その幼女、????につき
〜前回のあらすじ〜
主人公・フェリシアちゃんは最強の聖女なんだよ(・∀・)
レベル上限が99のこの世界で、フェリシアちゃんのレベルは何と! 9999(ホントは13529)! とんでもモンスター!
許嫁の王子で勇者・レオノール(+魔法使い・ライラちゃん)と魔王を倒して世界は平和になったんだよ。
↓これはその後の、とある日のお話だよ! 〜byぴよ〜
ブンッ! ブンッ!
はあ…、はあ…、
(9998、9999、…)
ブンッ!
「10000!」
―――私はレオノール。この国の王子であり、『勇者』の称号を持つ者だ。
早朝、私は城の中庭で自らを鍛えるため、たった今も普段使いより重い剣を携え、日課の素振り一万回を終えたところだ。
「くっ…」
だが、どれだけ鍛錬を積もうと、我が婚約者…、稀代の聖女・フェリシアに届く気がしない。全くしない。
彼女のレベルは、9999。
現在の私のレベルは78。一度フェリシアのレベル上げ方法を疑似体験させてもらったが………
…あああ! 思い出すのも恐ろしい!
再生の瞬間は、とても心地良いのだ。身体中に温かいものが巡り、癒されていくのが分かる。
………だが。
『これもドラゴンから略奪した、『技能複写の宝珠』…。これを使って頂いて『再生時経験値獲得大幅上昇』を―――』
あああ! あの、全身の毛穴という毛穴から何かが這い上ってくる、おぞましい感覚!
確かにレベルは上がった! 上がったが…、アレをもう一度やれと言われたら………!
…ムリだ! 考えただけでも鳥肌が!
「……………」
もう少し、鍛錬を………。
ぐう。
………そうだな。朝食を取ってからにしよう。
◇ ◇ ◇
ヒソヒソ、ヒソヒソ………。
「…聖女様だ」
「…最強で最恐の聖女様だ」
「シッ! 目を合わせるな! 消し炭にされるぞ!」
むう。
最近城下の者達の視線がおかしいです。何故。
私はフェリシア。数百年に一度現れる稀代の『聖女』と呼ばれています。
そしてこの国の王子・レオノール様の婚約者でもあり、将来は国母となる身、…なのですが。
…レオノール様が魔王を倒し(たことにし)てから、私に対する国民の皆様の、畏怖の念というか…、何故か怯えまくられているのを感じられます。不思議です。
ですが、
「あ! 聖女様ー!」
あ。小さな子が手を振ってくれました。
私もニッコリ笑って手を振り返します。が、
ダダダダダ…。
誰かが全力で走り寄って来ました。どうやらあの子のお母様らしいですが…
「こ! これ! 聖女様に失礼があったら…!」
「えー? なんでー? ボクらのヒーロー、聖女様だよー?」
? ヒーロー? ヒーローとは、『勇者』のことでは…。
「♪つおいぞボクらの聖女様! サイキョーサイコー聖女様! おー!」
……………。
何でしょう、不思議な歌です。訊いてみましょう。
「…えーと、すみません。そのお歌は一体…」
「ひ、ひいぃっ!! せ、聖女様! お、お許しを!」
? 私、何もしてませんよ? 何故その子を必死に庇って………
かっぽ、かっぽ、かっぽ………。
? 何の音、でしょうか?
………ウ、シ? 牛、ですね。後ろに、何か…。
あ! これはもしかして、東国で使用されているという、牛車、というものでしょうか?
噂で聞いたことはありますが、見るのは初めてです。
ギィ…。
? 後ろの駕籠からどなたか出てきましたね。あれは………
「…ふう、やれやれじゃ!」
小さな女の子です。金色の、東国独特の着物を纏ってらっしゃいます。
? 目が合いました。こちらに近づいて来て…
―――ビシッ!
指を差されました。何でしょう?
