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想いよ届け9

 じれったかった壁を越え、ついに恋人となったわけだがお互い会話の切り出し方がわからなくなって黙り込んでしまう。


 勢いでキスすればよかった? しかし、今更しようにも唐突すぎてためらってしまう。

 思い描いていたのは告白してもっと甘々な関係性だったのに、何故か前より気まずくなってしまう。


 誕生日プレゼントに買った猫のキーホルダーも渡すタイミングを逃してしまった。

 合鍵と一緒に渡せばよかったのに、ポケットに隠したまま出すのを忘れている。


 成宮もまた、告白する前は俺をもっと甘やかしたいと言っていたのに。

 正式に恋人になったにも関わらず、甘やかしに来ない。


 むしろ恥ずかしそうに顔を背けたまま唇を噛みしめていた。


「え、っと」

「あ、うん」


 なぜ互いに照れたまま近づけないのか。

 手も握っていいし、キスだってしたって問題ない。それ以上の行為だって……。


 決して雰囲気が悪いわけではないはずなのに、恋人という関係性になったからか変に意識してしまって会話すらまともに出来なくなってしまっていた。


 夏休みはあっという間に過ぎ、成宮と恋人になって迎える二学期。

 実を言うと、成宮の誕生日以来まともに会話すらしていない。


 夕飯を食べたり朝起こしてくれたりする関係性は変わらないが、それ以上の進展はない。

 それは朝の登校も一緒で、前は隣同士で歩いていたのに成宮は足早に行ってしまった。


「なに、成宮と喧嘩でもしたん?」


 教室に入るとにっこにこの辰真に話しかけられる。

 余談ではあるが、どうやら辰真と美雪は付き合うことになったらしい。本当に驚きだ。


「いや、してない。というより、恋人になった」

「お、まじで? おめでとう。でも、付き合ったんなら前よりベタベタすると思ってた」

「どうやらそうはいかないらしい」

「お前ら、よくわからんな。あんなにイチャイチャしてたのに。ま、今度Wデートでもしようぜ」


 辰真は気楽そうな顔をしてスマホをいじり始める。多分、美雪とMINEでやり取りしているのだろう。たまに美雪からのろけ話を聞かされる辺り、そうとうにイチャイチャしているらしい。


 俺も、成宮とそういうことしたいんだけどなあ。


 チャイムが鳴り朝のLHRの時間。

二学期早々に行われる文化祭の実行委員を決めることになったが誰も手を上げない。担任はしびれを切らしたのか、成績優秀な成宮に任せることにしたらしい。


 クラスメイトも成宮なら任せられる、と同意したのだが当の成宮は首を縦に振る。

 任されるのはいいが、条件があるらしい。その条件というのが、ぼうっと窓の外を見ていた俺には寝耳に水だった。


「国分君と一緒じゃないと、やりません」


 クラスのざわつき、担任も驚いた顔をしていたが実行委員は二名でも問題ないらしく俺はなぜか文化祭の実行委員に選ばれてしまった。

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