成宮遥は甘やかし7
地獄のよしよしを切り抜けたものの、一緒に登校するという最大の難関を忘れていた。
家をでてしばらく、学校が近づき生徒たちが増えてくる。成宮をなるべく遠ざけていたつもりだったが、いつの間に隣をにっこにこしながら歩いている。
他生徒の視線が痛い、突き刺すどころか刺し殺しに来ている気さえする。特に男子。
やめてほしい、非常にやめてほしい。これは不可抗力なんだ。陰湿ないじめとか、しないでくれよ?
「えへへ」
胃がキリキリしそうな俺とは対照に、成宮は気にもとめていない様子でこちらを見上げていた。先が思いやられる。まさか、毎日は続かないよな?
教室に着くとようやく成宮が離れてくれた。
デカいため息と酷い肩こりがする、自席に体を投げ出した。
「まさか、和也が射止めるとはなあ」
「あ? なにが?」
「成宮だよ、成宮。もう学校中の噂になってるぞ」
三日はかかると思っていたが、訂正。今どき高校生の噂話はロケットより早い。
「でも、確かに和也って不良を除けば普通にイケメンだしなあ。なに、未知なるヤンキーの魅力で落とした感じ?」
「なわけあるか。あと、一応言っておくが付き合ってない」
「は? それは無理があるよ、和也さん。あんなベタベタ登校しておいて、付き合ってないは無理があるよ」
「そんなこと言われても、違うもんは違う」
ちらっと視線を成宮に移すと気づいたのかこちらに手を振っている。
勘違いされても仕方ないな、これは。
辰真は半信半疑と言った様子で俺を見たあと、顔を近づけた。
「そうかい。一応、忠告しとくが成宮が仲良くしてるのを気にいらない奴もいる。不良のお前に脅されてるって勘違いしてるとか、な。まあ、和也はそんなことしないと思うが」
「しねえよ」
当然と言えば当然、か。辰真の話を鵜呑みにするわけではないが、実際そういう奴らもいるだろう。成宮と釣り合いが取れてる奴ならまだしも、相手がろくに授業に参加していない俺だ。よからぬ尾ひれがつくのもうなずける。
「特に、矢頭先輩には気をつけろ。あの人、イケメンでモテるって言うのもあって、密かに成宮を狙ってたらしい。しかも、女癖がよくないっていう噂も聞く。頭の片隅にいれとけ」
「はいはい、しっかしお前の情報通には驚かされるよ」
学校中の噂を知ってるんじゃないかというくらい辰真は顔が広い。
矢頭先輩、ね。まあ、頭のどっかには覚えておきますか。
HRのチャイムが鳴る。
そういや、授業受けるの初めてだな。
一時間目は、えっと。
よりによって、体育かよ。