「そなた、何やらただならぬ気配…、もしやこの国の『聖女』と関わりがあるのか!?」
「? …えーと、関わりがあるというか…」
聖女そのものですが。
しかし何というか、小さいのにずいぶんと居丈高な態度ですね。
? …私が答えようとする前に、何故かゴキゲンで喋り始めました。
「妾達が噂に聞いたこの国の『聖女』は、怪物のように凶暴で恐ろしいバケモノなのじゃろう? そのような者が、麗しきこの国の王子・レオノール様の嫁御になるとは、いと哀れに思うてな。妾が代わりに嫁御になってやろうと、わざわざ来てやったのじゃ!」
………。
怪物? バケモノ? …一体誰のことでしょう。
「この国の『聖女』は、怪物でもバケモノでもありませんよ」
私はそう言いましたが、彼女は聞いてくれません。頬を赤らめ、体をくねくねさせながら、
「ああ…、レオノール様! 昨年我が国にいらした折お見かけしたが、あのように麗しき殿方、我が国にはおらぬのじゃ! なのに…」
今度は体をプルプルと震わせてます。怒ってらっしゃる…、のでしょうか?
「…レオノール様には既に婚姻を約束した女子がいる、と! 稀代の聖女というが、バケモノとの婚姻などレオノール様が哀れじゃ! …と、いうことで、じゃな」
? 次は、フンス、と得意気になりました。コロコロと表情が変わって面白いです。
―――ビシッ!
再び指を差されました。何でしょう?
「ちょうどよい! そなた、妾達をお城まで案内してたもれ! 東の国の王、王家が三女・星星が自ら、レオノール様の嫁御になりに来たと告げるのじゃ!」
……………。
仕方ありません。小さな子が落胆するのは可哀想ですが、本当のことを教えて差し上げましょう。
「…残念ですが、レオノール様の妃になるのは貴女ではなく、私です」
「………は?」
目を丸くしてらっしゃいますね。ですから、
「私がこの国の聖女・フェリシアです」
……………。
「な! ななな、何と!? 全然バケモノではないではないか!」
………それは褒め言葉なのでしょうか?
「むむむ…、この国の『聖女』が、このように美しい女子であったとは!」
! とっても良い子でした!
「………はっ! しかし、じゃ! 妾の方が若い! きっとレオノール様は若い女子を好まれるはずじゃ!」
…前言撤回。
「………失礼ですが貴女、おいくつですか?」
若いと言っても限度があります。私が訊いてみると彼女は、フンス、と、
「八つじゃ! 先日なったばかりじゃ!」
「………この国の法律では、婚姻は二十歳になってからですよ」
「んなっ!! 何じゃとぅ!?」
驚かれました。…そういえば東国には、年齢の制限はなかったような。
「むむむ、………はっ! そ、そーじゃ! では、こうしようぞ!」
?
「ふっふっふ。実はの、妾は『竜の巫女』でもあるのじゃ! 見よ! この宝珠を!」
まぁ、キレイですね。七つもあるのですか。
「この宝珠を使うと、妾との盟約を交わした『竜』が姿を現すのじゃ! …聖女よ! 『竜』と闘い、そちらが勝てば妾も負けを認めようぞ!」
えええ…。何というムチャ振り。
ですが、人の話を聞かないこのお子ちゃまは、
「さあ! 出でよ! 神竜!」
ピカッ―――!
! …ものすごい光です!
光と共に、上空に長いヘビのような生き物が…。ああ、これが東洋の『竜』なのですね。こちらのドラゴンとはずいぶん違います。周りの人々も驚いて頭上を見上げますが…。
―――あ! もしかして! そういえば、禁書庫の書物で見たことがあります!
「これ、願いを一つ叶えてくれるという………!」
「? 違うぞ」
…なんだ、違うのですか。でしたら、
「それでは、こちらも『ドラゴン』を呼び出しましょう」
「? 何と言った?」
見せた方が早いですね。
私は自分の頭髪…、頭上でピコピコと動く毛先に向かい、
「ぴよ、出て来なさい」
すると私の頭髪の毛先がわずかに伸び、すぽん! と私から切り離され、ぽん! と弾けた音と共に、太ったヒヨコが姿を現しました。ブサイクですが、ほんのり光っています。
『誰がブサイクだよ!』
あなたです。このヒヨコ、喋るのです。
「いいから、『どら』を呼び出して下さい」
「………ソ、ソレは何じゃ?」
お子ちゃ…、もとい、星星、でしたか。そうですね。説明しなくては。
「この者は、私が禁書庫で初めて出会った守護獣…、不死鳥の『ぴよ』です」
『くっ…、その名前、どーにもなんないのかよ!』
文句を言うんじゃありません、ぴよ。いいからさっさとどらを呼び出して下さい。
「ふ、不死鳥じゃと!?」
「ええ。今からこの不死鳥『ぴよ』が、私が先日倒した上で蘇生させた北の山のドラゴン…、『どら』を呼び出します。転移するだけなので、すぐですよ」
星星が驚いている間に、ぴよはブツブツ言いながら、ひょいっ、と消えました。
そしてすぐに再び、ひょいっ、と現れます。頭上がにわかに暗くなりました。すると、
「う、うわあぁあ! またドラゴンが!」
北の山のドラゴン・『どら』が上空に現れました。城下の人々が驚いていますが、私は構わず、
「どら、あの竜の相手をして差し上げなさい」
『………くっ、その名前、どうにかならんのか』
あなたもですか。なりません。人のネーミングセンスに文句を付けないで下さい。
そう話していると、星星も驚きながら、
「…な、何と! そなたも竜の巫女であったか!?」
? 違いますよ?
