
あたしたちがベッドに上がると、レイデンさんは小さな悲鳴を漏らした。
「や、やっぱり俺、今日はやめ――」
「レイデン殿!!」
「は、はい!!」
レイデンさんの股間を思い切り掴み、ヴァイオレットさんは凄まじい剣幕で迫った。
「女の前にちんぽを出したんだろ!! だったら、命くらい懸けろよ!!」
何を言っているのかまるで意味がわからないが、今までに見たどんなものよりも迫力があった。
重苦しい沈黙。
ゴクリと唾を飲んだレイデンさんは、何かを悟ったように全身から無駄な力を抜く。ゆっくりと瞬きをして、両の瞳に真剣な炎を灯す。
戦いに臨む戦士のような顔つきで、ふんと爽やかに鼻を鳴らした。股間を握られたまま。
「……そうだよな。ただの3Pじゃない、Sカップとの3P。それくらいの覚悟はいるよな……」
過去一で凛々しい表情を作り、あたしたちを交互に見た。
「安いもんだ、ちんぽの一本くらい……お前らと、3Pできるなら……!!」
◆
「……んで、一晩どころか今日の昼間までこってり搾られたのかい」
「こひゅー……」
「息も絶え絶えで立ち上がれもしないのに、全裸で街を這ってアタシに会いに来たと」
「こひゅー……」
「500年以上生きてるけど、アンタほどのバカは見たことがないよ。人間って種の品格の平均を下げるのも大概にしな。アンタは歴史の汚点だよ」
「こ、こひゅー……」
久々に会ったのに、相変わらず惜しげもなく俺を貶すチェルシーちゃん。
ヴァイオレットの性欲が凄まじいのは知っていたが、エリシアも化け物クラスだった。おかげで俺は、骨の髄まで搾り取られカラカラ。もはや唾液も出ないが……でも予約しちゃったし、バックれたら嫌われちゃうし、Sランク冒険者の意地でチェルシーちゃんに会いに来た。
「ほら、水でも飲みな。アンタ、ミイラみたいになってるよ」
「こひゅー……」
「口移しで飲ませてだって? 500万ゴールド払いな、そしたら考えてやってもいい」
「こ、こひゅー……」
「払う!? アンタ、今そんなに羽振りいいのかい!? ……よし、今考えたけど却下だね。もう一回考えるから500万ゴールド払いな」
もう500万ゴールド払う約束をして、口移しで飲ませてもらった。ふぅー、生き返ったぜ。
「そうなんだよ。俺、今結構お金あってさ。これからは、前みたいに通うからね」
「そりゃいいが……結構って、具体的にどれくらい?」
「350億ゴールド」
「さ、350億!? 350億って……えっ、えぇ!? そりゃ本当かい!?」
あー、気持ちぇー!!
乳のデカい良い女に稼ぎを自慢するのって、最高に気持ちぇ〜〜〜!!
そうそう、その顔。
その顔が見たかったんだよぉー! 這ってでも来てよかったー!
「本当さ。俺を誰だと思ってる? Sランク冒険者だぜ?」
「その気持ち悪いドヤ顔やめな。豚のケツにぶち込みたくなる」
「ごめんなさい」
怒られた。
悲しい……。
「でも、最初は500億って話だったんだよ。それが色々あって350億になっちゃって……ギャンブルで増やそうかな?」
「やめな。アンタにギャンブルの才能ないだろ」
「んー……まあ、確かに……」
ため息をつく俺の隣で、チェルシーちゃんはハッと何か閃いたような顔をした。ニヤニヤと、やけにおかしそうに笑う。
「どうしたの、チェルシーちゃん? 何か面白いことあった?」
「え? あ、あぁ! 何でもないっ、何でもないよ!」
焦り気味に誤魔化して、コホンと咳払い。
途端に蠱惑的な表情を浮かべ、俺の腕に抱きつく。おっぱいが、これでもかってくらい当たっている。
「ねえ……アタシさ、絶対に儲かる投資話を知ってるんだけど、アンタもどうだい?」
「絶対に儲かる……投資……?」
「そう! アタシに350億預けてくれたら、500億どころか1000億だって夢じゃない! アタシは手数料として、儲けの10%をもらえたらそれで十分さ! ……どうだい、美味しい話だろ?」
「んー……別に疑ってるわけじゃないけど、俺、投資とかそういうのは別に――」
「おっぱいで挟むやつ、やってあげようかい?」
「わかった! お金、全部チェルシーちゃんに預けちゃう!」
おっぱいには勝てないよな。
男の子だもん。
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