「この者達は、私の『従魔』です。ぴよは私が禁書の封を解除した時に。どらは私が力試しで戦い、勝利した時に従魔となりました」
「くっ…、2対1とは卑怯ではないか!」
? ぴよは戦わないですよね?
『戦うわけないよ! 転移疲れたよ〜! 休むよ!』
そう言って再び、私の頭髪の中に戻りました。
「それではどら、よろしく頼みます。危険ですから、なるべく上空へ。それと炎などを放つのでしたら、誰もいない方角へお願いします」
私がどらに向かって言うと、どこからか声が…。
『………娘よ。そのドラゴンと私とでは、レベル差がある。戦いにならぬぞ』
! あちらの竜の声でした。どら、そうなのですか?
『そうだな。我のレベルは422だが、あちらは恐らく1000を超えている。我では勝てぬだろう』
…そうですか。ならば仕方ありません。
私は上空の竜に向かい、
「『聖光砲』!」
バシュッ!
一瞬の眩い輝きと共に、竜は消し炭となりました。
「「!?」」
周りの人々が恐れおののき、目の前の星星は、
「……………」
目が点になってますよ? …あ、泣き出してしまいました。
「う…、う…、うわあぁああん! 竜が…、竜があぁああ!」
そんなに泣かなくても大丈夫ですよ。
「『再生』!」
私が蘇生魔法を使うと、消し炭に光が降り注ぎ、竜は蘇りました。…が、
「あ」
………マズイです。この竜、私の『従魔』になってしまいました。どうしましょう。
『………我が主、フェリシア様。名を………』
「い、生き返った…! …じゃが、主、じゃと!?」
困りました。するとどらが、
『ひとまず名を付けて、今までどおりこの娘に仕えるよう命じれば良いだろう』
そうですね。では…、
「りゅー」
『! それが我が名…、か?』
そうです。では、今までどおり彼女と共にいて下さい。
『承知。何かあればいつでもお呼び下され』
そう言って『りゅー』は姿を消しました。
「…さて、勝負は私の勝ちでよろしいですね?」
私が星星にそう言うと、星星は、
「……………う、うわあぁああん! お、覚えておれぇ!」
泣きながら牛車に向かって走って行きました。
星星が駕籠に乗り込むと、牛車は「モ〜ゥ」と鳴きながら、ゆっくり、ゆっくり………、ゆっくり過ぎです。見えなくなるまで見送ろうと思いましたが、もういいです。帰ります。
『では我も帰る。さらばだ』
どらもそう言って、北の山へと飛んでいきました。
途中『我は『どら』なのに、アヤツが『りゅー』とは…』とか文句を言っていたようですが、聞かなかったことにしましょう。
それにしても無駄な時間を過ごしました―――
―――フェリシアがいなくなった城下町では。
「………す、すごいモン見たな」
「ああ、やっぱり聖女様は、この国最強の護り神だ」
しばらくの間、町は人々の聖女コールに染まっていたという―――
◇ ◇ ◇
「? 何か光ってたな」
「そうですわね」
モグモグモグ。
朝食を頬張りながら、おかわりを持ってきた侍女とそんな話をするレオノールであった。
―――今日もこの国は平和である。
今回の『????』は、『竜の巫女』とかになるのかな。
それとも『恋敵』←んなわけw
ちなみにフェリシアちゃんが勘違いした禁書は、42巻あるとかないとか。




